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神国地伝ーエデアー    作者: 璃木李鈴
3/3

3話「神隠し」

禍が刻一刻と迫りつつあった。

****

 ーとある日の夜の出来事・セピアの森近郊の小道にてー

 辺りは静まり返った静寂な闇夜の影響で薄暗い暗闇に包まれており周囲は少し肌寒い空気が漂っていた。

その空間の中の小道を静かに歩く2人組の人影が地面に映っていた。

何処かの村人らしき質素な服装をした30〜40代くらいのその2人組の男性達は松明を片手に辺りを灯し小道をゆっくりと警戒しながら歩き進めていた。

やがてセピアの森に差し掛かると1人の男性が思い出したかのように話し始めた。

「おい、そういえば聞いたか?ヴィエラ村がオーディンに襲撃されたらしいぞ」

ヴィエラ村について話を振る男性に対しもう1人の男性も知っているかのような感じに返した。

「らしいな でもあそこって俺達の村よりもほぼ森に近い方だから、奴らに襲われる心配なんてなさそうだったのにな」

「森が近いからと言っても関係ないんだな」

2人はヴィエラ村がオーディンに襲撃された事について意外な反応をした様子で話をしながら歩き進めていた。

そして、森の中へと入った行った。

    ・

「てか、“神”って本当にいるのか?」

1人の男性が“神”の存在について半信半疑な反応を見せる。

「さぁ?どうだろうな?」

   ・ 

「所詮“神”なんて迷信じゃね?実はどっかの宗教団体が流したデマだったりしてな笑」

「そんな馬鹿なー」

                  ・                      ・

会話から察するにどうやらこの2人も『神』やホーリー・ミストの存在を知らない様子で『神』の存在を半信半疑に考えていた。

「もしかしたら近いうちに俺達の村に来るかもしれないな」

「ああ、そうだな 早いうちに避難する必要があるな」

自分達の故郷の村が近々オーディン帝国の魔の手に迫って来る可能性を考えていた2人は今後の事について話し合いながら帰路へと足早に歩き進みいつの間にかセピアの森の中へと入って行った。


