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□■第12話 クロスと仲間達の実力■□


 緊急依頼で舞い込んできた、モンスター討伐任務。


 相手はソードボアと呼ばれる、鋭い角を持ったイノシシの姿をしたモンスターだ。


 今回は、近くで農地や牧場を営む領地の主からの依頼らしい。


 自分の領地に、どんな悪影響が及ぼされるか心配でしかたがないのだろう――ともかく迅速に倒して欲しいと強く言われたそうだ。


 なので、生け捕りに等のギルドからの追加任務も無し。


 ともかく、早急な討伐が求められている。


「ソードボア……か」

『見た目は完全にイノシシですね。お鍋にしたら美味しそうです』


 頭上で涎を垂らしている女神様。


 慈愛の女神のはずなのに食い意地が実に人間らしいのは、さておき。


「まず、情報の再確認をしましょう」


 マーレットが言い、クロス達は頷く。


 ソードボア……イノシシをモチーフにしたモンスターという点で、何よりも注意すべきはその突進力だ。


 一直線に突っ込まれてきたなら、砲弾が迫っていると解釈していい。


 更に、ソードボアは鋭い角を持っている。


 巨大な剣が、大砲の威力と速度で飛んでくる。


 当たり所が悪ければ一撃で絶命、急所を避ける事ができても重傷に至るだろう。


 そんなソードボアが、何十匹と見当たる。


「いきなり出現したということは、スタンピートでも起こったのか?」


 ジェシカが呟く。


 ここは都から離れた、人の生活圏と大自然の中間地点のような場所だ。


 山や森に囲まれた、野生動物の領域である。


 人の目に付かない場所に出現し、今まで発見されていなかったモンスターの群れが、何かを切っ掛けとしここまで移動してきた――そう推察できる。


「先日のガルガンチュアといい、妙な事が立て続けに起きるな」

「何があったかは、まぁ、後でギルドに調べてもらおうや。ウチらはウチらの仕事をせんと」

「ふむ……そうだな。特に今回は、クロス様の信頼とパーティーの存亡がかかっているのだ」


 ジェシカが腰の剣を抜き、ミュンが腕を回して肩を鳴らす。


「出し惜しみなど無しだ。全員、全力で行くぞ」

「はいよ」

「では、先程馬車の中で打ち合わせした通り――行きましょう!」


 マーレットの合図と共に、クロス達四人のパーティーは戦闘の陣形に入る――。




 ――一方、バルジ達のパーティーは。




「よし、いつも通りサクッとやろうぜ」


 不敵に笑って、バルジは腰から杖を抜き、片手に構える。


 マーレット達が仲間になったら、誰がどの娘を狙う? というような話題で盛り上がっていた三人の仲間達も、臨戦態勢に入った。


 バルジ達パーティーの戦い方は、至ってシンプルだ。


 今回のような多数のモンスターを相手にした戦いの場合、前衛である二人の仲間が敵を引きつけ、ロングレンジの射程距離を持つ《弓使い》のもう一人がバルジを守りながら後衛に徹する。


