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□■第2話 冒険者ギルド■□


「ここが、冒険者ギルドですね」


 近場の大都へと到着したクロスとエレオノールは、早速冒険者ギルドを訪れた。


 立派な作りの木造の建物で、『冒険者ギルド』とこの国の言葉で書かれた厳かな看板が掛かっている。


 開けっ放しの入り口をくぐり、クロスは中に入る。


 広々としたエントランス。


 ギルド内のあちこちには、色んな冒険者達の姿が見当たる。


 テーブルに座って会議をしている者達。


 昼間から酒をあおっている者達。


 壁に張り出された依頼(クエスト)の手配書を眺めている者達。


 一緒に行動している者同士は、やはり皆パーティーなのだろうか?


 身に纏っている服装や装備、格好も様々。


 性別や年齢もバラバラで、冒険者が本当に自由な職種なのだということがわかる。


『クロス、感動している場合じゃないですよ』

「ええ、わかってます」


 自分も今から、そんな冒険者の端くれになるのだ。


 気持ちを入れ替えねば。


 クロスは早速、受付カウンターの一つに向かう。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件で?」


 カウンターの向こう――そこに立つ受付嬢が、恭しく頭を下げて出迎えてくれた。


 ボブカットの金髪に、ギルド職員の制服を纏った女性だった。


 表情は薄く、知的な印象を受ける。


「すいません、冒険者になりたいのですが」

「ご登録ですね、かしこまりました。では、こちらの登録用紙にご記入をお願いします。まずは、太い黒枠内の個人情報のみで結構です」


 カウンターに登録用紙が置かれる。


 クロスは備え付けのペンを持ち、名前等の個人情報を書く欄に記入していく。


「では、ここからは質問形式で必要情報を取得させていただきます」


 登録用紙を受け取った受付嬢は、淡々とした口調で言う。


 これは、もう既に採用面接が始まっている……?


 クロスは緊張し、身を引き締める。


「まず現在、冒険者以外にもご職業はお持ちですか?」

「あ、いえ、今は無職です」


 受付嬢は、「かしこまりました」と言って用紙に記入していく。


 冒険者は、既に別の仕事を持っている者でも副業的に行える仕事だ。


 それこそ貴族や商人なんかでも、傍らで冒険者をやっている人がいると聞いたことがある。


「では続いて――あなたの冒険者としての“スタイル”を教えていただいてよろしいですか?」

「スタイル……ですか?」

「ああ、申し訳ありません、そこまで深く考えなくても結構です。自分で、『何が出来るか』『こんな能力を持っている』など言っていただければ、こちらで相応しいスタイルを適用させていただきます。言わば、自己アピールですね」


 受付嬢の言葉に、クロスは顎に指を添えながら呟く。


「そうですね……神聖教会に所属していた神父なので、皆さんをサポートするような《光魔法》が使えます」

「へぇ、神聖教会の神父様だったのですか、凄いですね」


 受付嬢は、そこで初めて驚きの感情を見せた。


「でも、どうしてそのような方が神聖教会をお辞めになって、冒険者に?」

「いえ、ちょっと教会を追放(クビ)になってしまいまして……」

「え……」


 クロスが苦笑しながら言うと、受付嬢は半眼になった。


 少し、怪しんでいるような表情だ。


 しまった、とクロスは思う。


 神父をクビになったなんて言えば、よっぽど人格や素行に問題があったのではと思われても仕方がない。


 もう少し、よく考えて発言するべきだった。


「……まぁ、大丈夫です。冒険者になるのに、過去は関係ありませんので」


 硬直した空気を取り繕うように、受付嬢はニコリと笑った。


「冒険者は、それこそ王族だって貧民だって、誰にでもなれる職業ですので」

「はい、ありがたいです」


 職を失ったばかりの自分でも、食い扶持がもらえるのだ。


 そこは素直に感謝したい。


 何はともあれ、その後も幾つかの質疑応答とやり取り、登録費の支払い等を経て――。


「どうぞ。こちらが、あなたの冒険者ライセンスになります」


 遂に、クロスに冒険者のライセンスが発行された。


 一枚のカードが渡される。


「こちらは特殊な機能を持ったカードになっており、言わば、一種の《魔道具》のようなものになります」

「《魔道具》……」

「この冒険者ライセンスには、あなたの名前と現在の冒険者としてのランクが記載されております」


 カードにはクロスの顔の画像が複写されており、その横に名前。


 名前の隣には『G』というアルファベットが表示されている。


「それと、現在の職業欄には《神聖職》と書かせていただきました。こちらは、あくまでも自称になりますので、変更したい場合はいつでもこちらに来ていただければ受付可能です」


