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神国地伝ーエデアー    作者: 璃木李鈴
2/3

第2話「聖なる結晶(ホーリー・ミスト)」(修正中)

聖なる霧が結晶化した時、運命の歯車が動き出す。

 ーエデアーと呼ばれる世界。ー

     ・

『大昔、“神”の手で創られたと語り継がれていた。

エデアの中央部に位置する小国セントラリィ王国のセピアの森に発生する謎の黄白色の不思議な“霧”ー

その“霧”は何故か1人の少女にしか視えなかったー。

彼女が住む村がオーディン帝国に襲撃、侵攻され絶望に堕とされた状況の中、彼女の悲痛の祈りに応えるかように森の最深部にある祠から“霧”と同色の光が彗星の如く飛び出し頭上に落下し彼女と青年騎士の窮地を救った。

そして、黄白色の光は結晶に姿を変え、少女の手の内に収まる事となったー。』

《1話終盤のシーンが描かれオーディン兵に捕まっていたユズキとオーディン兵に対峙していたイサリの頭上に黄白色の光が閃光のように落下し気づけばユズキを捕らえていたオーディン兵の姿はいつの間にか消滅していた。

気絶して倒れているユズキの首元には金色のチェーンにペンダントのような状態で黄白色の小さい結晶がチャームみたいに括り付けられていた。》


****


《場面は真っ暗な異空間に切り替わり白いキャミソールワンピースを着たユズキが穏やかな寝顔で眠りながら宙に浮かんでいる様子が映し出されていた。》

「(何だろう・・・・この感じ・・・・)」

ユズキは周りの違和感に気付き徐々に意識がはっきりとしてきてゆっくりと瞼を開ける。

「・・・ここはどこ・・・?」

ぼんやりとしながら上を見ていたがゆっくりと正面に顔を向けて真っ暗な空間を挙動不審のようにキョロキョロと見回していた。

「これは・・・夢・・・?」

辺りが何も見えない真っ暗な空間に自分だけ取り残された状態で孤独感に胸が押し潰されそうに不安が押し寄せてきた。

「怖い」

恐怖心で身震いしながら踞る。

と、その時、突如ユズキの目の前に黄白色の光の球体が現れた。

「・・・この光は・・・ー」

光の球体に気付いて身体を伸ばしてその光を見つめる。

「(・・・何だろう・・・懐かしい感じがする)」

何故かその光に愛おしくも懐かしさを感じたユズキは両手に収るほどの大きさの光の球体に手を伸ばし掴もうとしたその時、どこからともなく声が聴こえてきた。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

