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□■第13話 魔術師バルジ■□


 かくして、平原に出没していたソードボア――その全ての駆除が完了した。


 任務を達成し、クロス達とバルジ達のパーティーは冒険者ギルドへと帰還する。


 ギルドに結果を報告し、収拾した《魔石》を証拠として提出。


 ちなみに、巨体ソードボアの《魔石》は、他の欠片状のものに比べて、やはり少し大きな結晶だった。


 これは、クロスの成果であると、マーレット達が“念入り”に報告していた。


「確かに確認させていただきました。皆様、お疲れ様です」


《魔石》の鑑定も終わり、受付嬢が労いの言葉を掛ける。


 こうして、今回の任務も無事達成となった。


「クロスさん!」

「クロやん」

「はい、マーレットさん、ミュンさん、ジェシカさんも」

「ふふっ、うむ」


 クロス達は、皆で互いにハイタッチをする。


 チームみんなの強みが、存分に生かされる形での勝利だった。


 ――さて一方、賭けの結果についてであるが……。


「お、おい、バルジ……マジか?」

「賭けは俺達の負けだ……」


 バルジが、今回の勝負に賭けていた先日の任務の報奨金を持って来た。


 他の仲間達は、どうやらバルジが適当に誤魔化して、賭けについては無かったことにすると思っていたようだ。


 律儀に掛け金を払うバルジに、驚いている。


「おいおい、なんだ、バルジのパーティーと、マーレットのパーティーじゃねぇか。どうしたんだ?」


 ちょうど居合わせた冒険者達が、その様子を見て茶化してくる。


「ああ、なんでもモンスターの討伐任務で賭けをして、バルジ達が負けたんだとよ」

「おいおい、何やってんだよ。期待の成長株、《魔道士》バルジのパーティーが、昨日今日Dランクに上がったばかりの女冒険者達とFランク野郎のパーティーに出し抜かれたのか?」

「手ぇ抜きすぎだろ。酒でも飲んでたのか?」


 野次馬の冒険者達が、バルジ達をからかうように笑う。


 しかし、そこでバルジが、そんな冒険者達を睨んだ。


「うるせぇ! お前等、わからねぇのか!? この人が、どれだけヤベェ人なのか!」


 クロスを指さして声を荒げるバルジに、野次馬の冒険者達もポカンとする。


 彼等も、バルジ達を馬鹿にしていたというよりも、手を抜いて負けたと思い、むしろクロス達のパーティーを舐めているような口調だった。


 ゆえに、バルジの発言に言葉を失ったようだ。


「あの、ええと……」


 更に――バルジは態度を一転させ、クロスにおずおずと話し掛ける。


「クロス、さん……クロスさん、ですよね?」

「あ、はい」

「あ、あの……今日、あの巨体ソードボアの個体を倒したあれって、《極点魔法》ですよね?」


 恐る恐るという感じで問い掛けるバルジに、クロスは「まぁ、はい」と頷いた。


 瞬間、バルジは一層驚きの表情を強める。


「す、すげぇ……やっぱり、そうだったのか……え、ていうか、クロスさん、何者なんですか……というか、なんでこんなところにいるんですか?」

「なんだ、あいつ……なんで、あんなにビビってんだ?」


 野次馬達は、バルジがクロスを前に畏敬するような態度を取っている事に、首を傾げている。


「おい、バルジ。お前、女と飲み遊び過ぎて脳味噌が働かなくなったのか? なんで、そんなFランク野郎にへぇこらしてんだよ」

「はぁぁぁぁぁ!? お前等、今の話聞いてねぇのか!? この人はな、《極点魔法》の使い手なんだよ!?」


 未だに状況が読み込めずヘラヘラしている野次馬達に、バルジが食って掛かった。


「《極点魔法》って何だよ?」

「《極点魔法》ってのはな! 歴史に名を刻むレベルの天才でなければ到達できない《魔法》の極地だ! マジで冗談じゃなく神に愛された存在じゃないと手に入れられない究極の《魔法》なんだよ! そんな《極点魔法》を扱えるこの人は、全魔法使いの憧れ! むちゃくちゃすげぇ人だってこと!」

