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□■第31話 クインレイブン■□


「友達が……魔獣……」


 クロスの友達が魔獣という発言に、その場の全員がポカンとする。


「ええと、魔獣が……お友達? だったんですか?」

「ええ」


 さも当然と頷くクロス。


 そんな彼を見て、皆は絶句するしか無く、今更ながら《邪神街》時代のクロスがどういう生活を送っていたのか気になってしまう。


 現在、《邪神街》で最大の獣人派閥である狼獣人の一派を取り纏めるボス、ベロニカとも友達だったというし……。


「子供時代のクロスさんって、一体どのような友達と一緒に過ごしていたんでしょうか……」

「気になるが、今はまず、この魔獣だ」


 ヒソヒソと囁き合った後、マーレットとジェシカは振り返る。


「ピギャッ!」


 クロスの手の中で、小さな黒い塊――クインレイブンが暴れている。


 体の大きさはスズメ程度で、まだ幼体だと思われる。


 しかし、このクインレイブンが、自身の魔力を使いあのナイトレイブン達を従えて使役していたというのなら、見過ごすわけにはいかない。


 放っておけば、十分脅威になり得る存在だ。


「この魔獣、どうしましょう……」

「こんなに小さくても、またナイトレイブンを配下にして暴れ回る可能性がある。適切な流れで行くのであれば……」


 ジェシカは、腰から剣を抜く。


「この場で駆除すべきだろう」

「まぁ、そうなるわな」


 相手は、まだ雛鳥の魔獣。


 しかし、危険と見なされれば処理される。


 これは仕方がない事だ。


「あ、待って下さい」


 そこで、クロスが提案をする。


「駆除する前に、一つ、試してみたいことがあるのですが」


 そう言うと、クロスは自身のコートの内ポケットを探り、あるものを取り出す。


 それは、薬品の入った細いガラスの瓶だった。


「それって……」

「実は先日、指名手配犯のグスタフを捕まえた後、《邪神街》にある彼の隠れ家で捜索が行われたんです」


 クロスは経緯を説明する。


 クロスがガイドとして窓口になり、獣人達とガルベリス率いる王国騎士団が協力し、グスタフの隠れ家に何か残されていないか、捜索がされたのだ。


 結果、隠れ家からいくつかの薬品が見つかった。


 クロスも、発見された薬品類の情報をガルベリスから伝えられていたのだが……。


「それで、これはその中から見付かったものの一つで、資料によるとモンスターと会話が出来るようになる薬品なんだそうです」


 グスタフは、モンスターを成長させたり、支配したりする薬品を作っていた。


 この薬品は、それらを作成する一環で生み出されたものなのかもしれない。


 で、その薬品を、今回クロスはガルベリスから譲り受けることができたのだという。


「無理を承知でお願いしたのですが、ガルベリスさんが手を回して譲ってくださったんです。個人的な、感謝の気持ち、ということで」

「まぁ、モンスターと会話ができるようになる、というくらいならそこまで脅威になり得るものでも無いですしね。クロスさんを信頼しての事だとも思いますが……でも、どうしてクロスさんはその薬品を欲しがったんですか?」

