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□■第9話 任務達成報酬の受け取り■□




 ――ガルガンチュアマザー討伐任務達成より、数日が経過していた。




 あれから、クロスは引き続き都外れの廃屋で雨風を凌いでいる。


 そして、本日――太陽が地上の真上で輝く、真昼。


「じゃ、行くで、クロやん」

「はい、全力でお願いします」


 クロスは、今日も廃屋を訪ねてきたミュンと手合わせを行っていた。


 対峙し構えを取る二人を、傍らでマーレットが見守っている。


 ちなみに、今回はクロスも上半身裸ではない。


 神父服こそ脱いではいるが、インナーは纏っている。


 開始の合図と共に、クロスとミュンは至近距離で体をぶつけ合わせる。


 拳を交え、蹴りを捌き、組んでは倒しを繰り返す。


 以前、全力を発揮したミュンを前に敵わなかったクロスだったが、今では拮抗出来てきている。


 結果、今回の手合わせは引き分けで終わった。


「いやぁ、めっちゃ腕が上がってるやん」


 原っぱに座り込み、空を仰いで荒い呼吸を行うミュン。


「こりゃ、いつかクロやんにも追い越されてまうかな」

「いえいえ、僕なんてまだまだです」


 同じく、呼吸を乱して座り込みながら、クロスは言う。


「お世辞なんて言わなくてもいいですよ、ミュンさん」

「お世辞ちゃうねんけどなー」


 ミュンは困ったように頬を掻く。


「それに、別に気ぃ使ってるわけでもないで。クロやんが強くなると、ウチもなんだか嬉しい気持ちやわ」


 不思議な感覚やね――と、ミュンはおかしそうに笑う。


「終わったか?」


 そこで、廃屋の方からジェシカがやって来た。


 その手に、水の汲まれた桶を抱えている。


「二人とも、大分汗を掻いただろう。クロス様、これでお体を洗うといい」


 どうやら、少し離れたところにある井戸から水を汲んできてくれたようだ。


「ミュンの分は、向こうに用意してある」

「あらー、ジェシカってば気が利くやん」

「ありがとうございます、ジェシカさん。助かります。では、お言葉に甘えて……」


 立ち上がったクロスは、自然な動作で上のインナーを脱ぐ。


 彼の引き締まった上半身が露わとなった。


「ッ!」


 その瞬間、クロスの体を直視したマーレット……加えて、ジェシカも、顔を真っ赤にして慌てだした。


「く、クロス様!」

「クロスさん!」


 すかさず目を覆う二人を振り返って、クロスは「あ」と気付いた。


 そうだ、マーレットは男の裸に慣れていないのだった。


 更に、この反応を見るに、意外にもジェシカも同様のようである。


「い、いきなり服を脱いだらビックリするだろう!」


 ジェシカが目を瞑ったまま、腕をぶんぶんと振って怒っている。


「す、すいません、僕としたことが配慮に掛けていました。お見苦しいものを見せてしまい、申し訳ありません」

「べ、別に見苦しいというわけでは、ただ、わ、私達は男女なのだから、もう少し気をつけて欲しいというか、そもそも、異性に対して肌を見せても許されるのは……」


 ジェシカは、溜まらず叫ぶ。


「こ、恋人同士じゃないとダメだろ!」

『なんですかこのツンデレ剣士、ピュア過ぎません? 幼児ですか?』


 クロスの頭上を浮遊していたエレオノールが、呆れたように呟いた。


「そ、そうですよ、クロスさん! 人前で無暗に服を脱いだりしちゃ、困ります!」


 そこで、更にマーレットがジェシカの発言に追従する。


「男の人が女の人の前で裸になったりしたら……け、結婚しないといけないんですよ!?」

『こっちもピュア過ぎません!?』

「まったく、お子ちゃま達やなぁ」


 真っ赤になって慌てふためくジェシカとマーレット。


 そんな二人を見て、一人平常心なミュンが溜息を吐く。


 そして、上半身裸のクロスに近付くと、平気な仕草で肩に手を置いた。


「この程度で恋人だの結婚だの、大騒ぎて」

「お、お前は実家が男所帯だったから慣れているだけだろ!」

「まぁ、そうやけど。っていうか、ほんまに恋人にでもなったら、この程度で済むはずないやん? もっと凄い事するんやで?」

「も、もっとすごいことですか!?」

「例えば、どのようなことをするんだ!?」


 マーレットとジェシカが、ミュンに勢い良く尋ねる。


「えー? そんなの、キ……ちゅ、ちゅー……」


 恥ずかしそうに頬を染めて、ミュンが囁くように呟いた。


「き、きちゅとか、したりするんや……」

『全員ピュア過ぎません!?』


 溜まらず、エレオノールが叫んだ。


