□■第27話 《シスター》アルマ■□
「さぁ、今日も張り切って任務に挑みましょう!」
昨日のわちゃちゃを経て、心機一転。
クロス達パーティーは、本日冒険者ギルドを訪れていた。
マーレットが、皆を意気揚々と鼓舞している。
「Cランク昇格後、初めての任務ですね」
クロスが、ミュンとジェシカを振り返って言う。
「せやな、ランクも上がったし、任務の難易度も毛色も結構変わるやろな」
「怖じ気づくな。我々なら、どんな困難も突破できる」
ジェシカが言うと、ミュンは「別に怖じ気づいてへんし」と、唇を尖らせる。
クロスは、そんな彼女達のやり取りを微笑ましく見ていた。
「おや?」
そこで、先行していたマーレットが何かに気付く。
担当受付嬢のリサに挨拶に行こうとしたところ、カウンターで何やら話し込んでいるようだった。
誰かと揉めているようにも見える。
「私はこの冒険者ギルドに所属している、ある冒険者に用があって来たの。その方の居場所を教えて欲しいだけよ」
「ですから、それは個人情報なので、ちょっと……」
「私は彼の知り合いなの。会えばすぐにわかってくれるわ」
「あらら、なんだか揉めているみたいですね……」
受付嬢リサと、カウンター前の人物は互いに譲らないようで、周囲にも聞こえる程の声でぶつかり合っている。
「ん?」
そこで、クロスが気付く。
リサと揉めている人物に、心当たりがあったのだ。
「シスター・アルマ?」
クロスが近付き、そう名を呼ぶ。
すると、彼女は振り返ってクロスを見た。
「わぁ……」
と、マーレットが思わず声を漏らすほど、整った顔立ちの女性だった。
身を包むのは修道服。
ベールの下には、流れるように輝く美しい銀髪。
クールで切れ長の瞳に、彫像のような無表情。
その女性は、クロスの姿を見ると、切れ長の瞳を少し大きく見開いて驚いていた。
「……クロス神父」
「シスター・アルマ、あなたが、どうしてここに?」
そして一方、クロスも驚いている。
「クロスさん。こちらの方が、クロスさんに会いたいとおっしゃって、現在の住所を教えて欲しいと譲らないのですが……お知り合いの方でよかったのですか?」
リサが困惑しながら問う。
「はい、彼女は神聖教会に所属するシスター、アルマさんです」
クロスは答える。
シスター・アルマ。
クロスの仕えていた神聖教会支部の同僚で、多くのシスター達から慕われているリーダー的立ち位置にいた人物だ。
「でも、どうしてあなたが……」
「クロス神父!」
「お久しぶりです!」
そこで、アルマの存在に気を取られていたクロスは、彼女の背後から二人の女の子達がひょこっと顔を出したのに気付く。
アルマと同じく修道服に身を包み、瓜二つの顔をした双子のシスターだった。
一方は右目を隠すように、もう一方は左目を隠すように前髪を流している。
「ウナさん! サナさん!」
またしても顔見知りが登場し、クロスは更に驚く。
ウナとサナ。
彼女達もクロスの同僚で、世にも珍しい双子のシスターだ。
「え? あの方達は……」
「クロやんの同僚、ってゆーてたな」
「神聖教会のシスターか……」
突如現れたアルマ達に、マーレット達も困惑している。
一方――。
「やっとお会いできたわ、クロス神父」
アルマは、クロスへと言う。
無表情で感情に乏しい彼女だが、どこか熱の籠もった視線を携えて。
「クロス神父が追放を言い渡されたとベルトル司祭が公表したとき、信じられなかった。生きた心地がしなかったわ」
「アルマさん……」
「私はそれから、クロス神父をなんとか神聖教会に戻すことが出来ないかと、ベルトル司祭に何度も抗議をし、対話を迫った。けれど、その度にはぐらかされ、何も話が進展しなかったの」
アルマは、キッと視線を鋭くする。
「流石の私も、遂に堪忍袋の緒が切れたわ。神聖教会を退会してきたの」
「……そんな」
アルマの言葉に、クロスはショックを受ける。