『“ホーリー・ミスト”はお前を待っていたー』

「えっ?」

不思議な声に反応し辺りを見回すが誰もいなく怯えるように見えない声の主に恐る恐る尋ねる。

「誰かいるの?」

ユズキの問いに反応はなく沈黙の空気が流れていた。

そして、しばらくして微かな声がどこからともなくまた聴こえてきた。

『・・・・今度こそ・・・』

何故か哀しそうにする不思議な声が言いかけたところで球体が眩い光を辺り一面に広がるように放たれユズキは眩しそうにし視界が歪んでぼやけ始める。

「!!」

《視界が真っ白になり夢から醒めようとしていた。》


****

 何処かの天幕内にてー

《場面はベッドに横たわり眠っていたユズキが映し出されていた。》

 ゆっくりと瞼を開け霞がかったような視界がはっきりとしてきて天幕の天井が目に入った。

「・・・ここは・・・?」

眠りから醒め上半身をゆっくりと起こし辺りを見回す。

何処かの天幕内の部屋の一室であり自分はそこに設置されたベッドに寝かされていた事に気づき、これまでのことについて少しづつ思い出そうとする。

「(そうだ、確か村が襲撃されていて・・・私捕まっちゃってそれからー)」

すると、首元で何かが揺れた音が聞こえ見てみるといつの間にか銀色のチェーンが括り付けられそこに黄白色の結晶がチャームのように繋がれていた。

「これはー?」

結晶を掌にのせ不思議そうにそれを見つめる。

「(あっ!!そういえば、これと同じ色の光が突然降ってきて気を失ったんだったー)」

《回想シーンにてー

オーディン兵に人質に捕られ身動きが取れない状況の中、突然空から黄白色の光が落下し、そのせいで気を失ったことを思い出した。》

「はっ!村はー?!みんなはー」

ヴィエラ村の事を思い出し身体を起こしベッドから起き上がろうとしたその時、足音が聞こえてきた。

足音は徐々にこちらに近づいてきて天幕の出入り口のカーテンがゆっくりと右に開いた。

「あれ?起きたんだ」

「?!」

出てきたのは艶やかな赤紫色の長い髪をポニーテールに結んだ青緑色の瞳をした20代前半のスレンダーな体型をした女性だった。

ユズキと目が合い彼女が目を覚ました事に安心し気軽に声をかける。

「大丈夫?体調とか具合悪くない?」

左手に布を掛けた何かを持ちながら中に入りユズキの側に歩み寄る。

「はっ・・はい大丈夫です」

「良かった〜」

「あの、ところでここは何処ですか?」

辺りを見回しながら女性にここが何処なのか尋ねてみた。

「ここはエデア解放軍の移動基地の中よ」

女性は親切にユズキに此処が『エデア解放軍』の移動基地だと教える。

「エデア解放軍・・・(あれ?そういえばイサリさんもなんかそう言っていたような気がー)」

『エデア解放軍』という言葉に聞き覚えがありふとイサリの事を思い出す。

「あの・・・」

言いかけたその時、グゥ〜と音が聞こえて来た。

「あっ」

ユズキは恥ずかしそうに顔を赤くする。

どうやらさっきの音はユズキのお腹の音だったみたいだ。

「あはっ、お腹が空いてるんでしょ?もう夕方だからね」

「えっ?!もうそんな時間だったんですか?!」

現在の時刻がすでに夕方過ぎである事に驚くユズキに女性は右手を左手に持っていた布を掴み布を外す。

布を外すとお盆に乗ったサンドイッチが現れ女性はそのままユズキに差し出す。

「はい」

「これはー?」

「やだな〜見ればわかるでしょ?サンドイッチよ

もしかして嫌いだった?」

「いっ・・いいえ」

差し出されたサンドイッチを申し訳なさそうに受け取るユズキ

「さぁ食べて こう見えて私ここの炊事担当だから味には自信があるんだから」

自信満々に料理上手をアピールする女性に圧倒され勧められるがままサンドイッチに手を伸ばす。

「あっありがとうございます いただきます」

申し訳なさそうにしながらお礼を言い、まずは卵サンドを手に取り口に運び一口食べてみる。

ゆっくりと卵サンドを噛み締めしばらくしてユズキの表情が綻んだ。

「美味しいです」

卵サンドの美味しさに感動して幸せそうな表情をするユズキ

「でしょ?どんどん食べてね」

「はい」

あまりの美味しさに手が止まらずサンドイッチを食べ進める

ユズキの美味しそうに食べる姿を微笑むように優しく見つめる女性は安心した様子で話す。

「でも良かったわ イサリがあなたを抱えて帰ってきた時は驚いたけど、事情を知ったら同情するわ」

「えっ?」

女性の言葉に一瞬何の事を言っているのか解らず首を傾げる。

女性はユズキの様子に気づかずそのまま話し続けていた。

「あなただけでも無事でー」

女性の一言に急にサンドイッチを食べる手が止まり身体が硬直した。

「(あっー)」

ユズキは女性の話をやっと理解し数時間前の事を思い出し身体が恐怖で震え出した。

《ユズキの脳裏にオーディンによりヴィエラ村が壊滅寸前の状況に陥り、おばさん②を含む村の人達が惨殺された跡の光景が浮かんだ。》

「(そうだ・・・村の人達はー)」

哀しみが溢れ出しユズキの目には静かに涙がポロリと出てきた。

それを見た女性は慌ててユズキに駆け寄る。

「ああ!ごめんね 私ったら・・・」

「いっ・・・いえ」

ユズキは涙を拭い女性は励まそうとユズキの背中を優しく摩る。

「・・・私も故郷と家族を失ったのー」

「!!」

女性もユズキと同じ戦争で何もかも失った事を語り同情していた。

「ううん、私だけじゃない

ここにいる解放軍の人達のほとんどが戦争で故郷や家族を失い入隊した人ばかりー

大半がオーディンによってー」

哀しげに語るも瞳の奥底にはオーディンに対する憎しみを抱いている女性は両手を硬く握り締めていた。

その様子を見たユズキは同情の眼差しで見つめていた。

「でもね、ここ(解放軍)存在を知り勿論復讐も考えてたんだけど誰かの役に立ちたくて入隊したの」

「そうだったんですか・・・」

ユズキは納得したように女性に返事をする。

そして、思い出したかのように女性に質問をする。

「あっ、そういえば、エデア解放軍って何ですか?」

ユズキの質問にキョトンとする女性

「あれ?何も聞かされてないの?」

「はい」

『エデア解放軍』について何も知らない様子のユズキに女性は優しく微笑み返す。

「私からと言うよりかは隊長達から話を聞いた方が早いかもー

ちょうど貴女が目を覚まし食べ終わったら隊長の元へ連れて来るように言われていたからね

男ばかりの所だから女の私に貴女の事を任されたの」

スッとユズキに右手を差し出す女性

「自己紹介が遅れたわね 私はユミアよ よろしくね」

「私はユズキです。よろしくお願いします。」

2人は握手をして軽く挨拶を交わす。

《その様子を外で出入り口の天幕の柱に寄りかかった状態で立ち聞きをしていたイサリの姿が映し出され深刻な表情をしながら静かにその場を去って行った。》


 それから約15分後ー

サンドイッチを食べ終わり気持ちを落ち着かせたユズキはユミアに連れられ隊長と呼ばれる人がいる天幕に案内される。

案内される中、幾つもの似たような天幕を見回していたユズキは珍しい物を見るかのようにそれを見回していた。

時刻は夕日が沈み空が夜空に変わる頃でもうすぐ夜を迎えようとしており晴天に星が幾つも散らばっていた。

「幹部の人達も恐らく今は隊長の所で集まって会議をしている最中だからー」

案内される中、天幕を巡回する人や武器を手入れをしている身体の一部を鎧に纏った騎士や隊士達の姿が目に映った。

「あの子だろ?」

「可哀想に・・・オーディンにー」

途中、数人の隊士達がユズキを見てヒソヒソ話が聞こえてきた。

そのヒソヒソ話の声を歩く度にユズキの耳に入り虚しさと窮屈さを感じながらユミアのあとについて行くー。

しばらく進んで行くと中央に設置された一際大きな天幕にだんだんと近づいて行く。

「さぁここに隊長がいるわ」

そして隊長がいる大きな天幕に辿り着き、出入り口の前に2人は立ちユミアは一言声を掛ける。

「失礼します ユミアです。彼女を連れて来ました」

しばらくして中から男性の太い声が聞こえた。

「入れ」

「はい さぁ行こう」

「はっはい」

緊張しながら彼女について行き、中に入るユズキ

中に入ると大きなテーブルに左端に銀髪騎士と白髪の初老の男性が座り、右端にはイサリが座っていた。

上座に座っていた40代半ばくらいの厳つい顔付きの顎髭を生やしたきっちり整ったオールバックの髪型をした立派な鎧を身に纏った軍服姿の男性が座り何やら会議をしてる最中だった。