『あらぁ? このチャラ男、意外とわかってるじゃないですか。クロスが、この慈愛の女神エレオノール様に愛されし選ばれた存在だということを』


 クロスの肩に腕を回し、エレオノールが満更でも無い顔を浮かべている。


 一方、バルジの説明を受けた冒険者達は、戸惑っている様子だ。


「なんだ、そりゃ? なんでそんなすげぇ奴が、冒険者ギルドでFランク冒険者なんかやってるんだよ?」

「俺が知りてぇよ! 人類の宝が居ていい場所じゃねぇだろ!?」


 そう、熱く語るバルジ。


 彼、女好きで有名らしいが、何気に《魔術》に関してはマジメなのかもしれない。


「クロスさん! すいませんでした! こいつら、ものの価値のわからない馬鹿どもで!」


 そこで、バルジがクロスへと謝ってきた。


「今回の件は、俺からも冒険者ギルド側に報告しておきますよ! クロスさんはFランクなんかに留まってていい人材じゃないって!」

「あ、はぁ……」


 なんだろう。


 バルジのキラキラした目を間近で見て、クロスは思う。


 まるで、憧れのヒーローを目の前にした少年のような。


 かつて子供の頃に心奪われ目指した、そんな到達点を前にして初心に帰ったような、そんな表情をしている。


「なんだ、バルジの奴……」

「もういい、行こうぜ。寝ぼけてたにしろ何にしろ、あんな状態で任務に挑んでよく生きてたな?」

「酒ばっか飲んで遊び歩いてるからな、あいつ」


 野次馬の冒険者達は、そんな風に呟きながら去って行った。


 どうやら、クロスの実力に関しては、まだ彼等も認めていないようである。


 まぁ、実際に自分の目で見たわけでも無いので、仕方がないだろう。


「じゃあ、僕達もこれで……」

「あ、く、クロスさん!」


 そこで、バルジがクロスを呼び止める。


「その、よければ……今度、俺の《魔法》見てくれませんか?」

「え? 僕が、ですか?」

「はい、もしあれなら、ご指導とか、もらえないかな、と……」

「え、うーん……」


 Fランク《神聖職》の自分が、Cランク《魔道士》の彼に指導なんてしていいものなのだろうか?


『頷いておきましょう、クロス。舎弟を作っておくのも、王道展開です』

「何の王道展開なのかは知りませんけど……」


 とりあえず、クロスは「はい、また時間がありましたら」と答える。


「よ……よっしゃあああああ! ありがとうございます! 楽しみにしてます!」


 クロスの返答を聞き、バルジは深く頭を下げる。


 そして、「行くぞ、お前等! 特訓だ、特訓!」と、始終ポカン顔だった仲間達と共に、ギルドから去って行った。


「……何だったんだろう」

「あれでも《魔術師》の端くれやからな。凄い魔法使いに出会ったら、そりゃ童心に戻って素直に尊敬してまうんやないの?」


 そう、後ろからミュンが言う。


「ま、何はともあれ、任務も達成したし、賭けにも勝ったし、めでたしめでたしやろ」

「ええ」

「ふふっ、でも、ウチ嬉しかったで」

「え?」


 ミュンが、クロスの肩に手を置いて、口元を綻ばせる。


「クロやんが、あんなこと思ってくれてて」

「あんなこと……」


 クロスは、先刻の任務中のことを想起する。


『皆さんは、誰にも負けない冒険者――僕の自慢の仲間達です』


『僕は、皆さんと一緒のパーティーでいたい。そのための努力を、僕もしないといけませんよね』


「……あ」


 だいぶ、真っ直ぐな本音を語ってしまっていたことを思い出す。


 見ると、ミュンも、ジェシカも、マーレットも、三人とも頬を染めている。


 クロスがこのパーティーを大事に考えてくれていることに、みんなどこか嬉しそうだ。


「よっしゃ、飲み会や、飲み会! 任務も達成したし、掛け金も手に入ったし! 今夜は大盤振る舞いやで!」

「賛成です!」

「クロス様、お疲れではないか?」

「いえいえ、大丈夫ですよ」


 ハイテンションなマーレット達。


 やはり、若い女の子達である。


 任務を終えたばかりだというのに、元気で仕方がないようだ。


 まぁ、そんな彼女達を見ていると、その元気をもらえるようで、だからこのパーティーが好きなのだが。


「………」


 しかし一方で、クロスの心中にはある懸念が生まれていた。


 今回のソードボアの件。


 そして、先日のマザーの件といい、強力なモンスターが不特定多数出現する珍事が続いていることが、どうにも気に掛かるのだ。


 ……まるで、何かが暗躍しているような……。



 ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。


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