 そしてバルジは、強力・広範囲の攻撃魔法発動の準備に入る。


《風魔法》――《乱嵐(ストーム・シック)》。


 広い領域に、暴風と鎌鼬を発生させるバルジ渾身の《魔法》。


 敵をできるだけ同じ箇所に押し固め、バルジがその一撃を見舞えば、一網打尽だ。




 ――視点は戻り、クロス達パーティー。




 こちらの陣形は、先日ガルガンチュアとの初戦闘を行った時と同じだ。


 前衛にジェシカとミュン、後衛にマーレット。


 一つ変わった点があるとすれば、その間――センターの位置に、クロスが立っていること。


「う、後ろから撃って、当てちゃったらごめんなさい!」


 若干緊張気味のマーレットが、ちょっとズレたことを言っている。


「大丈夫ですよ、《光膜》で防御していますから」


 クロスは笑いながら返答する。


 とは言え、マーレットだけでなく、ミュンとジェシカも、少々表情が硬い。


『みんな、ちょっと気合いが入り過ぎているようですよ?』

「そうですね」


 そこで、クロスは息を吸い込み――。


「臆する必要はありません!」


 大声を上げたクロスに、三人は思わず目を大きく見開く。


「皆さんは、思い切り自分の力を解放してください! 先日の、僕の言葉を思い出して!」


 酒場で語った、それぞれの長所。


 それを今一度思い出すようにと、クロスは言う。


「皆さんは、誰にも負けない冒険者――僕の自慢の仲間達です」


 その言葉に、ジェシカも、ミュンも、マーレットも――顔を一瞬赤らめ、しかし、次の瞬間。


「よし」

「行こか!」

「はい!」


 そして、戦いが開始された。


 クロスが中央に立った理由――それは、戦況を広く、冷静に見定めるためである。


 言わば、周囲を見回し全体をサポートする役割だ。


「よっ!」


 ミュンが躍動する。


 ソードボアに牽制を仕掛け挑発し、突進を誘い、突っ込んできたところを軽やかにいなす。


「シュッ!」


 バランスを崩したソードボアの脚を、ジェシカが俊敏な剣捌きで狙う。


 脚の付け根や関節へ、適切な一撃を打ち込み、確実に機動力を奪っていく。


「ふっ!」


 そして、動きを失ったソードボアに、マーレットが《魔法拳銃》を打ち込む。


 弾速は落ちるが、威力を高めた高火力の銃撃を見舞い――一体のソードボアを仕留める事に成功した。


 ソードボアの体が黒い瘴気となり、後には《核》となっていた《魔石》の欠片が残る。


「よし、まずは一匹やな」


 ミュンがそれを拾い、腰の袋に詰める。


「ミュン、次が来るぞ」


 ジェシカが得物を構え、続いての相手に冷静に相対する。


「……うん」


 クロスは思う。


 やはり、彼女達の実力は高い。


 ジェシカの剣技も、ミュンの体術も、積み上げてきた研鑽に相応しい力となってその身に宿っている。


 ただ、ジェシカは男冒険者達に舐められないように、大振りで派手な攻撃ばかりを狙い、ミュンは全力を出す心持ちにどこかで蓋をしていた。


 その点をクロスに指摘され、二人は目覚めた。


 ジェシカの精密な剣戟は、ダメージこそ少ないかもしれないが、確実に敵の急所を一撃で切り裂いていく。


 思う存分、全身を躍動させるミュンの体捌きは、スピードを武器にするモンスターをも簡単に翻弄できるレベルだ。


 そして、マーレット。


 リーダーの責任と、上手く行かない現状に悩み、ガチガチになっていた彼女。


 元々、彼女の得物は二丁拳銃だ。


 広い視野を持っていなければ扱えない戦闘スタイルである。


「もう一体仕留めました! ミュンさん! 左から来ます!」


 また一体、ソードボアへと留めを刺し、もう一方の銃でミュンに接近しようとしていた個体に牽制を放つ。


 普段通りの実力を発揮できれば、彼女ほど場を支配する力を持った存在はいない。


 適材適所――クロスの助言を受けたこと。


 更に、クロスの前で実力を示したい、クロスをパーティーから失いたくないという気持ちも手伝ってか――三人は次々にソードボアを倒し、多数の《魔石》をゲットしていく。




 ――一方、バルジ達は。




「行くぞ!」


 バルジが《乱嵐》を発動させ、巨大な竜巻が発生。


 その中にいたソードボア達の体が、大量の鎌鼬によって切り刻まれた。


