透明彼女
見たところ、彼女は透明でした。
彼女は透明なので、それをひどく気に病んでいました。だから私は彼女に言いました。
包帯を体のすべてに巻けばいい、と。
その日から彼女は忠告通りに、包帯をグルグルに巻いて、指先でチョンと結びました。
その上からお気に入りだった淡いブルーのワンピースを着られました。
表情の色を窺い知ることは出来ませんでした。
しかし、鏡の前でクルクルと回り続ける彼女はやはり楽しいのではないだろうかと思って、大変安心しました。
やがて彼女は街を歩く色を持った人間達に、妬心を抱くようになりました。自分だって包帯の肌のその下を誰かに見つめられたいのだと、彼女の流した一粒が物語っていました。
もちろん、その一粒でさえ彼女をよくよく見ていないと気付くことさえないのですが。
かくして私は彼女の悲しみを拭おうとして、淡いブルーのワンピースとは全く逆の、濃く色付いたブルーのリボンがついたバレッタをプレゼント致しました。
それは事の始まりを伝える信号となりました。
彼女はとにかく、色の濃いモノを集めだしました。淡いブルーのワンピースを見かけなくなりました。
肌色がないのならばと粉をはたいて、色を付け始めました。艶やかな唇のために、惜しげもなく紅を塗りたくり始めました。そうかと思えば、目に色がないのだとさめざめ泣き、落ちた粉をまたはたき直す...。
いつしか彼女は、たくさんの色を持っていました。私は泣きたくなったのです。この気持ちはあなたもお分かりになられることでしょう。
私のかつての友人は、淡いブルーのワンピースをもう着ないのです。
それでも、濃いブルーのリボンのバレッタはまだ持っているので、やはり私は泣きたくなったのです。
お読みいただきまして、誠にありがとうございます。
あまりに近いものは、とても遠いと思います。
何卒、よろしくお願いいたします。