その場にいた人全員がユズキに視線を一斉に向ける。

ふと、ユズキはイサリに気づきお互いに目を合わせる。

「イサリさん」

イサリの顔を見て一瞬驚いたがホッとして安心した様子のユズキ

「もう、大丈夫なのか?」

「はい」

ユズキが何事もなかった事にひと安心していたイサリ

「じゃあ、私はこれで」

「ご苦労」

ユミアは隊長に一礼しその場を立ち去り部屋から出て行く、ユズキはその場に1人取り残される。

重たい空気が流れ隊長が口を開きユズキを見つめる。

「まぁ立ち話もあれだ そこに座りなさい」

「はい」

促されユズキは静かにその場に目がついた真ん中の下座に座る。

ユズキが着席したのを確認し隊長は話し始める。

「一通りの事はイサリから報告は聞いているがお前からも色々と話を聞きたい」

「はっはい」

隊長の鋭い視線に緊張して全身が強張って掠れた返事をする。

「紹介がまだだったな 俺はここエデア解放軍ブラスカの隊長を務めるアモースだ」

上座に座る隊長の名はアモース

「お前はエデア解放軍を知っているか?」

『エデア解放軍』についてユズキに問うもユズキは知らない素ぶりをする。

「すみません 全く存じ上げてません」

「それでは私から説明しましょう」

銀髪騎士が手を上げ自己紹介の兼ねて『エデア解放軍』についてユズキに語り始める。

「まずは自己紹介を私の名はマルクス」

銀髪騎士はユズキに目を向け挨拶を交わす。

「エデア解放軍とは、その名の通り戦争などにより国を制圧または支配された国々を取り戻し返す事、またはまだ襲撃されていない地域を護る役目を担う騎士団で構成された集団」

マルクスの説明が終わりアモースはユズキに視線を向け話し始める。

「単刀直入に言おう、お前も承知だと思うがヴィエラ村は壊滅した」

「(やっぱり・・・そうなんだー)」

アモースの一言にその場の空気がどんよりと重たくどっしりとなった。

ヴィエラ村が壊滅したことは解っていたつもりだったが心のどこかで小さい希望を持っており、いざ改めて言われると胸が締め付けられそうに辛く哀しい気持ちになり、必死に涙を堪え両手を膝に置き強く握りしめていた。

その様子を心配そうに見つめるイサリ

アモースは構わず話を続ける。

「生き残ったのはお前だけだ」

「!!!」

アモースの厳しい一言に現実を叩きつけられた思いをし改めて痛感する。

ヴィエラ村の生き残りが自分しかいない事に驚きを隠せない様子のユズキは必死に涙を堪え続けていた。

「(そんな・・・私しかいないなんて・・・)」

「ヴィエラ村を襲ったのは間違いなくオーディン帝国」

「オーディン・・・」

『オーディン』という言葉にヴィエラ村の惨劇や自分を拘束していた兵士の事を思い出していたユズキ

「お前も聞いた事があるだろう?ここ近年でオーディンは急速に勢力を上げ東大陸を制圧している。

そして、エデア全体を支配下に置き襲撃し戦争を引き起こしている。」

《オーディン帝国の剣と薔薇がモチーフの紋章が記された国旗が掲げられ幾つもの屍が殺伐とした様な光景が描かれていた。》

「次にオーディンが狙っているのはセントラリィでありヴィエラ村襲撃前から幾つもの村が襲撃されていた。

そして、今回この様な事が起きた。」

ユズキは真剣にアモースの話を聞いていた。

「だが、オーディンはそうしなくても最初からセントラリィを狙っていた

ここは天然資源が豊富でオーディンにとっては宝庫でなんとしてでも手に入れたいと考えている。」

《セントラリィ王国のセピアの森を含む自然豊かな光景が描かれて、一方でオーディン帝国の山脈地帯など殺伐とした光景が描かれていた。》

                   ・

「が、それは表向きで本当の目的は恐らく“神”の力ー」

「!?」

        ・

アモースの言う『“神”の力』に驚きを隠せず身体が前のめりになりそうな反応をしそうになるユズキ

アモースは構わず話をそのまま続ける。

            ・

「セントラリィには昔から“神”がいると言われている事は我々も承知済みー

    ・

しかし、“神”は単なる御伽話であってそんなに深くは考えてはいなかった

が、イサリの話を聞くところによるとお前は村でオーディン兵に捕えられた直後に空から光が落ちてきてその光が今お前が首から下げている結晶に変化したと聞いた」

「はっはい」

戸惑いながら返事をし結晶を見つめるユズキ

「それについて何か心当たりはないか?些細な事でもいい」

アモースは鋭い眼差しを向け何か心当たりがあるか否やユズキに問うもユズキはしばらく考えるも何も知らず答えを返す。

「いえ・・・私にも何が起きたのかわかりません」

ふと、ユズキは夢で見た事を思い出し誰かが言った言葉が脳裏に浮かんだ。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

