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□■第43話 《魔女の契約書》奪還戦■□


「さ、さささっ……」


 神聖教会総本山。


 静謐が支配する神殿の中を、物陰に身を隠しながら素早く移動していく人影がある。


 誰であろう、女神エレオノールである。


 クロスの魔力を用い、一時的に肉体を手に入れたエレオノール。


 彼女は、クロスの体の自由を奪っている《魔女の契約書》を奪取すべく、隠密行動にて神殿内を捜索していた。


「ふふふ……どうですか、この身のこなし。東方の国にいると言われているニンジャもさながらではありませんか?」


 誰に言っているのか知らないが、エレオノールはどこか自慢げに呟く。


「しかし……」


 そこで立ち止まり、エレオノールはキョロキョロと周囲を見回す。


 廊下の後ろにも先にも、人の気配一つしない。


 それどころか、ここに来るまでまったく誰にも遭遇しないのである。


「流石にこれはおかしいですよねぇ……むむっ?」


 そこで、エレオノールは、こちらに向かって来る足音を感知する。


 すぐさま、廊下の端に置かれている鑑賞品の巨大な壺の影に隠れる。


 数秒後、目前を数名の教会員達が通り過ぎていった。


「一体何が起こってるんだ?」

「わからない。謎の集団が総本山の入り口に集まっているとしか……」

「他の宗教の連中か?」

「いや、どうにもそうじゃなさそうらしい。冒険者や獣人もいるとか……」

「情報が錯綜してないか? それ……」


 通過していく教会員達の会話が、一瞬聞こえてきた。


「なるほど……よくわかりませんが、外で騒動が起こっているみたいですね」


 エレオノールは、物陰から姿を現し呟く。


「ですが、これはチャンスです。今の内に、さっさとクロスの自由を奪っている契約書を見つけ出さねば」


 そんな感じで、人の居ない総本山の中を軽快に進んでいくエレオノール。


 やがて、数時間前にいた礼拝堂へと辿り着く。


「ふふふっ、ちゃんと私を信仰しているようですね」


 礼拝堂の奥には、巨大な女神像がある。


 それを見上げ、エレオノールは満足げな表情を浮かべている。


「まぁ、ちょっと私には似ていないように思えますが……」


 女神像の姿は、崇高で重々しい雰囲気を守っている。


 正に神聖な女神――という感じだ。


 エレオノールとは天と地ほど差がある。


「なんだか失礼な声が聞こえた気がしますが……まぁ、この世界で私の姿を見ることができるのはクロスくらいですからね、寛大な心で許しましょう……ん?」


 そこで、エレオノールは気付く。


 礼拝堂の更に奥……入って来た側とは別の出口が有る。


 そちらの方から、声が聞こえてくるのだ。


「さ、さささ、そ~……」


 ゆっくり、気配を殺しつつ、そちらの方へ向かうエレオノール。


 暗い廊下が続いており、そこを進んでいくと……。


「クソッ! どうする、どうすればいい……」


 物置のような部屋があり、覗き込むと、ベルトルがいた。


 何やら、部屋の中をグルグルと歩き回っている。


「今なら、あの暗殺者もアークシップ司教に呼び出されてここには居ない……いっそ、逃げ出すか?」


 発言から察するに、今は彼一人のようだ。


「いや、例え逃げても追跡されて消されるだけだ……だが、《魔女の契約書》の主従関係を変更されれば、その時も私は用済みになる……」


 頭を抱えて悩んでいる様子のベルトル。


 視界から外れているのを狙い、エレオノールは迅速に物置部屋の中へと入り込む。


 見ると、ベルトルから少し離れた木箱の上に《魔女の契約書》が置かれている。


 そして、彼を監視しているだろう暗殺者も今は居ない。


(……今しかありません!)


 エレオノールは極限まで身を低くし、床を這うように素早く移動する。


(……もう少し……もう少し……)


 気配を殺し、木箱の下まで近付き……。


 静かに、そうっと手を伸ばし……。


 エレオノールの手が、木箱の上に置かれていた《魔女の契約書》を掴んだ。


(……よし! ミッションコンプリート! どうですか、この偉大なる女神の流石過ぎる働きっぷり! 崇めなさい! 画面の前にいるそこのアナタ! 今すぐ私を崇めなさい! ア●ゾンレビューで★5をつけなさい!)

「何を騒いでいる」


 その時だった。


 物置の中に、アークシップと暗殺者が現れた。


「あ、アークシップ司教……」

「何やら外が騒がしいようだ。お前の姿が見えないから、どこに消えたのかと思って探しに来たが……逃げ出す算段でも考えていたのか?」

「い、いえ! 決してそんな……わ、私は《魔女の契約書》の内容関係の変更に関して調べようと……」


 言いながら、慌ててベルトルが振り返る。


 しかし、木箱の上には《魔女の契約書》は無く――。


 ――《魔女の契約書》を胸の間に折り畳んで挟み、虫のように床を這って逃げようとしているエレオノールの姿があった。


「………」

「………」

「………」


 ベルトル、アークシップ、暗殺者の目が、エレオノールを捉える。


「………あ、失礼しましたぁ。えへへ、ちょっと道に迷ったようで、間違って迷い込んでしまいまして」

「………」

「………」

「………」

「では、私はこれでぇ……」

「捕らえろ!」


 アークシップが叫んだ。


 暗殺者とベルトルが同時に動く。


「っ! おい!」

「え!?」


 しかしそれは、迅速に動いた暗殺者の動きをベルトルが邪魔する形になってしまい……。


「むきゃああああ!」


 その一瞬の隙を突くように、エレオノールは床を高速で這って物置部屋から飛び出した。


「待て!」


 後方から、暗殺者の投げるナイフの攻撃が来る。


「ほあああああああ!」


 エレオノールは床の上を転がり、何とか必死に回避する。


「くっ、ちょこまかと! ゴキブリかあの女!」

「だぁれがゴキブリですか女神様に向かってこの不届き者ぉ!」


 懸命に逃げながら、エレオノールは契約書を破こうとする。


「んぎぃぃぃぃ!」


 が、《魔女の契約書》は特殊な力で守られているのか、全く破れない。


 確実に、魔法の力で壊すしか無いのかもしれない。


「く、クロスなら! おそらく、クロスなら破壊できるはず!」


 クロスのところまで辿り着かなければ……。


 アークシップ、ベルトル、暗殺者に追われながら、エレオノールは必死の形相で逃亡する。



【書籍発売中!】

 この度、『「《邪神の血》が流れている」と言われ、神聖教会を追放された神父です。~理不尽な理由で教会を追い出されたら、信仰対象の女神様も一緒についてきちゃいました~』が書籍化されました!

 イラストを担当していただいたのは、チェンカ先生!

 主人公クロスを初め、女神エレオノールやヒロイン達をとても魅力的に、可愛く手掛けていただきました。

 BKブックス様より発売中。

 皆様、是非よろしくお願いいたします!

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[一言] 頑張れ女神様。活躍の場はこのときだ
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