□■第4話 銃士マーレット■□
「一匹目」
土煙が晴れる。
頭部を切り離されたガルガンチュアが、地面に倒れ伏す。
その手に《光刃》を握ったクロスは、すぐさま横たわったマーレットを見る。
腹部に酷い傷を負っている。
早く、治療をしなければ。
「マーレットさん、聞こえますか!」
クロスは、彼女の意識が途切れないように声を掛ける。
「ギィイイイイイイイイイイ!」
刹那、晴れ掛けた土煙を突き破り、一体のガルガンチュア――マーレットの《魔法拳銃》を至近距離で食らい、足が一本と頭の半分が欠損している――が、クロスに飛び掛かってきた。
「二匹目」
――光の軌道が宙を駆ける。
――飛び掛かったガルガンチュアの体が幾つものパーツに分断され、地面に転がった。
『クロス! もう一匹いますよ!』
「はい、手早く片付けましょう」
クロスは振り返る。
その視線の先――数十メートル先の、ジェシカとミュンと交戦中のガルガンチュアを見る。
ジェシカとミュンも、二匹目のガルガンチュアが現れ、マーレットの銃撃を食らったところまでは把握していたようだ。
その後は土煙の発生と、自分達の相手で手一杯だったようだが――。
「クロスさん?」
「あの男、何を……」
土煙が晴れ、現れた《光刃》を握るクロスの姿を見て、たじろぐ二人。
一方、クロスは即座に次の行動に移っていた。
《光刃》を解除し、代わりに手中に生み出したのは《光球》。
「征け」
放たれた《光球》は、高速で砲弾のように放たれ――そして、三匹目のガルガンチュアの胴体に炸裂した。
「ギォオオオオ」
ガルガンチュアの体がバウンドし、やがて停止する。
そこで、クロスは右手首を回転させ、《魔法》の操作を行う。
瞬間、三匹目のガルガンチュアの体内から、幾重もの光の刃が飛び出した。
「ギ、ゲ……」
内側から切り裂かれ、三匹目のガルガンチュアも倒れ伏した。
「な、何や……」
一瞬の出来事だった。
その一連の光景を前に、ジェシカは呆然とし、ミュンは驚きの声を上げた。
「何したんや、今の!?」
「ガルガンチュアの体内に撃ち込んだ《光球》の《魔法》を内部で《光刃》に書き換えました!」
「なんて!?」
混乱するミュンには申し訳ないが、それよりも今はマーレットだ。
クロスは、横たわったマーレットの腹部に手を翳し、《治癒》を発動する。
上級《光魔法》の《治癒》は、クロスでも集中力と多少の時間を要する――故に、万全の状態を確保するために、先に敵を全て倒す必要があったのだ。
「う……」
「治りました」
マーレットが、ゆっくり目を開ける。
そして、目の前のクロスの顔を見詰める。
「あ……」
「今まで、きっと凄く頑張ってきたんですね」
土煙の中、彼女を探している時――重傷を負ったマーレットの囁くような声が聞こえた。
仲間達への、懺悔の言葉だった。
「僕を守ろうとしてくれて、ありがとうございます。でも、大丈夫。これからは僕も頼ってください」
クロスの手が、マーレットの額を優しく撫でる。
《治癒》を発動した直後で、手の平が温かいからだろうか。
まるで陽だまりの中にいるように、マーレットはクロスの手の感触に、安堵の表情を浮かべた。
「僕は、補助と回復を担う、あなたのパーティーの一員……あなたの、仲間なんですから」
「……仲間」
その言葉を聞き、マーレットの目から涙がこぼれ落ちた。
さて。
マーレットの傷が塞がった後、改めて状況の確認に移る。
……が。
「生け捕り任務やったんやけど、全部倒してしまったなぁ」
「あ……」
ミュンの言葉を聞き、クロスは青ざめる。
そう、生け捕り任務のはずが、クロスが三匹とも瞬殺してしまったのだ。
ガルガンチュアの骸は、既にどす黒い煙となって消えてしまっている。
《核》まで破壊されたモンスターは、この世から消滅する。
「も、もしかして僕、やらかしちゃいましたか?」
クロスは、震えながら呟く。
冒険者の任務に関する知識は無いが……結構なやらかし案件なのかもしれない。
これは……再びクビだろうか?
