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□■第19話 クロスvs狼の獣人■□


「やっぱりオレは、クロスが冒険者として働く事に反対するっ!」

「…………え? ベロニカ?」


 それは、クロスがマーレット達と共に狼の獣人のアジトへと戻った直後のことだった。


 同じ冒険者で、パーティーの仲間であるマーレット達をベロニカに紹介し、支援者となってもらうべく契約書の記入捺印に移ろうと考えていたクロス。


 しかし、帰ってきたクロスに、いきなりベロニカがそう言い放ったのだった。


『え? おやおや? どうしたのですか? 雲行きが怪しいですよ?』

「……僕にもわかりません」


 そこは、この頑強な砦の如き根城の中にある、大きな中庭。


 仲間の獣人達と共にそこにいたベロニカは、クロスの姿を見ると「う、うう……」と唸り声を発し、直後に先程の言葉を断言したのだ。


 ベロニカの発言に、マーレット達も、仲間の獣人達も驚いている。


「どういうことなん? クロやん、話が違うで?」


 ミュンが戸惑いながら言う。


 彼女達も、ここに来るまでにクロスから説明を受けている。


 ベロニカはクロスの友人で、今やこの《邪神街》の中でも有力者の一人。


 ガイドを務める上での支援者として、申し分ない立場の人物だろう。


 そして、クロスにもとても友好的で、喜んで協力者になってくれると言っていた――と。


「ぼ、ボス、どうしたんですか?」

「クロスさんと、何かあったんですか?」


 仲間の獣人達も、心配そうにベロニカを見ている。


「あ……う、うう……」


 対し、渦中のベロニカは唸るばかりだ。


「ベロニカ、どうしたんだ?」


 クロスは心配そうに、ベロニカへと声を掛ける。


「僕、何か気に障るようなことをしたかな?」

「い、いや、そういうわけじゃ……」

「何か酷い事を言ったり、したり……ごめん、思い付かないんだ」

「う、ううううう……お、オレは!」


 ベロニカは、どこか誤魔化すように必死に叫ぶ。


「クロスが冒険者であることに反対だ! だから、支援者にもならない! 反対! 反対!」

「ベロニカ……」


 何が、彼女をこんなに躍起にさせてしまっているのだろう。


 クロスも、困惑する。


「そうか……わかったぞ」


 そこで、獣人の中の一人が口を開いた。


「ボス、つまりこういうことですね。ボスはクロスさんに、やはりこの《邪神街》を支配する帝王の立場を目指して欲しいと」

「え?」


 仲間から発せられた言葉に、ベロニカはキョトンとする。


 クロスは、その獣人の言いたい事を分析する。


 ベロニカは、元々クロスが《邪神街》を支配する強大な存在となるために、外の世界へ修行に出たと思っていた。


 そしてその仲間達も、ベロニカから古い友人のクロスを語られる際に、そう説明がされていた。


 ベロニカも獣人達も、クロスが《邪神街》に戻ってきた理由は、その為だと思っていた。


 だが、蓋を開ければ、クロスは確かに類い希なる実力を備えながらも、冒険者という仕事に甘んじている。


「つまり、ボスはクロスさんにこう言いたいんだ! クロスさん! あなたこそ、この《邪神街》を統治するに相応しい存在! ボスも、そのためにこの狼獣人の一派を束ねるまでになった! だから、冒険者なんて止めて自分と一緒に高みを目指そう! そういうことですね!?」

「え、ええと……」


 仲間に言われ、ベロニカはあたふたとしている。


 しかし、やがて――。


「……そ、そうだ!」


 ベロニカは、ギュッと目を瞑って大声で叫んだ。


「クロス! オレと一緒に行こう! オレと一緒に、《邪神街》を制覇しよう!」

「クロスさん!」

「お願いします、クロスさん!」

「ええ……」


 仲間の獣人達も、一緒になってクロスに頼み込んでくる。


『うわぁ……なんだかとんでもない事になってきましたよ、クロス』

「は、はい……」


 クロスは、盛り上がる獣人達の中にいる、ベロニカを見る。


 彼女は顔を真っ赤にし、フルフルと震えながらクロスを見詰めている。


 本当に、今の言葉が、彼女の本音なのだろうか?

