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初戦

 一人は見張りに戻り、のんびりとした印象の青年が村の中を案内する。民家は古いヨーロッパの建物に似ているが、よく見ると泥を塗り足した補強の跡が目立っていたり植物繊維が飛び出していたりヒビ割れていたりなどしていて割とみすぼらしい。

 村の一部にそこそこ広い芝生があり、普段馬なんかを歩かせているのだろうが、魔物を警戒して厩舎にいるらしく一頭も見かけない。

 葉野菜が多い作物畑の中に、一メートルぐらいあるだろう大きな黒い殻をもつカタツムリのようなものが八匹我が物顔で作物を食い荒らしている。村人らしき女性達が古くなった農具や剣などで、殻からはみ出た身の部分を攻撃し続けているが、金属同士がぶつかるような耳に悪い音が響いていた。長時間聞いていたら難聴になりそうだ。


「おーい、支援魔法使えるらしい少年が手伝ってくれるんだってー」


 じゃあ後は頼んだぞ、そう言い残し別の男の所へ向かい何か話している。こちらをちらりと見ながら指をさしている。当たり行き場の失った少年を保護した旨を伝えているのだろう。

 こちらを向いた女性達の表情が明るくなる。その中で明らかに村のものでは無い服装を身に纏う女性二人がこちらに近づいてくる。緑の瞳を持ち浅黒い肌に長い金髪の髪を高い所で縛った派手な人と、青い瞳で赤い髪の毛をショートカットにして芯の強そうな印象のある人。

 コトブキはギャルと何故か仲のいい風紀委員だ、と心の中で勝手にキャラ付けした。実際そのイメージは間違っていなかったらしく、金髪の方がコトブキに声をかけた。


「マジ~? てかなんでこんな村に一人でいんの? ママは?」

「こらこら今から手伝ってくれるんだから邪魔しない」


 期待に満ちた視線を浴びながら、案内されるがままにミスリルマイマイの前に立つ。このまま持ち上げるとかできないのか質問すると張り付いて動かせないよ、と答えた。

 やっぱり魔法を使った方がよさそうだ。そういえば初めてだから使い方がわからないなと今更気づいたが、手をかざすと何か層のようなイメージが頭に浮かんだ。

 剥がせる? うーん、と首をかしげ、とりあえずやれることはやってみよう、と何十と重なっている層を細長い何かで一気に底まで突き刺し、そのまま引っかけて引っ張り上げるイメージで魔力を込めてみた。


「あ、重たいな……」

「重い?」


 眺めていた二人の女性が何が起こっているのかわからずに首をかしげると、一気にスルリと層が剥がれ、コトブキの頭の中でガラスが派手に砕けたような音が響いた。同時に後ろによろめき、真後ろで見ていた金髪の方がコトブキを支える。

 後頭部が女性の胸に当たるが気づかず今何を起こしたのかイマイチ理解できていなかった。ミスリルマイマイが慌てたように殻に身を隠し、赤毛の方が試しに粗末な剣で突くと殻が簡単に割れ中の肉を簡単に刺した。

 金髪の体に体重を預けていた事に気が付き、慌てて自身の足で立ち軽く謝るが、その事については特に気にしていない様子だった。


「え、すご。ヤバない? 今何したん?」

「えーっと、なんか層? のようなものが見えた? からそれを一気に剥がすイメージで魔力込めたら……なんかできました」

「層? あぁ、やっぱりミスリルマイマイって防御魔法で固められた魔物だったんだね。だから死んだ後は柔らかくなる」

「てか今のやったことある人いないっしょ? この子凄いしかわいいしウチのチーム来てほし~。あ、ウチの名前はライカ、そっちのおっぱい大きいのがイラナ。ウチのチーム名は『白百合』って名前でね、近くの街だとちょっと有名だよ~。他に二人いるから少年が来れば五人に増えるよ!」


 胸の大きさは両者ともどっこいどっこいでは? そう感じたが黙っておく。自由に話を進めるライカの頭をイラナが勝手に話を進めない、と軽く叩いた。


「て、ぼやぼやしてたらシャドウウルフ来るよ。ごめんけどあと七匹頼める? 魔力足りそう? 魔力回復薬使う?」

「あ、はい。多分大丈夫です」


 キャベツのような作物を踏まないよう数歩歩くと櫓の鐘が響いた。途端に場の空気が変わり、畑にいた村人達は急いで建物の中に避難する。状況からして例のシャドウウルフが現れたのだろう。

 二人が作物を避けながら走って櫓の方へ移動する。防壁といったものが無い代わりに罠や投石の関係上一定範囲内から出るのは危険らしい。


「森から来たぞ! 数が多い! 盾と投石用意!!」


 (やぐら)の上にいる男二人が弓を空へ構え、狙う事もせずに弧を描くように矢が飛んでいく。他の村の男たちは慣れた様子で木材で作った大きな盾を設置し、真っ直ぐ縦に構えるのではなく少し斜めに構える者、投石機におわん型の入れ物にいくつか石をセットし動かす者で分かれていた。

 各々準備が出来たら即飛ばし、大きめの石が空気を割く音をたてながら黒い大群に直撃する。即死だったらしいオオカミは溶けるように霧を数秒残して消えていった。

 当たれば確実に仕留められるが、命中率はそこまで無いらしく、このままでは村に甚大な被害を浮けてしまうだろう。村と大群の距離が縮まったのを見計らい、投石兵達は縦に隠れ足元の槍を手に取った。

