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 移動しながら村に馬車などが無いか気に掛けた。あるなら胸のブローチや指輪を利用して乗せて貰えるかもしれない。こういった宝石類には疎いが、おそらく高額で売れるだろう。

 道の状況からおそらく馬車が何度か村に向かっているはずだ。無くても数日おきに通るなら、その時に乗せてもらおう。

 問題は馬車を動かす人間に悪意が無いかどうかだ。悪い人間であれば身ぐるみ剥がされてそこら辺に捨てられる。武器の一つ貰っておくべきだったかと後悔した。


「……それにしても」


 歩きながら伸びをする。土や植物の匂いがする。病室の消毒液や病気の匂いはしない。生気溢れる自然の匂いだ。

 それに風呂に入っただけで息を切らし介護されっぱなしだったあの体と違い、今ならいくらでも走れそうなぐらい体が軽い。その場で何度か軽く跳び跳ね、走り始める。


「あははっ」


 健康って最高だ。なんでもやれる気がする。悪い人に身ぐるみ剥がされたらどうしようか不安だったがどうでも良くなった。これからは介護無しで一人でも生きていけるんだ。

 走っていた足が遅くなり歩きに変わる。両親や兄の事を考える。きっとクラスメートは数日もしたら忘れるだろうが家族はきっと引きずる。

 最期まで愛された事はとても嬉しいが、特に母親が塞ぎこんでいるかもしれない。愛犬のレトリバーが亡くなった時も長引いた。

 心配してもしょうがない、そう自身に言い聞かせて分かれ道で足を止める。真っ直ぐ伸びる道に合流している、少し雑草の生えた方の道を選ぶ。

 時折ガサガサと茂みが揺れ、赤い瞳がこちらを見てくる。おそらく魔物。神様が三日だけ効果のある魔物除けの加護の効果で襲ってこれないのだろうが、かなり距離が近い。コトブキと魔物の距離は二メートルあるかないか。

 落ち着かないがこの加護が無ければまた食われて死んでいるだろう。三日以内に何とかしてどこか安全な場所を探さなくてはいけない。


「私……僕……俺……ボクかなぁ」

 ぶつぶつ呟きながら一人称を決める。二人称はキミ、名前は今のままの「コトブキ」で。親から貰った大事な名前だからあまり変えたくない。気が付けば魔物は消え、また静かな自然の中で一人になっていた。

 どこかの貴族の三男で両親とは不仲でさらにいうと母親の不倫で生まれた子供だからという理由で捨てられた、そういう設定で行こうと思ったがこの世界の貴族がどう過ごしているのか全く分からない。夜な夜なダンスパーティを開いているなら踊れないとおかしいか? と設定を練っていっている間に独特な匂いが漂い始めた。端的に言って臭い。


「これは肥やしかな」


 まだ大部屋で入院していた時、備え付けトイレで誰かが用を足していた時の臭いに似ている。

 獣避けなのか罠の警告看板を見つけた。車輪の跡が残る道から外れて草むらに足を踏み入れなければ大丈夫だろう。


「緊張してきた」


 もう村は目の前。森が近いせいか背の高い植物が目立ち、見張り用らしい櫓に民家と畑、家畜を住まわせる厩舎がある。どれも石や粘土で組み合わせた家でヨーロッパを思わせる建物ばかりだ。現存する古い教会と違い、こちらはそれより粗末に作られているようで何か草のようなものも混ざっている。

 軽装だが腰に剣を吊り下げた門番らしい男二人がコトブキに気づき、こちらに小走りで近づいてくる。


「ねぇ君、どうしてこんなところに一人でいるんだい?」

「えっと、詳しくは知らないんですが……ボク、捨てられたようなんです」


 同情を誘うために深刻そうな顔で俯きながらそう言ってやれば二人は顔を見合わせ、コトブキに気を遣い村に案内する。


「今ミスリルマイマイが畑にいて、いつシャドウウルフがやってくるのかわからないんだ。危ないからどこか安全な場所で休むといいよ」

「ミスリルマイマイ?」


 そうだよ、とそばかすの多い青年が答える。もう片方の男は周りを警戒していた。


「聞いたことない? キミは多分口にしていると思うけど。高級食材ではあるんだけど魔物の一種でね、ニオイか魔力につられて他の魔物が寄ってくるんだ。たいていの魔物は鼻がいいから肥しの匂いで村に寄り付かないけど、シャドウウルフは肥しの匂い大丈夫みたいで寄ってくるんだ」


 警戒中の男がため息を吐く。


「ミスリルマイマイいうけど、別にミスリルで作られてるわけじゃねーのにすげぇかてーんだよ。今襲撃の時の為に冒険者を雇って村の女が駆除してるが、誰がどうやっても一匹駆除するのに早くて三十分かかる」

「なんか防御弱体化の魔法使えばちょっとは早くなるらしいんだけど、支援系の魔法使う人全然いないんだよね。だから地道に適当な剣でチマチマ削ってる」

「それは大変ですね。……あの、ボクその支援系の魔法多分使えるんですけど、手伝いましょうか?」


 足を止め、一瞬固まり本当かい!? と目を輝かせながら嬉しそうに両手を掴みぶんぶん縦に振った。


「た、ただ実践はこれが初めてなのでうまくいかないかもしれませんが……」

「いいよいいよ、どのみち何やっても時間かかってるんだし」


 えへへと笑う青年を見上げ、この村平和なんだろうなと安心した。警戒中の男も少々不愛想だが無礼さは感じられず少しコトブキの魔法に期待しているようだった。

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