『“ホーリー・ミスト”はお前を待っていたー』


『ホーリー・ミスト』という言葉が印象的に頭の中に残りぼそっと呟いた。

「ホーリー・ミスト・・・」

ユズキが言った何気ない一言にその場にいた全員が一斉にユズキを視線を向ける。

その視線に気づいたユズキは夢で見た事をありのまま伝える。

「あっ、さっき夢で誰かが私にそう言っていたんですけど・・・」

「ホーリー・ミスト・・・・」

左端に座っていた白髪の50〜60代前半の赤茶色の瞳をした初老の男性が『ホーリー・ミスト』という言葉に思い当たる節があるかのように考え込んでいた。

初老の男性の様子に気付いたイサリは問う

「エルフ殿、何か思い当たる事でもー」

初老男性の名はエルフ 

エルフは少し考えからユズキの方に視線を向けて質問する。

「さっきイサリから聞いたんじゃが、お主は“霧”が視えるらしいな」

「はっはい」

「・・・・古文書で読んだ事がある

セピアの森の中は目には視えない“霧”が漂い、悪き心を持つ者から森やセントラリィを守っているとー

その“霧”の名は“ホーリー・ミスト”と呼ぶー」

「(夢で見た誰かが言っていたこの結晶と名前が同じー)」

結晶を手に取り見つめるユズキは“霧”と結晶が『ホーリー・ミスト』で同一だと確信する。

森の中の“霧”という言葉に反応するマルクス

「しかし、“霧”なんて私の目には視えませんでしたー」

「(やっぱり・・・・“霧”は私にしか視えないんだー)」

マルクスも“霧”が視えないと発言し自分にしか“霧”が視えない事を知るユズキ

「“霧”の存在は普通の人には視えない・・・が、お主が何故視えるのかはわからない

もしかしたら一種の奇跡なのかもしれないな」

「奇跡・・・・(そしたらお母さんも?)」

『“霧”』の存在について

「そうするとセピアの森に発生する“霧”がセントラリィの平和を保っていたということかー」

アモースは各々の会話に結論付けた。

「確かにそれだと納得します

実際にセントラリィで魔物はおろか森の近郊の村々には野盗等の被害が比較的に少ないと報告もありました」

「それじゃあ、今回の事は“霧”の力がなんらかの理由で弱くなってオーディンの侵攻を赦したとのことなのかー」

「・・・・」

イサリ、マルクスの会話を黙って深刻そうな表情をしながら聞いているユズキ

その時、エルフが口を開き語る。

「ひょっとしてそのホーリー・ミストはお主に何かを伝えたくて現れたのでは?」

「私にー」

エルフの一言にユズキは結晶をまじまじと見つめる。

結晶は何の反応もなくただの宝石のように鎮まっていた。

「まあ、何にしてもわしもまだ全て把握してないことがある。

出来ればもう少し時間が欲しい」

エルフは一刻も早く『エデア』や『ホーリー・ミスト』の全ての謎の解明に乗り出す方向をする。

しばらく考え込んでいたマルクスは思い出したように話し出す。

「ただ、その光が何処からやって来たのかはまだ不明だがあの時ヴィエラ村に向かっていた者達の証言によると光は流星のように南の方角から飛んできたと聞いた」

「南・・・」

南の方角からという言葉にユズキは少し考えてふと祠が頭に浮かんだ。

「(もしかして・・・祠から?)」

森の南の方角は恐らく祠がある最深部あたりだと気づきユズキはあの光はもしかしたら祠から出てきたのでは?と考えていた。

ふと、ヴィエラ村のその後の事や村人達の事が気に掛かりアモースに質問する。

「あの、ヴィエラ村はその後どうなりましたか?!」

アモースは険しい表情をしながら淡々とヴィエラ村の現状をユズキに伝える。

「あの後、我々で処理はした。安心しろ村人達の遺体はちゃんと埋葬した」

「そうですか・・・ありがとうございます」

アモースの言葉に安心したユズキはお礼を言うも何処か哀しそうにしていた。

そんなユズキの様子を察しイサリは黙って心配そうに見つめる。

と、その時、音を立てず誰かが瞬時に現れた。

「失礼します。」

何処からともなく忍者風の姿をした口元を隠した男性の姿に驚くユズキ。

「きゃっ、びっくりした・・・」

「ジン」

イサリは男性を見て名前を言い、アイコンタクトでユズキが驚いているだろう的な感じに伝える。

ジンはユズキに顔を向ける。

「突然すみません 私はジンと申します。

ブラスカの主に密偵を務めています。イサリさんとは同郷で付き合いが長いのでー」

「そうなんですか」

ユズキに非礼を詫び自己紹介をするジン

「ジン、それでどうだった?」

鋭い眼光でジンを見るアモース

「ヴィエラ村を含むセピアの森の周辺を調査した結果、ヴィエラ村以外の村は既に滅んだ跡でした」

「近くにオーディンはいたか?」

「いえ、数キロ先の方も隈なく調査しましたがオーディン軍らしき砦や集落は見当たりませんでした」

「砦や集落も無いとすると何処かに潜伏しているかそれともー」

「・・・・罠・・・ー」

ジンの報告を聞きマルクスの言葉にイサリは険しい表情をしながら一言呟いた。

「ヴィエラ村が森に結構近かったこともあり今までそんなに被害は無かったということかー」

「と、いう事はやはりオーディンの手がすぐそばまで来ていたということかー」

再び深刻そうな表情をしながら話し合い重苦しい空気が漂っていた。

「森は?どうだった?」

「特に異常はありませんでしたがあちこちで魔物が出現するようになりました。」

「・・・それだけ“霧”の影響が大きく関係していたという事かー」

しばらく重苦しい空気が天幕内に漂っている中、その空気を断ち切るかのようにアモースは口を開いた。

「これ以上オーディン侵攻を許してはならない!

幸いセイランがまだ堕とされてないがオーディンは一筋縄ではいかない必ず何か仕掛けてくるはずー

その前になんとしてでも食い止めなければならない

まだ西方面へ偵察に行った者達が戻って来ていないが戻り次第ここを出て南の方へ向かう!