 

 そうは思えないのだが……。


「クロスさん……」

「クロやん」

「クロス様」


 名前を呼ばれ、クロスは後ろを振り返る。


 マーレット、ミュン、ジェシカ。


 三人が、不安そうにクロスを見詰めていた。


「………」


 彼女達は、クロスがこのまま冒険者を辞め、かつての友人と、獣人達と一緒に行ってしまうのではないか……そう思って、不安になっているのかもしれない。


「わ、私、もっとクロスさんと……」

「マーレットさん」


 クロスはそこで、真っ先に声を発そうとしたマーレットに、優しく微笑む。


「大丈夫です、心配しないで下さい」

「クロスさん……」

「まずは、彼女の真意を知りたい。ちゃんと話し合いたいと思います」


 そう言って、クロスは向き直る。


「く……ダメだ、クロスさんの気持ちは揺るがねぇ」

「こうなったら……お前等!」

「おう!」


 すると、そこで。


 ベロニカの方へと行かないクロスの姿を見て、獣人達が動いた。


 何十人もの獣人達が、一斉に動いてクロス達を取り囲んだ。


「え? あの、まずは話を……」

「クロスさん、俺達狼の獣人が揉めた際、どちらの言い分を通すか決めるときの判断基準……知ってますか?」

「さぁ……」

「それは……『素直に殴り合って勝った奴が偉い!』っす!」

「………」

『なんという脳筋種族!』


 エレオノールが叫ぶのも無理は無い。


 つまり、彼等がしようとしているのは――。


「俺達と戦って、俺達が勝ったらボスの言うとおりにして下さい!」


 そう言って、獣人達が飛び掛かってきた。


「な、正気かこいつら!」

「っていうか、こっちはまだ了承してへんし!?」

「クロスさん!」

「……わかりました」


 瞬間、だった。


 クロスの発動した《光膜》が、マーレット達をドーム状に包み込み守る。


 そして同時、クロスは手中に《光刃》と《光球》を発動。


 襲い掛かってきた獣人達を、光の剣で切り裂き、光の弾丸で撃ち抜いた。


「ぐはっ!」


 攻撃を受けた獣人達が、地面に倒れる。


「ここでは、あなた達のルールに従った方がわだかまりも無さそうです。勝負といきましょう」

「うおおおおおおおおおおおおおお!」


 獣人達が、次々にクロスへと飛び掛かる。


 屈強で頑丈な肉体を持ち、鋭い爪や牙を併せ持つ、狼の獣人。


 その戦闘能力は、多くの亜人種の中でも高い方に位置する種族だろう。


 だが――。


「ふっ!」


 それでも、クロスの方が格は上だ。


「すごい……」


《光膜》に守られた結界の中で、三人はクロスの一騎当千ぶりを唖然と見詰めていた。


 流れるような体捌きで動き、獣人達の攻撃を躱す。


 そして擦れ違いざまに、《光刃》が彼等の体を一閃で切り裂く。


 更に《光球》は周囲を旋回させ、牽制の役割を果たしている。


 一人、また一人と、クロスの攻撃により獣人達が倒れていく。


「で、でも、これだけの負傷者を出したら、たとえ勝ったとしても獣人達との間に遺恨が残るんじゃ……」

「いや、見ろ」


 不安点を吐露するマーレットに、ジェシカが言う。


 見ると、クロスの攻撃を受け地面に倒れた獣人達は、皆、誰一人傷を負っていない。


 気絶こそしているが、裂傷も弾痕も無い。


「《治癒》だ。クロス様は、最低限の攻撃で獣人達を仕留め、なおかつ瞬時に《治癒》も行い、傷も治しているんだ」

「……すごい」


 どれだけの時間が経っただろう。


 中庭には、何十人もの獣人達が倒れている。


「つ、つえぇ……」

「なんて人だ……」

「これが、ボスの話の中でしか聞いたことのなかった、クロスさんの力……」


