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 結婚初夜は、正直言うと物足りななかった。


 私にとって初めての体験だったから、緊張もしたし恐れもあったけれど、私の想像ではもっと愛を感じるものだと思っていた。


 けれど──。


「すまない。ヴィヴィアンヌ。私はなんだか疲れているようだ」


 ベッドの上で私に覆いかぶさった夫が言った。


 夫が果てた様子はない。私もまだ満足できていない。でも、ここは夫を気遣うべきだと思った。


「いいえ。私は大丈夫です。ケヴィン様。どうか無理をなさらないで」


 私がそう言うとケヴィンは微笑んだ。


「ありがとう。申し訳ないが、もう寝るよ」


「え……」


 もう寝るの? と、戸惑う私をよそに、ケヴィンは私の隣でゴロンと横になると、早々に寝てしまった。


 ──体を重ね合わないのなら、せめて愛を語り合うなりして、二人の中を深めたかったのに……。


 その夜はそんな風に思ったものだ。


 というわけで、初夜は素敵なものにならなかった。


 でもまあ、この結婚は親が勝手に決めた結婚で、私達はまだお互いをよく知らない仲なのだ。


 ──これから時間をかけて愛を深めればいいじゃない。


 その時はそう思っていた。


 私は男性と付き合ったこともなかったし、結婚というものは忍耐だと聞かされていたから。





 それから一週間。


 市庁舎に務めるケヴィンの帰りは遅かった。


 夕食は出来るだけ一緒にとるようにしたが、ケヴィンは「私の帰りを待たずに先に食べなさい」と言って私と席を共にしようとはしなかった。


 そして夜の営みもさっぱりだった。


 私はベッドで待っていたのだが、疲れているのか、ケヴィンが事に及ぼうとする気配はなかった。


 それどころか、私と語り合うことも、お互いの仲を深めようともしてくれない。


 ──まるで私に興味がないみたい。


 私はがっかりした。




 

 ある日、私はメイドに付き添ってもらい、町の市場に出かけた。


 市場には、瑞々(みずみず)しい旬の野菜が並んでいる。


 私は野菜を見て感嘆した。


「まあ、美味しそうなカブね。ポタージュにしたいわ」


 私が言うと、八百屋の店主が応える。


「おや、貴族の奥方様は料理をなさるので?」


「ええ。私は幼い頃から料理が趣味だったの」


「では旦那様はさぞかし幸せでしょうな。男は美味い料理を作る女には目がないからね」


 私はそれを聞いて思案する。


 ──私が手料理を振る舞えば、ケヴィンはもっと私に興味を持ってくれるかもしれない。


 私は店主に言う。


「そのカブをいただくわ」


「へい、毎度あり」


 そうして私は邸宅に帰ると、料理に取り組んだのだ。





 夜になってケヴィンが帰ってくると、私は共に食卓に着いた。


 ケヴィンが言う。


「先に食べていなさいと言ったのに」


 私はばつが悪そうに応える。


「申し訳ありません。でも、ご一緒したかったのです……」


 私はそう言うと、私はメイドに私の料理を運んできてもらった。


 料理を見たケヴィンが呟く。


「おや、良い香りがする。食欲をそそられるね」


 料理に興味をもってもらえたことに、私は気をよくした。


「実はそのポタージュは私が作りました。ケヴィン様はお疲れのようなので、精のつくスパイスを入れてみました」


「なんと。君に料理が出来たとは」


 驚いた様子のケヴィン。私は恥ずかしくてうつむいた。


 ケヴィンはスプーンを手に取る。


「ふむ。ではいただくとしよう」


 そう言うとケヴィンはポタージュを口に運んだ。


 すると、ケヴィンの顔がやわらいだ。


「うん、美味しい! 絶妙な味わいだ。スパイスがカブを引きたてている!」


 その言葉は、私の顔をほころばせた。私は照れながら聞いてみる。


「あの……。ケヴィン様が喜んで下さるなら、これからも作りましょうか……?」


 するとケヴィンは微笑んで。


「ああ、それは嬉しいね。これほどの料理なら毎日でも食べたいよ!」


 私は素直に嬉しかった。


 私の存在価値を認めてもらえたような気がした。


 ──きっと私の料理を通じて二人の愛情を育むことが出来るはず!


 私は意気込んだ。


 それから私はケヴィンに喜んでもらおうと、毎日、料理にいそしんだのだ。





 肉に、魚に、野菜。


 私は厨房のシェフに手伝ってもらって、いろんな料理に挑戦した。


 私の料理の腕が上がると、次第にケヴィンは早く帰宅するようになった。


 そして、夜の営みも少しずつ増えて行った。


 ケヴィンは奥手なのか、甘い言葉はかけてくれなかったけれど、体を重ねる内に私は彼を愛するようになった。


 ──最初はどうなることかと思ったけれど、順調に愛が育っている気がする。

 このまま行けば、きっと赤ちゃんを授かって、円満な家庭を築けるわ。


 そう思っていた。


 その時は。


 けれど、後になって私は気づかされるのだ。


 私が馬鹿だったと。


 そして、ケヴィンはとんでもないクズ男だったんだと。

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