マルクスとイサリはこの事を全員に補給や準備するように伝えろ!あと他の兵士達の強化も忘れるな」

※セイラン→セントラリィ王国の首都

イサリとマルクスはアモースの指示に同時に「はっ」と返事をする。

すると、エルフが口を開く

「ちょっといいかのう、アモース」

「なんだエルフ」

エルフはユズキを見ながらアモースに問う

「このお嬢さんはどうするつもりだ?」

イサリとマルクスは同時にユズキをどうするのかという様子でユズキを見つつアモースに視線を向けた。

「恐らくはここ(セントラリィ王国)では暮らせないだろう

安全な場所が見つかるまでしばらくはこちらで保護という形で過ごしてもらう

お前もそれでいいな?」

険しい表情をしながらユズキの今後を語り、それに対し静かに「・・・はい」と答えるユズキ

「さっきお前が寝ていた所は誰も使っていないからそこを自由に使ってくれ」

「ありがとうございます」

アモースに頭を下げお礼を言う

「イサリ、彼女を送り届けてくれ」

「はい」

「それでは、今日のところはここまでだ 解散とする」

アモースの一言でその場を解散し天幕を出る一同

ユズキはイサリに付いて行くかたちでさっき自分が寝ていた天幕に向かっていた。

2人の間に長い沈黙が流れ、気まずい雰囲気になりながら歩いていた。

ユズキは深刻そうな考え事をしながらしばらく歩き進め、意を決してイサリに話しかける。

「あの、イサリさん」

「ん?どうした?」

イサリは自分の後ろにいたユズキを振り向きながら返事を返す。

「・・・お願いがありますー」


****

 翌日の昼頃ー

セピアの森の中を颯爽と馬で駆けるイサリの後ろを彼の身体にがっしりとしがみつきながら同乗するユズキの姿があった。

黄色い花の花束を抱えながら落とさないように掴んでいた。

森の中を駆ける事10分、ヴィエラ村に辿り着きそのまま中へと入る。

村の周囲や村の中はまだ焦げ臭いような匂いが漂っており家を含む建物も焼け果てていた。

南の方に進んでいくと村の片隅の所にブラスカの兵士や救護員達の手によって村の人達の遺体は埋葬されお墓が作られていた。

馬を近くの場所に停めて2人は村の人達が埋葬されているお墓の所へと向かう

お墓の前でユズキは哀しみを堪えながら抱えていた花束を静かに置き、手を合わせて静かに鎮魂の祈りをする。

彼女の哀しそうな後ろ姿を静かに見守っていたイサリは前日の事を思い出していた。

《回想シーン 前日》

「ヴィエラ村に連れてって欲しい?」

「お願いします みんなの供養をしたいんです」

「しかし、気持ちはわかるが今の現状を見ればよりショックが大きいかもしれないー」

「それはわかっています でも村の人達にはお世話になったんです

両親を亡くした私に親のような愛情を注いでくれておばさん達には感謝してるんです お願いします」

深々と頭を下げて懇願するユズキの姿を黙って見ていたイサリはしばらく考える。

「・・・わかった アモースには俺から言っておく」

「ありがとうございます」

《回想シーン終わり》

しばらくして供養を終えたユズキは立ち上がりイサリの元へと歩み寄った。

「もういいのか?」

「はい」

ユズキの様子を心配そうに聞くイサリ

「さぁ、行きましょう」

気丈にその場を去ろうとするユズキにイサリは制止する。

「ちょっと待て」

「はい?」

「その前に祠を見てみたいんだが案内してくれないか?」

祠を見てみたいと言うイサリに微笑みながら「はい」と答えるユズキ

再び2人は馬に跨りながら祠のある森の中へと入って行った。


****


緑色に茂る葉の枝をかけ分けながらどんどん奥の方へと進んで行きようやく祠の場所が近づいて来た。

「着きました ここが祠です」

ようやく最深部に辿り着き祠を目にする2人

しかし、ユズキは祠を一目見た時何かの違和感に気づいた。

「あれ?」

「どうした?」

「いえ、昨日来た時と何かが違うようなー」

2人は祠の方へゆっくりと歩き進める。

祠の前に着きユズキは両手を合わせて拝んでいた。

イサリもユズキと一緒に両手を合わせ拝み、しばらくしてユズキよりも早く終わりまじまじと祠を眺めていた。

「(見たところ古いただの祠のようだがー)」

前日、ヴィエラ村に行く許可を出しにアモースを尋ねた際の彼の依頼を思い出していた。

「例の祠を見てきて欲しい」

祠を隅々まで観察しながら観るが特に何の気配も感じないただの古い祠だと確証していた。

しばらくしてお参りを終えたユズキが祠を静かに見つめていた。

「そろそろ戻ろう」

イサリの一言に「はい」と答え来た道に戻ろうと歩み始めるようとする2人

しかし、ふと深刻そうな表情をしながら祠の周囲や最深部の周辺を見回していたユズキ

「どうした?」

イサリはそんなユズキの様子に気付いて問う

「森の中に入ってから“霧”が消えてるんです ここもー

今までこんな事なかったのにー」

「えっー」

年中森の中に発生していた“霧”が消えている違和感に気付いたユズキ

「それに何だか祠も・・・・」

と言いかけたその時、右側の茂みがガサガサ音が聞こえてきた。

イサリは気づいて瞬時に身構え、ユズキは怯えていた。

音が段々と近付いて来て茂みの中から野党2人が現れた。

「なんだ何もねえじゃねえか」

「寂れた祠しかねえのか 来て損したぜ」

人相の悪い2人の野党は最深部の周囲を見渡しながら不満をぶつけていた。

「ん?なんだ?男女2人か」

ユズキとイサリに気付く野党どもは何かを思いついたようにお互いヒソヒソ話をしてニヤリと笑う

「ちょうどいいや、おい兄ちゃん金を寄越しな」

「あとそこの女も置いてってもらおうか」

有り金を要求し挑発する野党に対し動じる事なく咄嗟にユズキを守るように自分の後ろに彼女を隠す。

不安がるユズキを穏やかな顔をしながら安心させるように小声で励ますイサリ。

「大丈夫、俺が守るから」

次第にイライラしだす野党どもは痺れを切らしていた。

「何ごちゃごちゃ言ってやがる」

「おい、兄ちゃんよ

金と女を潔く置いてけば命だけは助けてやってもいいぜ」

野党どもに立ち向かおうと剣を鞘から抜き構えるイサリ

「ふん、お前達みたいな雑魚に渡す気はさらさらない」

鼻で笑いながら逆に野党どもを挑発する姿勢を取るイサリ

「んだと!このやろう!」

「後悔しても知らねぇ!」

イサリの挑発に乗り怒り出し懐からナイフを取り出しイサリに襲い掛かる。

「それはこちらの台詞だ!」

野党2人がナイフを突き刺さろうする前に瞬時にイサリは2人を斬り付け「ぎゃ〜」と叫びながら2人はその場に倒れ込んだ。

ユズキは彼の剣捌きの凄さに感心していた。

「すごい・・・」

急所を外して斬り付けたので2人の野党は倒れた状態で痛々しくしていた。

イサリは1人の野党の胸ぐらを掴みながら怖い顔をして睨みつける。

「失せろゴミども、命だけは残してやる」

そう言いながら胸ぐらを掴んでいた野党を無造作に離した。

「ヒィィィ〜」と情けない声を出しながらイサリに怯え逃げて行く野党どもを見下すような眼差しで溜息をつきながら見るイサリ

が、ユズキは気付いていなかったが彼女の後ろ近くの茂みに潜むギラリとした2つの紅い光がユズキを見ていた。

イサリはユズキに顔を向けた瞬間その紅い光の存在に気付き焦って大声で叫ぶ

「ユズキ!!」

大声で自分の名前を呼んだ彼に一瞬ビクッとするも同時に茂みの中から勢いよく何かが出てきた。

それは狐に似た魔物で紅い眼を輝かせながら口元から涎を垂らしながらユズキを獲物を狩るような感じで見ていた。

ユズキ目掛けて猛獣のように襲い掛かって来た。

「きゃあ〜!!」

ユズキは逃げられず魔物の怖さに怯え悲鳴上げ足から崩れ落ちて地面に尻餅をつく

「くっ!」

すぐさまイサリはユズキに駆け寄り彼女を抱きしめる形で魔物の攻撃を躱しながらユズキを庇った。

躱す直前に彼の左片腕を魔物の鋭い爪で引っ掻かれた。

「イサリさん」

魔物に引っ掻かれた傷を心配そうに見るユズキを魔物から遠ざけるように安全な所に移動させ、直ぐに体制を立て直し左片腕の痛みに耐えながら剣を握り魔物に立ち向かうイサリ。