そうしてセピアの森の中を歩き進める事数分後、ふと1人の男性が何やらソワソワと全身を身震いした様子でもう1人に申し訳なさそうに声を掛けた。

「わりぃ、小便に行ってくる」

「ああ」と返事を返す男性を残して少し離れた所へと急足で移動する。

《しばらく離れた所の茂みの中で小便をする男性の様子が描かれていた。》

「うう〜今日はなんだか冷えるな」

全身を身震いし寒がりそうにしながら小便をしていた男性

が、その様子を男性の背後近くの茂みの中から怪しい視線がギラギラと見つめており男性はその視線に全く気付いておらず小便に気を取られていた。


一方その頃、離れた所で待っていた男性は小便をしに行った男性を待ち続けていたがいつまで経っても来る気配が無く右足のつま先を上下に動かすように貧乏ゆすりをしていた。

「・・・あいつ遅いな」

なかなか戻ってこない男性を心配していた。が、その時だったー。

「うわぁぁぁぁーーー!!」

「?!」

突然、小便をしに行った男性の叫び声が聞こえその声に驚き、慌てて男性の元へと急いで駆けつけようとした。

「おい!どうした?!」

が、次の瞬間、何故だか男性の視界が突然真っ暗になった。

「うわっーーー!!!」

男性の叫ぶ声がこだましながら響き渡り、もう1人の男性の身にも一体何が起きたのかは不明ー

その場には男性が持っていた松明が火が消えた状態で不造作に転げ落ち、辺りは何とも言えない不気味な静けさが漂っていた。


****

 ーそれから数日後ー

 ユズキがエデア解放軍ブラスカに救護員として入隊してから約3日が経過しようとしていた。

エデア解放軍ブラスカは王都セイランを目指しつつ次の目的地は西方面に位置するエターナル要塞

エターナル要塞はセントラリィ王国とソレイル王国の境界線に設置された要塞だった。

王都セイランがオーディン帝国に堕とされていない間にエターナル要塞から援護の依頼を受けたブラスカはひとまずエターナル要塞へと向かっていた。

エターナル要塞までの道のりはまだ数日かかり途中オーディンの侵略を受けていない村や街に立ち寄りながら補給などを行いつつ移動していた。


 セントラリィ王国・ロゼ街道の湿原 ブラスカ集落地にてー


 晴天の青空で朝の日差しが明るく照らしていた。

気持ちの良い風が心地良く静かに吹き、物干し竿に干してあった洗濯物も風に靡いてその中で鼻歌を歌いながら残りの洗濯物を干していたユズキの姿があった。

と、そこへユズキの背後に足音を立てないように忍び寄る人影が近づいて来た。

次の瞬間、誰かの両手がユズキの後ろから伸びてきてガバっと覆い被さり抱き締める形になった。

「ユ〜ズキ」

「きゃあーーー!」

ユズキに抱きつく正体はビートで突然の出来事に驚いていたユズキは悲鳴を上げ手に持っていた洗濯物のシーツを落としそうになる。

「ビ・・・ビート君?!」

すかさず後ろを振り向くとビートがニヤつた顔をしながらユズキを抱きしめていた。

「驚かさないでよ ビックリするじゃない」

ビートの行動に呆れるユズキをお構いなしにビートはがっしりと離さず揶揄う

そんなビートの様子は悪気はないがヘラヘラと満面な笑みで振る舞っていた。

「だってユズキが悪いんだぜ〜」

「なっ、なんで?!」

ビートの言葉に心当たりが全くなく驚いて聞き返す。

「ユズキがあまりにも可愛いからつい抱きしめたくなるんだよな〜」

そんな理由に呆気に取られ彼の「可愛い」発言に頬を赤くしていたユズキをお構いなしに身体を離そうとしない彼に対しもがくユズキ

「や・・・やめて 今洗濯物干してるからお願いだから離れて〜」

嫌がりなんとか体から離れようともがいているユズキをお構いなしに面白がってガッチリと離そうとしないビート

「そんなもんはいいから俺とデートしない?」

「ちょっとー」

その時、誰かがビートの首根っこを掴みユズキから引き剥がした。

「うわっ」

そこにはなんだか不機嫌そうにビートの首根っこを掴んでいたイサリの姿と彼の隣にはもう1人青年の姿があった。

上の毛は濃い茶色、下の毛は黒色の刈り上げた髪型をしダークグレーの瞳としたイサリと同年代の青年騎士だった。

「イサリさん おはようございます」

「ああ、おはよう」

イサリに挨拶すると同時に隣にいた青年に気付いて挨拶しようとするも面識がなかったので多少戸惑っていた。

「おはようございます えっと・・・」

「おはよう そういえば初めましてだな、俺はジル」

イサリの横にいた人物の名はジル

ユズキと初対面で明るい口調で名乗るジルに改めて挨拶を交わすユズキ

「初めましてユズキです よろしくお願いします」

「イサリから聞いたが大変だったな 俺はその時別の任務でしばらくいなかったからー」

「いえ」

ジルの言葉に申し訳なさそうにするユズキ、ふと寝起きなのか不機嫌そうにするイサリの様子を心配そうな目で見つめていたユズキ

イサリはまだビートの首根っこを掴んだままだった。

「イサリさん何するんですか〜」

「彼女が困ってるだろ 邪魔するな」

何故かイライラしている様子のイサリに気づくビートは半分茶化し面白がり揶揄う

「あれ?なんか怒ってません?