「チッ……何体か逃がしたな」


 しかし、直前で風の気配を察知した数体のソードボアが、その攻撃範囲から逃れていたようだ。


 流石は、スピード自慢のモンスター。


 狙った獲物を全てかっ攫う――とはいかなかった。


「おい、《魔石》は誰が拾う!?」


 バルジが仲間達に叫ぶ。


「そんなの後だ! まだ無事なモンスターが何体もいるぞ!」

「クソッ……一発で全部仕留められりゃ、拾う余裕もあったのに……」

「言ってても仕方がないだろ! もう一発、発動する! お前等は同じように――」

「お、おい、あいつら……」


 そこで、バルジを護衛していた後衛の仲間が、バルジに言う。


 視線を追うと、ソードボアを次々順調に倒していくクロス達パーティーの姿が見えた。


 先程は、全員で一体のソードボアを協力して倒していた程度のはずだったのに……。


 今や、ジェシカもミュンもマーレットも、単独でソードボアを相手にし、そして倒して行っているように見える。


「こっち、これで5体目や!」

「こちらは8体だ」

「私は、今ので10体目です! みんな、もう少しですけど油断しないように!」


 聞こえてきた討伐数に、バルジは息を呑む。


 こちらは、今やっと6~7体倒したところだ。


 凄まじいほど、差がついてしまっている。


「結構やるぞ、あいつら」

「討伐数、俺達の方が遅れてないか?」

「そ、そんなことない! 口から出任せを言ってこっちを焦られる作戦だ! 後で《魔石》の数を見ればわかる!」


 とは言え、バルジも焦り始める。


「くそっ、俺達がどうしてDランク冒険者と同程度……いや、それ以下の成果しか……」


 その瞬間だった。


「バルジ!」

「え」


 焦って、注意力が散漫になっていたバルジ。


 その後方から、加速した一体のソードボアが突進してきた。


 慌てて後衛の仲間が立ち塞がろうとするが、相手はかなりの速度が出ている。


 このまま追突されたら、二人とも――。


「しまっ」




 ――刹那、バルジ達の前方に“光の壁”が煌めき、襲来したソードボアの体を弾き飛ばした。




「ギュゲッ!」

「………は?」


 まるで、突撃の威力をそのまま跳ね返されたかのように――ソードボアは宙を舞い、地面に落下する。


「い、今、何が……」

「………」


 呆然とするバルジ達を、遠方からクロスが右手を掲げて見ている。


『クロス、今、《光膜》で彼等を守りましたね』

「はい」


 クロスの返答に、エレオノールは呆れる。


『今は勝負の最中です。相手に塩を送る必要なんてないと思いますよ』

「すいません、ついクセで」


 とは言え、目前に見えるソードボアの姿は、もう数えるほどしか見えない。


 マーレット達が、ほとんど倒してしまった。


 仮に残りの数を、全て相手方が倒したとしても、賭けはこちらの勝ちが明白である。


『勝負ありですね。どうします? もう少し相手に吹っ掛けてみても面白いのでは? 残りの獲物を全て倒した方が、一億ポイント獲得で一発逆転チャンス! とか』

「女神様、ギャンブルで絶対に負けるタイプの性格をしていますね」




 ――その時――地響きが轟いた。




「な……あ、あれは」


 バルジ達が、言葉を失っている。


 そしてミュン、ジェシカ、マーレットも、警戒心を高める。


 それまで多数のソードボアによって隠れて見えていなかったが、平原の真ん中に、“それ”は横たわっていたようだ。


 そして、今、“それ”は体を起こした。


 巨体のソードボアだ。


 人間三人分くらいの高さに、頭がある。


 額から生えた角も、大剣のようだ。


 おそらく、この群れの中でもボスの立ち位置にいる――そんな個体だろう。


「し、仕留めるぞ!」


 真っ先に動いたのはバルジだった。


 おそらく、敗色が見え焦燥感に駆られたのだろう。


 杖を構え、即座に乱発できる初級の《風魔法》――《風弾(エアロ・バスター)》を撃っていく。


 しかし、風の散弾が迫った瞬間――巨体ソードボアの体を、《風弾》は通過していった。


「は?」


 いや、通過したわけではない。


 巨体ソードボアは、その大きな体からは想像も出来ない動きで、左右に素早く体を移動させて、攻撃を避けたのだ。


「な、なんだこいつ!」

