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□■幕間 一方、神聖教会では……――懲罰不満■□


「ベルトル司祭!」


 神聖教会支部――。


 背後から声を掛けられ、ベルトル司教は振り返る。


 そこに、数名の女性達が立ち並んでいる。


 神聖教会の修道服に身を包んだ、シスター達だ。


「クロス神父が教会を去ったというのは、本当なのですか!?」


 深刻な面持ちで迫る彼女達に、ベルトル司祭は溜息を吐く。


 またか――と思ったのだ。


 もう何度、事情を知らないシスターや神父達にこの質問をされ、説明をしたものか。


「ええ、本当です」

「そんな……どうして……」


 ショックを受けた表情になるシスター達。


「クロス神父は、とても素晴らしい人柄のお方です……! 素行に問題ありとして追放なんて、何かの間違い……」

「それが、間違いではないのです」


 動揺する彼女達を前に、ベルトル司祭は諦めと辛さの混ざった表情を浮かべて見せる。


「彼は《邪神街》の出身者であり、その身に《邪神の血》が流れる『汚れた存在』だった……《邪神街》の出身者がどれだけ危険な存在か、君達も存じているはずです」

「それは……」

「そのような存在を、神聖教会に在籍させておくわけにはいきません」

「それを、クロス神父も認めたのですか?」


 別のシスターの問いに、ベルトル司祭は頷く。


「ええ、彼は《魔族》と人間の混血であり、即ち、邪神の系譜を継ぐ者。我々の追求に最初こそ言葉を濁らせていましたが、遂には白状しました」


 糾弾の場に、護衛兵を連れて来て正解でした――と、ベルトル司祭はその時の様子を残念そうに語る。


「本性を表したクロス神父は、普段の人柄からは想像もつかないほどの凶暴性を見せ、我々に襲いかかろうとしました。護衛兵……そして、私ほどの《光魔法》の手腕がなければ、被害者が出ていたでしょう」


 その話を聞き、数名のシスターはショックで口を覆い、また数名は苦悶の表情で視線を落とす。


「か、考えられません……」

「あのお優しい、クロス神父が……」

「私、あの方にどれだけのご恩が……」

「その姿も、我々を欺くための仮の姿だったのでしょう。我々に抵抗できなくなったクロス神父は、最後に白状していきました。この神聖教会の内部で地位を得て、権力を握り、行く行くは《邪神街》の犯罪組織と協力して人間社会に渾沌を巻き起こしてやろうとしていた、と」

「嘘……」


 シスターの中には、涙を浮かべる者や、震える体を抱き締め合う者もいる。


 それだけ、ベルトル司祭の言葉が信じられないのだろう。


「彼はおぞましく、やましい思惑を抱いた……悪しき心を持った者……正に悪魔だったのです。救う事も不可能。女神様の名において、彼を追放する以外の方策は無かった……辛いでしょうが、この現実を受け止めてください」


 そう言って、ベルトル司祭は沈黙するシスター達に背を向けると、自身の執務室へと向かって行った。




 +++++++++++++




「……ふんっ」


 執務室へと戻ったベルトルは、黒壇の机の上に持っていた書類を置くと、椅子に腰掛け、浅く鼻息を鳴らした。


「どいつもこいつも、クロス、クロスと……はっ、下らない」


 そう呟いて、ベルトルは内心でほくそ笑む。


 以前より、クロスがこの神聖教会内で少しずつ影響力を持ってきていることが、上層の人間達の間で物議を醸していた。


 ある日突然、行く当てもないと神聖教会の門戸を叩いた少年。


 修行の身で長年教会に仕え、熱心な若者として日々の修練を重ねて行っていた。


 やがて成長した彼が神父の立場となり……教会内での職務、民衆への奉仕活動、同僚達への教育や相談で、多くの功績を上げていった。


 先程のシスター達もそうだが、彼を信頼する者が次々に増え……最早、女神様を信仰しているのか、彼を崇拝しているのかわからない者もいた。


 当然、上層部の中には苛立ちと不快感、焦りを覚える者も出始める。


 ベルトルも、その一人だ。


 神聖教会はこの国で最大の規模を拡大しつつある宗教。


 その内部政治も苛烈を極めている。


 出る杭は打つ、有望な芽は摘まねばならない。


 クロスに対し不満と危機感を持つ者同士が結託し、身辺調査を行い、出る埃を出しに出して、彼を追放に追い遣ろう。


 そう立案した代表者が、他の誰でもないベルトルなのである。


 ベルトルは、背もたれに体重を預ける。


 あの男を追放したのが四日程前。


 今頃どこで何をしているだろうか。


 あのお人好しの性格だ。


 ここではそれが美徳だったのかもしれないが、裸一貫で外の世界に出れば、それも足を引っ張る短所にしかならないだろう。


 人に騙され、利用され、もしかしたら既に、どこかで野垂れ死にしているかもしれない。


 そう想像を巡らし、ベルトルは嘲笑う。


「ベルトル司祭、失礼します」


 その時だった。


 執務室の扉がノックされた。


 教会の職員が、ドアを開ける。


「どうしましたか?」

「はい、大都より冒険者ギルドの方が、ベルトル司祭を訪ねてきております」

「冒険者ギルド?」

「ええ、クロス神父……あ、いえ、クロスという人物の件で調査に来たと」

「……なに?」


 その名を聞き、ベルトルは眉間に皺を寄せる。


「先日、クロスという人物が冒険者ギルドを訪れ、新人として冒険者登録を行ったそうです。現在、その彼がめざましい活躍を見せており、ランク昇格審査のため、人物像の調査に参った、とおっしゃっているのですが……」




 ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。


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