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□■第3話 モンスター討伐任務■□


《銃士》マーレット。


《剣士》ジェシカ。


《格闘家》ミュン。


 冒険者ライセンス取得直後、三人の女の子達によって構成されたパーティーに勧誘されたクロスは、彼女等とともに早速任務へと挑むことになった。


 内容は、モンスターの生け捕り任務。


 都から出て、少し先にある農村の外れに、モンスターが出現したらしい。


 村人から、モンスターの討伐をして欲しいと依頼が入ったのだ。


 村の家畜を襲う凶暴なモンスターなのだという。


「それでも、相手は一体だけ。私達でも十分達成できるはずです!」


 農村で村人と話を交えた後、一行は対象のモンスターが潜んでいるという現場へと向かう。


 その最中、パーティーのリーダーで《銃士》のマーレットが、クロスに意気込みを語る。


「その上、クロスさんのような回復・補助を担う方がいてくれるんですから、何も心配ありません!」


 マーレットは興奮気味だ。


「今まで、支援系の冒険者の方を勧誘しても、誰にも仲間に入ってもらえなかったので本当に助かります! 嬉しいです!」

「どうして、今まで仲間が見つからなかったんですか?」


 クロスが問い掛ける。


「募集や声掛けはしてたんやけどねぇ」


 先を行くミュンが、頭の後ろで手を重ね、空を仰ぎながら答える。


「まぁ当然、誰にも彼も相手にされへんのや」

「何故です?」

「若い女だけのパーティーだ。どいつもこいつも舐めて見て来る」


《剣士》のジェシカが、クロスに鋭い視線を向けながら言う。


「お前だって、内心では私達のことを見下しているだろう」

「ジェシカさん! す、すいません、ジェシカさん、男性の方が苦手というか……」


 ペコペコと頭を下げるマーレットに、クロスは「いえいえ」と苦笑を返す。


「クロスさん、本当にありがとうございます。こうして、私達の仲間になってくれて」


 そこで、マーレットは今一度そう呟いた。


 何度も、本当にクロスが加入してくれた事が嬉しいようだ。


「でも、本当に僕でよかったんですか? 入ったばかりで、冒険者の事なんて右も左もわからない新人ですし、足を引っ張るかも……」

「安心してください! クロスさんは、何があっても私が守ります!」


 ふんす! と、マーレットは宣言する。


 気合抜群である……のだが、そんな彼女の様子に、クロスは若干心配になる。


『大丈夫ですか? この子』


 背後から、エレオノールの声が聞こえる。


 どうやら、女神様も同意見のようだ。


『パーティーリーダーとしての気合は十分ですが、ちょっとガチガチというか、気負い過ぎというか……』

「………」


 クロスは考える。


 話を聞くに、どうやら彼女達はまだ若い女性だけのパーティーということもあって、男の冒険者達にまともに相手にしてもらえずに来たようだ。


 だから、クロスが仲間入りしたことに、マーレットは過剰なほど喜び、ジェシカは疑心暗鬼で敵意を見せているのだろう。


「どういった理由であれ、せっかく僕を加入させてくれたんです」


 彼女達の足を引っ張らないよう、少しでも役に立ちたい。


 クロスは、素直にそう思った。


 そうこう話している内に、一行は現場に到着する。


「いたぞ」

「うわ、思ったよりデカいんやな」


 平原の真ん中に、巨大蜘蛛のモンスター、《ガルガンチュア》がいた。


 近くの村でも家畜の被害が出ており、冒険者ギルドに討伐の依頼が入った怪物。


 ガルガンチュアがこんな場所に出没するのは初のことのようで、珍事なのだという。


 しかも、通常なら犬くらいの大きさと言われているが、この度出現したガルガンチュアは牛ほどの大きさがあると村人から報告があったそうだ。


 そのため、冒険者ギルドは調査のため、それを生け捕りにして欲しいといっている。


 それが、今回の任務の内容である。


 牛程の大きさがあり、八本の足を稼働させ動く巨大な紫色の蜘蛛。


 体表からは、獣毛が生えている。


 潜んでいる……と聞いていたが、こんな日の当たる平原の真ん中に姿を現しているのは、どうやら食事中だからだろう。


 おそらく、野犬か……捕獲した獲物を食らっている。


 その光景は、かなり不気味だ。


「よし、話し合った通り陣形をとりましょう」


 マーレットが指揮を執る。


 前衛に《剣士》ジェシカと《格闘家》ミュンが出て、ガルガンチュアと応戦する。


 マーレットとクロスは後衛に回り、マーレットがクロスを守る形となる。


 クロスは回復魔法、補助魔法で随時後方支援を行う。


「大丈夫です。クロスさんは、何があっても私が守りますから」


 再び、マーレットはクロスにその言葉を投げ掛ける。


 やはり過保護が過ぎる気もするが、クロスも冒険者としてはまだまだ初心者だ。


 ここは大人しく、言われた通りにする。


「行くぞ、ミュン」

「はいよー」


 かくして、戦闘が始まった。


 野犬を捕食中で油断していたガルガンチュアに、ジェシカとミュンが攻撃を仕掛ける。


「ギォオオオオ!」


 突如襲いかかってきた冒険者達に、ガルガンチュアは動揺しながらも金切り声で威嚇をする。


 オレンジ色の八つの目をギョロつかせ、前足を振るってくる。


 ガルガンチュアの足の先端は、ツルハシのように鋭利だ。


