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神国地伝ーエデアー    作者: 璃木李鈴
1/3

第1話「光の霧」(修正中)

その光は何を意味するのか-


《神秘さ漂う何処かの森の中、深緑の木々に囲まれた空間の中を薄い黄白色の“霧”が漂っていた。

その中央に“霧”と同色の光の球体が中央に浮かんでいた。 

光の球体は不思議な輝きを放ちまるで森の中を灯しているかのような光景だった。

ーそして誰かの言葉が記されていた。ー》


『ずっと一緒にいたかった・・・・守りたかった。』


****


 この世界の名はー『エデア』ー

  ・

大昔“神”の手によって創られたと語り伝えられていた。

美しく神秘的な雰囲気が漂い人々を含む生命体が生き生きと暮らしておりそれはまさしく“楽園の大地”を意味していた。

《エデアの世界地図が背景に描かれ誰かのしなやかな両手が黄白色の光の球体をその両手の中に包み込む様に浮かんでいる様子が描かれていた。》


しかし、そんな平和で美しいエデアは近年穢れつつあった。

《背景が真っ暗になりそれはまるで混沌の闇の世界かのように渦を巻いており、何かが起きる前兆とも言える光景だった。

が、次の瞬間、真っ暗の背景に一筋の黄白色の光が差し込んでいた。

その輝きは神聖だがどこか懐かしい何とも言えない不思議な感じだった。》


《背景はエデアの世界地図の一部だけ映し出されその中でも3つの国が拡大された状態で国名が記されていた。》

《中央部にセントラリィ王国、南西部にソレイル王国、北東部にオーディン帝国》

『エデアには2つの軍事国家がある。

 南西部に位置するソレイル王国。北東部に位置するオーディン帝国。』

《ソレイル王国の炎と竜胆、オーディン帝国の剣と薔薇

 それぞれシンボルとなる紋章が付いた国旗が掲げられ殺伐とし緊張感が漂う空気が流れていた。》

『特にここ数年でオーディン帝国はエデア各地の領土を襲撃し支配しておりオーディン帝国の勢いは鎮まることはなく近年ソレイル王国との戦争が起きてもおかしくない状況だった。』

《何処かの村や小国等が襲撃される様子や血塗られた跡、幾つもの屍が散乱している光景が描かれ何とも痛ましい様子だった。》

『その2つの軍司大国に挟まれているエデアで最も小さな小国セントラリィ王国は国の面積の半分以上はセピアの森と呼ばれる森が占めており天然資源が豊富で軍事勢力は弱く争いを好まない平和主義を唱えている自然豊かな国でありソレイル王国との交流も盛んである。

近年ではオーディンの次なる標的にされセントラリィの国民達は帝国の脅威に怯えながら暮らしていた。』

《セントラリィ王国のシンボルとなる森と霞草の紋章が付いた国旗が蝕まれていくように穢れていく様子が描かれていた。》

『しかしセントラリィ王国には古くからの言い伝えがあり国民はそれを心の支えにしていた。』


           ・

ーセントリィ王国には“神”がいる・・・とー


****


 何処かの森奥深くに神秘的な雰囲気を漂わせる小さな祠があった。

祠の周囲には黄白色の薄い“霧”がまるで祠や森を護っているかのように包み込んでいた。

その祠の前に1人の女性と1人の幼い少女が立っていた。

栗色の腰まで長い髪をした女性は祠に向かって祈りを捧げていた。

女性の隣にいた同じ栗色に肩よりも少し長いミディアムヘアをした桃色の瞳をした幼い少女は女性が何故祈っているのかまたその意味が解らず女性のスカートの裾を小さな手でぎゅっと握り締め不思議そうに見ていた。

「ねぇお母さん ここに神様がいるの?」

2人の関係は親子であり娘は幼心に自分が抱いている疑問を母に尋ねてみた。

すると祈り終え少女の声に反応した母親であるその女性はしゃがんで娘と向き合い優しく微笑みながら答える。

ただ、母親の目元は前髪に隠れていてはっきりと顔がよく見えない。

        ・

「そうよ・・・“神”様は姿を現さないけどいつも私達の事を見守っているのよ

 そしていつかきっとあなたを助けてくれるわ・・・」

そう娘に言い聞かせながら母は娘の小さな手を優しく包み込むように握り祠に視線を戻し見つめる。

娘はまだ幼いせいか母の言葉の意味が解らずきょとんとした様子で祠を見ていた。

その直後、視界がぼんやりと霞んで歪み始め辺り一面真っ白になった。


****


 家の中が映し出され昼下がりの日差しが窓に照らされ温かみを感じていた。

その家の中で栗色の肩先程度の長さのミディアムヘアをした1人の少女が机でうたた寝をしていた。

するとしばらくして少女が目を覚そうと身体を微小に動かしていた。

「・・・う・・う〜ん・・・」

上半身を起こし伸びながら眠りから覚めた。

可憐な桃色の瞳をした少女はあくびをしながら起き上がる。

「・・・夢か・・・なんだか懐かしい夢だったな・・・」

ふと窓に目をやると外の明るさで時刻はお昼過ぎを表していた。

「あっ、もうお昼過ぎだ 早く支度しなくちゃ」

慌てて立ち上がり出掛ける準備を始める。

戸棚から焦茶色の小さな藁で出来た籠を手に取り玄関へと足早に向かう。

「行ってきます」

そう言いながら玄関のドアノブに手を掛けドアを開けて外を出る。

村の一角に木製のカントリーチックな赤い屋根をした一軒家から出てきた少女は晴天の空を見上げ、太陽の光を遮るように右手で額あたりに当て眩しそうにしていた。

「う〜ん、今日もいい天気」

少女は左手に小さな藁の籠を持ちながら明るく家を出て村の入り口の方向の西へと歩き始める。

しばらく歩いていると数人の村人や子供達とすれ違いざま挨拶を交わしながら進んで行った。

薪を切る初老のおじさんや楽しく遊んでいる子供達の様子が映し出されていた。

ふと、数メートル程歩いていたところで2人のおばさんが井戸端会議をしているのが目に入った。

「こんにちわ」

少女はおばさん達に近付いて笑顔で挨拶をする、

少女に気付いたおばさん達も少女に目線を変え挨拶を返した。

「あら、ユズキちゃんこんにちわ」

明るくサバサバとした豪快なおばさん①は元気よく挨拶を返す中、もう1人の根暗そうなおばさん②は静かにボソボソとした様子で挨拶を返していた。

おばさん①は少女の事をユズキと呼んだ。少女の名はユズキ

「今日も良い天気ですね」

「ほんとさね〜こんな日は洗濯日和だよ〜」

「だけどこんな良い天気だから何も起きないと良いけどね・・・」

「あんたはまたそうやって悪い方向に考えるんだから〜」

おばさん達のやり取りに優しく微笑むユズキ

だけど根暗そうなおばさん②の表情は暗いままで不安げな様子だった。

「だって・・・噂で聞いたらこの国の幾つかの村がオーディンの手に堕ちているって話だしー

この村だっていつオーディンが来てもおかしくないし時間の問題だよ」

その言葉を聞いたユズキの表情も暗くなり言葉を失い黙ってしまった。

場の空気がどんよりと重たい空気になる中、その空気を打ち消すかのようにおばさん①が豪快に明るく話し出した。

「なぁ〜に、大丈夫さ!ただの噂は噂よ〜心配ないさ!

