□■第25話 ランク昇格■□
悪質《魔道具》薬品研究家にして指名手配犯、グスタフの捕縛成功から、数後日――。
その日、クロスを初めとする件の任務に参加したメンバー達は、冒険者ギルドを訪れていた。
クロスとマーレット、ジェシカ、ミュン、そしてバルジ達パーティー。
加えて、ガルベリスも居る。
「おい、本当なのかよ……」
「ああ、あのAランク冒険者、ガルベリスが実際に付き添いで居るんだ。間違いねぇだろ」
彼等の周囲には、何名もの冒険者達が集まって騒然としている。
クロス達の報酬結果報告を見学に来ているのだ。
「数年前に行方をくらました、《魔道具》研究家の指名手配犯を捕まえたって?」
「当時から、ガルベリスと王国騎士団の関わってた案件らしいじゃねぇか」
「マジかよ……って事は、特A任務ってことかよ」
特A任務とは、特殊Aランク任務の略である。
通常のAランク冒険者が挑む任務とは違い、王国の上層階級が関わる特殊任務をいう。
言うまでも無く、その重要性、重大性は即ち、国家レベルということになる。
「その特Aランクの任務に参加して、しかも成功したってことは相当な成果だぞ」
「ああ、しかも聞いたか? その捜索に、《邪神街》の獣人達が協力したって」
「は? 《邪神街》? なんで、そんな場所の連中が人間に協力するんだよ」
「あのクロスって奴の口添えらしい」
一人の冒険者が、クロスと、その横に立つベロニカを指さす。
「あっちに居る女の獣人が、その狼獣人派閥の元締めで、あのクロスと繋がりがあるそうだ」
「なんだ、そりゃ? どういう人脈だよ……」
「そもそもあの男、その狼獣人との繋がりが認められて、《邪神街》のガイドになったって話だ」
「《邪神街》のガイド!? ……おいおい、待ってくれよ……つまり、あいつ、《邪神街》の有力者と懇意ってことか?」
「あの女獣人が、旧い知人なんだとか……」
「やべぇ、俺、この前あいつのことちょっと小馬鹿にするようなこと言っちまったぞ……」
「すぐに謝っとけって……」
そんなヒソヒソ話が漏れ聞こえてくる中、クロス達の前に担当受付嬢のリサ。
そして、この冒険者ギルドの支部長が現れた。
「えぇ……まずは、この度の任務、誠にお疲れ様でした。そして、達成おめでとうございます」
支部長が言う。
特A任務ともなれば、報酬報告に支部長クラスがやって来るのか……と、冒険者達も驚いている。
「今回、長年足取りの掴めなかった指名手配犯を捕縛する事ができ、王国騎士団よりも深く感謝の意を伝えられました。これも、皆さんのお力の賜です」
支部長は、深々と――特に、クロスに対して頭を下げる。
「クロス殿、度重なる昇格審査の不手際、誠に申し訳ございませんでした」
「ああ、いえ、お気になさらず」
平身低頭な支部長に、クロスも慌てて返す。
「今回の報酬に関してですが、高額のためこの場での引き渡しは行わず、銀行へ振り込ませていただきます。加えまして――皆さんのランクの昇格に関する件ですが」
「………」
そこで、マーレット、ミュン、ジェシカが、どこか心配そうな視線をクロスに向けた。
「クロスさん……」
マーレットは、不安の表情を浮かべる。
『君にAランク冒険者に昇格してもらった後――俺のパーティーに加入して欲しい』
数日前、ガルベリスがクロスへと言った言葉を思い出す。
その時は、いきなりの提案にクロスも困惑していたため、『また後日話をしよう』とガルベリスは言って、別れる形となった。
それから、クロスがガルベリスとどう話を付けたのか、マーレット達は知らない。
今日まで聞けずにいたのだ。
話題もわざと避けていた。
……聞きたくなかった、というのもある。
だって、こんな素晴らしい提案、クロスが蹴る必要など無い。
何より、それを止める権利も、自分達には――。
