魔王の生まれた日
あるところに二人の男がいた。
一人は長身で細身の力の強い男。一人は背は低いが体躯の大きな賢い男。
男達は古くからの友人で、性格は真反対だったがとても仲がよかった。
あるとき男達は王様に呼ばれた。そして王様から命を受けた。
__とある場所にいる魔獣を討ち取って来い。討ち取ってきた者には褒美として娘である姫とこの国をやる。
二人はその命を受け、魔獣がいる場所へと向かった。
道中、様々な苦難な道があった。
険しい崖。猛毒を持つ蟲の大群。毒沼。
だが二人は、それぞれの能力を活かして力を合わせ、どの難関も突破していった。
そして、とうとう二人は魔獣の住む場所へと辿り着いた。
魔獣の殺気は凄まじく、勝負はまさに死闘であった。
体躯の大きな男がやられそうになるのを長身の男が庇い、それぞれ力と知力を出し合いながらどうにか魔獣を討ち取りお互いの勇姿を讃えあったが、二人は満身創痍だった。
特に体躯の大きな男を庇って怪我をした長身の男は致命症だった。傷口が深く、歩くのもやっとというほど。
そんな長身の男を体躯の大きな男が支えながら二人で帰路についていると、とある崖にさしかかったとき、体躯の大きな男は怪我をした長身の男を突き落とした。
長身の男はどうにか崖にしがみつきながら、「助けてくれ」と縋るように頼むも、体躯の大きな男は蔑むような目で見下ろしながら「姫は一人。王様になれるのも一人。お前がいたら邪魔なんだよ」としがみついていた手を踏み、長身の男は愕然とした表情をしながら崖の下に落ちていった。
戻った体躯の大きな男は王様から英雄として迎えられ、姫を娶り、王様になった。
そして、長身の男に「ヤツは尻尾を巻いて逃げたところを魔獣にやられたのだ」と汚名まで被せた。
体躯の大きな男は姫と国を手に入れ、めでたしめでたし。
と、そうはいかなかった。
長身の男は生きていた。魔獣によって負った傷によって魔獣の力を得て、長身の男は人ならざる力を手に入れてどうにか生き延びていた。
そして、体躯の大きな男の現状を知って、自分を裏切った上に汚名まで被せた男に復讐を誓った。
汚名を被せられたのなら、とことん悪の道に進もうと多くのものを破壊した。
体躯の大きな男が王様になってから築き上げた全てのものを破壊し、長身の男は自分の悪行が世に轟くように派手に振る舞った。
あるとき、王様になった体躯の大きな男は大勢の配下をつけて討伐にやってきた。
長身の男はこのときを待っていた。
ついに対面した二人。
体躯の大きな男は自分が殺したはずの長身の男の邪気に恐れ慄いた。
なすすべなく次々に邪気によって塵になって消えていく配下。誰もいなくなり、とうとう一人になったとき王様は「あのときは悪かった。お願いだから助けてくれ」と命乞いをしたが、そのまま塵になってかき消された。
復讐は呆気ないものだった。
男は強大な力を手に入れたが、同時に虚しさも手に入れた。
男は、その虚しさを抱えながらこの世界で魔王として生きていくのだった。