あっ!もしかして、俺とユズキが仲良くしているのにヤキモチしちゃったとかっすか?」

その言葉に一瞬ビクッとしたイサリとビートの発言に驚きドキッとして声が出てしまったユズキ

「えっー」

面白半分の様子で絡んでくるビートに対し徐々にイライラ感が増し彼の頭をボコッと音をしながら殴った。

「痛いっすよ〜」

イサリに殴られた所を大袈裟に涙目になりながら痛さを訴えるビートを無視する2人

「あっ!そういえばお前マルクスから他の奴らと一緒に武器の手入れするよう頼まれてなかったか?」

ジルに尋ねられ図星を突かれギクっとしてる様子のビートは

「いや〜行こうとしたんですが丁度ユズキを見かけてー」

ユズキを言い訳に使おうとするビートに呆れるイサリとジル

「彼女を出しに使うな!ほら、行くぞ!」

そのままお構いなしにイサリはユズキに一言謝り、ビートをそのまま連れて行こうとする。

「じゃあ、そう言う事だからこいつは連れて行く」

「はっはい」

ふと、ユズキはイサリの様子に気付いた。

不機嫌そううでもあったがよく見ると顔色が悪く何やら体調が悪い感じのような感じに見えた彼を心配する。

「あの、顔色が悪いみたいですが大丈夫ですか?」

「・・・・ああー」

ユズキの心配にしばらく沈黙していたがゆっくりと応え顔を逸らした。

「ほら、行くぞ」

「いたたたたっ・・・痛いっすよ〜せめて引き摺らないで下さいよ〜」

ビートを引き摺ったまま歩いて行くイサリとユズキに軽く手を振り彼の横を歩くジルの後ろ姿を微笑ましく見つめ「クスッ」と笑うユズキ

その直後、ユミアの声が遠くの方で聞こえてきた。

「ユズキ〜洗濯物終わった?」

「は、はい もう少しでー」

ユミアの声が聞こえてきて慌てて返事を返し洗濯物を干す作業を再開した。


 その頃イサリはジルと行動を共にし、ユズキと別れてから数分が経過していた。

文句を言い駄々を捏ねていたビートを武器手入れ班の元に送り届けた後、2人は集落内を見回りつつ歩いていた。

「はぁ〜全くビートのやつ 相変わらずだ」

ため息をつきながらビートの行動に呆れるイサリを宥めるジル

「まぁそういうところがあいつの良いところでもあるんだけどな」

それでもイサリの表情は何だか顰めっ面で不機嫌そうな感じをしていた。

そんなイサリの表情をまじまじと観察しつつ何かを察したジルは不適な笑みをしながらじーっとイサリを見つめていた。

「ふ〜ん・・・なるほどな〜」

「なっ、何だよ」

ジルが何かを納得したような感じにイサリを見つめ口角をニヤリとさせていたのに対し当の本人は何の心当たりもない素ぶりで疑問を持ちながら聞き返していた。

「ビートが言っていた事もあながち間違いではないかー」

「なっ?!」

ジルの一言に先程のビートが言っていた言葉を思い出し顔を赤くした。

「俺達、何年の付き合いだよ?お前の事は何でもお見通しぜ」

「ちがっ・・・・」

否定しようとするもジルは右腕をイサリの首元に回し彼の顔を覗き込むような体勢になる。

「頑張れ、俺は応援するぜ」

左手の親指を立てグッドポーズをしながら満面な笑みでイサリを見るジルに対し彼の勢いに負け強く否定する事も出来ずおとず去りな状態のイサリ

「ぐっ」

どうやら強ち間違いでは無いらしく図星を突かれ悔しがり何も言えなくなってしまった。

と、そこへ2人の元に1人の隊士が駆け寄って来た。

「イサリ様、ジル様」

「どうした?」

2人を捜していたその隊士は2人の目の前に敬礼しながら報告する体制をする。

「アモース隊長がお呼びです」

アモースが2人を呼んでいる報告を聞いた直後イサリとジルは何かを察したように深刻そうな表情をしながらお互い顔を見合わせ静かに首を縦に振る。

「わかった、下がっていいぞ」

イサリの指示にその隊士は「はい」と返事をして駆け足に去って行った。


****


 ーブラスカの集落地にて・アモースの天幕内ー

「失礼します。」

呼び出された2人はアモースのいる執務室の天幕を訪れ2人揃って中へ入る。

「来たか」

険しい厳格な表情をしながら机に肘をついていたアモースは2人が来た事を確認し視線を2人に向ける。

「お呼びですか?」

ジルの一言にアモースは2人を見つめながら静かに思い口を開いた。

「ここ数日間でセピアの森の内部でまた人がいなくなったと情報が入ったー」

アモースの一言に2人は一気に険しい表情をしながらアモースを見る。

イサリは深刻そうな表情をしながら静かに問い掛けた。

「・・・人狩りかー?」

「それはまだ解らないがヴィエラ村の事もある。調査に向かって欲しい」

「はっ!」と2人揃って返事をしてアモースの執務室をあとにした。


 アモースの命令で2人は行方不明になった者達の調査に向かう為、集落地の出入り口に向かっていた。

「確か行方不明になった者達は森周辺の南側で消えたらしいな」

ジルの言葉に険しい表情をしながら黙って聞いていたイサリ

「人狩りなら容易い事なんだがー」

イサリはぼやきながらこないだの事が脳裏に浮かび上がった。

ユズキを人狩りから救い、その後起こったヴィエラ村襲撃時を思い出し深刻そうな表情をしながらジルと一緒に歩いているとちょうど正面からユズキとユミアが話しながら荷物を抱え歩く姿が目に映った。

