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休息

 食べ終わり、すぐにライカは取り出したタンクの上で魔法で湯を沸かす。湧いたらタンクに少し熱めの湯をタンクに入れ、熱めの湯が溜まったらフィーネにシャワーを浴びるよう促す。

 フィーネは独り言のように何かを呟く。上からゴブリンを屠った手が一人分現れ、レースの手袋を嵌めた手がフィーネの顔に指先が触れ、すぐに消えた。


「今のは?」

「召喚獣に『美しさ』を捧げたの。あの召喚獣は少し特殊で、美しいものを捧げると育っていくのよ。私は化粧した顔を捧げてるわ、化粧落としにもなるから便利よ」


 着替えを用意しながらフィーネはいつもの張り付けた笑顔を消し、コトブキに忠告する。


「あの召喚獣に気に入られることが出来ればどんな人間でも呼べるけど、気に入ることが無ければ有名召喚士でも扱えないわ。……アレが見えたって事はコトブキもアレが使えるけど、準備無しに使ったら駄目よ。化粧も着飾ることもしないで呼ぶと肌が爛れる。呪いだから回復魔法を使っても戻らないし、召喚獣という上位の存在だから解呪も出来ないわ」


 そうフィーネが言いながら、目の前にコトブキがいるのも関わらずドレスを脱ごうとする。真面目な話が一瞬で吹っ飛び、奇妙な短い悲鳴を上げ顔を慌てて逸らした。


「ちょちょ、目の前で脱がないでください!!」

「え。――あ! ……どうしましょ」


 普段隠さず服を脱いでシャワーを浴びているらしい四人は重大な事に気づいた顔でコトブキを見る。


「そういえば一応男の子いるんだった! え~、普段女の子しかいないからってカーテンとか用意してないよ~」

「広い布とか無い? あのシート……はダメか、食品扱うものをカーテンにするのはちょっとダメだよね」

「オレは別に見られてもいいけど、コトブキが見られるの嫌か。最悪腰から下隠れるモノで大丈夫か?」


 それぞれアイテムボックスの中身を取り出しそれらしいものを探す。カイが大きな布を取り出し声をあげた。取り出したものはカーテンだが奥の方に押し込まれたせいでシワが寄っている。どうやら不用品を奥の方へ押し込んでずっと忘れていたらしい。

 アイテムボックスの中も時間の概念があるらしく少しカビが付いていた。


「なんか寝具カビ臭いのコイツのせいか!」

「だから定期的に中身ひっくり返しな~、って言ったじゃん。貸して、軽く洗っとく」


 受け取ったライカがもう一つ水の塊を作り、その中にカーテンを突っ込んだ。汚いものを触った手を水の中で軽く洗い、撥水性のあるカーテンが宙に浮いた大量の水に揉まれながら洗われる。


「ごめんね~、めんどいから普段ウチらカーテンとかの仕切り無しでシャワー浴びてたんだよね」

「いえ、まぁ、大丈夫ですけど。うん」


 同性でも裸を見られるのは嫌じゃないのか、コトブキは考えたが命のやり取りのあるダンジョンの中ではそういった感情は薄くなるのだろう。




 フィーネがシャワーを浴びている間にカイは食器を洗い、イラナは薬の調合を始めた。小さなすり鉢や小鍋、フラスコなどを並べ、必要な量の毒を混ぜ合わせていく。元々持っていた薬草や謎の粉末なども混ぜ合わせていくと独特な匂いが立つ。臭いわけではないが、苦手な人には苦手だと感じるような匂いだ。


「どんな薬を作ってるんですか?」

「整腸剤と胃薬。食中毒や深い所に行くと緊張して嘔吐、下痢を起こすこともあるんだ。それで体力を一気に落として引き上げる冒険者も多いし、実は消化器系の薬は結構売れる。整腸剤は単価高くないけどほぼほぼ売れる薬だよ」


 煮詰め、ドロドロとした液体が赤から暗い緑に色が変わり煮詰まっていく。時々濁った音を立て大きな気泡が弾けた。

 煮詰めたものを清潔な紙の上に流し、ゴミが入らないよう更に紙をかぶせる。敷いた紙と埃避けの紙は材質が違い、埃避けのものはやたら分厚い。

 次にどこから手に入れたのかわからない芋のようなものを取り出す。皮を剥いて白くなった芋を適当な大きさに切り、魔石を近づける。


「この魔石は地中の作物を一瞬で火を通すモノなんだ。でも料理には不向きでね、なんかこれで蒸かした芋はあんまりおいしくないみたい」

「芋は一気に過熱するより水から少しずつ温度を上げた方がウマいぜ。あとその魔石で一個丸々蒸かそうとすると中心が焦げるんだよ、だから細かく切ってから使うんだ」

「強力な電子レンジみたいなものかな。……ところでイラナさんは料理しないんですか?」


 火を通し終わった芋を今度はすり鉢に入れ棒の先で叩き、香りのよいハーブと一緒にすりつぶしていく。コトブキの問いにイラナは苦笑いを浮かべながら答える。


「私このチームの中で一番料理下手なんだよね。おかしいよね、レシピ通りに作ってるはずなのに真っ黒いナニカができるんだ」

「ライカが何か途中でいらん物ぶち込んでるのかと思ってたんだが、ちゃんとレシピ通りに作ってるんだよな。でも気づくとドロドロのナニカをつくってるんだよ」

「……まぁ、人には向き不向きあるので、料理はカイとボクに任せたらいいんじゃないかな……」


 途中で茶色い粉を混ぜ、空気を含ませながら混ぜるイラナに、コトブキは料理を頑張ろうと誓った。本当は料理をやりたいらしいが、何かの代償なのかどうしても食べれない物が出来上がることに愚痴をこぼしていた。

