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□■第41話 クロス失踪騒動■□



 ――密かに、クロス達がベルトルによって身柄を拘束された……その翌日。


「一体どこに行ったんやろ、クロやん達」

「……例の大商家の屋敷からは、その日の内に出立したということで間違いないのだな?」

「ああ、何度もそう言ってるだろ」


 普段、クロス達が拠点とし、生活をしている都にて。


 冒険者達で犇めくギルドの中――テーブルの一つにミュンとジェシカ、それにバルジが顔を突き合わせている。


 大商人アルバート氏の家で一夜を過ごし――翌朝、アルバート氏が手配してくれた馬車で都へと帰ってきた二日酔いのバルジに、ミュン達が帰ってきていないクロス達のことを聞き、事態が発覚したのだ。


 三人とも、心底深刻な顔をしている。


 それだけ心配なのだ。


「まさか、あの二人……」


 そこで、バルジが呟く。


「二人きりで、どこかで仲良くやってるんじゃ……」

「「そんなまさか!」」


 バルジの発言に、ミュンとジェシカは飛び上がって反論する。


「リーダーが抜け駆けするはずないやろ! ……多分」

「そうだ、我々は純粋な想いでクロス様とともにいるのだ! 間違いなど犯す事はない! ……おそらく」

「全然、宣言に自信無ぇじゃねぇか……しかし、本当にどうしたんだろうな」


 再び、三人は考え込む。


「何か、厄介ごとに巻き込まれているのだろうか……」

「大半の事やったら、クロやんがいれば何とかなると思うんやけど……」


 結論が出ぬまま、うんうんと唸る事しかできないミュン、ジェシカ、バルジ。


 その時だった。


 ギルド内にざわめきが起きる。


 なんだ――と、三人が顔を上げると、冒険者達がギルド内に現れたある人物を見て騒いでいるようだった。


「すげぇ美人」「美しい……」「只者じゃないオーラがあるな……」と、途轍もない存在感を纏い、突如来訪した妖艶な美女に、男達が目を奪われている形だ。


 ミュンとジェシカはその人物を知っていたため、別の意味で驚く。


「も、モルガーナさんやん……」

「どうしてここに?」


 その人物とは――《邪神街》中枢区に身を置きながら人間界にも影響力を持つ、美しくも妖しい魔術の女王。


 そして、クロスの旧来の友人の一人。


《魔女》モルガーナだった。


「………」


 騒然とするギルドの中、モルガーナはミュン達に気付き接近してくる。


「お、おい、何者だよ、この……とんでもないオーラの美人は……」


 バルジも、モルガーナに見惚れながらミュン達に尋ねる。


「………」


 やって来たモルガーナは、三人を前に黙って佇む。


 ミュンとジェシカは、ごくりと喉を鳴らす。


「……ええと、モルガーナさん? 一体、どうしてここに……」


 ミュンが尋ねると、モルガーナはゆっくりと口を開いた。


「アナタ達……クロスの仲間……よね?」

「え……」

「ま、まぁ……」


 威圧的なオーラを纏いながら、モルガーナがミュンとジェシカに問う。


「この人……お前等の知り合いなのか?」

「いや、ウチ等のというか、クロやんの昔の友達なんやけど……」

「もしかして、クロス様を訪ねて来られたのか? それなら申し訳ないが、クロス様は昨夜から行方知れずで……」

「行方知れず……」


 そこで、モルガーナが眉を顰める。


「少し、気になることがあるの」

「気になる事?」

「クロスは、もしかしたら誘拐されたかもしれない」

「「誘拐!?」」


 モルガーナの発言に、ミュンとジェシカは驚愕する。


「馬鹿な……クロス様が……」

「なんで、そんな事がわかるん?」

「……これ」


 そこで、モルガーナが自身の髪を掻き上げる。


 その下から現れた右耳に、刺々しくも妖しいデザインのイヤーカフが装着されていた。


「それは……」

「私の製作した魔道具。もう片方の子機を装着した相手の声を、どこに居ても聞くことが出来るの」


 モルガーナは説明する。


「先日、クロスが私の屋敷を訪ねてきた時に、密かにクロスの服に子機を仕掛けていたの」

「え……それって」


 そこで、ミュンが思わず叫ぶ。


