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□■第14話 スキルアップ■□


「いやぁ、それにしても、今日はみんなすごかったやんなぁ」

「なんだか、久しぶりに気持ち良く戦えた気がします!」

「クロス様の助言通り動いたら、見違えるように剣捌きが良くなった」


 本日の任務(と、バルジ達との勝負)で良い成果を上げ、クロス達一同は酒場で盛り上がっていた。


 互いの健闘を称え合い、美酒と美味に舌鼓を打っている(クロスは飲酒していないが)。


「しかしやはり、何と言ってもクロス様のお陰だな」

「ほんまに、クロやんのお陰やで」

「ええ」


 三人は麦酒を飲みながら、ずっとクロスに感謝の意を述べている。


 気付くと、すぐに話題がクロスのことになっているので、なんだか照れ臭い。


「いえいえ、何度も言いますが、元々皆さんの持っていた力が凄いだけです。僕は、それを再確認したに過ぎません」

「それがすごいんです!」


 瞬間、マーレットが顔を真っ赤にして叫んだ。


 だいぶペースよく飲んでいたと思ったが、もうへべれけになっている。


「クロスさんは、きちんと人を見る目があるんです! その上、言葉も的確で、優しくて、強くて、頼りになって、かっこよくて……」


 喋っている途中で、マーレットはバタンッと机に突っ伏した。


「マーレットさん!?」


 クロスが慌てて立ち上がり、彼女に駆け寄る。


「うーん、むにゃむにゃ……」


 机に顔を預け、マーレットは気持ち良さそうに寝息を立てていた。


「寝とるわ。だいぶ酔いが回ったんやな」

「連日の任務で疲れたのだろう。そうだ……」


 そこで、ジェシカが思い出したように言う。


「先程、リーダーと話したのだった」

「なんなん?」

「この場でリーダーが伝えるはずだったのだが……寝てしまったので、私が代わりに言おう。明日は休日にしたいと思っている」


 ジェシカの言葉に、ミュンが「お休みかー」と天井を仰いだ。


「私もリーダーも、ちょうど用事があってな。次の任務の前に、武器と防具を新調したいと思っていたんだ」

「あ、そうなんや」

「うーん……私も、《魔法拳銃》のメンテナンスがあるのでぇ……」


 寝ながら会話に参加してくるマーレット。


 実に器用である。


「じゃあ、ウチも明日はリフレッシュしよかなー。あ、ちなみに、クロやんは明日どないする?」


 そこで、ミュンがクロスに話題を振ってきた。


「そうですね。お休み……ですか」


 何気に、仕事を休むというのも久しぶりのことだ。


「せや」


 言葉に詰まるクロスに、そこで、ミュンが思い付いたように言った。


「クロやん、あの廃屋にいつまでも住んでるわけにもいかんし、どこか新居でも探す? もしあれやったら……」


 ミュンは手を合わせ、指先を摺り合わせながら呟く。


「ウチが、付き合ってあげてもいいけど……」

「なっ、みゅ、ミュン! 何を言っているんだ!」


 ジェシカが慌てて会話に割り込んできた。


「いや、ジェシカは装備を新調せなあかんし、マーレットは《魔法拳銃》のメンテやろ? なら、付き合えるのはウチだけやし」

「いや、しかし……クロス様と二人きりで新居を探すなど……な、何か別の目的があるのだろう!」


 何故か、ジェシカは激しくミュンに食って掛かる。


「べ、別にクロやんの家探すの手伝うだけやん? なんやの、ジェシカ。ウチが、クロやんを独り占めしようとしてるとでも思っとんの?」

「そ、それは……いや、そういう事ではなくてだな、クロス様にとっても新しい住処を検討するのは大切なことであるはずだし、ここは我々全員で知識を集めて家探しを行うべきだと……」

「でも、それやと、ウチ等全員が付き合える日まで待たなあかんから、クロやんにそれまで引き続き廃屋で暮らさなあかんて言うてるようなもんやで? そういうことで、ええの?」

「う、うう……」


 ミュンに詰められ、ジェシカは頭を左右にフラフラとさせながら口籠もる。


 お酒を飲んでいるので、脳が上手く働いていないのかもしれない。


「わかりました、大丈夫ですよ」


 そこで、クロスは微笑みながら頷いた。


「え?」

「僕の新居に関しては、また、皆さんと都合の合う日に、一緒に探してください」


 クロスが言うと、ジェシカはパァッと表情を輝かせ、ミュンは「ちぇー」と、少し残念そうに唇を尖らせた。


「ふふふ……ミュンさん、抜け駆けは許しませんよぉ……」


 マーレットが机に突っ伏したまま寝言を漏らした。


 彼女、本当に寝ているのだろうか?