再び魔物はイサリ目掛け襲い掛かろうろした一瞬の隙を見逃さなかったイサリは刃を魔物の腹を斬った。

腹を斬り付けられた魔物は痛々しい叫び声をしながらその場に倒れ息絶えた。

「ふぅ」

疲れ切った様子でその場にしゃがみ込むイサリを慌ててユズキは駆け寄る。

「大丈夫ですか!?」

「大丈夫だ、掠っただけだ」

傷つけられた左片腕を右手で止血しながら押さえる。

「ごめんなさい、私のせいで・・・」

自分のせいでイサリが怪我した事を必死で謝る。

「いや、気にするな」

大した事ないような痩せ我慢をしていた彼の額に油汗が滲み出ておりそれを見たユズキはより一層心配する。

「診せてください」

「いや、大丈夫だ」

「いいから診せてください!」

「あっああ」

ユズキに推されながら渋々上着を脱いで引っ掻かれた左片腕を出して診せる。

思っていた通り傷口が多少深く引っ掻かれそこから鮮明な血が滲むように出ていた。

「ちょっと待ってくださいね」

ユズキは自身の右手を彼の左片腕に静かにあてる。

その様子を不思議そうに見ていたイサリ

しばらくして掌から薄い桃色の小さい光が出てきてその光によって徐々にイサリの傷がみるみるうちに消えていく。

その光景を見ていたイサリは驚いていた。

そしてものの20秒くらいで完全に傷が無くなり完治した。

「はい、これで大丈夫です」

「凄い・・・治癒力が使えるのか」

ユズキの治癒力の凄さに感心するイサリ

「ありがとうな」

「いえ」

癒えた左片腕を袖に通して上着を着る。

ふと、イサリは深刻そうな顔をしてしばらく考える。

「やはり、“霧”は悪き者や魔物から守っていたのかー

その“霧”が森から無くなった途端こんな奴らが出入りするようになったのか」

「そんなー」

“霧”の発生が悪き者や魔物の侵入を防いでいた事実にユズキは驚きを隠せない様子だった。

イサリが祠の周辺を現場検証をしていたその時ユズキの耳元で声が聞こえた。

『・・・ホーリー・ミストを・・・』

「えっ?」

その不思議な声に辺りを見回すがイサリ以外の人物は見当たらない

『・・・・エデアを・・・守って・・・』

その言葉を最後に何も聞こえなくなった。

「この『声』・・・夢で聞こえた『声』だ・・・」

聞き覚えのある声にその声の主が夢で聞いた不思議な声だと気付いたと同時にイサリがユズキの方に近づいて来た。

「取り敢えず戻って報告しないとなー ん?どうした?」

ユズキの様子に気付いたイサリは不思議そうに尋ねる。

「いえ・・・なんでもないです」

なんでもないように返すユズキを「そうか」と納得したイサリ

「ここを出るぞ」

ブラスカの集落地に戻ろうとするイサリにユズキは「はい」と応える。

最深部から出ようとする2人の様子を木の上から見ていた人影がー

ふと、イサリは何かの視線に気付いて木の上を見上げるが誰もいなかった。

「?どうかしました?」

ユズキはイサリの様子に不思議そうにしながら尋ねる。

「・・・いや、何でもない・・・行こう」

「はい」

何でもなさそうにするイサリはユズキの前に出て進んで行きユズキは彼の跡を追うようについて行き、最深部をあとにする。


****

 ーブラスカの集落地・アモースの執務室の天幕にてー

 ユズキとイサリはブラスカに戻って来てセピアの森で起こった事をアモースに報告しそばにはマルクスも一緒に聞いていた。

アモースとマルクスはただ黙って2人の報告を聞いていた。

「以上が森で起こった事です」

「・・・そうか」

「やはりホーリー・ミストはあの祠から出て来たことに間違いはなさそうだな

その証拠に彼女の証言だと祠が以前と感じが違い“霧”の発生が無く魔物が出没するようになったー」

「あと、もう1つー

俺達が森を去ろうとした時、木の上に誰かが俺達の事を見ていた気がしたんですが誰もいませんでしたー」

「オーディンの偵察か?ー・・・」

「恐らくはー」

「やはりオーディンの狙いは最初からそれが目的ホーリー・ミストだったという事だ」

イサリの報告に深刻な表情をし考え込むアモースとマルクス

「すでにオーディン側にはホーリーミストがユズキの手元にあることは知られているはずー

このままユズキを安全な場所に送る事は危険すぎる」

「私もそう思います」

アモースの意見に賛成するマルクス

すると、イサリはゆっくりと口を開き真剣な表情をしながら発言する。

「彼女をこのままブラスカの救護班として置いて欲しい」

「イサリさん・・・・」

「このまま俺達と行動を共にすれば奴らから守る事も出来るし何より彼女は治癒力が使えます。

確か救護班が人手不足だったはずー」

「確かに我々と一緒にいれば安全だが彼女の意見も聞きたい 決めるのは彼女自身だからー

今後戦場に巻き込む可能性だって十分にあるのだからー」

アモースはユズキ本人に答えを求める事を望み、3人はユズキに視線を向ける。

ユズキは戸惑いどう答えようか悩んでいた。

ふと、夢で聞こえてきた不思議な『声』を思い出し目を瞑りしばらく考える。


『“ホーリー・ミスト”はお前を待っていたー』


『・・・・エデアを・・・守って・・・』


ユズキは『声』の言葉にゆっくりと目を開け決意を込める。

「私、決めました。 ホーリー・ミストが私を選んだ理由を捜します。

もしご迷惑でなければここに居させて下さい!お願いします!」