「ご、ごめんなさい!」
クロスは深く頭を下げた。
彼の行動に、三人は驚く。
「勝手な事をして、とんでもないミスを犯してしまいました! 多大なるご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありません!」
「いや、そこまで謝らんでも……なぁ?」
「……討伐という任務自体は、達成した」
ミュンとジェシカが、そう返す。
ひとまず、取り返しの付かないミスではなかったようだ。
クロスは安堵し、続いての言葉を発する。
「その……できれば、このまま皆さんのパーティーにいさせてもらえないでしょうか?」
「え?」
「今回のように、迷惑をお掛けする事が多々あるかもしれません。ですが……右も左もわからない自分に声を掛けて、仲間に入れてもらえて、本当に嬉しかったんです。だから……だからこそ、まだ新人の立場ですが、僕は、皆さんの役に立ちたいんです」
お願いします! ――と、クロスは懇願する。
そんなクロスの姿に、戸惑うジェシカとミュン。
すると――。
「当然です!」
マーレットが、涙で赤くなった目でクロスを見詰め、声を上げる。
「クロスさんは、私の大切な仲間です! 絶対に、絶対にクビになんかしません! ずっと一緒です!」
「マーレットさん……!」
クロスは顔を上げる。
なんて優しいんだ――と、そう思った。
『うーん、私としては、クロスをこの程度の冒険者パーティーにとどめておくのは惜しいのですが……』
そんなやり取りを見ていたエレオノールが、ふよふよと浮遊しながらコメントを残す。
『しかし、まぁ、許しましょう。ハーレムパーティーという点がナイスですからね。ポイントが高いですよ、そこは』
「すいません、何のポイントですか?」
『サービスシーン、期待してますからね』
「妙なことを期待しないでください、女神様」
「さっきから誰としゃべっとるん? クロスさん」
エレオノールと会話していたら、ミュンに不審がられてしまった。
「いいえ、なんでもないです」
「とりあえず、ギルドに報告しに行こか。生け捕りには出来なかったけど討伐はしたから、《核》になっとった《魔石》の破片でも回収して持って行けば、それなりに報酬はもらえるやろ……っていうか……」
そこで、ミュンがクロスに近付く。
どこか、興味深げな笑みを口元に湛え。
「クロスさん、さっき何したん? あのガルガンチュアを内側から《光刃》で切り刻んだ時」
「え?」
「ウチかて、そんなに《魔法》に詳しいわけやないけど、一度発動した《魔法》を別の《魔法》に書き換えるって、何? どういうこと? そもそも、そんなの本当に可能なん?」
「えーっと、修練していたらできるようになったというか……」
「やっぱり、クロスさんは只者じゃないんですね!」
クロスの《魔法》の技量に、興味津々なミュン。
一方、マーレットは屈託のない笑顔をクロスに向ける。
「クロスさん、ありがとうございます」
そして、囁くように言った。
「え?」
「私、ずっと気負って、張り詰め過ぎちゃってたんだと思います。でも……クロスさんに励まされて、元気をもらっちゃいました。まだまだ頑張ろうって、思えました」
ニコッと、マーレットは笑う。
「クロスさんに仲間になってもらえて、本当に良かったです」
「……ははっ、元・神父ですから。悩んでいる人を導くのは、慣れた仕事なんだと思います」
そう照れ隠しのように軽口を返し、クロスも微笑む。
「………」
一方、そんな彼等のやり取りを、ジェシカは鋭い目で見据えていた。
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