□■第46話 クロスvs神聖教会■□
崩落した瓦礫と砂塵の中で、教会員達が襲い掛かってくる。
ある者は武器を携え、ある者は《魔法》を展開し、クロス達へと攻撃を仕掛ける。
《魔法拳銃》を奪われたマーレット。
攻撃向きの《魔法》を持たないアルマ。
自身の戦力を的確に分析し、心許ないとわかりつつ、それでも抵抗の意思を見せる二人。
だが、何よりも早く、クロスの肉体が躍動していた。
《光魔法》――《活性》を発動。
その効力で強化されたクロスの体躯が、目にも留まらぬ速度で教会員達を打破する。
狼の獣人達に対しても、一方的な戦力差を見せ付けた《魔法》だ。
飛び掛かってきた教会員達は、何かをする暇も与えられず次々に宙に吹き飛ばされる。
「……化け物め」
瓦礫の山の頂上からその光景を見下ろし、アークシップは舌打ちする。
そして、自身が展開している《光魔法》――《光芒》の矛先をクロスに向けようとする。
が、スピードが速すぎて狙いが定まらない。
「ならば……」
攻撃範囲を拡大し、広範囲を一気に吹き飛ばすよう調整。
敵も味方も関係無く、爆撃で一帯を巻き込んで――。
――瞬間、アークシップの展開していた《光芒》の魔方陣が、砕け散った。
《光球》だった。
クロスの別途発動していた《光魔法》――《光球》が飛来し、魔方陣を破壊したのだ。
「くっ!」
「ひっ!」
空中を駆け回る《光球》から逃れるように、アークシップとベルトルは動く。
瓦礫の山から滑り降りるアークシップと、転がり落ちるベルトル。
「!」
地面へと降り立ったアークシップは、そこで動きを停止する。
「………」
目前に、クロスが立っていた。
その手の平の上に《光球》を浮かべ、あたかも銃口を突き付けるようにアークシップへ見せ付けている。
クロスの相手をしていた教会員達は、既に全滅していた。
その場に、沈黙が流れる。
「待て、クロス神父。取引をしないか?」
アークシップは口を開く。
「私は、君の力を高く評価している」
「………」
「この神聖教会において、君を相応のポストに収める事も……」
刹那、クロスが《光球》を後方へと操作した。
空中で、何かが弾け飛ぶ音。
「……くっ」
土煙に身を隠していた暗殺者が、クロスへと投げナイフを放っていた。
その弾幕が、《光球》によって一瞬で焼き切られたのだ。
「そこに居たのね」
そこで、アルマが《創造》を発動。
彼女の操作した地面がうねり、まるで拘束具のように暗殺者の体に纏わり付く。
「死ねぇ!」
最早、破れかぶれだ。
その隙を突くように、アークシップが《光芒》を発動し、クロスへと放つ。
が、クロスが展開していた《光膜》に阻まれ、光線は抹消される。
「ぐ……ベルトル、私を助けろ!」
アークシップが、瓦礫の山の下に転がっているベルトルへと叫ぶ。
「あ、ああ……」
アークシップの怒声に、ベルトルはあたふたと立ち上がる。
「貴様、まさかこのまま私が殺されればいいとでも思っているのか!?」
「そ、そんな……」
瓦礫の山から落ちた後、ベルトルは気絶したふりをして寝転がっていた。
しかし、そんな狙いはアークシップにもお見通しだったようだ。
「く……おおおお!」
狼狽し、しかし、助けないわけにもいかない。
ベルトルは意を決し、自身も《光芒》を放つ。
しかし、当然ベルトル程度の魔法では敵うはずもない。
アークシップと同じくクロスの《光膜》に弾かれ、無駄撃ちに終わる。
「く、クロス……クロス神父! 私から教皇へ進言し、君も司教に、いや枢機卿へ……」
アークシップが慌てて命乞いを始めるが、もう遅い。
クロスの放った《光球》が、アークシップの胸の中心――心臓を撃ち抜いた。
「ひ、ひぃぃぃ!」
容赦の無いクロスの攻撃に、ベルトルは腰を抜かす。
「……ベルトル司祭」
そんな彼に、クロスが歩み寄る。
「あなたは、入門時代から最もお世話になった上司です」
「そ、そうだ、助けてくれ! クロス神父! 私は君にとって育ての親のようなものだろう!?」
「……ええ、あなたには恩義がある。だから……」
クロスは、ベルトルに言う。
「信じたかった」
ベルトルの元で修行していた時代を思い出す。
最初の内は、誠実で真面目なクロスを温かい目で見守ってくれていたベルトル。
しかし、やがて成長していくクロスに対し、徐々に邪魔者を見るような目を向け始めた。
そして、追放を言い渡された時のことを想起する。
クロスの表情に、苦悶が皺となって表われる。
「本当に、信じたかった。残念です」
「く……くぅぅぅ」
ベルトルは、もう説得も命乞いも叶わないと察したのだろう。
玉砕覚悟で攻撃を仕掛ける。
「この、化け物め!」
「……――」
クロスの手に、《光刃》が握られていた。
そして振り抜かれた光の刃が、ベルトルの展開した魔方陣ごと、彼の体を叩き切った。
心の底からの、決別を意味する一閃だった。
「クロスさん!」
そこに、アルマとマーレットがやって来る。
「ごめんなさい、あの暗殺者を逃がしてしまったわ。完全に拘束したと思ったのに」
「どこかに潜んでいるかもしれません! 気を付けて――」
「いえ、おそらくもう大丈夫です」
主人が倒され、本人もこれ以上は割に合わないと見て逃げ去ったのだろう。
残されたのは、死屍累々の状況。
その中で一人、修羅のように立ち尽くすクロスを見て、普段の彼とは掛け離れた雰囲気に、アルマもマーレットも思わず息を飲む。
「う……」
「うぐ……」
しかしそこで、周囲に倒れた教会員達の中から、呻き声が聞こえてくるのに気付く。
全員、一命は取り留めている。
クロスが攻撃を仕掛けながらも、《治癒》で生かしていたのだ。
それは、アークシップもベルトルも同様である。
彼等の胸の穴も切り傷も、既に塞がっている。
「………」
そんな中でも、唯一人悲しげに沈黙するクロス――。
『いえーい、大勝利!』
瞬間、クロスの頭上で『ぱんぱかぱーん!』とでもいうように両手を広げ、大喜びする人物が。
エレオノールだった。
『流石ですね、クロス! 鎧袖一触とはこの事! やはり、私の目に狂いは無し! クロスはこんなちっぽけな宗教団体に収まる程度の器ではありません! って誰の宗教がちっぽけですか!?』
すっかり元気になったエレオノールが、空気を読まずに盛り上がっている。
そんな彼女の姿を見て、一瞬ポカンとしていたクロスだったが――。
「……女神様も、ご無事で何よりです」
いつものように、柔和な笑みを湛える。
「クロスー!」
「クロス様ー!」
そこで、天井に空いた大穴から、ベロニカやジェシカ達の声が聞こえてきた。
クロス達を探しているようだ。
「シスター・アルマ、マーレットさん」
クロスは、二人を振り返って言う。
「ご迷惑をお掛けしました。さぁ、帰りましょう」
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