「盗聴やん! ストーカーやん!」

「あの一瞬の再会の間に、まさか盗聴器を仕込んでいたとは……」

「す、ストーカーじゃないもん!」


 瞬間、モルガーナは動揺丸出しの声で叫ぶ。


 そして直後、静まり返ったギルド内の空気に気付き、慌てて声を潜める。


「と、ともかく、この魔道具から聞こえてきたのよ。クロスと、何者かが揉めている声が。おそらく、一緒にいた女の子を人質にされて、抵抗出来なかったようにも聞こえたわ」

「……一緒に居た女の子……それはまさか、リーダーか!?」

「おいおいおい、どういうことだよ」


 モルガーナの仮説を聞き、ジェシカとバルジが慌て出す。


「しかし、クロス様達を襲った連中とは、一体……」

「心当たりがある」


 モルガーナが言う。


「クロスが揉めていた相手は、おそらく……神聖教会の関係者。ベルトルとかいう、司祭の男だと思う」

「神聖教会……」


 その名称を聞き、ジェシカは目に見えて不快感を露わにする。


「確か、ベルトルとかいう司祭はクロやんの元上司やろ? 因縁があるけど……どうして、そう言い切れるん?」


 一方、ミュンは冷静に問う。


「聞こえてきた会話の中で、クロスが相手の名前を呼んでいた。何より、その相手の男はクロスに契約書を書かせていた」

「契約書?」

「私が売った、《魔女の契約書》を使用したのだと思う」


 モルガーナは、《魔女の契約書》の効力を説明する。


 いかなる相手にも強制力を持つ、正に奴隷の契約書。


 そして遂先日、クロス達が訪ねてくる直前、モルガーナがベルトルにその魔道具を売った事も。


 話を聞き、ミュン達も焦燥を露わにする。


「そんなものを使われたら、流石のクロやんも手を出されへん、か……」

「とんでもない事態ではないか!」

「だから、私も至急この事実を伝えに来たの」


 冷静な態度で、そう淡々と告げるモルガーナ。


 しかしそこで、ミュンがある疑問を口にする。


「でも……なんでわざわざウチ等に?」

「………」


 何故、彼女はわざわざ、ミュン達にクロスが危機に瀕しているということを伝えに来たのだろうか。


《邪神街》から遠路はるばる、こんなところにまで。


 自身の売った魔道具が原因だとわかり、罪の意識に駆られたから?


 否、彼女はあくまでも製造者であり販売者だ。


 彼女の作った魔道具がどんな性能を持っていたとしても、その責任は使用した者にある。


 何より、そんな事に罪の意識を覚えるようなタマとも思えない。


 では、ただ単純に、クロスを助けたいから?


「でも、それこそ……モルガーナ殿ほどの実力者であれば、自身だけでクロス様を救出に向かうことだってできたはず。いや、モルガーナ殿が、手を煩わせたくないというのであればそうなのだろうが」

「なら、わざわざここまで報告に来る必要もないはずやし」

「……じ、自分だけで助けに行くという気にはなれなかった」


 そこで、モルガーナは目を泳がせながら言う。


「ひ、一人でクロスに会うのは……まだちょっと、怖い……」

「………」

「………」


《魔女》モルガーナ。


 以前、クロスに遭った時の態度といい、今回といい。


 やはり彼女の普段の姿は仮初……いや、クロスの前では素が出てしまうのかもしれない。


「しかし、何はともあれ、や。これはとんでもない事態やで」


 クロスと因縁のある神聖教会が、クロス達を拉致した。


 これは明らかに、何かしらの怨恨、逆恨みがあっての犯行だろう。


 しかも、無関係と思われるマーレットまで巻き添えにしている時点で異常だ。


 既に、クロス達が捕まってから半日近い時間が経過している。


 至急助けに行かなければ何かしら手遅れになってしまうかもしれない。


「モルガーナ殿、クロス様達が今どこにいるのか、わかるか?」

「ええ。神聖教会の総本山に向かったようよ」

「ならば、すぐにでも……」

「ちょっと待ちや、ジェシカ」


 そこで、ミュンがジェシカを制止する。


「いきなりウチ等だけで押し掛けても、向こうも知らぬ存ぜぬで突っぱねられてまうかもしれへんで? いくらモルガーナさんがおっても、相手はこの国で最大規模の宗教の総本山。もっと、人手を集めた方がええんとちゃう?」