               ・

 森が近いおかげなのかこの村は“神”様のご加護を強く受けてるんだからさ」

おばさん①の言葉に少しだけ安心した様子のユズキだったがそれでもおばさん②はまだ不安げな様子だった。

  ・                     ・

「“神”様って言ってもただ祠があるだけで実際には“神”様なんているかどうかもわからないし所詮おとぎ話でしょ?」

“神”の存在を否定するおばさん②に対しユズキとおばさん①は真っ向から反論する。

「あんた!バチ当たりな事言うんじゃない

                    ・

今までこの国やこの村が平和だったのは“神”様のおかげでしょうが!

その証拠に盗賊やオーディン兵どもなんて今まで一度も来ていないじゃないか」

「そうですよ 大丈夫ですよ」

2人の勢いに圧倒されるおばさん②

                ・

「あんた、そんな事言っていると“神”様が怒ってもし万が一この村が襲われたりしたらあんただけ助からなかったりしてね(笑)」

「ちょっ・・・やめてよ」

冗談まじりのおばさん①の言葉に怖気付くおばさん②

「わ・・・私だって全く信じてないわけじゃないわよ」

「そう言っているようなもんだろ?」

2人の会話にユズキが割って入る。

「それに昔母が言っていましたー

  ・

 “神”様は姿を現さないけどいつも私達を見守っているってーだから私も信じています」

「ユズキちゃん・・・」

ユズキの言葉が胸に響いたのかしみじみとする様子のおばさん②

「あんたユズキちゃんに対しては素直なのね」

「うるさいわね!」

おばさん達のやり取りを面白く見ていたユズキ

ふと、おばさん①は思い出したかのようにユズキに話しかける。

「そうだ ところでユズキちゃんはこれから何処かへお出掛けかい?」

手元に小さな籠を持っていたユズキの姿を見て何処かへ出かけようとしているユズキに尋ねる。ユズキは優しく微笑んで答える。

「森へ木の実を採りに行くんです。あと祠へお参りもー」

「えっ?森?!」

ユズキが森に行くと聞いた途端おばさん②は驚いて強張った表情になった。

「何?森がどうしたんだい?」

おばさん①はおばさん②に森について問い詰める。

「だって最近森に入った人が神隠しに遭っているって噂を聞くし・・・危ないわ」

「あんた噂話が多いわよ

もっと楽しい話題はないわけ?」

噂話が多いおばさん②に対し退屈し呆れる様子のおばさん①

「だってこれは本当の事らしいわよ」

必死に訴えるおばさん②にため息をついて多少納得している様子のおばさん①

「まぁ現にあの森は別名迷いの森って言われてるからね」

「でしょう?」

「そんな長い時間まで森の中にいないわよ ねえ?ユズキちゃん」

「はい、夕方までには帰ります」

「そうかい、気をつけて行くんだよ」

「はい、それでは行ってきます」

おばさん達に笑顔で手を振り別れ森の方へと進んで行くユズキ

「いってらっしゃ〜い」

おばさん①は明るく手を振りユズキを見送る。

おばさん達は森へと向かうユズキの後ろ姿を見つめていた。

が、おばさん②の表情はまだ曇ったまま不安げな様子だった。

「なんだか心配だわ・・・本当に何も起きないといいけどー」

「大丈夫よ 万が一何かあればソレイルからも助けが来るだろうしー」

「そんな事言ってもソレイルも何年か前に国王が亡くなって後継者問題や政権やら何やらでゴタゴタして衰退してきているって話だよ?

 オーディンと並ぶ軍事国家だったけどどうなるんだろうね・・・」

「まぁ、イチイチ考えていたらキリがないわよ

                         ・

 私達は祈ることしか出来ないからね そうしないと“神”様に申し訳ないじゃない 

それにどんな状況になろうときっと大丈夫よ」

おばさん①は笑顔で前向きに考え晴天の空を見上げながらおばさん②を励ましていたがふと表情が少しだけ曇りぼそっと小声を呟いた。

「でも、本当にこの穏やかな日々が何事もなく続いて欲しいわ・・・」

一瞬、おばさん達の近くを黄白色の“霧”が現れる。

しかし何故かおばさん達はおろか他の村人や子供達は全く“霧”の存在に気付いていない様子で普通に過ごしていた。

その“霧”は薄く村の周囲に纏うように発生していた。

が、“霧”の一部が黒色に変化したような感じがあり何やら不気味な雰囲気を匂わせていた。


 何かが起きそうな予兆かのようにー。


****


 一方、その頃、村を出て森へと向かっていたユズキは歩きながら紹介も兼ねてこの世界の事や国の現状について心の中で語り始める。

『私はユズキ・フォーム(17歳)

 セントラリィ王国のセピアの森近くのヴィエラ村で暮らしています。

両親は幼い頃に亡くなりそれからは村の人達に支えられながら育ちました。

さっきのおばさん達の会話の通り現在のセントラリィ王国は近年危機的状況に陥ってます。

軍事大国オーディン帝国が各地を襲撃し始め、領土を拡大していき、支配し続けていて次の標的にされているのがここセントラリィ王国です。』

セピアの森と呼ばれる森の入口まで近付くとふとユズキは何かに気付き足を止めた。

入口付近に突如薄い黄白色の“霧”が入口前に壁のように覆っていた。

“霧”に動じる事のない様子のユズキはそのまま歩き進め森の中へと入って行った。


 しばらく森の中を歩くと森の中の周囲は薄い黄白色の“霧”が所々漂っていた。

“霧”の発生に動じることなくひたすら歩き進めるユズキ

しばらく進んで行くと森の中に漂う“霧”に何か違和感を感じ始めていた。

「・・・・何か変・・・」

そう呟き“霧”を見つめながら不快感ようなものを感じ取るもその正体が何なのか分からず首を傾げ疑問を抱いていた。

ユズキ自身にはその“霧”が何だか弱々しくまるで自分に何かを伝えようとしているのでは?と感じつつもはっきりとしない様子だった。

『この不思議な“霧”はセピアの森やその周辺の村しか発生していないー

         ・・・・・・・・・・・・・・・

そしてこの“霧”は私やお母さんにしか視えてないのー』

心の中でそう語るユズキは黄白色の不思議な霧は自分と今は亡き母だけにしか視ることが出来ないと語り、霧が観えていない村の人達の様子が頭に浮かび

回想が流れる。

《回想にて“霧”について村の人達の様子が描かれていた。》

「“霧”?“霧”なんてどこにあるの?」

「スズナさんと言いユズキちゃんも何を言っているんだい?」

 ※スズナはユズキの母の名前

《“霧”の存在を否定し、中には面白おかしく嘲笑っていた人達が描かれていた。》


 回想が終わり村の人達の様子を思い出し悲しい表情を見せ下を向き俯いていたユズキ

ふと顔を上げ“霧”の方を向き触ろうと手を伸ばすが触れる直後に“霧”は一瞬にして儚く消えてしまった。

消えた“霧”の跡をいつまでも見つめ残念そうにするも“霧”の感じから何か不吉な事が起こるのでは?と考えていた。

「ふぅ・・・気のせいだよね・・・?」

視線を道の正面に戻し再び歩き始める。

「日が暮れる前に早く行かなくちゃー」

《急足で森の中を進んで行くユズキが描かれていた。》


 森の中は不思議とジメジメとした湿気や暑苦しさは無く心地よい風が靡いているせいかとても涼やかでその空間の中で生き生きと育つ木々や鮮やかな緑に輝く葉、木々達に負けずと力強く地面に咲く愛らしい花、それらを含む自然達はいつまでも豊かで森の世界を支えていた。