『この娘達、全員色恋に対する経験無さ過ぎです! 絶対、一人残らず箱入り娘だったでしょ!?』

「落ち着いてください。別にいいじゃないですか、女神様」

『いやいや、こんなピュアガールばっかりじゃハーレム展開が見込めないじゃないですか! サービスシーンが遠退くばかりですよ!』

「なんでそんなにハーレム展開? が欲しいんですか?」

★5(ポイント)を稼ぐためですよ!』

「何のポイントですか?」


 まぁ、彼女が意味のわからないことを言うのは今に始まったことではないので、それは置いといて。


「じゃあ、体を洗うので少々お待ちを。それが終わったら、出発しましょうか」


 クロスは、状況を整えるように言う。


 本日の予定は、呼び出しのあった冒険者ギルドへの訪問。


 遂に待ちに待った、先日の任務の報酬が支払われる予定なのだ。




 +++++++++++++




 先日のガルガンチュアマザー討伐の一件は、やはりかなりの噂になっていたようだ。


 その報酬の受け取りを見に、ギルド内には野次馬の観衆が集まっていた。


 たかが報酬の受け取りにギャラリーが出来るなんて……と、ギルドへとやって来たクロスは、その光景を見てびっくりした。


「わ、わぁ……私達、凄く注目されてますよ」


 マーレットが、周囲を見回し緊張した面持ちで言う。


「お待たせ致しました」


 そうこうしている内に、報酬の受け渡しが始まる。


 やって来たのは担当の受付嬢。


 だけでなく、おそらくギルドの上役であろう壮年の男性も付き添っていて、一緒にクロス達へと頭を下げる。


「こちらが、今回の任務の報酬です」


 受付嬢が、上役から報酬の乗せられたトレイを受け取る。


 積み上がった硬貨のタワー。


 クロス達が目視で確認すると、それを一目で高級とわかる皮の袋に入れていく。


「す、凄い額です……」

「こんな大量の金貨、ウチもはじめて見たわ……」

「加えて、こちらは追加報酬となります」


 更に、受付嬢が別のトレイを運んでくる。


 その上に、砲丸ほどのサイズに研磨された《魔石》が乗っていた。


「皆様が回収された、ガルガンチュアマザーの《核》……その《魔石》の一部です」


 ギルド内に、どよめきが溢れる。


 あの巨大な《魔石》の一部とは言え、かなりの大きさだ。


 とんでもない魔力を秘めているのは、一目瞭然である。


「す、すごい事ですよ……これ……」


 マーレットが、思わず身震いしている。


「これを使えば、途轍もない性能の《魔道具》が作れます。それこそ、強力な攻撃力を発揮する《魔法兵器》や、自立稼働するゴーレムだって……それに、結界」

「結界、ですか?」


 マーレットの言葉に、クロスが反応する。


「はい、モンスターを寄せ付けない、《結界魔法》の発動機なんかにも使えそうです。何せ、マザークラスのモンスターの《核》ですから、並大抵のモンスターは気配を怖がって近付かないはずです。遠出や僻地に向かうような任務の際には、野宿の際に重宝します」

「………」


 野次馬の冒険者達の間からも、様々な声が聞こえてくる。


「すげぇ、あんな《魔石》があれば、天下無双の武器が……」

「いや、そもそもアレ一つ売り捌くだけで、家だって建てられるぜ」

『ふふふっ、私の言うとおり持ち帰って正解だったでしょう? クロス』


 空中を上機嫌に旋回しながら、エレオノールが言う。


「………」


 しかし、そんな中。


 クロスは、その《魔石》をじっと見詰め、考え込んでいた。


「どうしました? クロスさん」


 神妙な顔付を心配し、マーレットがおずおずと話し掛けてくる。


「いえ……もしかしたら」


 そこで、クロスは思考の内容を口にした。


「この《魔石》があれば、今回ガルガンチュアの被害に遭った村の方々の不安も、払拭できるのではと思いまして」

「え?」


 先程、結界というマーレットの言葉を聞いて、クロスは思い出したのだ。


 今回のガルガンチュア発生の件はそれ自体が珍事で、いまだその原因は解明されていない。


 となれば、同じようなことがこれからも起こる可能性がある。


 先日、村を出立する際に、村人達からは感謝の言葉を多くもらった。


 しかしそれだけが心配だと、彼らは不安がっていた。


「この《魔石》を使って結界の《魔道具》を作成し村に置けば良い魔除けになる……皆さん安心するのでは……と」


 クロスは、そう率直に考えた事を口にした。



 ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。


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