「むぅ……しかし、今から協力者を集めようにも一体どこから手を付ければ……」


 その時だった。


 再び、ギルド内にざわめきが起こる。


「こんな場所に何の用だ? モルガーナ」

「え?」

「べ、ベロニカ殿?」


 ミュンとジェシカが顔を上げると、そこにベロニカが立っていた。


 後ろには、配下の狼獣人達も控えている。


「ベロニカ殿、何故ここに……」

「中枢区からモルガーナが動いたと報告を聞いてな」

「………」


 ベロニカが睨むと、モルガーナは黙って目線を逸らす。


「今まで《邪神街》から出ることのなかったモルガーナが動くなど、絶対に怪しい。しかも、後を追跡してみたら辿り着いたのは冒険者ギルドだ」


 ベロニカは憎々しげに言う。


「確実にクロスを狙っているな。抜け駆けは許さないぞ」


 どうやらベロニカは、先日の再会を機に、モルガーナがクロスに密会しに動いたのだと思ったようだ。


「クロス神父?」


 更に、そこで。


「クロス神父の身に、何かあったの?」

「あ、アルマさん」


 クロスの名を聞き、ちょうどやって来たのは、かつてクロスと共に神聖教会に仕え、今はその神聖教会を去り冒険者となった元シスター、アルマだった。


「クロス神父?」「クロス神父?」と、後ろには同じく元シスターのウナとサナも続いている。


 意図せず、クロスに縁のある存在が一気に集まってきている。


「ジェシカ、これ、もしかしたら……」

「ああ、グッドタイミングかもしれない」


 そう二人が会話を交えた、そこで更に更に――。


「ここが冒険者ギルドね!」


 ギルドの入り口に仁王立ちする、小柄な人影。


 頭部に立派な角を生やした少女。


「ふふん、それで、クロスはどこ!? この度、この牛獣人の頭目の娘、ニュージャー様がクロスの後ろ盾になってあげるって提案をしに来てあげ……ほぎゃあっ!? ベロニカ!?」


 やって来たニュージャーと牛獣人達が、ベロニカと狼獣人達を見て悲鳴を上げる。


「うるさいと思ったらお前等まで何の用だ、ニュージャー。まさか、お前もクロスに会いに来たのか……」

「ほ、ほへ!? 何のことかしら!? あたしはただ観光に来ただけよ、観光に!?」

「いや、さっき思いっ切りクロやんの『ガイド』の後見人になりに来たっぽい発言しとったけど」

「ミュンちゃん、ジェシカちゃん、この獣人達は今はどうでもいいわ。それよりもクロス神父の身に何があったのか教えて?」

「何? クロスがどうかしたのか?」

「へ? クロスの身に?」


 アルマの発言を聞き、ぎゃあぎゃあと揉めていたベロニカとニュージャーも黙る。


 ミュンとジェシカは、モルガーナの報告を手短に纏め、クロスの身に危機が迫っているかもしれないと伝えた。


「く、クロスが危険だと!? 大変だ! お前等、行くぞ!」

「はい、ボス!」


 瞬間、我先に助けに向かわんとするベロニカと狼獣人達。


「待って待って、ベロニカさん! ここは、みんなで協力するんや!」


 ミュンは慌ててベロニカを止め、説明する。


 現在、拉致されたクロスとマーレットの居場所は、モルガーナの魔道具から聞こえてきた情報から察するに、神聖教会総本山。


 相手は、この国で最大の規模を誇る宗教団体の本部――かなり手強い相手。


 ここは、皆で協力するのがベストである。


「なるほど……仕方が無い、クロスのためだ」


 と、ベロニカ。


「私も、元神聖教会の関係者として橋渡し役になるわ」


 と、アルマ。


「むぅ……あたしは別にどうでもいいんだけど、まぁ、付き合ってあげてもいいわ」


 と言ったニュージャーは、直後ベロニカに「お前は要らん、帰れ」とデコピンを食らっていた。


 とにもかくにも。


 クセの強い女傑同士、言い争いながらも皆の目的は一致した。


 至急、クロス達の救出に向かう。


「神聖教会総本山の場所と行き方はわかるわ。最短で到着できるよう、私が案内する」


 アルマが言うと、皆が出発の準備に取り掛かる。


「と、とんでもねぇ事になってるな……って、俺も座ってる場合じゃねぇ! クロスさん! 待ってて下さい!」


 その光景を前に絶句していたバルジも、慌てて皆の後に続く。


 かくして、騒然とする冒険者ギルドを後にし――結成されたクロス救出部隊は神聖教会総本山へと進軍を開始した。



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[一言] クロス君なら自力でなんとかしそうだが
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