だんだんと森奥深くへと進み続け途中道を遮るかのように生えている枝を慣れた手つきで掻き分けながらひたすら前へと進んで行く。ガサガサ

進めば進む程、徐々に霧が発生し色も濃くなっていた。

                ・

『さっきおばさん達が言っていた“神”様がこの国ーというかこの森に存在していて私達は平和に暮らしている。

    ・

 その“神”様というのがー』

ようやく森の最深部らしき所に辿り着き掻き分けた視線の向こうには神秘的な雰囲気が漂う祠があった。

                   ・

『この祠は大昔から存在していたらしく“神”様が眠っていると語られていて私達を見守り平和を支えているってお母さんが言っていた。

もしかしたらこの霧はそれが影響しているのかもしれないけどよく解らなくてー』

祠を見ていたユズキの表情はさっきの不安げな様子から一変して少しホッとして安心したような穏やかな表情になっていた。

祠にゆっくりと歩み寄り、前に立ち止まり懐かしむように祠を眺めていた。

「(小さい頃、お母さんとよく一緒にここへ来てお参りしていたな)」

祠を見つめながら亡き母との思い出に浸っていた。

「(お母さんが亡くなってから子供が1人で森の奥に入ってはいけないと言われてから頻繁に行く事が出来なかったけど1年前から許可が出てこうして定期的に祠へ来ることが出来たのー)」

                   ・

静かに目を閉じて両手を合わせ祠にいる“神”様に祈り捧げ始める。

ふと、母の言葉が脳裏に浮かんできた。

「ーいつかきっとあなたを助けてくれるわー」

祈り終わり目をゆっくりと開いて微笑みながら祠に向かってお辞儀をして感謝を伝える。

 ・

「“神”様、今日もご加護をありがとうございます。」

一礼し終わりその場から立ち去ろうと後ろを向き、来た道に足を進める。

ユズキが去ろうとしたその時、一瞬祠が薄い黄白色に光ったような気がしたがほんの一瞬だったこともありユズキは全く気付いていない様子で祠を後にした。


****


 同時刻・ヴィエラ村近郊のセピア村から南西に数キロ離れたミステル平原にてー


 緑豊かな野原が辺り一面に広がり普段は静かだが平原の片隅に何やら数張りの天幕が建てられていた。

身体の一部に鎧を身に着けた数人の兵士や騎士らしき人達が出入りしていたり周辺を巡回していた。

すると1人の兵士が中央に設置された一際大きな天幕に足早に向っていた。

「失礼します」

入口前で一礼してから中に入る兵士

天幕の中に入ると40代半ばくらいの厳つい男性が書類を手に目を通していた。

顎髭を生やしたきっちり整ったオールバックの髪型をした立派な鎧を身に纏った軍服姿の男らしい風格の男性だった。

「隊長、森へ調査に向かった者の報告です」

隊長らしきその男性に報告しようとする兵士

「今のところ異常はないとのことですが、ただ・・・」

兵士の謎めいた一言にピクっと反応し書類から兵士に睨みながら視線を向ける。

「・・・・ただー?」

            ・・・・・・・・・・

「噂を聞くところ森の中を彷徨く蠅が潜んでいるとの情報です」

その言葉を聞いた途端隊長は眉を顰め鋭い眼光で兵士に問う

 ・・・

「奴らか?」

「解りません。人狩りかもしくは賊の可能性もあります」

隊長は持っていた書類を机に置いた。

「あいつらに伝えろ このまま森を調査しろとー

           ・・

 ただ、油断はするな!奴らは必ず動く!寸前のところで食い止めろとー」

「はっ!」

兵士は隊長の命令に敬礼した後、天幕から出て行った。

兵士が出て行った後隊長は浮かない顔をしながら黙り込んでいた。


****


 ユズキが森に入ってから30分以上が経過していた。


 ユズキは幾つもの木に実っている鮮やかな赤い小さな実(恐らく木苺)を摘み取り次々と籠の中に入れていく様子が映し出されいた。

籠の中はぎっしりと赤い実で埋め尽くされていた。

「ふぅ、だいたいこのぐらいかなぁ 思っていた以上に結構いっぱい摘んじゃった」

籠の中の木の実を見て嬉しそうにするユズキの背後を木の陰に隠れながら見ていた怪しい人物がいた。

ユズキは怪しい人影の存在に気付いていない様子だった。

と、その時、ユズキのいる近くの茂みがガサガサと音を立てながら動いていた。

茂みの音に気付いて警戒しながら音のする方に視線を向ける。

すると茂みの中から狸が現れるも狸は何やら弱々しい様子で右足を引きずりながら出てきた。

「キュ・・・・」

弱々しい声で痛々しい眼差しでユズキを見つめていた。

「どうしたの?」

狸の異変を感知し傍に駆け足で歩み寄りしゃがんで狸の体を隅々まで確認する。

そして右足が傷ついて赤くなっている事に気づいた。

「足を怪我してるにね ちょっと待ってて」

ユズキは右手をスッと出して狸の右足の傷あたりに優しく添えるように近づける。

「動かないでね すぐ終わるからー」

一旦深呼吸して気持ちを落ち着かせる。

すると掌から薄い桃色の小さい光が出てきてその光によって徐々に狸の足の傷が消え始める。

そしてものの数十秒で完全に傷が無くなり完治した。

「ふぅ、はい これでもう大丈夫よ」

治療が終わり狸に優しく微笑むユズキ

「キュッキュッキュッ」

傷が治ったことで痛みがなくなり狸はユズキにお礼を言い去って行った。

「バイバイ〜気をつけてね」

立ち上がり去っていく狸に手を振り見送る。

「さてと、私もそろそろ帰らないとー」

村に帰ろうと帰路の方向に向き歩み始めようとしたその時だったー。


 激しい足音がユズキの背後に迫り一瞬にして何かがユズキを捕らえ鼻と口を布のような物で塞がれる。

「!?」

ユズキは自分の身に何が起きたか解らず身動きが取れずもがいていたが次の瞬間、目の前が真っ白になっていき徐々に体の力が抜けていった。

「う〜う・・ぐっー」

何とか必死に抵抗するも布に染み込んだ薬液の鼻にくるツーンとした匂いを嗅いだせいで意識が遠くなっていき数秒で完全に意識を失い眠ってしまった。

手元に持っていた籠が地面に落ち、中に入っていた木の実も全部溢れてしまった。

ユズキの背後にいた人相の悪そうな男性はぐったりとしたユズキも体を支えていた。

「くっくっくっ・・・眠ったようだな」

眠っているユズキをじっくりと確認しながらいやらしそうな感じで見ていたその男性は人相が悪く30代くらいだった。

「よく見れば結構な上玉だな 森の中を見張ってて正解だったぜ

 こないだの女はそんなに値はいかなかったけどこいつは高くつくな」

怪しげな笑みを浮かべながら気を失っているユズキを抱き抱える。

男の様子からするとどうやら先程ユズキを見ていた人影の正体であり人狩りだった。

男はユズキを軽々と抱えた状態で歩み始め村の方向とは逆の西の方の道を進んで行き、その際地面に散らばっていた木の実を何の躊躇いもなく無造作に踏み付けながら歩いて行った。

踏み潰されたその木の実の光景はまるで鮮明な血のような真っ赤に地面を染めていた。

男は気付いていなかったが周囲の黄白色の“霧”が段々と濃霧になり木々が隠れるように漂いつつあった。

そして、“霧”の一部が少し黒く変色しているような感じがしていたがー?