「まさか、ウナさんとサナさんも……」
「はい、そうです」
「自分達も、納得できなかったので」
ウナとサナも、ケロッとした表情で言う。
「どうして、そんな大変なことを……」
「無論、クロス神父への処遇に納得していないこと。何より、このままではいつまで経ってもクロス神父のお側に戻れないと思ったからこその決断よ」
「そんな、そんな事のために……」
「そんな事?」
アルマは、そこで初めて、彫像のように無表情だった顔を歪ませた。
「酷いわ……クロス神父」
そして、クロスの手を取り、ジッと目を見て言う。
「私は既に、あなたがいないと生きていけない体にされてしまったのよ」
「………ななな!?」
衝撃の発言が放たれ、背後で成り行きを見守っていたマーレット達が跳び上がる。
「い、いいい、今の発言って!?」
「く、くくくくくくくクロス様と、あのシスターは、一体どんな関係なのだ!?」
「お、おち、落ち着くんや二人とも、まだ慌てる時間じゃ無い……」
「シスター・アルマ……」
動揺する三人の一方、クロスは真剣な表情でアルマに言う。
「その件に関しては、僕も申し訳ないと思っています」
至って真面目な面持ちで。
「ですが、だからと言って僕が近くにいても、あなたの為にならない……」
「酷いですよ、クロス神父! アルマさんの気持ちも知らないで!」
そこで、後方からウナとサナが騒ぐ。
「そうです! クロス神父がいなくなって気付いたんです! アルマさんを満足させられるのは、クロス神父だけなんですよ!」
「な、な、何か凄い会話が聞こえてきませんか!?」
「あ、あのお二人は神父とシスターではないのか!? 神のお膝元で一体何を……」
「お、おち、落ち着くんや二人とも、まだ慌てる時間じゃ無い……」
マーレット達は更に混迷を極めている。
「クロス神父」
アルマは言う。
「もう、教会に戻る気はないの? もしもまた、神父として神職に勤める気があるのであれば、私も一緒に抗議するわ」
「ありがとうございます。ですが、今の僕にそのつもりはありません。神父服は、もう脱ぎました」
自身の身に纏った黒コートを見せて、クロスは言う。
「今の僕は、冒険者です。冒険者として生き、持った力を使って、小規模なところから人々の役に立っていく……そんな道を選びました」
「……そう、なのね」
アルマは、フッと視線を落とす。
落ち込んでいる、というわけではなさそうだ。
「もう、神父としてのあなたを見ることは、一緒に働く事はできないのね」
「アルマさん……」
「残念だけど、けれど、ちょっとだけ安心したわ。新しい生きる道も見付けられて、元気そうで何よりよ」
アルマは言う。
そんなアルマに、クロスは微笑む。
「……ところで、クロス神父の後ろにいる彼女達は何?」
そこで、アルマがマーレット達を見る。
「先程から、何やら騒がしいけれど」
「ああ、僕のパーティーです。今僕は、彼女達と一緒に任務に挑戦したり、色々とお世話になっているんです。言わば、共に仕事をするチームのようなものです」
「……チーム。皆、あなたよりも年下の女の子達に見えるけれど」
「はい。ですが、とても優秀で頼りになる方々ばかりです、ご紹介しますね」
「………」
そこで、アルマは無言のまま振り返って、受付嬢のリサに向き合った。
「え? アルマさん?」
「私も冒険者になるわ」
「……はい?」
アルマの突然の申し出に硬直する皆の一方、彼女は瞬く間に冒険者登録を進めていく。
それはもう、風のような速さで。
そして――。
「なったわ」
その手に持った冒険者ライセンスを見せ付け、アルマは言う。
Gランク――当然新入りだが、彼女も立派な冒険者となった。
そして、ポカンとするクロス達に、彼女は無表情のまま続けて宣言する。
「私も、あなた達のパーティーに加入するわ」
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