深々と頭を下げお願いをするユズキの姿に3人はお互い顔を合わせ顔を縦に振る。

「決まりだな」

ユズキはゆっくりと顔を上げ3人を見つめる。

「今日からお前はブラスカの救護員として入隊を許可する」

「ありがとうございます よろしくお願いします」

ユズキは嬉しそうにしながらお辞儀をする。

「イサリ、後で彼女をユミアの所に連れて行ってくれ」

「はっ!」

イサリはアモースの命令に返事をする。

「ユズキ 今後は救護班としてもだがユミアの手伝いも行ってくれ」

アモースの言葉に「はい」と返事をするユズキ

「後それと先程西方面に向かった者達が戻って来た。明日にはここを出て西の要塞へ向かうことになった。」

「西の要塞・・・エターナル要塞ですね」

「エターナル要塞?」

「お前も知っているだろ?」

“エターナル要塞”という言葉にイサリはユズキに問う

「はい、聞いたことはあります 確かセントラリィとソレイルの丁度境界線あたりに位置するセントラリィ軍の要塞ですよね?」

「そうだ」

《地図の一部が表示され西側が映されセントラリィ王国とソレイル王国の境界部分あたりに丸印があり恐らくそれがエターナル要塞である場所だった。》

「恐らくオーディンが次に襲撃する可能性が高いとの知らせを受け我々に援護要請の依頼が来た」

アモースは険しい深刻な表情をしながら静かに重く語る。

「一刻も早く奴らよりも先にエターナル要塞へ向かう!

明日朝には準備を済ませるよう皆にもそう伝えてくれ」

「はい」とイサリとマルクスは応える。

「今日はここまでとする解散!」

アモースの“解散”の一言にそれぞれ天幕から出ていきユズキもイサリに連れられ一緒に天幕を出る。


 しばらくイサリに連れられ集落内を歩くこと数分、炊事場に辿り着きそこで丁度夕飯の作業をしていた最中のユミアの姿が目に入った。

彼女に声をかけアモースとの会話を伝える。

ユミアは承諾し嬉しそうにしながらユズキに改めて挨拶を交わす。

「よろしくね 解らない事があれば遠慮なく聞いてね」

「はい、よろしくお願いします」

「じゃあ俺は行く 後は頼んだぞ」

「任せてちょうだい!後で救護隊の所にも案内するわ」

ユズキの事をユミアに任せその場を去ろうとしたイサリはユズキに視線を向け優しそうな表情をしながら彼女に声をかける。

「頑張れよ」

「はい」

イサリはそのまま炊事場を後にした。

彼が去った後、ユズキも彼女を手伝おうと声を掛ける。

「あの、何かお手伝いしますか?」

「そうね 早速だけどお願いしようかなぁ そこに置いてあるじゃがいもの皮を剥いてもらえる?数は大体30個かなぁ」

「はい」

ユズキは箱に入っている土が付いてるじゃがいもを手に取り流し台で洗い皮を剥き始める。

じゃがいもの皮を手際よく剥くユズキの姿を感心しながらみるユミア

「上手いわね〜」

「両親を早くに亡くしたので殆ど家事はこなしてきたのでー」

悲しみを乗り越えた様子のユズキの表情に安心するユミア

「イサリ・・・貴女の事すごい心配してたのよね」

「イサリさんがー」

「昨日貴女が目を覚ますのずっと外で待っていたのよ」

ユミアからイサリが自分の事を心配していた事を聞かされたユズキは手が止まりイサリの事を考えていた。


****

 夕刻、空が夜に変わり星が点々とした夜空の中、夕食後の時間を過ぎた頃ユズキは天幕内を歩き回っていた。

「イサリならさっき風呂に入って自分の部屋に戻って行ったよ」

「ありがとうございます」

イサリを捜していたユズキは天幕内を捜し回りながら隊員達に聞き込みしながらイサリの部屋に向かっていた。

しばらくしてイサリの居る部屋に辿り着き外から声を掛ける。

「イサリさん、ユズキです。入ってもいいですか?」

すると、「ああ」という返事が聞こえ「失礼します」と言いながら中に入ると鍛えられた上半身裸の状態の彼の姿に目が入る。

「きゃっ」

彼の上半身裸姿に恥ずかしさを感じ目を背ける直後ふと何かに気付いた。

「(あれ・・火傷?痣?)」

彼はちょうど右片腕に着けられていた包帯を巻き直していた途中だった。

その隙間から赤茶色の痣らしきものが目に入った。

ユズキの視線に気付いたイサリはハッとして急いで痣が完全に見えなくなるまで包帯を巻き終える。

「あの、他にも怪我してるところがあるんですか?」

「いや、これは怪我じゃないんだ・・・」

何故か右片腕の包帯が巻かれている理由を歯切れが悪そうに怪我ではない事を伝える。

「そうですか」

「それで、どうしたんだ?」

包帯の話題を遮るようにして自分を訪ねてきた理由をユズキに問う

「あの、ユミアさんに聞きました 色々と私の事を心配して下さりありがとうございました」

自分の事を心配してくれたイサリに感謝するユズキ

「いや、いいんだ」

ふと、ユズキはイサリの髪が濡れている事に気付いた。

イサリは風呂上がりの直後で髪の毛がまだ濡れており毛先に水滴がポタポタと雫のように垂れていた。

「あの、髪まだ濡れてますよ」

上着を着ようとしていた彼に髪がまだ濡れていることを指摘する。

「そうかーすまんが拭いてくれないか?」

「はい」

そばにあった椅子の背もたれに掛かってあったタオルに視線を向けながらユズキに髪を拭いて欲しいと頼みユズキはそれに応えタオルを手に持ちイサリの濡れた髪にそっと掛けて両手で彼の髪を乾かす。