 では、登録は以上です――と、受付嬢は言う。


任務(クエスト)は、本日から請け負うことも出来ますので、よろしければあちらの掲示板で依頼を選別してください。クロス様は、現在入ったばかりのGランクですので、それ以上のランクを要する任務は請け負えませんのでご注意下さい」

「はい、わかりました」


 説明を終えると、受付嬢は頭を下げ「それでは、良い冒険を」と送り出してくれた。


 事務的な台詞ではあるが、クロスにとっては胸が弾む、勇気付けられる言葉だった。


「はい! 頑張ります!」


 そう元気に返すと、受付嬢はビックリしたような表情になり、その後「くすっ」と、おかしそうに笑った。


 クロスは、早速掲示板へと向かう。


『どうですか? クロス。手頃な任務は見付かりそうですか?』

「うーん……」


 しかし、ランクの指定があったり、複数人――パーティーでの参加が必要だったりと、ちょうどいいものが見付からない。


 挑戦できるクエストが見当たらず、クロスは唸る。


 そこで、だった。


「あ、あの…」


 背後から声を掛けられ、クロスは振り返る。


 視線を落とすと、女の子が立っていた。


 ブロンズの髪を左右で結わえ、胴体には軽装の防具を纏っている。


 腰にはホルスターを装着しており、左右に拳銃――銀色の《魔法拳銃》が一丁ずつ収まっている。


 クロスよりも頭一つ以上背の低いその女の子は、対照的にボリュームのある胸の前で拳を握って、クロスをジッと見上げていた。


「ええと、僕ですか?」

「す、すいません、今、ライセンスがチラッと見えたのですが」


 クロスの手に持っていたライセンスを見て、女の子は声を掛けてきたようだ。


「《神聖職》の方なんですか?」

「あ、はい」


 女の子は、緊張した面持ちで質問してくる。


「も、もしかして、回復魔法とか補助魔法とか、使えたりしますか?」

「まぁ、一応。《光魔法》はそこそこ使えるつもりです。初級クラスのものばかりですが」


 クロスが言った瞬間、女の子は目を輝かせ、クロスの手を取ってきた。


「お、お願いします! 私達のパーティーに入って下さい! 任務に挑むために、後方支援のできる方を探していたんです!」

「え、ぼ、僕が、ですか?」


 遂先程、冒険者になったばかりなのに、いきなりパーティーに勧誘されクロスも困惑する。


 しかし、目前の女の子はペコペコと頭を下げて、クロスに懇願してくる。


「お願いします! 他に、私達のパーティーに参加してくださる方が見付からなくて! あ、ご安心ください! 任務中は何があっても、私達があなたを守ります! 報酬の分け前も、少しばかりですが色を付けさせていただきますので!」


