1、自殺した先に
俺の名前は加茂橋二郎。
一生懸命仕事をして家庭を守っていた筈の30歳。
今は燃え尽きて自殺間近。
ネット上で見るとバーンアウトと書かれていたが。
どうでも良いか。
30歳にして妻の名木山めぐみ(なぎやまめぐみ)が浮気していた。
同じ30歳。
この先も一緒で一緒に死ぬものと思っていたのに。
他人のマツタケを舐めていたのを。
この家でやっていた事を見てしまった。
「...クソ女」
俺はそう呟きながらバーンアウトした身体を最後にスマホで見る。
顎髭、乱れた髪。
そしてやつれた顔に...よれよれの上着。
鳥のさえずりが聞こえる。
この山で俺は自殺する。
自殺して全てをまっさらにしてやる。
そう思いながら俺はスマホを投げ捨てた。
2026年の4月の空のもと。
「あばよクソ人生」
別れるという選択肢もあったが。
面倒だった。
それに燃え尽きた。
薬も効かないし酒に溺れた。
死んでやる。
そう思い俺は縄に手をかけた。
それから俺は首を吊った。
☆
そして俺は光が見えて起き上がる。
天国か。
そう思った...が。
周りを見渡して驚愕した。
何故ならそれは俺の部屋だったから。
目の前に吊り下げられたカレンダーを見る。
時期は2013年の9月。
え?
「え?」
いや待て。
2013年ってなんだよ。
俺が...え?
カレンダーが2013年?
今から13年前。
は?
俺は直ぐに起き上がってからベッド脇の鏡を見る。
そこに居たのは明らかに高校生ぐらいになっている俺だった。
「...ま、まさか。夢だろ。死んだ筈だぞ」
俺は思いながら顔を触る。
明らかにおかしい。
やつれていないし..シミだらけのシャツでもない。
おまけに若々しい。
「...じゃあまさか」
タイムリープ?
俺はゾッとしながら居ると「ちょっと!」と階段下から母さんの声がした。
それから「学校に行く時間よ。二郎!いつまで寝ているの!!!」と怒号が。
俺はハッとしながらおどおどしていると母さんがやって来た。
そしてドアを開いて俺を見てから「?」を浮かべた。
「あんた何しているの?」
「...母さん...いや。何でもない」
鏡を見て顔を触っている俺を不思議に見ながら「早く準備して。...時間がないわよ」と言う。
俺は「あ、ああ」と言いながら準備をする。
まさか俺はマジにタイムリープした?
母親の姿も若いし...。
☆
行く気が起こらなかったが俺は歩いてから高校に向かう。
その途中の坂道で俺は周りを見る。
間違いなく俺はタイムリープした様だ。
何故なら...通っている奴らの制服が古い制服だった。
俺の学校は改革の影響もあって卒業時に全ての制服デザインが変わったのだ。
つまり何が言いたいかといえばとにかくおかしいのだ。
「...そうか。タイムリープ...したのか」
俺はそんな事を呟きながら歩いていると「おはようさん」と声がした。
佐元幸春だった。
短髪のそばかすの少年。
俺の友人だった。
卒業後は大学の関係でコイツは沖縄に行った。
筈だったんだが。
「?...どしたよ?」
「いやすまん。お前が懐かしくてな」
「は?お前さん昨日も俺と遊んだろ」
「あ、ああ。すまん」
それから俺は幸春を見ながら歩き出す。
すると幸春が「そういやさ。9月といえば文化祭だよな。なんか彼女とか作りたいよなぁ」と言ってから空を見上げる。
俺は心臓を死神に鷲掴みにされた気分になる。
そして「俺は良いかな」と断る。
「え?お前昨日まで「マジに彼女欲しい」って言ってたじゃねーか」
「昨日は昨日だ。今日は今日だから」
「?...ふーん」
それから俺達は坂を登って行く。
とにかく俺はもう二度と。
こうなった以上は他人のマツタケを舐めるクソ馬鹿に関わらない。
俺と同じ学校に通っている筈の名木山めぐみには。
そう考えながら俺は歩いていると「おっはー」と声がした。
「何してんだ?お前」
「お兄ちゃん。見れば分かる通りです。清掃活動です。能天気なおにーちゃんと違うのです」
「ほう。俺だってやろうと思えば清掃活動は...」
「出来もしないじゃん」
「お、おう。冷めているな」
目の前で枯葉清掃をしていた後輩の女子。
名前を佐元メル(さもとめる)という。
ツインテールの八重歯が特徴の。
アイドル級には可愛い女の子。
前世では俺を慕っていた。
そう考えているとメルが近付いて来た。
「おはようございます。先輩♡」
「あ、ああ。おはようさん。メル」
「はい。おはようございます。...どうしました?」
「は?」
「なんだか厳つい様な凄い顔ですね」
凄い顔とはどういう顔なのか。
よく分からないが...それならそうなのかもしれないな。
すると幸春が「だろ?やっぱなんかおかしいよな?」とメルを見る。
「だね。お兄ちゃん」と俺を見る。
「...昨日ちょっと勉強していたせいで寝不足なのかもな」
「そうなのか?」
「ああ。...心配される程じゃない」
実際は違うが。
そう思いながらも否定をしなかった。
そして俺は2人を見る。
するとメルが先生に呼ばれた。
メルは頭を下げる。
「じゃあまた」
「ああ。じゃあな」
それから慌てて駆け出して行くメル。
俺はその姿を見てから幸春を見る。
幸春は「アイツだけは止めとけ」と首を振ってから肩をすくめた。
「奴は...俺をゴミ扱いする」
「は?それはお前が悪いんじゃ?」
それから俺は苦笑しながら幸春と一緒に昇降口に向かう。
そして俺は下駄箱を思い出しながら靴を置きながら下駄箱のドアを閉める。
そうしてから俺は幸春と一緒に駄弁りながら階段を上って行く。
その時だった。
「おはよう」
そう春風の様な声がした。
俺はその声に「...」と複雑な思いになる。
それは...高校生の名木山めぐみだったから。
制服姿でカチューシャを着けていて...凄く可愛い姿だが...。
幸春が慌てる中で俺は名木山めぐみを見ていた。




