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□■第30話 ナイトレイブン■□


 アルマの作り出した穴を下り、地下に立つクロス達。


「では、私が《創造》でトンネルを掘っていくわ。出来れば、明かりを用意しておいて欲しいのだけど」

「じゃあ、僕の《光球》で照らします」


 あれよあれよという内に、アルマが《創造》の魔法で地中にトンネルを作成していく。


 ちなみに、ウナとサナは先程いた場所で待機している。


「私も、念のためここにいよう」と、ジェシカが彼女達のボディガードを買って出てくれた。


 トンネルの中を、アルマを先頭に、クロス、マーレット、ミュンが進む。


「ほ、本当にプロが建造した地下トンネルみたい……」


 滑らかに加工された内壁を見て、マーレットが驚く。


 アルマの《創造》魔法は、それだけ精巧に素材からものを生み出すことができるのだ。


「この辺りね」


 徐々に地中を掘り進んで行く――すると、ある地点に達したところで、アルマが足を止める。


 彼女の目前に、木の根っこが見える。


 ナイトレイブンが根元に巣を作った、あの巨木のものだろう。


 即ち、この真上にナイトレイブンの巣があるようだ。


「ほんの数メートル上に、あのモンスター達がいるんですね……」


 マーレットが油断なく、腰の《魔法拳銃》に指を掛ける。


「アルマさん、ここからはどのように?」

「こうするの」


 アルマは、トンネルの天井に手を翳す。


 そして、意識と魔力を全力で込めるように、集中する。


 数秒後、頭上――地上の方から、何やら雄叫びが聞こえた気がした。


 あのナイトレイブン達の叫び声だろうか。


「何をしたんですか? アルマさん」

「土を変形させて、地上にトゲ山を作ったの」


 あたかも、塀や屋根に鳥が滞在しないように作る鳥避けの有刺鉄線のように、土を加工してトゲ山を出現させたのだという。


 それに驚き、ナイトレイブン達は飛び上がったのかもしれない。


 かなり力を使ったようで、アルマの頬を汗が伝っている。


「まだよ」


 アルマは、更に力を使う。


 すると、彼女の頭上に穴が生まれていく。


 縦穴が生じていき、地上にまで達し、日の光が入り込んでくる。


 同時、そこはナイトレイブン達の巣の真ん中だったようで、財宝の詰まった木箱が穴の中に落下してきた。


「おお!」


 ドサドサッと落ちてきた回収対象に、ミュンが驚嘆の声を上げる。


「穴はすぐに塞ぐわ」


 アルマは、即座に地上へと手を翳す。


 木箱の落ちてきた穴が、徐々に塞がっていく。


「す、すごい、こんなに簡単に……」

「どう?」


 頬に汗を伝わせながら、アルマが得意げに言う。


「これで、私が役に立つということが証明――」


 その瞬間だった。


「ギィィィイイイイイ」


 頭上に空いた穴――ゆっくり塞がっていく途中だった穴に、一羽のナイトレイブンが頭をねじ込んできた。


「な……」


 一羽だけではない、二羽目、三羽目も、無理やり穴に体をねじ込んでくる。


 地上に突き出たトゲも意に介さず、一心不乱に。


 まるで、何かに取り憑かれたように。


「そんな――」


 力任せに穴を押し広げ、体に突き刺さったトゲもそのままに、地中へと落下してくるナイトレイブン達。


 その予想外の行動に、アルマが驚愕する。


 そんなアルマに、ナイトレイブン達がくちばしを広げ、雄叫びを上げて襲い掛かる――。


「アルマさん!」


 襲来したナイトレイブンの一体に、マーレットが《魔法拳銃》の一撃をお見舞いした。


 爆炎が上がり、衝撃でアルマは腰を落とす。


 瞬時、ミュンがアルマを助けようと飛び出す――が、他の二羽が彼女の前に立ち塞がる。


「ギィイイイイイイイ」


 その間に、頭部が半壊したナイトレイブンが、アルマの体を足で捕らえた。


「あぐっ」


 腰に食い込む爪。


 その握力に、アルマが悲鳴を上げる。


 瞬間、そのナイトレイブンが飛翔する。


 縦穴に体をぶつけながら地上の穴を抜け、そのまま空高く飛翔していく。


 一瞬の出来事だった。


 どんどん地上が離れていく。


「く、うぅ」


 アルマは、腰を掴まれた状態でなんとか体をねじり、暴れる。


 爪が柔肌に食い込み、激痛が走る。


 本来なら、彼女の抵抗程度ではナイトレイブンは爪を離さなかっただろう。


 だが、マーレットの銃撃によりダメージを受けていたのが影響していた。


 暴れるアルマの体を、ナイトレイブンは離してしまった。


 爪先が修道服の腰を引き裂き、アルマの体は自由になる。


 しかし、そこは地上数十メートルの、上空。