「じゃあ、クロやん、明日は何すんの? 一日、暇ちゃう?」

「ええ、そうですね……」


 そこで、クロスは口元に指を当て、考えこむ。


 休日となった明日一日、何をして過ごそうか……。


 神父でなくなった今、教会のように規律のある日々では無い。


 完全に自由の身である。


「……まぁ、適度に体を休めて過ごします」


 少し考えた後クロスが言うと、ミュンは「そっか。まぁ、クロやんには凄く働いてもらったし、きちんと休んでや」と、微笑んだ。


『えー、せっかくの休日なのに無計画ですか? 街に繰り出しましょうよぉ、クロスー』


 頭上から、エレオノールがねだってくる。


 駄々をこねる子供のようである。


「女神様、すいません」


 そこで、クロスがエレオノールにだけ聞こえる声で呟く。


「本当は、明日、やりたいことがあるんです」

『おや? やりたいこと?』

「ええ」


 クロスは言う。


「僕個人で冒険者ギルドに赴き、何か任務を請け負おうと思っています」




 +++++++++++++




 翌日。


 クロスは、冒険者ギルドを訪れていた。


『しかし、休みの日にまでお仕事とは、クロスはセルフブラック体質ですね』


 背後からふよふよと付いてきながら、エレオノールが言う。


「すいません。ですが、今の僕に一番必要なのは、少しでも冒険者としての信頼と実績を積むことです。そうしていけば、ランクの昇格も認められるでしょうし、マーレットさん達の懸念も一つ潰せるはずです」

『ふむふむ……ですが、それなら昨日、あの娘達に正直に言えばよかったじゃないですか。どうして黙っていたんです?』

「僕が任務に行くと言えば、彼女達も付いてきそうな気がして」


 クロスは苦笑する。


「せっかくの休みなんですから、彼女達には存分に羽を休めてもらいたいですし」

『ああ、なるほど。確かにそうですね』


 クロスに心酔中の三人娘の心理と、クロスの心遣いを理解し、エレオノールは納得する。


「いらっしゃいませ、クロスさん」


 クロスがカウンターに向かうと、今日も顔馴染みの受付嬢が立っていた。


「あ、よければ相談に乗ってくれませんか?」

「はい、どういったご用件でしょう」

「僕個人で、何か任務を請け負いたいのですが、手頃なものはありますでしょうか」


 クロスが尋ねると、受付嬢は小首を傾げる。


「個人で任務……ですか? パーティーの他の皆さんは……」

「今日はお休みです。みんなには内緒で、僕だけで何かしたくて」

「仕事熱心ですね」


 受付嬢は微笑む。


「いえいえ、ちょっとでも実績を出して、冒険者ランクを上げて皆さんに追い付きたいと思っているだけです」


 何気なくクロスが言うと、そこで受付嬢は申し訳なさそうな表情になった。


「……すいません……ギルドの上層部には、その件に関してせっついてはいるのですが」

「あ、そんな、受付嬢さんのせいではありませんから」


 慌てて、クロスは彼女をフォローする。


「……あの、リサです」


 するとそこで、受付嬢が名乗った。


「クロスさん達のパーティーを担当している立場ですので、よろしければ、名前を覚えていただけると嬉しいです」

「あ、そうでしたね、すいません。よろしくお願いします、リサさん」


 クロスが名前を呼ぶと、受付嬢――リサは、どこか照れたように頬を染めた。


「あ……えと、すいません、個人の任務でしたね」


 リサは表情を戻すと、手元の資料を見る。


「ええと……一応、個人で挑める任務はいくつか来てはいますが、クロスさんのランク的に挑めるものとなると、今ちょうど参加者で埋まっていまして……」

「そうですか、ついていないですね」

「……ですが」


 そこで、肩を落とすクロスを見て、受付嬢が言う。


「クロスさんが、冒険者としてもっと仕事をもらいたい、もっとスキルアップを考えていらっしゃるなら、他にも方法があります」

「他の方法、ですか?」

「ええ、自己アピールをするのです」


 リサの言葉に、クロスは首を傾げる。


「自己アピール、ですか?」

「正確には、冒険者ギルドに『自分にはこんな強みがある』とステータスを報告しておくのです。能力や知識、それにコネなんかがあれば。例えば、ある特殊な植物の採集を目的とする依頼があった場合、植物の知識のある人、またはそう言った知識人と繋がりがある人、植物を探すのに適した技能がある人は優遇されます。その人にしか出来ないことがある冒険者には、特別に仕事が回されることがありますから」

「なるほど……」


 クロスは考える。


 能力や知識、コネ……。


「ええと……自分は《光魔法》くらいしか特技も無いですし……それに、前職場との縁も、中々辛いものがありまして……」

「む、無理にお話しにならなくて大丈夫ですよ、クロスさん!」


 言葉を連ねていく内に、どんどん凹んでいくクロスを見て、慌ててリサが止める。


「それに、ステータスは先程言ったもの以外にもありますから。例えば……冒険者には、いわゆる《ガイド》と呼ばれる役割もあるんです」

「ガイド?」

「外国や辺境の地等へ向かう必要がある際、その場所を熟知している方が他の冒険者に知識を提供するというものです。他のパーティーに同行して一緒に行動したり、また、その土地の権力者に顔が利くのであれば、様々な支援を受ける窓口になったりなど」

「なるほど……」

「クロスさんの顔馴染みの場所や、得意な場所なんかはありますか?」

「場所……」


 そこで、クロスは気付く。


 そう、何を隠そう、クロスは“その場所”の出身なのだ。


「リサさん」


 クロスは、リサに顔を近付ける。


 いきなり顔を寄せられ、驚いたようにビクッとするリサへと、クロスは尋ねる。


「例えば……《邪神街》のガイドは、貴重なステータスと言えますか?」

「じゃ……《邪神街》の、ガイド?」


 そのワードを聞き、リサは少し顔を青ざめさせた。


「き、貴重なんてレベルではありません。《邪神街》なんて、普通の人間が無事に辿り着けるような場所じゃ……そ、そりゃ、そんな《邪神街》に精通して橋渡しとなれるガイドがいたら、途轍もない人材ですが……」

「なるほど、わかりました」


 その言葉を聞き、クロスは満面の笑みを浮かべる。


「ちょっと、《邪神街》の友人に会って来ます」



 ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。


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