「あれ?イサリとジルだ」

ユミアは2人に気づきユズキもユミアの視線を辿り2人の存在に気付いた。

お互い段々と近づいて4人が集結した形になった。

「どうしたの?2人揃って」

ユミアは2人が何処かへ出掛けようとしていることに気付いて話しかける。

「ちょっと調査で森へイサリと行くんだ」

ジルは明るい口調で返事を返す。

“森”という言葉に反応ししばらく考えていたユズキは2人が任務に行くにあたり心配そうに見つめていた。

「お気をつけて」

「ああ」

ユズキの心配そうな表情に気付いて大丈夫だと安心させるかのように返事をするイサリ

2人はユズキ達と別れ出入り口に向かって歩き進める。その後ろ姿を心配そうに見つめていたユズキをユミアは明るい調子で安心させる。

「大丈夫よ!あの2人はそう簡単に死らないわ」

「はい・・・」と静かに答えるユズキ


****

 ーセントラリィ王国・セピアの森内部の南側ー

 アモースの指示でイサリとジルは数日前に行方不明になった村人達の足取りを調べにセピアの森へとそれぞれの馬に跨り調査に向かっていた。

ブラスカの集落地を出て馬を走らせる事約10分近く経過していた。

そして、森の入り口付近にそれぞれの馬を停めて周囲を警戒しながら中へと入って行った。

しばらく森の中を歩く事数分が経過していた。

「確かこのあたりだったなー」

ふと、視線の先の地面に何かが落ちていることに気付き、徐々に近づいて見るとそれは3日前に消えた村人の1人が持っていたであろう松明だった。

「恐らくここが現場だな」

2人が消えたであろう場所が特定しその周辺をより一層警戒しながら見回していた。

「おかしい、もし魔物や人に襲われたり誘拐されたら引き摺った後や血痕などの何かしらの痕跡が残るはずー」

辺りの不自然さに疑問を抱き首を傾げるイサリ

「俺はもう少し遠くの方に行く」

ジルはそう言いながら少し遠くの方へと向かって行き、イサリはその場に残る。

「ああ」

イサリは落ちていた松明を観察しながら見つめていた。

そして、争った痕跡もないその場の不自然な違和感を感じてるイサリは険しい表情をしていた。

「(まるで神隠しにあったようだー)」

“神隠し”のような現状にイサリはしばらく黙り込んでいた。


 セピアの森を調査する事1時間近く経過しようとしていた。

少し遠くの方へ調査に行ったっきりなかなか戻ってこないジルを不思議に思い始める。

「遅いな どうしたんだ?」

ジルを心配し彼が向かって行った先へと周囲を警戒しながら進み始めるイサリ

段々と南に真っ直ぐ進んで行きしばらくすると視線の先に洞窟が目に入った。

「こんな所に洞窟があったのかー だけどこないだ来た時は無かったようなー」

謎の洞窟に近づき入り口の所で足を止めまじまじと洞窟を隅から隅まで眺め何かに気付いた。

「そうか、今までホーリー・ミストの力で“霧”が発生していたからその影響で隠れていたのかー」

すると、木の上で何かがイサリの背後に瞬時に降りて来た。

「イサリ様」

「・・・・ジンか」

その正体はジンだった。

「アモース様より2人の様子を見て来いと言われました」

ジンはアモースの指示で2人の様子を見て来て欲しいと頼まれたらしく木の上を移動しながら2人を捜していた。

「それでどうですか?何か解りましたか?」

「いや・・・まだ何も」

何も手掛かりがないと答えるイサリに「そうですかー」と残念そうにするジン

ふと、ジルがいない事に気付いたジンはイサリに訊ねた。

「そういえばジル様はー?」

「それが・・・」

と、言いかけたその時、2人の耳元で洞窟から何かの裂ける?様なバリバリとした物音が聴こえた。

「!!」

2人同時に音のする洞窟に目を向ける。

「何でしょう さっきの音はー」

ジンの言葉にイサリは真剣な表情をして鞘に手をかけ警戒しながら洞窟の中に入ろうとしていた。

「俺はこの中に入る」

「じゃあ、私もご一緒にー」