****


 その頃、ヴィエラ村の近郊にてー

ユズキがセピアの森に入ってから数時間が経過しようとした頃。

平穏な日常を送っているヴィエラ村の様子を少し離れた場所から2人の男性がそれぞれの馬に跨った状態で観ていた。

鎧を身に纏い帯剣をぶら下げており騎士のような姿をした2人は黒髪でブラウンの瞳をした20代前半と長髪に銀色でダークブラウンの瞳をした20代後半の騎士は村を偵察している様子だった。

       ・

「この村はまだ奴らの手には落ちていないみたいだ 行こうか」

「ああ」 

          ・

どうやら2人の騎士は奴らと呼ばれる何かの被害に遭っていないか確認する為の目的で偵察していたのだった。

ヴィエラ村がまだ大丈夫だと解ると銀髪騎士の指示で馬を進めその場を立ち去った。

しばらくして2人の騎士は乗馬しながら話し始めた。

「・・・・どう思う?」

「何がだ?」

銀髪騎士が黒髪騎士に問いかける。

「この国のほとんどの村や町はオーディンの手に堕ちた。

 首都セイランが堕ちるのも時間の問題だと言われている。手遅れになる前に我々が一刻も早く食い止めることが先決だがー」

《背景に壊滅したであろう村や町が映し出されセントラリィの国旗がズタズタに切り裂かれオーディンの国旗が勝利を意味するかのように掲げられていた。》

「しかし、あの村は未だにオーディンの侵攻も受けず村の人達は平和に暮らしているー」

銀髪騎士は深刻そうな表情をしながら淡々と語っていた。

               ・

「エルフが言うにはあの森には“神”がおりその影響じゃないかと言っていたが果たしてそうなのだろうか?