「その理由は、また追々。それで、今回ちょっと試してみたい事というのは……」


 クロスは、手の中のクインレイブンを見る。


「魔獣にも、この薬品が効くのか試してみたいのですが、構いませんか?」


 クロスの手に入れた、モンスターと会話が出来るようになるという薬。


 グスタフが残した手記に寄れば、モンスターのみならず、魔獣とも会話ができるようになるかもしれない、と残されていたそうだ。


「意思疎通が出来れば、もう悪さをしないように説得ができるかもしれません」

「なるほど……」

「まぁ、このままやとどっちにしろ駆除対象なんやし、試してみる価値はありそうやな」


 皆から了承を得ると、クロスはクインレイブンに薬品を飲ませる。


「ぴぎゅ、ぴぎゅ……」


 薬を飲んだ後、クインレイブンは甲高い鳴き声を発する。


 やがて……。


『うぎゅ……まずい……このバカ人間め、妾に何を飲ませたのじゃ』


 と、言葉を発した。


「喋りました!」

『……む? なんじゃ、なんだか変な感じじゃの』


 驚くマーレットの一方、小さなクインレイブンは、クロスの手の中で首を傾ける。


「初めまして、クインレイブンさん、僕はクロスです」


 そこで、クロスがクインレイブンと会話を試みる。


『ぬぬ? お主、妾の言葉がわかるのじゃ?』

「ええ、今飲んでもらった薬のお陰で、お話ができるようになったんです」

『ふぅむ、妙な感じじゃ』


 クインレイブンは、キョロキョロとクロス達を見回す。


『それで、人間、いつまで妾を捕まえておるのじゃ、さっさと解放せよ』

「なんだか、高飛車ですね」

「正に女王様やな」


 クインレイブンの言葉遣いに、マーレットとミュンはちょっと笑いながら反応する。


『何がおかしいのじゃ、下等な人間共め』

「クインレイブン、貴様に聞きたいことがある」


 そこで、ジェシカが会話に参加してきた。


「あのナイトレイブン達を使役していたのは、お前の力か」

『妾の下僕達のことじゃ? 無論、妾の力で支配しておったのじゃ。まったく、よくも消滅させてくれたな』


 やはり、あのナイトレイブン達を操っていたのは、このクインレイブンの魔力によるものだっ

たらしい。


「ナイトレイブンを使い、貴族の輸送車を襲ったのは何故だ」

『貴族? そうなのか? 妾は、何か食い物でも積んでいるのかと思って襲わせたのじゃ。だが、そうしたら美しい財宝が山のように出てきてのう』


 クインレイブンは、どこかうっとりした表情をする。


『財宝を中心に巣を作らせたのじゃ。この妾こそ、財宝に囲まれ暮らすに相応しい存在であるからのう』


 随分、セレブな魔獣である。


「クインレイブンさん、お願いがあるのですが」


 そこで、クロスはクインレイブンに、ナイトレイブンを操り無闇に人間や、人間が関わるものに襲い掛からないよう、お願いをする。


『や、じゃ』


 しかし、クインレイブンは、ふんっと顔を背ける。


『何故、妾が貴様等のような下等な人間の願いを聞かなければならないのじゃ』

「言うことが聞けないのであれば、この場で首を切り飛ばすだけだぞ」


 ジェシカが剣先をクインレイブンに向ける。


『ふんっ! 高貴たる妾が、貴様のような尻の青い小娘の脅しに屈するものか! このブスめ! ブース! ブース!』

「クロス様このカラスを放してくれ今すぐ八つ裂きにしてやる」

「確かに酷い言葉使いですが、落ち着いて下さいジェシカさん」

「どうどう、ジェシカ、どうどう」


 なんとか、皆でジェシカを宥める。


『む……しかし、お主……』

「はい?」


 そこで、クインレイブンは、クロスを見上げて何やら言葉を濁す。


『なんじゃろう……お主を見ていると……何か、変な気持ちになる』


 クインレイブンは、クロスを前にうんうんと不可思議そうに唸る。


 どこか、気に掛かるというか、そんな感情が見て取れる。


『血が騒ぐというか……お主、妾の夫になるのじゃ?』

「え?」

『はっ! 妾は何を!? 何故、妾がこんな人間如きに求婚を……』


 自分の発言に、クインレイブンは驚いている。


『うむ、しかし……なんじゃ、お主の中から、何か途轍もない、魔力の波動を感じるというか……お主、本当にただの人間か?』

「ええと、ただの人間ではないです。魔族とのハーフです」

『そうなのか、だからなのか……いや、しかし、ただ魔族の血が混ざっているというだけでは、妾のこの鼓動の高鳴りは……』


 うーん、うーん、と唸るクインレイブン。


「あの、クインレイブンさん。再三になってしまいますが、僕達からのお願いを聞き入れてくれませんか?」


 クロスは、そこで再度説得を試みる。


「無闇に人間の荷車や輸送車を襲うのを止めてもらえませんか? もし、何か困ったことがありましたら、僕が助けになりますので」

『う、むぅ……仕方がない、お主の願いなら、渋々了承してやろう』


 しかし――と、クインレイブンは続け。


『妾も自身の身を守らねばならない。無闇に人を襲うようなマネはせぬが、下僕を作って自衛くらいはするぞ』

「はい、わかりました」


 というわけで。


 今回の騒動の根本であるクインレイブンに、ひとまず、もう無暗に力は使わないと約束してもらうことはできた。


 クロスが彼女を解放すると、クインレイブンはパタパタと森の方へと飛んでいった。


『……むぅ』


 少し、クロスのことが気に掛かるのか――後ろ髪を引かれるような表情で。




 +++++++++++++




 かくして、クロス達は冒険者ギルドへと帰還する。


 受付嬢リサに一連の報告を行い、討伐した三体のナイトレイブンの《魔石》を提出。


 更に、魔獣クインレイブンにお願いを聞き入れてもらい、誓いの印にもらった黒い羽を一切れ、一緒に渡す。


 無事、任務は達成扱いとなった。


 さて――もう一つの問題である、アルマ達の件だが……。


「私が甘く見ていたわ」


 アルマは、反省した様子でクロス達に言った。


「自分の力を過信していた。クロス神父達の助けがなければ、今頃命が無かったかもしれない」

「アルマさん……」

「一から功績を積んで、クロス神父のランクに追い付く。そこで、改めてパーティー加入の申し出をさせてちょうだい」


 アルマは、真剣な表情でそう言った。


「ウナも、アルマさんと一緒に一から頑張ってランクを上げていきます」

「サナも、アルマさんとウナと一緒に頑張ります」


 ウナとサナも、アルマと一緒に頑張ると決意表明。


「意外と、話のわかる人達でしたね」

「だな」


 そんなアルマ達に、マーレット達も安堵の様子だった。




 +++++++++++++




「ふぅ……」

『お疲れ様でした、クロス』


 その夜。


 クロスは、自宅へと帰ってきた。


 自室のドアを閉め、来ていたコートを椅子の背もたれに掛ける。


 そんなクロスに、エレオノールが労いの言葉を向ける。


『大変な一日でしたね』

「ええ、まさか、シスター・アルマが僕を訪ねてくるなんて――」


 すると、そこで呼び鈴が鳴る。


「ん? 誰でしょう、こんな夜中に……」


 クロスは、部屋の扉を開ける。


「ごきげんよう、クロス神父」


 アルマが立っていた。


「アルマさん……どうしてここに」

「私には、この都で帰る家が無いわ」

「ウナさんとサナさんは?」

「宿に泊まっているわ。でも、やはり私はクロス神父の傍に居ないと、ダメなようなの」

「それで、まさか僕の後を付けてきたのですか……」

「クロス神父の家に、一緒に住まわせてもらえないかしら」


 そう、アルマは申し出る。


「お願い、クロス神父」


 熱い眼差しを向け、アルマは言う。


「私の体は、もうあなた無しでは生きていけないの」



 ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。


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