ジンも一緒に洞窟に入ろうとするがイサリは断固として止める。

「嫌、俺1人で大丈夫だ お前は戻ってこの事を隊長に伝えろ そして、万が一、俺達が戻って来なかったらー」

「・・・承知いたしました。お気をつけてー」

イサリを心配するも渋々納得し瞬時に姿を消しブラスカの集落地へと戻って行ったジン

そしてイサリは洞窟の中へと入って行った。


 ーセピアの森内部南側・謎の洞窟内にてー 

 洞窟内は真っ暗程ではない多少薄暗くあちこちでポタポタと水滴が落ちてきた。

イサリは動じる事なく片手に松明を持ち灯りを灯しながら洞窟内を前にどんどんと進んで行った。

歩き進める事数分が経過した頃、ふと何かに気づいて足を止めた。

「これはー」

洞窟内をどんどん奥に行けば行く程に地面や周りの様子の何かの気配を感じたイサリは目を凝らしながら辺りを観察しつつ警戒していた。

「(なんだ、この違和感はー)」

違和感の正体がなんなのか解らずただその場から離れようとしないイサリ

そして、ふと岩の壁にそっと手をあてて何かを考えていた。

「・・・・」

イサリが何かを考えていた最中背後の地面下から何か黒い物が静かに滲み出てきた。

薄々背後の気配に気づいていたイサリは視線を後ろに向け剣を構えながら身構えし、瞬時に振り向いて剣を鞘から抜き構えるも誰もいなかった。

滲み出てた何かも無くただの地面だけの状態だった。

「・・・・・」

イサリは警戒し辺りを見回しながら剣を構えていた。

「おい!いるのはわかってる!姿を現したらどうだ?」

正体不明の何かの気配を感じ取り挑発するイサリ

が、次の瞬間、突然イサリの足元の地面下から黒い物体が滲み出る様にして現れイサリの足にそれが絡み付いた。

「なっ・・・!!!」

抵抗し振り解こうとしてもビクともせず身動きが取れなくなりそのまま身体が黒い物体に呑み込まれそうになる。

「くそっ!!」

抵抗虚しく悔しがりながらイサリの身体はそのままズルズルと黒い物体に飲み込まれてしまいイサリの手から剣が落ち地面に落下した。

地面は何事も無かったような元の状態となりそこにはイサリの剣のみが置かれ周囲は静寂な雰囲気が漂っていた。

すると、しばらくして不気味な声が何処からともなく響いてきた。

            ・・

「・・・・くっくっ・・・また獲物が掛かったぜ こないだの奴らといいさっきの奴といい最近は調子が良いなー 

しかもわざわざオレに提供するためにノコノコやって来た間抜けな奴だ」

声の主が見えず辺りには誰もいない様子だった。

「さぁて、こいつらをどう喰ってやろうかー」

《姿は見えないが口元をニヤリとさせ鋭い牙が映し出されていた。》


****


 ーセントラリィ王国・ロゼ街道の野原 ブラスカ集落地にてー


 2人が調査に向かってから約5時間以上が経過しており気付けばもう夕暮れ時で夜に差し掛かっていた。

ユズキはユミアと夕食の準備を着々と進めており、テーブルには数々の美味しそうな料理が並べられておりブラスカの隊士達の人数分の等の食器も丁寧に並んでいた。

その時、集落地内が何やら慌ただしくバタバタとしていた。

それに気付いたユミアは丁度近くを通りがかっていた隊士の1人に声を掛けた。

「ねぇ何かあったの?」

ユミアは隊士に事情を聞き出す。隊士は慌てた様子で答えていた。

「調査に行ったイサリ様とジル様が行方不明なんです!」

「?!」

イサリとジルが行方不明だと知ったユズキとユミアは驚いていた。

「嘘」

呆気に取られていたユミアは信じられないような表情をしていた。

「(イサリさん、ジルさん)」

2人の安否を心配し不安が募るユズキ

「ジン様が言うにはジャン様を捜しに行ったイサリ様が洞窟を発見し単身洞窟に入ったままその後の足取りが掴めない状況との事ー」

「(洞窟?)」

隊士の洞窟という言葉に首を傾げるユズキ

「そんな、あの2人に限って冗談でしょう?」

ユミアは隊士に対しあり得ないと反論する。