 現にそんな噂も流れているわけだー

 それから何やらこの森は迷いの森とも言われているらしく森に入った野党や人狩りが神隠しになっているとの噂を耳にした」

エルフと呼ばれるその人物の言葉やセピアの森が別名迷いの森と言われている事に半信半疑な様子の銀髪騎士

黙って聞いていた黒髪騎士が口を開いた。

                            ・

「セピアの森自体が何か特別な力があると俺は思うがそれが“神”によるものなのかは解らないー」

黒髪騎士は険しい表情をしながら答えを返す。

「なぁ」

黒髪騎士は深刻そうな表情をしながらボソッと独り言のように問い返す。

  ・

「“神”って一体何だろうな・・・」

「えっ?」

黒髪騎士の問いがよく聞こえなかった様子の銀髪騎士は曖昧な返事をし、その様子に気付いた黒髪騎士ははぐらかす。

「いや、何でもない とりあえず一旦戻って報告しよう」

「そうだな」


 帰路に向かおうと森の中を進むこと数十分、何かに気付いた。

「あれは・・・血か・・・?」

数メートル離れた先に地面が真っ赤に染まっていた光景が血のように見えた2人は赤い何かを確認しようと徐々に近づいて行く。

そして2人は馬から降りて赤く染まった地面を調べ始める。

銀髪騎士は赤く染まった地面を手で触り確認し黒髪騎士は辺りを探っているとふと何かを発見した。

「これは血ではないな 恐らく木の実か?」

踏み潰された木の実の残骸を見つけて赤い何かが血ではなく木の実だと確信した。

「そうらしいな」

黒髪騎士は傍に転がって落ちていた藁で出来た小さな籠を見つけ銀髪騎士に伝える。

「もしかしたら誰かがー」

 ・

「奴らかそれともー」

そして、木の実を踏んづけたであろう靴の跡が赤く染まった状態で西の方角に進んでいるのを確認し2人の騎士は状況を察し急いでそれぞれの馬に乗馬し馬を走らせる。


****


 2人の騎士がユズキが攫われた現場に辿り着いていた約20分前、ユズキを抱えたまま森の中を進んでいた人狩りであろうその男はというとー。

しばらく歩き進めると草木に隠れるような人目につかない場所に辿り着き、そこには1台の古びた荷台馬車が停まっていた。

男は荷台馬車の前にユズキを地面に降ろして後方の荷台へ向かい中へと入りガサガサと音を立てながら何かを捜し始める。

しばらくして細長い縄を持ちながら戻ってきた。

その場で横たわっているユズキの両手足を縄できつく縛り、またユズキを抱えて荷台に方へと向かいユズキを荷台の中に乗せた。

荷台は布製で天幕のようなもので外から見ると中が見えない状態だった。

「よし!これでいい」

両手をパンパンと祓い荷台から速やかに降りた。

「さてと、さっさとここを出てこいつを売り飛ばそう 結構な高値が付くかもな〜楽しみだぜ にっひっひっ」

高笑いしながら上機嫌で運転席へと移動し運転席に座りすぐさま馬を走らせる。

馬は荷台を引きずりながら進み始め速度は多少早めだった。

荷台の中に横たわった状態で眠っていたユズキの体も振動により多少揺れていた。

荷台馬車が進み始めたその直後、森の中の“霧”が先程よりも色濃く発生し森の中を充満していたがもちろん男には霧の存在が視えないので気づかないまま馬車を走らせる。


 荷台馬車が走り始めてから数分経過した頃ー

ひたすら森の中を勢いよく荷台馬車が駆けていた。

運転席にいた男は上機嫌に鼻歌を歌いながら余裕な表情で馬を走らせていた。

森の中はずっと霧が発生している状態だった。

荷台の中に縛られた状態で眠らされていたユズキは馬車の揺れの振動で徐々に目を覚まそうと目元を動かしていた。

「う・・・う〜ん・・」

だんだんと意識がはっきりとしてきてゆっくりと目を開けた。

ぼんやりとした視界が鮮明にはっきりとしてきた。

「?・・・・ここは・・・?」

自分の身に何が起こったのか解らず、身体を動かそうとしても両手足を縄で縛られた状態なので自由に動かせず、辺りを見回す。

荷台の中は薄暗く物が散乱しておりジメジメとした湿気とカビ臭さが充満している空間だった。

両手足を縛られている状態だと気付いたユズキは何とか縄を解こうとするもきつく縛られているせいかビクともしない

荷台の中の暗さと恐怖心にだんだんと不安になっていくユズキ

「どうしてこんなことに・・・・

 (確か私・・・森の中で怪我をした狸を治療してあげてそれから・・・・)」

ユズキはゆっくりと森にいた時の事を思い出していた。

《回想シーンが映し出される。

 森の中で怪我をした狸の足を治し別れた直後誰かに背後から襲われ気を失ったまでの記憶を思い出した。》

「(そうだ あの時、後ろから誰かにー)」

次の瞬間、馬車がでこぼこ道を走っているせいで度々振動がガタンゴトンと大きく揺れた。

「きゃっ」

「私・・・・これからどうなっちゃうの?」

ようやくこの状況を察したユズキは段々と不安になりつぶやいた。

ユズキが目を覚ました事など知る由もなくただ馬を走らせ森の中から一刻も早く出ようとした男は上機嫌で運転していた。

「ふふ〜ん」

しばらく走ってから数分経過してもうすぐ出口のはずなのに一向に出口らしきものが見えてこない

「あれ?おかしいなもうすぐで出口のはずだが・・・」

いつまで経っても出口が見えてこずイライラし始める男は舌打ちをしながら馬を走らせ出口を探していた。

森の中をぐるぐると回ること約10分経過していた。

「あ〜!もう!ここさっき来なかったか?!」

さっき通ったであろうその場所に馬車を停め下車し辺りを見回す。

「おっかしいな〜どこで道間違えたんだ?」

頭をかきながら道に迷った様子の男は不機嫌になっていった。

周囲の木々は濃霧により見えなくなっていたが男の目にはただの木々にしか見えていない様子だった。

「まぁいい 日が暮れる前に出ればー」

と言いかけ運転席に戻ろうとしたその時ー

「待て」

男の背後から鋭い声が聞こえた。

男が振り向くとそこには黒髪騎士と銀髪騎士が腕を組みながら仁王立ちで男の背後にいつの間にか現れていた。

2人の騎士の存在に驚いた様子の男は焦って問い詰める。

「うわっ なっ・・・何なんだ貴様ら」

「俺達のことはどうでもいい お前に用があるんだ」

黒髪騎士の鋭い目つきと言動に身震いしながら警戒する男

「なっなんだよ 俺は別に用はないぞ」

明らかにやましいことがあり動揺している様子の男を見逃さなかった2人の騎士は視線を合わせアイコンタクトをしジロジロと男の姿を見る。

「お前、人狩りだな」

「!!(ギクっ)」

黒髪騎士の一言に図星の反応を見せ動揺して目を泳がせ挙動不審になった。

男の不自然すぎる様子を見逃さなかった2人の騎士は確信し話しを続ける。

「この森を散策していたら誰かが落としたであろう木の実が散乱していてそれが無造作に踏みつけらていて我々は足跡を辿って来てみたらこれだ」

《2人の騎士はあれから足跡を辿り男が停めていた荷台の場所を発見しそこで車輪跡を見つけ、その車輪跡を追いかけ現在に至る。》

「お前の靴も赤く染まっているがどうしたんだ?」

「!!」

男を揶揄うように言う黒髪騎士の指摘で自身の足元に目をやり靴が赤く汚れている事に気付いた男は驚愕し脂汗をかいていた。

男はさっと右手を後ろに回しズボンの後ろポケットに隠し持っていた小型ナイフに手を掛ける。

そして、すかさずナイフを2人の騎士に突きつけ威嚇する。

「うるせえ!死にたくなかったらそこをどけ!!!」

男の攻撃をいとも簡単に交わした次の瞬間、銀髪騎士は男の後ろに回り男を捕え地面に叩きつけ拘束する。

一瞬の出来事に何が起こったのかもわからない男は取り押さえつけられて状態で痛がる。

「いててて・・何だよ」

「荷台の中身を調べさせてもらうぞ」

黒髪騎士はそう言いながら駆け足で荷台の方へと向かって行き、銀髪騎士はそのまま男を拘束していた。


 一方その頃、荷台の中に囚われていたユズキは何が起きているのか解らない状況でますます不安がっていた。

「・・・止まってる・・・?」

しばらくして誰かの足音が聞こえだんだんと音が大きくなりこちらへ近づいて来る。

足音のする荷台の出入り口の方へと顔を向けるユズキ

足音が聞こえなくなったその時、荷台の出入り口の布に誰かの手が伸びてきてその布に手をかけゆっくりと布を開いていく

開いた布の隙間が少しづつ光が差し込みユズキは眩しそうに見つめていた。

出入り口から覗くように現れたのはイサリだった。

イサリは横たわっていて縄で縛られた状態のユズキを発見する。

「無事か?!」

ユズキはイサリと目が合いお互いを見つめ合った状態になりイサリが何者かもわからず呆然としている。

「あっ・・・はい(誰・・・?)」

イサリは中へと入りユズキの側に駆け寄り腰を低くして腰にぶら下げていた長剣を鞘から抜いてユズキの手足を縛っていた縄を切り解いた。

「よし!これで大丈夫だ 立てるか?」

横たわっていたユズキに手を差し伸べ彼女の身体を起こそうとする黒髪騎士

「はい ありがとうございます」

イサリの手を取り身体を起こすが長時間縛られた状態だったのと緊張感のあまり足がガクガクと震え、思うように立ち上がれずバランスを崩し倒れそうになる。

「きゃっ」

「おっと」

倒れそうになるユズキをすかさず彼女の身体を支えるイサリ

「大丈夫か?」

自分とイサリの身体が密着している状態でイサリの胸に自身の耳がくっついておりユズキの心臓の鼓動はトクントクンと鳴り頬が赤く火照っていた。

「あ・・・ありがとうございます」

恥ずかしくなりながらイサリの身体から離れお礼を言う

「どこも怪我してないか?」

ユズキの身体をジロジロと見て彼女が怪我をしていないか確認をしていた。

「はい 大丈夫です」

自分で身体を確認しどこも怪我をしていないことを確認するユズキ

イサリは彼女が怪我をしていない事が解るとホッと安心した。

「とりあえずここを出るぞ」

「はい」

イサリの後に続いて荷台から出てイサリに介助されながら降りたユズキが目にしたのは縄で身体を縛られた状態で拘束されていた男とその男を監視しながら捕えていた銀髪騎士が目に映った。

