□■第29話 アルマの魔法■□
クロス達は、受付嬢リサから事のあらましを聞いた。
今回の任務は、ある貴族の所有する財宝の回収。
そもそもの発端は、その貴族が、娘の結婚を祝し所有する財産の一部である財宝を娘夫婦の新宅へ贈った事が発端だった。
その財宝の輸送中、輸送車がモンスターに襲われたのだ。
モンスターの名は、《ナイトレイブン》。
大型の、巨大なカラスに似たモンスターである。
そのモンスターの攻撃により、輸送車は破壊され、中に積まれていた財宝も投げ出され放置される形となってしまった。
結果、その財宝はナイトレイブン達に奪われ、しかも縄張りとされてしまったのだった。
「カラスは、光るものが好きやっていうしな」
「その財宝を気に入っちゃったのかもしれませんね」
ミュンとマーレットが、そう会話を交えていた。
そんな経緯があり、冒険者ギルドは、財宝の回収を件の貴族から依頼される形となったのだ。
「モンスターの討伐も要する、財宝の回収任務――当初設定されたランクは、Eでした」
しかし、そのナイトレイブン達が思いの外手強かったらしい。
挑戦した冒険者達が返り討ちに遭い、そのためランクが上がり、今ではCランク任務。
貴族も、娘夫婦への祝いの財宝を無事回収し、早く渡したいのだろう――ランクの上昇に伴う依頼金の支払いは、難なく飲んでくれた。
問題は、誰が挑戦するのか――ということ。
そこで今回、新進気鋭のクロス達パーティーに、白羽の矢が立ったのである。
「あれが……か」
――さて。
ここは都からしばらく離れた場所にある、丘陵近くの街道沿い。
『モンスター出現につき、通行止め中』のバリケードを越え、現場へとやって来たクロス達一行は、草むらの影から今回の討伐対象を確認する。
巨木の根元近くに、巨大なカラスが三羽。
木の枝や蔦を絡め作られた巣の周囲を徘徊している。
その巣の中に、高級仕立ての木箱が幾つもあり、開いた蓋の中から財宝が顔を覗かせている。
どうやらあれが、ナイトレイブン達が奪った貴族の財宝と見て間違いないようだ。
「話に聞いていた通りの外見ですね」
マーレットが呟く。
ナイトレイブン。
巨大なカラスの姿。
夜闇のような漆黒の全身。
艶のある羽に、鋭いくちばし。
ガルガンチュアやソードボアのように、怪しく煌々と輝く丸い目。
光り物を好むという特徴は、普通のカラスと一緒のようである。
そして、カラス同様、頭の良いモンスター。
「返り討ちに遭った冒険者達も、単純な力のぶつかり合いでは無く、どこか翻弄される形でナイトレイブン達にやられたそうだ」
ジェシカが油断なく剣の柄に手を置きながら、対象を睨む。
「離れませんね……」
クロスも、ナイトレイブン達の動きを探る。
財宝のある巣から、ナイトレイブン達は離れようとしない。
時々、一羽が餌を採りに行くためなどに離れることもあるが、その時には必ず二羽は残っている。
全員が、巣から離れるタイミングが無い。
このまま攻撃しようとすれば、あの財宝を傷付ける可能性もある。
「ナイトレイブン達をおびき寄せて、その間に財宝を無事回収……その後、駆除、っていう流れが適切そうやな」
ミュンが唇に指先を当てながら、そう思考する。
第一優先は、財宝の奪取。
しかし現状、そのためにはモンスター達をどうにかしなければ回収は困難。
だが、向こうも用心深く狡猾なモンスターだ。
挑発したりしたとしても、簡単に全羽が巣を離れるとは思えない。
それは、他の冒険者達も試したはずだ。
悩む一同。
「ちょっと、いいかしら」
そこで、口を開いたのはアルマだった。
遂先程→つい先程、新人冒険者に登録したばかりのアルマと、付き添いのウナとサナも、見学も兼ねてこの任務に同行している。
「要は、あの鳥のモンスター達に気付かれること無く、財宝に接近し回収できればいいのよね?」
「え? ま、まぁ、そうですけど……」
マーレットが答えると、アルマはそこで、地面に手を置いた。
「ええと、何を……」
「私は、このパーティーに入りたい。その為に、ランクこそGだけど、あなた達Cランクの任務にも挑めるだけの力があると証明したいの。見ていて」
そう言い終わった後、アルマはクロスを見上げる。
「クロス神父なら、私の狙いがわかるでしょう?」
「……そうか」
アルマの意図がわかったのか、クロスは頷く。
「アルマさんの狙いがわかりました」
その言葉に、アルマはちょっと嬉しそうに微笑んだ。
『おやおや、以心伝心っぷりをにおわせてますよ、このシスター。他のヒロイン候補達にバチバチ牽制してますね』
後ろでエレオノールが呆れながら言う。
「すいません、クロスさん、彼女は何を……」
アルマの行動の意味がわからず、疑問を抱くマーレット達。
「説明します」
そんな彼女達に、クロスが言うのと、同時だった。
アルマの全身から、白色の光が沸き立った。
同時、彼女の手が触れている地面から、音が聞こえる。
カチャカチャと、まるで積み木が分解されていくような、組み上げられていくような、そんな音。
「アルマさんは、世にも珍しい《創造》の魔法の使い手なんです」
「……《創造》の魔法!?」
マーレットを初め、ミュンも、ジェシカも驚く。
魔法の知識にそこまで精通していない彼女達でも、その名前くらいは知っている。
「と、ということは……彼女はあの名門貴族、スカーレット家の……」
「ええ、血族の一人と聞いています」
《創造》魔法の使い手は、この国では名門貴族、スカーレット家の血筋の人間だけと言われている。
逆に、スカーレット家はその血の特異性と功績だけで、貴族の地位を手にしているのである。
「す、凄い方だったんですね……」
「ええ、しかもアルマさんの凄さはそれだけではありません」
通常、《創造》の魔法は、その構造まですべてを細かく把握していなければ精巧なものは作れないと言われている。
故に、例え魔法の才能があっても、それを駆使するだけの頭脳が必要なのだ。
しかし、アルマ――彼女は《創造》を使う際、特に具体的に考えず、センスだけであらゆるものを作り出す事ができるのだという。
完全な天才だ。
「なので、教会でもシスター達からカリスマ的人気があったんです」
「へぇ……凄いですね」
マーレットが感嘆の声を漏らす。
「でも、そんな凄い人が、言っちゃあなんやけど、どうして神聖教会のシスターに就いたんやろ」
「うむ……それこそ、貴族の称号だけで生きていけると思うが」
一方、ミュンとジェシカがそう漏らす。
「ええと、その点に関しては、深い事情があるといいますか……」
「できたわ」
そんな会話を交えている内に、アルマが《創造》を終えていた。
彼女の目前には大穴が空いており、その穴の底へと続く階段が見える。
プロの職人が土を掘り起こして固めて作ったかのように、精巧だ。
「これは……」
「ひとまずは縦穴よ。このまま底まで下りて、次は横穴を構築していくわ」
表情を変えること無く、アルマが説明する。
「そのまま地中にトンネルを作り、あのカラス達の巣の真下まで行く。そこから財宝だけを回収するの。カラス達の意表を突いて、即座にね」
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。
本作について、『面白い』『今後の展開も読みたい』『期待している』と少しでも思っていただけましたら、ページ下方よりブックマーク・★★★★★評価をいただけますと、励みになります。
また、感想・レビュー等もいただけますと、とても嬉しいです。
どうぞ、よろしくお願いいたしますm(_ _)m