「それが本当の事なんですよ アモース隊長がこれから応援を派遣すると指示があり我々も数名召集命令が出されました。」

その言葉を聞いた直後ユズキは決意を込めた表情になりすかさず何処かへと走り去ってしまった。

「ちょっー、ユズキ?!」

ユミアの制止を聞かずにそのままユズキはただひたすらと走って行った。


 ーアモースの執務室にてー

 アモースの執務室では椅子に座り机に肘をついて神妙な表情をしていたアモースの前に2人の騎士が立っていた。

1人はマルクスだがもう1人は藍色の髪をして若草色の瞳の10代後半くらいの物静かで無表情なユズキと同年代くらいの少年騎士だった。

「イサリとジルについては聞いていると思うがあの2人がそう簡単にくたばりはしないが只事ではない事が起きている事は事実、お前達に頼みたい」

「はっ!」と2人が返事をすると同時に「失礼します!」とユズキの声が聞こえアモースの執務室に慌てた様子で息を切らしながら中に入るユズキの姿にアモースとマルクスは驚いて視線を向ける。

「ユズキ」

「ユズキ君」

ユズキはそのまま3人の元へと歩み寄る。

そして、必死な表情をしながらアモースに訴えるように口を開いた。

「イサリさんとジルさんが行方不明と聞きました!私も一緒に連れて行って下さい!」

ユズキの言葉にアモースとマルクスは驚き、藍色の髪の少年は無表情のまま静かにユズキを見つめていた。

マルクスは困惑し呆れながらユズキを説得し始める。

「何を言ってるんだ 君をそんな危ない所に連れて行く訳にはー」

ユズキを危ない所に連れて行く訳にはいかないと説得し始めるも彼の言葉を遮るようにユズキも負けずと反論する。

「わかっています 私が行っても足手纏いなのはー

でも、イサリさんは私が人狩りに攫われた時や村が襲撃された時初対面にも関わらず助けてくれました

今度は私が助ける番です!」

「しかしー」

「お願いします!!」

必死に頭を深く下げて懇願するユズキの姿に困り果てていたマルクス

と、黙っていたアモースが重い口を開いた。

「・・・・いいだろう」

アモースの一言に驚きすかさず顔を上げアモースを見るユズキ

「隊長、宜しいんですか?」

マルクスはアモースに再度確認をした。

「駄目だと言っても無駄だろう それにお前達がいれば大丈夫だ」

「ありがとうございます」

「しょうがないー ただし、何があっても私達から離れるな 何が起きるかわからないからな」

「はい、よろしくお願いします」

改めてアモースとマルクスに御礼を言いながらお辞儀をする。

「えっとー」

ふと、藍色の髪の少年騎士に目が入り彼に視線を向けるも名前を知らず戸惑っていた。

そんなユズキの様子に気付いたマルクスは少年騎士について紹介する。

「彼の名はエミリオ この通り彼は人見知りで無口だが悪い奴ではない」

エミリオは無愛想ながらゆっくりと黙ってユズキにコクリと挨拶代わりのお辞儀をする。

「よろしくお願いします。ユズキです(歳は私ぐらいかなぁ)」

エミリオに自己紹介すると同時にエミリオを一目見て自分と同年代かと思うユズキ 


****

 ーセピアの森内部南側・謎の洞窟前ー

 3人がブラスカの集落地をあとにしてから約30分以上が経過していた。

セピアの森周辺の小道を進んで行くとイサリが中に入ったであろう謎の洞窟の前に辿り着いた。

「ジン、この洞窟がそうか?」 

側に生えていた木の上に待機していたジンに話しかけるマルクス

「はい、そうです」

洞窟内を覗くと真っ暗で不気味な雰囲気が漂っていた。

ユズキは洞窟の外周辺を見回していた。

「(こんな洞窟あったっけー?今まで“霧”が発生していたから気付かなかったのかもー)」

こないだセピアの森最深部の祠に封印していたホーリー・ミストが解放された影響でセピアの森周辺や内部の“霧”が発生しなくなったことにより“霧”の影響で見えなかったものが見えた事に気付いたユズキ。