「あの人はー」

拘束された男に疑問に思い独り言と呟く

「あいつは人狩りでお前を攫ったやつだ」

イサリはユズキに男が人狩りだと教え、2人は銀髪騎士と男を見ていた。

「私をー」

「ほら、歩け!」

拘束状態の男は銀髪騎士の指示に渋々不貞腐れそうにしながら歩き始める。

「俺はこいつを連れて帰る。お前はその子を頼むな」

「ああ」

銀髪騎士は男が乗っていた荷台の中に拘束した男を放り入れ、自身は運転席に移動して馬を東の方に走らせる。

銀髪騎士達が乗った荷台馬車の後ろがだんだんと小さくなり見えなくなる。

「さてと」

イサリはユズキと向き合う

「この近くの村の人か?送っていこう

 まだ森の中にあんな奴みたいなのが潜んでいるかもしれない」

「あっありがとうごいます」

イサリに頭を下げお礼を言うユズキ

「ちょっと待ってろ」

イサリは駆け足で近くの木に括り付けていた自身の馬に駆け寄り縄を解き馬を引きながらユズキの元へと戻る。

「待たせたな」

そして、ユズキを軽々と抱き抱え自身の馬に乗せる。

「きゃっ」

突然の出来事に驚き頬を少し赤くするユズキ

あっという間に馬に跨る体制になりイサリもユズキの前に飛び乗る。

「よっと」

「私、馬に乗る初めてでー」

馬に乗るのが初めてだと語り少々不安がるユズキをイサリは彼女の不安を和らげさせる。

「そうか でも大丈夫だ、馬は乗る人の気持ちを理解出来る動物だ

 優しい心の持ち主だと心を許し安全に走らせてくれる」

「そうなんですか」

馬についての知識をユズキに語るイサリ

「なるべく安全に走らせるからしっかり俺に掴まれ」

「はい」

ユズキはイサリの身体に腕を回し彼の身体にしっかりと掴まる。 

そして馬は動き出し南の方へと駆け出した。

ふと、いつの間にか周囲の木々を包み込んでいた濃霧は元の薄い“霧”に戻っていたが一瞬にして消えてしまった。


****


 2人が馬に乗り森の中を走ること数分経過ー

「この道でいいのか?」

「はい このまま真っ直ぐで大丈夫です」

ユズキの道案内で馬は真っ直ぐの道を南の方向へとひたすら駆けていた。

「(この道の方向は・・・・もしやー)」

しばらく進みとイサリはどこか見覚えのある道のりだと気付き、ユズキに問う

「もしかしてこの先にあるヴィエラ村か?」

「はい、そうですが」

「さっきあの村を見て来たばっかりだったんだ」

前を見ながら馬を走らせ後ろにいるユズキに気を配りながら視線をユズキの様子を窺いながら話をする。

「そうなんですか」

「この国は平和で良い国だな」

     ・

「はい、“神”様のご加護を受けていますから」

   ・

「(“神”か・・・・)」

“神”という言葉に何か引っかかるものを感じている様子のイサリだったがユズキはそんな彼の様子に気づく事なく森の中を見ながらキョロキョロと見回していた。

視界には黄白色の“霧”が馬を駆ける風に靡いている感じに映っていた。

「・・・・それに“霧”の影響もあるかもしれませんしー」

「ん?“霧”?」

ユズキの『霧』という一言に不思議そうに首を傾げるイサリの様子に気付いたユズキは残念そうにする。

「やはり貴方も“霧”が見えませんか・・・・森の中に漂っている“霧”が・・・」

森の中に漂っている黄白色の“霧”を視ながら言うユズキに対しイサリは疑問を抱き、ユズキに問う

「その“霧”は今も発生してるのか?」

「はい、薄くですが今も出ています

 けど、祠だと結構はっきりと視えるんですがー」

「俺の目には“霧”は映っていないがー

 (セントラリィの国民のみが視えるのか?しかし、そんな話は聞いた事はないしこの森に“霧”が発生している事が初耳だー)」

『霧』の存在に考え込み険しい表情をするイサリ

「さっき祠と言っていたが、この森には祠があるのか?」

「はい、森の最深部にあります。

 ただ、祠への道は複雑でこの周辺の村の人達は行けるんですが、他の人は辿り着けないらしく別名迷いの森とも言われているんです」

「(確かにこの森が迷いの森と呼ばれているのは前から聞いたことがあるー

 もしかして“霧”が関係しているのか?祠の事も気がかりだ)」

ユズキの話を聞いて深く考え込んでいるイサリ

   ・

「(“神”がその“霧”と深く関わっているのかー?

  どう言う事だ?しかも“霧”の存在が彼女にしか視えないというのはー)」

チラッと彼女を見ながら深く考えているイサリ

するとユズキは前を見ながら

「あっ、すみません もうここで大丈夫です」

「あっ、ああそうか」

ユズキの声に反応し村の側まで辿り着き馬を停め、イサリは自分が降りた後にユズキを馬から降ろした。

「本当にここでいいのか?」

「はい、もうすぐそこなので大丈夫です。ありがとうございます」

イサリに深くお辞儀をしてお礼を言うユズキ

少々名残惜しそうにするイサリ

「そういえば、自己紹介がまだだったな俺はイサリだ」

「私はユズキ・フォームです」

2人はお互いに名を名乗り自己紹介をする。

「ユズキか良い名前だな」

「そんな・・・ありがとうございます」

名前を褒めてくれたイサリに対し頬を赤くして照れている様子のユズキ

「また会おう 何か困ったことがあればすぐ駆け付ける」

「はいありがとうございます」

和やかな空気にその場が包まれていたその時だったー


ズドーン!!!

何かの爆発音みたいな大きな爆音が森に響き渡った。

「!!!」

大きな音に反応する2人は驚き、音のする方角に顔を同時に向ける。

「今の音は一体・・・」

ふと、ユズキは周りに発生してた黄白色の“霧”が悍ましいような黒色に変色している事に気づき驚愕し怯えていた。

「き・・・“霧”が・・・」

するとししばらくして村の方向から夥しい黒煙が発生していた。

その光景を目にしイサリは何かに確信した様子で険しい表情をする。

       ・

「くっ、まさか奴らかー!?」

「えっ?」

イサリの一言に彼の方に顔を向け首を傾げるユズキ

「急ごう!」

「はっはい」

イサリに引っ張られながら急いでヴィエラ村に向かう2人はひたすら森の中を走って行った。


 2人がヴィエラ村に向かうこと数分、もうすぐでヴィエラ村の出入り口に差し掛かる。

そして、ようやく辿り着いたがそこで2人が目にした光景はあまりにも残酷な光景だった。

「そ・・・そんなー」

ヴィエラ村は無惨に荒れ果てておりまるで戦火に塗れた状況だった。

何かが焦げたような黒煙が所々充満し、何軒もの家や草木が火に包まれ燃え広がっていた。

ユズキはあまりにも酷い村の状況に何が起きているのかも解らず戸惑い絶望し膝から崩れ落ちていた。

「一体何が起きてるのー?」

「くっ、遅かったか」

現状を察したイサリは悔しそうにしながら唇を噛み締め険しい表情をする。

ユズキはハッとして村の人達が脳裏に浮かび安否を確認する為に急いで村の中へと入って行った。

「はっ!村の人達はー」

ユズキが村の方に入っていくのに気付いたイサリは慌ててユズキの後を追いかけるように村の中に入る。

「おい!待て!」

《イサリの制止の声も耳には聴こえない程必死に村の中へとひたすら走るユズキの姿が描かれていた。》


《荒れ果てた道を走り続けようやく村の中央部までやってきたユズキが映し出され、辺りをキョロキョロしながら見回していた。》

 村中を息を切らしながら必死で駆け走り村人達の安否を確認しつつ生存者を捜していた。

「誰か〜無事ですか?」

しかし、村の中は静寂な空気が漂い、あちこちに村の人達の死体が血まみれに転がって散乱しておりどれも息絶えていた。

しばらくして目の前に映ったのは昼間のおばさん②が血を流した状態で倒れていた。

「おばさん!」

おばさんの元へ急いで駆けつけおばさん②を抱き抱えるように話しかける。

「しっかりして!何が起きたの?!」

ユズキの必死の呼びかけに薄れる意識を振り絞り苦し紛れにおばさん②はユズキに言葉を残そうとする。

「お・・・オーデ・・・が・・む・・・らに・・・」

「えっ?」

そう言い残しユズキに看取られながら力尽き静かに息を引き取るおばさん②

おばさん②の冷たくなった体をゆっくりと地面に置き涙を流すユズキ

その時、ユズキの背後に馬を駆ける足音が聞こえその場に足音が止まり馬の鳴き声が響いた。

ユズキは気配に気付いて振り向くとそこには剣と薔薇をモチーフにしたエンブレムを付けた鎧を身に纏った人相が悪そうな兵士が馬に跨った状態でユズキを見下ろしながら見つめていた。