 残った獣人達も、既に戦意を失っている。


「ふぅ……」


 クロスは額の汗を拭い、手の中の《光刃》と《光球》を解除する。


 二つの魔法を同時に発動し、なおかつ瞬発的に連続して《治癒》を掛け続ける――それには、かなりの集中力を要する。


 クロス以外の魔法使いに、そんな芸当の出来る者など、いるのかも怪しいレベルである。


「くそっ……どうする」

「こうなったら、残りの奴等で一か八か特攻して……」

「お前達、下がってろ」


 そこで、だった。


 獣人達の間から、ベロニカがやって来た。


「ボス!」

「……オレも戦う」

「ベロニカ……」


 クロスは、ベロニカを見る。


 ベロニカは、何かを決意したような目をクロスに向ける。


「『素直に殴り合って勝った奴が偉い』……そうだ、その通りだ……クロス!」


 瞬間、ベロニカが叫ぶ。


「オレと一騎打ちだ! もしクロスが勝ったら、冒険者を続けることを許す! ガイドの支援者になる契約書にもサインする!」

「ベロニカ、本気か?」

「本気だ! その代わり……」


 そこで一瞬詰まると、次の刹那。


 ベロニカは顔を真っ赤にし、両目をギュッと瞑って、叫んだ。


「もしオレが勝ったら! ……お、おお……お、オレと! ツガイになってくれ!」

「………」


 ベロニカの宣言に、引き下がった獣人達も、観戦中のマーレット達も、ポカンとする。


「つ、ツガイ? ツガイって言いました? 今」

「えーと、どういうこと? ジェシカ、解説してや」

「……わからん」


 混乱するオーディエンス達。


 そんな中で、クロスは――。


「わかった!」


 ベロニカの言葉に、そうハッキリと返した。


「ええ!? く、クロスさん!?」


 あまりにも素直に了承したことに、マーレット達は困惑する。


『ちょ、ちょちょ、ちょっと、クロス!? 自分が何を言っているのかわかっっているのですか!?』


 流石のエレオノールも慌てている。


「わかっています。ベロニカは、それくらい本気ということです」


 クロスは言う。


 どこか、そんなベロニカの言葉を懐かしむように。


「昔から、ベロニカは僕と遊びで勝負をするとき、ああ言って自分を追い込むんです。そして、そういう時、彼女はいつも以上の力を発揮する。僕も時々負け掛けたりするほどでした。つまり、理由はわかりませんが、それだけ本気だということ」


 クロスは、構える。


「まずは戦って、その後、彼女の真意を聞きます。どちらにしろ、こうなったらベロニカは止まりませんから」

『いや、えーと……多分、あの娘、本当にクロスとツガイになりたいのだと……』

「ほ……本当か?」


 そこで、クロスの返事を聞いたベロニカは――。


「う……ウォオオオオオオオオオ!」


 その全身から、闘気を滾らせ、前傾姿勢となった。


 重心を落とし、腰を屈め、しかしその目は真っ直ぐクロスを見る。


「クロス……絶対、絶対に勝つ!」

「来い、ベロニカ!」


 かつて、幼い頃、何度も勝負した――あの頃のように。


 いや、あの頃よりも、何倍もの実力と、何倍もの本気を漲らせ。


 ベロニカが、クロスへと襲い掛かった。



 ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[一言] ツガイの座賭けて勝負。 実質的なプロポーズだとベロニカちゃん気づいていなさそうなところが可愛い。
[一言] 脳筋彼女…か
[一言] おもろい\(^o^)/
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