 平身低頭である。


 その必死な姿を前に、クロスも断れる気がしない。


「ええと……わ、わかりました、僕なんかでよければ……」

「ほ、本当ですか! ありがとうございます!」


 ぱぁっと顔を輝かせ、女の子は掴んだクロスの手を引っ張る。


「で、ででで、では、早速! 私達のパーティーを紹介します!」




 +++++++++++++




「ミュンさん! ジェシカさん! この方が、私達の仲間になってくださるそうです!」


 必死な彼女に引っ張られ、連れてこられた先に、二人の女の子がいた。


 おそらく、年齢的にはこの女の子と同い年か少し上くらいだ。


 一方は、腰に剣を携えた比較的背の高い女の子。


 黒い髪を、肩の上あたりで綺麗に切り揃えており、鋭い眼光をしている。


 もう一人の女の子は、体にフィットした動きやすそうな服を身に纏っている。


 手足は長く引き締まっており、鍛錬の痕が窺える。


 髪は短く、両目は糸のように細い。


 口元に薄っすら笑みを浮かべ、どこか飄々とした雰囲気を漂わせている。


「うるさいぞ、マーレット。静かにしろ」


 剣を携えた女の子が、鋭い声で言う。


「なんや、その人、本当にウチらのパーティーに入ってくれるん?」


 糸目の女の子は、クロスを眺めながら独特のイントネーションで喋る。


「はい! 探していた、補助・回復の技能を持った方です!」


 クロスを引っ張ってきた女の子は振り返り、他の二人と一緒に対面の位置に立った。


「改めて、自己紹介をさせていただきます! こちらが、《剣士》のジェシカさん。こちらが、《格闘家》のミュンさん。そして、私は《銃士》のマーレット。一応、このパーティーではリーダーを務めさせていただいております!」


 クロスを勧誘した女の子――マーレットは説明する。


 彼女達はFランクの冒険者で、モンスター討伐の任務に挑戦したいと思っていた。


 だが、全員が戦闘タイプの役職。


 危険なモンスター討伐任務に挑むなら、補助・回復役は必須。


 しかし、いくら勧誘しても彼女達に協力してくれる冒険者がいなかったらしい。


 そこで、冒険者になったばかりではあるが《神聖職》のクロスを発見し、必死に頼み込んできたというわけだ。


「本当にいいんですか? 僕は、完全に新人ですよ? 皆さんより年上かもしれませんが……」

「安心してください! クロスさんは私達が絶対に守ります! 傷一つ負わせません!」


 マーレットは、どこか過剰なほど必死に、クロスを加入させようとする。


 とは言え、新人の自分が、冒険者になって早々パーティーに入れてもらえるなんてありがたい。


 メンバーはみんな年下っぽいので、その点は少し恥ずかしいかもしれないが。


「では、よろしくお願いします。あ、僕の自己紹介がまだでしたね。クロスといいます」


 クロスは、三人に名前を名乗る。


「見たところ、神父のようだな」


 そこで、クロスの格好を見た《剣士》のジェシカが、依然冷たい声で言う。


「はい、実は神聖教会に所属していたんですが……」

「神聖教会?」


 その言葉に、ジェシカは鼻白む。


「胡散臭い奴だ。信用できんな」


 そんな彼女の態度に「ジェシカさん!」と、マーレットが慌てて注意する。


「あ、ご安心ください……で、いいのかな? 神聖教会は、既にクビになったので」

「クビ? 一体、何をやらかしたら神父なんてクビになるんだ。やはり信用できないぞ、こいつ」


 ジェシカが眉間に皺を寄せ、クロスを一層強く睨む。


「他の男共同様、内心では我々を舐めてかかっているんじゃないのか」


 敵意を全開にするジェシカに、マーレットは焦り出す。


 どうやら、彼女――《剣士》ジェシカは、クロスの加入に反対ぎみのようだ。


「まぁまぁ、そうケンケンせんでもええやん」


 そこで、《格闘家》の女の子――ミュンが、飄然とした声音で間に入る。


「クビなったとはいえ、神聖教会にいたなら《神聖職》として実力は十分ってことやん。それに、やっとまともにクエストに挑めるんやから、大目に見ようや」

「ふんっ……」


 ツンとした態度で、ジェシカはクロスから視線を外す。


『なんでしょうか、この娘。ツンデレ剣士なんでしょうか』


 背後に浮かんでいるエレオノールも、そんなジェシカの態度に訝りぎみだ。


 クロスは、とりあえず微笑んでおく。


「な、何はともあれ! 早速、任務に挑みましょう!」

「ちなみに、挑戦する予定のモンスター退治の任務の内容は?」


 クロスが問い掛けると、マーレットが説明する。


「内容は――近くの村に出現した大型蜘蛛のモンスター、《ガルガンチュア》の生け捕りです」




 ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。


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