「おっお前、この村の奴か?」

「ああ・・・」

兵士の鋭い眼差しに怯え恐怖で体が動かず身震いし逃げることが出来ない状況でその場に座り込むユズキ

「なかなかイイ女だな 殺すのは勿体無いな」

兵士はまじまじとユズキを見ながら馬を降りて近づき手を伸ばしユズキの腕を掴み捕える。

「いや、離して下さい!」」

必死に抵抗するも兵士の力強い握力に振り解く事が出来ず、身動きが取れず絶体絶命の状況だった。

「大人しくしろ!さもなくばー」

言いかけたその時、鈍い音が聴こえたのと同時に兵士の悲痛の叫び声が響き渡った。

「ぎゃ〜!!」

「?!」

鈍いような音が聴こえ一瞬何が起きたか解らないユズキはゆっくり目を開けると背中から心臓を貫いた刃が刺さった状態で鮮明な血が流れていた。

その背後にイサリの姿がありイサリは自身の剣で兵士を刺し殺し、すかさず刃を引き抜いた直後兵士は崩れ落ちるようにして倒れる。

あまりの出来事にユズキは呆然としイサリは刃に着いた血液をその場に振り血を落とす。

「大丈夫か?!」

イサリは座り込んでいたユズキに手を差し伸べる。

その手をユズキは安心した様子で手を取り起き上がりお礼を言う

「はい・・・ありがとうございます」

「無事で良かった」

恐怖で震えていた手がイサリの暖かい手のぬくもりを感じ少し落ち着いた様子のユズキ

ユズキが無事であることを知ったイサリは安心するも束の間、斬りつけられた兵士の叫び声に気付き異変を察した他の兵士達が続々と現れユズキ達の元に向かって来た。

「おい!今の叫びはなんだ?!」

「ちっ!」

続々と集まって来た兵士達にイサリは舌打ちをする。

あっという間に2人の目の前に壁のように立ち塞がるように兵士達は整列し剣を構える。

「貴様、何者だ?」

イサリを見た瞬間只者ではないと感じた兵士の1人が剣を構えながら問いただす。

「そういうお前達はオーディン兵だな」

睨み付けるようにして鋭い眼差しを兵士達に向け確信したような発言をする。

「(オーディン?!)」

この兵士達の正体がオーディン兵であることに驚くユズキ

「(嘘でしょ?!なんで・・・)」

オーディンが村に侵攻して来た事に驚きを隠せず呆然としていたユズキに対しイサリは冷静だった。

「遂にこの村にまで侵攻してきたか これ以上お前達の好き勝手にはさせない!」

正義に満ちた眼差しで剣を構えるイサリに兵士の1人が眉を顰めながら確信した様子で発言する。

「貴様もしや解放軍か?」

その言葉にイサリは自身に満ちたかのように鼻で笑い挑発するように返す。

「そうだと言ったら?」

イサリの一言にオーディン兵は怒りを露わにし今にでもイサリに襲い掛かろうとする勢いだった。

「我々オーディンを蠅のように追いかけ回し邪魔をする解放軍を見つけ次第始末するよう主に言われている!

 我が国の為貴様を倒す!!」

1人の兵士が我先にイサリに向かって襲いかかろうとしていた。

ふと、イサリは何かを感じ木の上に視線を向けチラッと見る。

すると、木の上に何やら人影が映りアイコンタクトをした直後その人物は小さく頷き瞬時に姿を消した。

「覚悟しろ!!うお〜!」

物凄い勢いでイサリに向かって剣を振りかざそうとしている。

あまりの狂気にユズキは恐怖で怯え顔を下に向き目を瞑り悲鳴を上げる。

「きゃ〜!!」

悲痛の叫び声が辺りに響くが、その時、一瞬にしてイサリは兵士の背後に回り込み剣を握り締め背中から斬り付けた。

「ぐっはっ」

斬りつけられた兵士はその場に倒れ込みそれを見ていた兵士達はあまりの出来事に唖然としていた。

「!?」

一瞬何が起きた解らず恐怖で下を向いていたユズキはゆっくりと目を開け顔を上げてみると襲ってきた兵士は血だらけになり倒れていた。

「なっ何が起きた?!」

「こいつ、一体?!」

イサリの瞬時の行動に他の兵士達も唖然としていた。

「くっ!怯むな!オーディンの為、かかれ〜!!」

別の兵士の掛け声に「おお〜!」と他の兵士達もつられて剣を構え直しイサリに向かって突撃しようとする。

オーディン兵が一斉攻撃を仕掛けてくると察しユズキを巻き込むわけにはいかないと思ったイサリはすぐさまユズキを抱え突進するようにオーディン兵の攻撃をかわしながら薙ぎ倒し真っ直ぐひたすら走る。

「きゃっ?!」

急に抱き抱えられ驚くユズキをイサリは抱え走りながら落ち着かせるために優しく声掛けをする。

「すまん、もう少しの辛抱だ しっかり捕まっててくれ」

「はっはい」

俊足の速さで走り続けオーディン兵も2人のあとを追いかける。

 しばらく走り続けオーディン兵が見えなくなったことを確認しイサリは村の隅に置いてあった大きな箱の陰にユズキを隠すように優しく下す。

「しばらくここに隠れててくれ、もうすぐで応援も来るだろう」

「イサリさん・・・」

イサリを心配し不安そうな瞳で見つめる。

そんなユズキをイサリは穏やかな表情でユズキの頭に優しくポンと手を添える。

「大丈夫だ 俺は死なない」

穏やかな優しい眼差しをユズキに向けるイサリに胸の鼓動が鳴りドキっとして頬を赤くする。

が、その時ー

「いたか?!」

兵士達がユズキ達を捜す声が聞こえてきたのと同時に複数の足音も近づいて来た。。

その声に反応し険しい表情になり兵士達の元に剣を握り締め向かって行くイサリ

その後ろ姿をいつまでも心配そうに見つめていたユズキの背後に薄い黄白色の“霧”が霞むように現れていたが全く気づく事はなかった。

 オーディン兵はそれぞれユズキ達を捜しながら村の周囲を警戒しながら見回していた。

その時、どこからともなくイサリが瞬時に現れオーディン兵を切り付ける。

「ぐおっ!!」

斬り付けられた兵士はその場に倒れ込み他の兵士達も何処からともなく現れたイサリに警戒しながら猛攻撃を開始する。

「この!」

「よくもやったな!」

次々と攻撃を仕掛けてくるオーディン兵相手に怯む事なくバッサリと切り倒していく

イサリはオーディン兵達を睨みながら挑発を仕掛ける。

「オーディンも落ちたな この程度か!!」

その言葉にオーディン兵としてのプライドをズタズタにされたような思いになり、怒り狂い一斉にイサリに向かって剣を構え攻撃する。

「何よ!!」

「貴様!調子に乗るなよ!

 我がオーディンの力見せてやる!」

約20人以上いるオーディン兵相手に動じず1人立ち向かい剣を振り戦うイサリは次々と斬り捨てて行く。

彼の凛々しい剣捌きを見ていたユズキは見惚れていた。

「すごい」

見惚れていたユズキの背後に忍び寄る黒い影がゆっくりと近づいて来たー。

 