タオルの隙間から彼のブラウンの瞳がユズキの桃色の瞳を捕え見つめていた。

その視線に気付いたユズキは一瞬ドキッとして頬を少し赤く火照っていた。

タオルを持っていたユズキの手をイサリは自分の手を彼女の手に優しく添える。

「・・・もういい、後は自分でやるからーありがとう」

「はい・・・」

イサリに言われるがまま手を止めタオルから手を外した。

すると、イサリは静かにユズキに視線を向けたまま一言声を掛ける。

「もう遅いから自分の部屋に戻ったほうがいい」

「はい おやすみなさい」

そう返事しながらユズキはイサリの部屋を出る。

ユズキが出て行った後イサリはその場に動かず黙り込んでいた。

《微笑み笑顔で返すユズキの事が脳裏に浮かび頬を赤くし胸をドキッとさせるイサリの姿が描かれる。》


****


 セントラリィ王国・ミステル平原 エデア解放軍ブラスカ集落地にてー


 今日中にはエターナル要塞に向かう際、出発するにあたり天幕内は朝から慌しくしていた。

隊員達がバタバタとしながら荷物を運んだり天幕を解体作業をしていた。

「よいしょっと」

ユズキもお手伝いで補給などの物品を重そうに運んでいた。

その時急に横から現れた何かと不意にぶつかる。ドン

「きゃっ」

倒れはしなかったが多少よろけるユズキ

「悪ぃ、大丈夫か?」

「はい、大丈夫です」

ぶつかったのは自分よりも少し歳上くらいの薄い茶色の少し横髪をハネた髪型に紫色の瞳をした青年だった。

その青年はユズキをまじまじと見る。

「あれ?お前が昨日から救護班に入ったやつ?」

「はい、そうですがー」

「ラッキー!」

「えっ?」

唐突にはしゃいでいる青年の勢いに戸惑い困っている様子のユズキ

「こんな可愛い女の子でマジ運がいいな〜」

紫色の瞳を無邪気そうにキラキラと輝かせてユズキを見つめていた。

「俺、ビート お前は?」

「ユズキです」

青年の名はビート

ユズキは彼の勢いに推されて自分の名前を教える。

「ユズキか〜歳は?」

「17ですけどー」

「おっ!近いじゃん!俺19」

明るくフレンドリーに接してくるビートに押される

「これからもよろしくな」

「はい、よろしくお願いします」

彼はスッと自身の右手をユズキに差し出し握手を求め、その手をユズキも自身の右手を差し出し握手をする。

握手を終え手を離した直後ビートは無邪気そうな笑顔をしながら苦笑する。

「歳も近いんだしさ〜そんな堅苦しくするのやめようぜ、敬語もさんづけもなしな」

「えっと・・・じゃあビート君?」

「いいね!ますます気に入ったぜ」

右手を親指を立ててグッドポーズをするビート

「ところで、彼氏はいるのか?」

「いっ・・・いえ」

「じゃあ、俺と付き合おうぜ」

「はい?!」

いきなりの告白宣言に驚き戸惑っているユズキをお構いなしに話し続けるビート

「俺さ〜ユズキみたいな子が彼女だったらいいなって思っていたんだよな

ねっねぇいいだろう?」

「えっと・・・・」

顔を近づけながらグイグイ来るビートにどうしたらいいのか返事に困っていたその時鋭い声が聞こえてきた。

「ビート!!」

「げっ!イサリさん」

声の主はイサリだった。

彼は顰めっ面をしながら2人の元へと近づいて来た。

「げっ!とは何だ 俺がいたらまずいのか?」

「いや〜けど邪魔しないで下さいよ〜今良いところだったのにー」

「何が良いところだ 彼女が困っているだろ?」

「困ってないっすよ〜なぁ?」

ユズキに同意を求めるもどう返事したらいいのか戸惑っていた。

「てか、こんなところでサボってないでさっさと準備しろ!」

「人聞きの悪いこと言わないで下さいよ〜

俺はユズキが重たそうにしていたから代わりに持ってあげようとしただけでー」

不貞腐れながる言い訳をするビート

ふと、イサリはユズキが持っていた荷物に目を向ける。

「それ、どこに運ぶんだ?」

「えっと・・・向こうの荷台の方です」

南の方角を向けて伝える。

と、イサリはユズキの手から荷物をヒョイと持ちあげる。

「ちょうどそっちの方に行くついでだったから代わりに持って行こう」

「あっ・・ありがとうございます」

「あっ!!イサリさん、ずるいっすよ〜代わりに俺が持とうとしてたのに〜抜け駆けですか?!」

「うるさい!お前は早く向こうへ行け」

「ひどいっす〜」

「ふふっ」

《イサリとビートの楽しそうに?している姿を見たユズキの笑顔が描かれる。》


****


 オーディン帝国首都ラヴァ オーディン城・大広間ー

《重苦しい空間が漂っている煌びやかな大理石がびっしりと敷き詰められた大広間にて4人の人影が映し出されていた。》

4人の人物像は暗くてはっきりとは映し出されていなく、足元と口元のみだった。

「ヴィエラ村から戻って来た者の報告によるとやはりあの光はホーリー・ミストで間違いないー」

1人の人物が深刻にそう語り出す。

 ・・・

「あの方は既に承知している

昨日の報告だとどうやらホーリー・ミストは1人の少女が持っているらしい

しかも彼女は今ブラスカで保護されている」

「本当に厄介な存在だ 目障りな蝿め」

『エデア解放軍ブラスカ』を疎ましく思い唇を噛み締める人物がいた。

そんな中で不気味な笑い声が響き渡る。

「くっくっく・・・・」

「何がおかしい」

不適な笑みをする人物に対し鋭い口調で問い詰める。

「いや、私の勘が正しければもう手は打ってますよ

あとは頃合いを見て起こすのみー」

「相変わらず姑息な狐だね」

「それは褒め言葉として受け止めておきますよ くっくっく」

大広間は不穏な空気が漂いその場は殺伐とした重苦しい空間だった。

         ・・・

「我々は一刻も早くあの方の期待に応えることー

                  ・・・

その為にはホーリー・ミストを手に入れあの方に献上し、エデア統一に貢献する事ー

そして、例えエデアが血の海に沈んでも勝利は我がオーディンに栄光あれー」

《ホーリー・ミストを首から下げているユズキの姿がイサリを含むブラスカの人達と親しくしている光景が映し出される。》


2話終了


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