 しかし、その攻撃を躱しながら、ジェシカは大振りな剣戟を打ち込み、ミュンは軽やかなステップで蹴りを打ち込む。


 ヒットアンドアウェイで、徐々にダメージを蓄積させていく。


「グォオオオオ!」


 混迷し、無茶苦茶に足を振るって暴れ出したガルガンチュア。


 その頭部に、炎熱の塊が炸裂する。


「グギィィィィィィ……」

「よし……」


 マーレットの構えた、《魔法拳銃》の銃撃だ。


《魔道具》――《魔法拳銃》は、火炎魔法に近い性質の弾丸を発射できる。


 ガルガンチュアに対しては、頭部の表面を焼け焦げさせる程度のダメージだが、応援としては十分だ。


「クロスさん、安心してください。かなり順調です」


 マーレットは、前を見据えたまま微笑む。


 彼女の言うとおり、戦況は優勢だ。


 このパーティーのメンバー達は、ランクこそFだが実力は確実にある。


 クロスは黙って、状況を見守る。


 その時だった。


「キシャアッ」


 金切り声が、間近から聞こえた。


 クロスが視線を向けると、近くの木の影から一匹のガルガンチュアが飛び出してきた。


 八本足を疾駆させ、まっすぐこちらに走って来る。


「ガルガンチュア!? もう一体!?」


 マーレットが驚きの声を上げる。


 瞬く間、もう一体のガルガンチュアはクロス達のもとに到達し、前足を上げて襲いかかってくる。


『もう一匹来ましたよ、クロス! うぎゃあ、キモイ!』


 襲い来るガルガンチュアを見て、エレオノールが女神にあるまじき声を発して騒ぎ出す。


「大丈夫です、女神様」


 一方、クロスは冷静に、即座に応戦の態勢に入る。


 ――が、その時。


「クロスさん! 危ない!」


 クロスの前に、慌ててマーレットが飛び出した。


 周りが見えていないように、焦燥感を露わに、両手に握った《魔法拳銃》を構える。


 引き金が引かれ、発射された炎熱弾が目前のガルガンチュアに至近距離で炸裂。


 爆発音を上げて、土煙が上がった。




 +++++++++++++




「うっ……ごほっ、ごほっ……クロスさん! 大丈夫ですか!?」


 もうもうと立ちこめる砂埃の中、マーレットが咳き込みながら問い掛ける。


 しかし、左右を見回しても茶色い風景ばかり。


 二匹目のガルガンチュアが、目と鼻の先に潜んでいる可能性もある。


 マーレットは警戒をしながら、土煙の中、クロスの姿を探そうとする。


「クロスさん! 待っててください、今――」


 その時だった。


 マーレットの足下の地面が、ボコッと盛り上がった。


「え――」


 気付いた時には、地面を突き破って巨大な紫色の足が飛び出し、オレンジ色の目をした巨大蜘蛛が、眼前に姿を現す。


(――ガルガンチュア――攻撃を受けた痕がない――三匹目――)


 思考を巡らせるマーレットに、前足が振り下ろされる。




 ――その一閃は、彼女の腹部に突き刺さった。




「あ――」


 体を貫通する衝撃。


 マーレットの体が地面の上に背中から落ち、バウンドする。


 天を仰ぐように横たわって、呼吸が出来ないことに気付く。


 お腹が、燃えるように熱い。


 血が流れ出していくのを感じる。


(……私……食べられちゃうのかな……)


 自分を見下ろすガルガンチュアを見ながら、そんな暢気な事を考えてしまうのは、きっと思考がまともに働かなくなってしまっている証拠だろう。


「……ごめんなさい……ジェシカさん、ミュンさん……」


 冒険者ギルドで出会い、同じような苦難を乗り越えてきた彼女達と心を通わせ、共に頑張ろうとパーティーを組み、自分はリーダーの立場を買って出た。


 ジェシカは気高く、ミュンは明るく、何より強い二人は、マーレットにとって憧れの対象だった。


 そんな彼女達に恥じない存在になりたい――だから、リーダーという重責をあえて担った。


 モンスター討伐の任務に挑むために、このチームに欠けているのは補助と回復。


 必死に仲間を募った。


 しかし、新人の上、若い女だけで構成されている自分達のパーティーは、男性の冒険者達に見下されているようだ。


『俺に仲間に入ってくれ? 笑わせるな。お前達のパーティーなんかに入るわけないだろ』

『女だけ、しかも全員Fランクの新人。大した実績も無い。もう少し実力を付けてから出直してきな』

『もし有名になったら、こっちから入れてくれって頭下げに来てやるよ』

『入ってやってもいいぜ? サービスしてくれんならな』


 誰にも相手にされなかった。


 時々加入したいという人もいたが、報酬の取り分を吹っ掛けられたり、それ以外の見返りを求められたりもした。


 懸命に勧誘しても、仲間が見付からなかった。


 そうして、リーダーとして不甲斐無さを覚えていた時に、クロスに出会った。


 年上だが、今日冒険者になったばかりの新人……何より、こんな自分に付いて来てくれたのだ。


「……絶対に、守るんだ……」


 しかし、ガルガンチュアの一撃で深い傷を負ったためか、指先も震えるばかりで動かせない。


 そんなマーレットに、三匹目のガルガンチュアは容赦無く前足を振り下ろす。


「……ごめんなさい、みんな……」


 役立たず、不甲斐ない……リーダー失格だ――。


 マーレットは涙の浮かんだ双眸を閉じる。




 ――瞬間、一閃の光がガルガンチュアの頭を切り飛ばした。




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