 設置した盾にはいくつか穴が開いており、そこから槍で突くといった攻撃をする予定らしく、男衆は覚悟と緊張の混じった表情で短めの槍を構えている。


「そうだ、キミ強化魔法頼める?」


 二人についていったコトブキは無言で頷き、両手を前に突き出す。二人の気を底上げし、表面に薄いがとても頑丈な膜で包むイメージで魔力らしいエネルギーを送る。術を施したつもりだがこれといった手応えは無い。しかし体の中から何かが抜けた感覚があった。


「すごいね、ここまで強化されたのは初めてかも。それと魔力足りそうなら前列の盾兵から防御強化掛けてあげて」


 勢いよく返事をし、前列から防御を上げていく。最初は一人ずつだったが、すぐにコツを掴み一組、一列と範囲が広がった。

 突然爆発音が響き、何事かと音の下方へ視線を向けるとライカが木の枝と同程度の杖を振りかざし、三つの火球がシャドウウルフに直撃し爆発を起こしていた。イラナは肉弾戦が得意らしく、爆発をすり抜けた魔物を掴み、そのまま別の魔物へ勢いよく投げ飛ばしていた。

 それでもすり抜ける数匹のシャドウウルフは盾に嚙みつくが、あらかじめ空いてた穴から槍で攻撃される。しかし投石や冒険者二人とは違い何度も抜き差しをしてやっと一匹駆除できる程度の攻撃力しかない。


「坊主! 危ねぇからこっち来い!!」


 後列の盾兵が顔をひょっこり出し、コトブキはそれに従い盾に隠れる。屈む体勢の屈強な男に挟まれる位置にコトブキが予備の槍を持って立つ。


「大丈夫だ、数はちったぁ多いが冒険者二人ついておめぇさんの強化魔法もあるんだ。そんな心配そうな顔しなさんな」

「……ありがとうございます」

「この襲撃終わったらまたミスリルマイマイの駆除頼むな。にしても坊主えらい美人さんだなぁ。あの冒険者のチームにいるメンバーの一人もとんでもねぇ別嬪さんがいる噂だ。おめぇさん、強化魔法使えるようだから、せっかくだしあのチームに入って今度美人さん同士で来て目の保養になってくれんか」

「馬鹿言うな、あの高瀬の花がこんな肥しのにおいがするくっせぇ村にくるもんか。それにお嬢ちゃん二人でも相当な花だぜ」

「……っと、あんま美人さん方の話してたら嫁から叱られるな。話聞かせてもらったが親から捨てられたんだろ? あの二人のチームに悪い噂聞かねぇから、行くアテがないなら加入してもらいな」


 そうさせて貰おうと考えた時、櫓から再度鐘の音が鳴った。しかし今回は慌てて何度も打ち鳴らすような音で、櫓の二人の表情もかなりの緊迫感が伝わってきた。


「ダイアウルフ! ダイアウルフが来たぞ!!」


 櫓の二人はロープを自身の分を垂らし、急いで滑り落ちるように櫓から降りて行った。相当大きいサイズで手に負えないのだろうか、周りがざわつき始め、シャドウウルフを倒していたライカとイラナ二人が盾兵達に残りを頼んだ。

 投石や矢が飛んでくる心配がもう無いからか、二人はその場から離れダイアウルフに駆け寄る。盾から体を出し、遠くを見てみると小さく見える二人の前に大きな黒いオオカミのようなものがいた。おそらく人三、四人分ぐらい大きい。

 この大きさでは強化された盾があっても一発くらえばすぐに壊れてしまうだろう。今いるシャドウウルフを全て倒しきると男たちは盾を地べたに倒し、村から二人が戦うところを見つめていた。

 道から外れないよう二人が戦っている。杖を振りかざすと爆発が起き、音に驚いたところで女性の腕力とは思えない力で巨大生物の眉間を殴り、ふら付いた隙を見てライカが潜り込み腹に狙いを定め大爆発を起こした。

 内臓をやられて大ダメージを受けたのだろう、ダイアウルフは大きく吠えた後に大きな口で噛みつく出鱈目な攻撃をするが、全て躱され、体力が尽き地面に倒れた。

 その様子を見て男達は期待のこもった声で近くにいる者と会話をする。ライカとイラナが何度も生死を確認し、ライカが右手を挙げて手を横に振ったのを見て歓声が上がった。どうやらしっかり仕留めたらしい。ホっと一安心したコトブキは力が抜けてその場にへたり込む。


「おおい、坊主、大丈夫か。ダイアウルフみたの初めてだったか?」

「ええ。……いつもこんな感じで戦ってるんですか?」

「いやいや。ミスリルマイマイがやってくるとシャドウウルフと時々ダイアウルフの襲撃があるんだが、今日はミスリルマイマイが多かったからだろうなぁ、お前さんと冒険者がいなかったらヤバかった」

「ここら辺うろつく魔物は大したこと無いんだが、たまにダイアウルフとかの大型魔物がやってくるんだよ。そういう時の為にミスリルマイマイが出た時に冒険者を雇うんだ」

「ま、そろそろダンジョンが動き出すらしいから、ミスリルマイマイも引っ込むだろ」


 ダンジョンって動くものなの? といった疑問が生まれたが、これ以上この世界の常識を聞かされても頭に入らないだろう。コトブキは急いでミスリルマイマイの撤去のために畑に戻った。

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