「マーレット、仕方がないわ」
ミュンが、マーレットの肩に手を置く。
「クロやんは、こんなところで燻ってていい人材ちゃうし」
「クロス様の実力は、もっと相応しい場所で発揮されるべきなのだ」
ミュンは飄々と、ジェシカは冷静に。
しかし、どこか取り繕うような態度で、そう言う。
「では、お伝えさせていただきます」
そして、支部長が言う。
「マーレット様、ミュン様、ジェシカ様……」
三人の名が呼ばれる。
すると、そこで。
「クロス様」
クロスの名も、続いて呼ばれた。
「四名とも、Cランク冒険者への昇格を認定致します」
「……………………………え?」
一瞬、マーレット達はその言葉の意味を理解できなかった。
「やりましたね、皆さん! Cランクに昇格です!」
クロスが、無垢な笑顔を浮かべて三人を振り返る。
「え、え? クロスさんは?」
「クロやん、Aランクちゃうの?」
マーレットとミュンは困惑し、ジェシカは絶句している。
「ははっ、なんだ、クロス君、彼女達に伝えてなかったのか?」
「あ、はい、なんだか、伝えるタイミングが無かったというか、そういう話をしづらい雰囲気があったので……」
当惑する三人の一方、ガルベリスが苦笑しながらクロスに声を掛けた。
「安心しろ、三人とも。クロス君は、俺の勧誘を蹴った。加えて、Aランクへの昇格も断られたよ」
「え……」
「彼は、このパーティーが好きなんだそうだ。だから、皆で足並みを揃えていきたいらしい」
ガルベリスの言葉を聞いたマーレット達が、続いてクロスを見る。
「あ、ええと……ダメ、だったでしょうか?」
言葉を失う三人を前に、ちょっと焦り出すクロス。
そんな彼の表情を見て、三人は――。
「よ、よかったよぉぉぉ!」
マーレットが泣き出した。
びーびーと声を上げて、安堵の涙を零している。
「もう、ビックリしたぁ! なんやのその理由!? それで、Aランク昇格蹴るなんて、アホちゃう、クロやん!」
「ま、まったく、クロス様は律儀というか、誠実というか……」
そう言って冷静に対応しようとしているミュンとジェシカも、完全に涙ぐんでいる。
『あらら、女泣かせですねぇ、クロス』
クロスの背後から、エレオノールがにやにやしながら現れる。
『しかし、せっかくのビッグ・ドリームだったのに、こんな簡単に蹴ってしまうとは』
「すいません、女神様」
『まぁ、いいですよ、クロスはそういうキャラだとわかっていますから。その代わり、より一層のハーレム展開を期待させてもらいますからね。バンバン★を稼ぐのですよ、★を』
「★ってなんですか?」
「ちなみに、バルジさん達はCランク継続です。今回は、あくまでもサポートに徹していたと聞きましたので、昇格にはもう少し評価が足りませんでした」
「え!? マジかよ! まぁ、でもいいか! クロスさんと同じランクだし!」
さり気なく、バルジ達の評価も発表されていた。
惜しくも昇格とはならなかったみたいだが、全然気にしていない様子である。
「クロス、クロス、次の任務はいつだ? オレも協力するぞ」
「いや、ベロニカ、別にずっと協力してくれていなくていいんだよ。というか、そろそろ《邪神街》に帰った方が……」
「よし! もうさっそく次の任務に取り掛かりましょう! 私、なんだかやる気が湧いて来ちゃいました!」
「元気ですね、マーレットさん」
「ウチも、なんか体動かしたい気分や」
「クロス様、私の習得した新しい剣技、是非見て欲しい」
そんな感じで、クロス達は新たな任務へと向かう。
わちゃわちゃと騒がしい――この空気がやはり好きだと、クロスは改めて思った。
こうして、クロスは遂にFランクを脱し、中級クラス――Cランク冒険者となったのだった。
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