「速過ぎんだろ!」


 バルジが《風弾》を更に撃ち、後衛の仲間が弓を放つ。


 しかし、当たらない。


「む、無理だ! こいつは俺達だけでどうにかできる個体じゃねぇ!」


 バルジが、クロス達に向けても叫ぶ。


「勝負はお預けだ! 一旦逃げるぞ!」

「………」


 どさくさに紛れて賭けを有耶無耶にしようとしている点に関しては、さておき。


 クロスは、冷静に巨体ソードボアを見定める。


 確かに、通常のソードボアに比べても、機動力が桁違いに高い。


 視覚では追えないほどだ。


 それでも、先日のガルガンチュアマザーに比べれば大した威圧感はない。


 あくまでも、他よりも強力な個体……という程度だろう。


「どうします? クロスさん」


 マーレットが、クロスに問う。


 マーレットも、ミュンも、ジェシカも、闘志は薄れていない。


 彼女達は、立ち向かう気だ。


 が、その時。


『クロス! 《極点魔法》です!』

「え、女神様?」


 エレオノールが言った。


『こんなところで勝負を無しにされたらたまったもんじゃありませんよ! それに、今回の任務では、クロスの活躍を見せることだって重要なんですよ!?』

「………」

『このパーティーに居たいのでしょう!? だったら、あなただってちゃんと実績を積んで、みんなと同じランクに上がらなくちゃ!』


 エレオノールの言葉に、クロスは一瞬ポカンとし――そして、微笑む。


「そうですね。マーレットさんや、ミュンさんやジェシカさんが頑張っているのに、僕だけサボって置いてかれるわけにはいきませんもんね」


 目映い光を放ち、エレオノールが《天弓》化する。


「おお、あれは……」

「あれが、クロやんの《極点魔法》……?」

「綺麗……」


 その光景に、ジェシカは再び相見えた感動を。


 ミュンとマーレットは、それぞれの反応を見せる。


「皆さん、すいませんでした」


 そこで、クロスは《天弓》を構えながら言う。


「僕が今回の賭け勝負を受けた本当の理由……それは、あのまま揉めているよりも、彼等に勝ってみせた方が早いと思ったからです」


 バルジの仲間達が、クロスへの誹謗を口にしていたとき。


 マーレット達が悔しそうにしていたのを、クロスは見ていた。


 けれど、クロスもあの時――。


 自分の事よりも、このパーティーが軽んじられて見られているように感じ、ちょっと腹が立っていたのだ。


「僕は、皆さんと一緒のパーティーでいたい。そのための努力を、僕もしないといけませんよね」


 そんなクロスの言葉に、三人がドキッと胸を高鳴らせる一方。


 クロスは、手元に発生した七色の矢の中から――紫色の矢を手に取り、弓に番えた。


「《天弓》――《紫矢(ネメシス)》」


 相手は、目にも留まらぬ俊敏さを持つ。


 だが、弓矢や《風魔法》が放たれた後に体を動かし、それで回避していた。


 スピードはあるが、動体視力は並。


 ならば――視認不可の稲妻の一撃で屠る。


 クロスの指先が、弦を離す。




 ――刹那、神速に近い稲妻の矢が、巨体ソードボアの胴体に風穴を空けていた。




「        ?」


 巨体ソードボアは、自身に何が起こったのかも理解できていないようだ。


 一拍遅れ、落雷音が平地に轟く。


 そして次の瞬間には、巨体ソードボアの体がゆっくりと横に倒れ、転倒の衝撃で黒い瘴気となり、空気中に霧散した。


「……え、なに」

「何が起きた?」


 目前で起こった光景が理解できず、バルジの仲間達はポカンとしている。


「……き、《極点魔法》……だと?」


 そんな中、知識があるが故に、その《魔法》の恐ろしさを知る《魔道士》――バルジだけが、クロスを見詰めて体を震わせていた。


「す、すげぇ……な、何者……何者なんだ、あいつ……いや、あの人は……」




 ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。


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 また、感想・レビュー等もいただけますと、とても嬉しいです。

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