 おそらく調薬の能力が高い代わりに調理ができなくなった呪いでもかかっているのだろう。このチームでそう結論付け、イラナは渋々料理器具に手を付けない事を約束していた。

 シャワーを浴び終わったフィーネが髪の毛の水気を拭いながらフォローを出した。

 風呂上がりの清潔な匂いがし、しっとりとした肌にキャミソールのゆったりとしたネグリジェに身を包んでいる。ドレスとは違う就寝前の無防備な姿にコトブキは心拍数を上げていた。


「でもイラナの調薬で何度も救われたんだし、そう落ち込むことは無いわよ」

「そうだな、オレからしたら調薬できるのはカッコいいぜ。じゃあシャワー浴びてくる」


 褒められ少し嬉しそうにし、お礼を述べる。程よく固まったものを丸く成形し、沸かしていた湯の中に入れた。物凄く見覚えのある食品に酷似している事に気づき、なんとなくイラナに質問してみた。


「ちなみに、これなんて言う薬でどういう効果がありますか?」

「『毒攫い』って名前だけど、最近はコンニャクって呼ばれてる事もあるよ。薬も一緒に入ってるから毒を体内から出すこともできる整腸剤の扱いで結構高額で売れるんだ~」

「あ、やっぱり……。これこっちでコンニャクって名前でよく食べてましたよ。まぁ薬は入ってないけど便秘に良いみたいな感じの扱いです」


 その会話にフィーネが髪を目の粗い櫛で梳かしながら間に割って入った。


「……食品、って事になるんだったらそれ次から作れなくなったりしないかしら?」


 その言葉にコトブキはギョッとした。余計な事を言ってしまったと後悔したがイラナは特に気にしていなかった。


「まぁ薬入ってるし、これ単体で食べるわけでもないし大丈夫じゃないかな」


 茹で上がった白いコンニャクを救い上げ、のんきに答えるイラナに実は単品で食べる事もある事実を伏せた。とはいえコトブキもコンニャクを単体で食べる事はあまり好きではない為、調理をしたものでない限り食べ物と認めていない。

 コンニャクを袋に包み、保存する。コンニャクを作っている間に先に作っていた薬が乾燥し、粉末状になっていた。どうやら埃よけに被せた紙は高い吸水性があるらしく、粉末になった薬の水分を紙が吸い上げていた。

 瓶のコルクを開けた瞬間フィーネがその場から離れる。さらさらと瓶に詰めている間、イラナは呼吸を止めていた。その理由をすぐにコトブキは知ることになる。細かい粒子がコトブキの気管に入り盛大に咽てしまった。


「な、これ、にっが!?」

「胃薬って大体苦いよ~? 飲みたくなかったら胃をやらないようにね」


 細かい粒子が口の中に僅かに入っただけなのに苦みというより強いえぐみが残った。瓶に蓋をし、くしゃみを繰り返すコトブキを見てイラナがケラケラ笑った。




 夥しいゴブリンの死体に男冒険者の集まりはツイてるとばかりに顔を輝かせた。先客にゴブリンがゴミとして溜め込んだ換金アイテムは持っていかれたが、この屍の山を燃やしてやれば大量の魔石が手に入る。その事に喜び男たちは早速死体を一か所に集めた。

 気の弱そうな小柄な男がショートを手に取り、死体の山を眺める。気が弱そう、と言っても表情はそんなことは無い。無表情で待っていると一人の男が肩を叩き、頷くと同時に火柱が上がった。


「しっかし、なんで魔石回収しなかったんでしょうねリーダー。確かにゴブリンから得られる魔石は小さめだが、これだけの数を一気に骨にしたらかなりの金になると思うんですが」


 体を鍛え腕に入れ墨を入れた男が疑問を口にする。指示を出すだけでその場から動かなかった、頬に傷をつけた目つきの悪い大男が煙草を手に取り火をつける。

 普通の煙草とは違い、円錐の形をしている。細い方を口につけ一口吸い、妙な匂いを周囲に漂わせた。


「そりゃあオメェ大量虐殺したのが女冒険者だけのチームだったんだろ。ほら、そこの部屋にゴブリンの胎児が投げ捨てられてるだろ。……いいねぇ、是非お目にかかりたいもんだ」

「なるほど。でもあの傷跡、範囲からしておそらく召喚士がいるチームっすよ? 下手に手を出したらヤバいんじゃ……」

「バァカ、よく見ろ。この範囲でゴブリンなら『美しさ』の召喚獣だ。コイツは別に召喚士じゃなくても呼べるヤツだから別に召喚士とは限らねぇし、チームに美人さんがいるのが確定してるぜ」


 煙草に含まれる薬物が脳に行き渡り、心地よさに少しずつ酔っていく。大きな炎を眺めながらその場に座り込み、ニヒヒと歯をむき出しに下品な笑顔を部下の男に向けた。


「……まぁ美人の召喚士なら一人心当たりがあるが、だとしたら人数のすくねぇ四人チームで結構な金になる女しかいねぇ。とりあえず今から力の抜ける薬準備しときな、一人怪力女が混ざってるからな」


 イラナの事らしい。大男は面倒だから捨てることを呟き、もう一度煙をゆっくり吸い込み重たい多幸感に身を包まれる。


「了解。ところでその心当たりがあるのはフィーネ、て女っすか? いい金になりそうっすね」

「フィーネもそうだが体のエロいカイとか言うヤツも金になるぜ。それに朝早い時間に発ったらしいから最前線で戦って回収した魔石や鉱物も相当な量になってるハズだ」


 12人分の人影が不気味に揺れる中、何が楽しいのか豪快な笑い声が響いた。

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