 オーディン兵相手に約数分経過した頃、大体の数を仕留めたイサリは多少息を切らしていたが疲れた様子はなく、本人的には手応えを感じなかった。

「・・・ふん 貴様らはただの捨て駒のようだったなー」

自分が斬り付け殺した兵士達を冷たい目で見下したように見つめる眼差しはどこか怒りに満ちた感じだった。

と、その時ー

「きゃー!」

「!!」

ユズキの叫び声に気付き、彼女を隠した方向に振り向くとそこには1人のオーディン兵に捕えられ人質にされていたユズキが映った。

「しまった!!」

多数のオーディン兵を相手にしていた為、ユズキの存在を忘れ油断し急いでユズキの元へと駆け寄ろうとするも兵士が剣を翳しユズキに向けていた。

「動くな」

「くっ!」

兵士はユズキを人質に取りイサリを脅す。

「この女がどうなってもいいのか」

ユズキの首元に鋭い銀光の刃が突きつけていた。

ユズキは怯え不安そうな表情をしイサリを見つめる。

彼女の安全を第一に考え悔しそうにしながら渋々剣を下ろした。

「イサリさん・・・」

「はっはっは!女を人質に取られどうすることも出来ないだろう!?」

勝利を確信したように嘲笑う兵士に対しイサリは悔しがる。

「卑怯だぞ!彼女は関係ない!放せ!」

ユズキの解放を望むも兵士は頑固拒否する。

「貴様が強いことはよくわかった

                             ・・・

 が、しかし、我々オーディンは不滅だ!この女は戦利品としてあの方に差し出すまでだ!」

 ・・・

「あの方・・・もしやー」

“あの方”という言葉に何かを察したイサリはどうにかしてこの窮地を脱しようと考えていた。

一瞬、兵士にバレないように左手で右腕に着けていた紅色のブレスレットの留め具に手をかけ外そうとする行動をするも何故か躊躇っていた。

絶体絶命の中、どうすることも出来ない状況のイサリを心配するようにユズキは見つめていた。

そして、心の中で祈るように叫ぶー


「(どうしょう・・・誰かー、助けてー!)」


《場面は森の最深部にある祠に切り替わった。》

ユズキの心の声の叫びが届いたのか祠が突然黄白色に光り輝き出した。

そして、祠の周りや森の中に漂っていた“霧”が一斉に祠の中にある謎の球体に吸い込まれるように集まりだし吸収した。

全部の“霧”が謎の球体に吸収し終えた直後、球体は眩い黄白色に輝き出しゆっくりと動き出し物凄い速さで祠の扉が潔く開けて黄白色の光の塊を纏い出てきて天に昇り彗星のごとく物凄い速さでヴィエラ村の方向に向かっていった。

 そして、ヴィエラ村にてー

《オーディン兵に囚われ人質にされていたユズキ、彼女を安否の為何も出来ず身動きが出来ないイサリの姿が映し出される。》

「おっと動くなよ!少しでも動いたらこの女がどうなるかー」

「イサリさん!私のことはいいのでー」

自分に構わず剣を構え戦って欲しいと訴えるユズキを乱暴に黙らせようとするオーディン兵士

「大人しくしろ!」

「きゃっ!」

力強く抵抗してくる兵士に苦しそうにするユズキ

「くっ!お前を見捨てることはできない!絶対に!」

絶対に諦めないと言う力強い意志を感じた彼に対しユズキは心配そうに見つめていた。

「イサリさん・・・」

「はん!この状況の中でどうするつもりだ?」

そんな2人のやり取りを嘲笑う兵士にイサリは落ち着かない様子だった。

「(まだか・・・もうそろそろのはずだがー)」

イサリは何かを待っている様子で緊迫した空気が漂っていた。

 が、その時だったー

突然、眩い黄白色の光が天空一面に広がりスポットライトのように照らしていた。

「!!!」

その光に気付いた3人は空を見上げる。

「なっ・・・なんだ?!」

その光の正体は祠から出てきた光の塊で彗星の如く物凄い勢いでユズキ目掛けて頭上からクーデターのように降り注いだ。

瞬く黄白色の閃光のように地面に落下したその光に眩しそうにする3人は顔を下に向け目を閉じる。

「ぎゃ〜!!」

オーディン兵の悲痛の叫びが聞こえるも状況がわからず困惑するユズキとイサリ

「くっ!どうなってるんだ?!この光は一体」

「(なっ・・・何?)」

ユズキはゆっくりと目を開けると何故か黄白色の背景が広がった異空間のような場所が目に映り、気付いたら自分を捕らえていた筈のオーディン兵士の姿が消えており自由の身になっていた。

自分1人だけ取り残された状況でイサリの姿も見当たらなかった。

何が起きているのかもわからず呆然としているユズキの目の前に先程の黄白色の光の球体が現れる。

「これはー?」

その光の球体に何かを感じゆっくりと両手を差し出し掴もうとする。

光に触れようとしたその時、球体が眩い光を放ち辺り一面を包み込んだ。

すると、光が薄れてきて視界がはっきりとしてイサリは目を開ける。

「一体何だったんだ?」

不思議な光に疑問を持ちながら辺りを見回すとオーディン兵士に捕らわれていたはずのユズキが気を失い倒れていた。

「おい!!」

イサリはすぐさまユズキの元に駆け寄り抱き抱えユズキの安否を確認する。

「しっかりしろ!」

ユズキは穏やか表情をしながら眠っていた。

彼女の無事を確認し安心するイサリはふと何かに気付いた。

彼女が倒れていたすぐそばに黄白色の結晶が落ちていた。

「?これはー」

結晶に触れようとしたその時、急に結晶は小さな光を輝かせ宙に浮かびユズキの胸元に移動してペンダントチェーンが現れユズキの首に括られ結晶がチャームのようになりぶら下げた状態になる。

「!!」

結晶の行動を不思議そうにしているイサリの背後で声が聴こえて来た。

「イサリ〜!」

自分を呼ぶ声に反応し振り向くと同じような鎧を着けた数人の男性達が向かって来た。

その1人がイサリの元に駆け寄り声をかける。

上の毛は濃い茶色、下の毛は黒色の刈り上げの髪型をしたダークグレーの瞳をしたイサリと身長が同じくらいで年齢も同い年くらいの騎士風の男性だった。

「無事だったか?!」

「ああ」

どうやらイサリと同じエデア解放軍の仲間だった。

「しかし、ひどいものだ オーディンめ!ここまでやるとはー」

ヴィエラ村の惨劇を確認し怒り露わにしていた。。

「俺は大丈夫だ 大体のオーディン兵は片付けた あとは頼んだ」

「おうよ」

応援に来た解放軍の剣士達はヴィエラ村の現場検証とオーディン兵の残党がいないか確認する為あちこちに散らばる。

するとイサリの元に解放軍の剣士達がいなくなったことを確認し1人の人影が木の上から突如現れた。

「ご無事でしたか?」

イサリの元に静かに現れた忍者風の服装をしたその男性はイサリに対し敬語で話し彼の無事を問う

「ああ、お前は他の奴らと一緒に現場検証して欲しい 俺はこの子を本部に連れて行く」

そう言いながらユズキを抱き抱えようとする。

「承知しました」

ユズキを抱えヴィエラ村の出入り口に向かおうとしていたイサリに対し男性は疑問を投げかける。

「ところで一体何が起きたんですか?」

男性の問いに一瞬黙り込み応える。

「俺にもよくわからない・・・ただー」

ふと、脳裏に突然降ってきた黄白色の光の塊を思い出していた。

「何かが起きそうな気がするー」

一言そう呟きユズキを抱えたままゆっくりと歩き進める。

眠っているユズキの首元にはチェーンで括り付けられた結晶が振動により揺れており小さく黄白色に輝いていた。


****


 場面は何処かの謁見の間にてー

とある城が映し出され謁見の間にて1人の男性が立っていた。

「・・・・やっと目覚めたということかー」

何かの気配に気付いた様子の漆黒の髪を肩先まで伸ばし煌びやかな正装姿をしたその男性はボソッと独り言のように呟いた。

目元は前髪に隠されていたのではっきりとは顔が見えず表情もわかりにくいが鼻で笑うかのような笑みを浮かべていた。


1話終了









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