だが、かろうじてセントラリィ王国の各地には“霧”が発生している場所もまだ多少ではあるがセピアの森に発生していたほどではなく肉眼でギリ見えるくらいの薄さであった。

なので、ユズキの目には“霧”が視えるか視えないか微妙なぐらいの薄い“霧”が洞窟前にも漂っていた。

「行くぞ」と言うマルクスのに2人は首を縦に振り返事をする。

マルクスとエミリオは松明を片手に持ちながらユズキを2人で挟みながら洞窟内に入って行った。

《ユズキの前方にマルクスとエミリオがユズキを守るようにして並びで洞窟内を歩き進んでいる様子が描かれる。》

「お気をつけてー」

洞窟内に入って行った3人の後ろ姿を見送るジンの姿が映し出されていた。


 ー謎の洞窟内にてー

 3人が洞窟内を進み続ける事数分が経過していた。

真っ暗な洞窟内をマルクスとエミリオが持っている松明の灯りで照らし洞窟内を散策しながら警戒しつつゆっくりと進んでいた。

ユズキは不安そうにしながら自分の前にいる2人から離れないように彼らの痕を追うように必死について行く

しばらく進んで行くと後ろにいたユズキを心配し声を掛けたマルクス

「大丈夫か?」

ユズキは少し怖がりながらも「はい、大丈夫です」と弱々しく返事をした。

エミリオは無表情かつ無言のままひたすら歩いていた。

が、3人は気付いていなかったがユズキの後ろの方で異様な視線が忍び寄っていたー。


3人がひたすら洞窟内歩き続ける事どのくらい時間が経過したのだろうかー?

途中マルクスは警戒しながら歩く度に岩の壁を触りながら歩き、エミリオ相変わらず表情を変えずひたすら歩いていた。

ユズキは辺りを見回しながら恐る恐る歩いていた。

すると、しばらく進んで行くとマルクスは何かに気付きいた。

「ん?あれはー」

「どうしましたか?」とユズキはマルクスに尋ね彼の視線の先を見つめる。

視線の先の前方の方に銀色に輝く何かが光っていた。

3人はその光っている方向に近づいて行くとそれは誰かの長剣が落ちていた。

「これはー」

落ちていた長剣を手に取りまじまじと見るマルクス ふと、エミリオが重い口を静かに開き呟いた。

「・・・この剣、イサリさんのじゃない?」

「えっ?」

エミリオの言葉にユズキは驚きエミリオの方を見る。

「確かに・・・彼の剣だ」

マルクスもこの長剣の持ち主がイサリであることを確信した。

「でも、どうしてイサリさんの剣がここに落ちていたのでしょう?」

ユズキは不思議に思う中、マルクスとエミリオは険しい表情をする。

「ここで何か起きたのかは事実だ それは一体・・・」

険しい表情をしながら考え込むマルクスの姿をユズキは不安そうに心配しながら見つめていた。

「とにかく、先へ進もう」

3人は再び歩き始めようとしたその時だったー。

「!!」

急に足元が動かず次の瞬間、ガクッと崩れ落ちるような感覚に陥ったユズキは驚いて悲鳴をあげた。

「きゃあーーーーーー!」

ユズキの悲鳴が聴こえ瞬時に2人は後ろにいたユズキを振り向くとユズキの足元にいつの間にか謎の黒い物体が絡められた状態でユズキを捕え、その光景はまさに黒い物体に呑み込まれる最中のユズキの姿を目の当たりにした。

「!」

徐々に下半身部分が黒い物体に呑み込まれ、もはや全身に到達するのは時間の問題だった。

「うっ動かない・・・」

身動きが全く取れずどんどん黒い物体に沈んでいった。

すぐに2人はユズキを助けようとしたユズキの両手を掴み引っ張り出そうと奮闘するもビクともせず、必死に助けようとしていた。

が、その時、マルクスとエミリオも何故だか自分達の足も動かないことに気付いて足元に視線を向けるといつの間にか自分達の足元にも黒い物体が絡められた状態になっていた。

「?!」

「なっ?!いつの間にー」

気付いた時には遅く、ユズキ同様にどんどんと黒い物体に体が沈んでいった。

エミリオは身動きが取れないまま悔しがりながら抵抗虚しく身体が黒い物体にものの数秒で3人は跡形もなく黒い物体に呑み込まれてしまった。

3人が呑み込まれた直後、その場の空間はシーンと鎮まり返りただ不気味な雰囲気が漂っていたー。

****

3話終了

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