「あ」


 アルマの体が、無重力の中に投げ出される。


 空中では、どうすることも出来ない――。


 アルマの頭に、死の予感が過ぎる――。


 ――瞬間、眼前のナイトレイブンの体が、光の一閃で両断された。


 悲鳴を上げる間もなく、胴体が二つになり、ナイトレイブンは瘴気となって拡散しながら落下していく。


 そして、アルマの体を、力強い腕が抱き締めた。


「アルマさん、もう大丈夫です」

「クロス神父……」


 空中でアルマを抱きかかえたクロスは、そのまま地上に落ちていく。


 そして地面に激突する寸前、《光膜》をクッション代わりに衝撃を殺し、無事着地を果たした。




 +++++++++++++




「クロスさん!」


 地上へと戻ったクロス達の元に、マーレットとミュン、ジェシカにウナとサナ――皆が集まって来る。


「アルマさんは!?」

「無事です。負傷も、大事に至るようなものではありませんでした」


 修道服の一部は破れてしまったが、腰に負った裂傷は、そこまで深くなかった。


 クロスが軽い《治癒》を施し、今は無傷である。


「うえーん、アルマさん!」

「よかったです!」


 ウナとサナが、涙を浮かべてアルマに抱きつく。


「でも、クロスさん、よく追い付きましたね」

「せやな。地下の二匹はウチ等で倒せたけど、地上に飛んでった一匹は完全に追い付けると思えへんかったし……」


 アルマを攫ったナイトレイブンが飛び立つまで、一瞬の出来事だった。


「あんなん、最初からわかってないと動けへんやろ」

「はい、その通りです」


 そんなミュンに、クロスが説明する。


「でも僕は、なんとなく、あの場面でそうなる事を予想していたんです。あのナイトレイブン達が、財宝を奪ったアルマさんを襲うか、攫おうとするんじゃないか、と……あくまでも予想だったので、完璧には対応できなかったのが悔やまれるところですが」

「え?」

「予想……できてた、って」


 思い掛けない発言に、マーレットとミュンが驚きを見せる。


 クロスは、説明を続ける。


「おかしいと思ったんです。何故、このナイトレイブン達は奪った財宝を中心に巣を作っていたのか。光物が好きだという習性によるものと思っていたんですが、なんとなく、それ以外の可能性を考慮していたんです。そもそも、最初、狡猾で用心深く、知恵のあるナイトレイブンが人間の輸送車を襲ったという点でも、違和感がありました」


 クロスは、アルマの体を上から下へと見回しながら説明していく。


 アルマは「?」と、自分の体を探るクロスにビックリしながらも、されるがままになっている。


「つまり……どういうことですか? クロスさん」

「このナイトレイブン達は、操られていたんです。輸送車から財宝を奪ったのも、その財宝を横取りしたと思ったアルマさんを真っ先に攻撃したのも、その“主”の指示です」

「それって……」


 問い掛けたマーレットの頭に、先日の《魔道具》研究家――グスタフの姿が浮かぶ。


「あの、指名手配犯のように……」

「いえ、犯人はそれとはまた異なる存在で……あ、やっぱり」


 そこで、クロスがアルマの背中を見て、何かを発見する。


「見付けました、犯人です。おそらく、財宝と一緒に落下してきて、その際にアルマさんの体に引っ掛かったのかもしれません」


 アルマが振り返り、皆がそれを見る。


 一匹の、小さなカラスが、アルマの修道服の背中部分に爪を立ててくっ付いていた。


 手に乗るくらいの、本当に小さなカラスだ。


 真っ黒いヒヨコにも見える。


「これは……モンスターか?」

「いえ、違います」


 ジェシカへと、クロスが言う。


「これは、魔獣です。《クインレイブン》と呼ばれる、ナイトレイブンを使役する力を持つ魔獣の幼体です」

「ま、魔獣!?」


 その単語に、皆が驚きの声を上げた。


 魔獣。


 それは、モンスターとは違い、自然災害ではなく生物に分類される存在。


 そして、モンスターよりも希少で危険視される存在である。


 その最大の理由は、魔獣は魔力を持ち、魔法を使用する種族がいるためだ。


「魔獣……初めて見ました」

「ウチも、全然わからんわ……詳しいんやね、クロやん」

「はい、ちょっとだけですけど」


 クロスは微笑みながら言う。


「《邪神街》で暮らしていた頃、仲の良かった友達の一人が魔獣だったんです。なので、少しだけ教えてもらった知識がありまして」

「友達“が”……魔獣?」



 ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。


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