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臆病者の異世界冒険譚  作者: 黒山守明
第一章 冒険者レオンハルト
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7話 コカトリス

「この辺だな。」

 ダークバットに襲撃された所から15分ほど進んだところで、ホレスは足を止めた。もうこの辺りは、ケーブスパイダーの巣はないようだ。


「ああ、匂うぜ。」

 ペロも何かを感じ取ったようだ。俺には何もわからないのだが。そしてあたりを見回すと突然大きな鶏の顔が暗闇から俺の目の前に現れた。



「うわああああ!」

 俺は思わず大きな声を上げた。体長5メートルはある大きな鶏のような形をした魔物。間違いない、こいつがコカトリスだ。



「くそ!俺としたことが、全く気付かなかった!」

 ホレスが驚きながら言った。


「ガウッ、ガウッ!」

ペロは何やらコカトリスを威嚇している。だが、肝心のコカトリスは攻撃してくる様子はなく、ただじっとこちらを見つめている。そして、その後ろには直径30センチくらいの大きな卵が見えた。あれが金貨4枚の価値があるという「コカトリスの卵」だろうか。


「俺が取りに行く。お前たちはここで待ってろ。」

 ホレスは忍び足でコカトリスの方へと近づいて行った。ただそれでも、コカトリスはホレスではなく、こちらを見てくる。「こちら」というか、俺を見ているような気がするが。

 

ホレスはあっさりコカトリスの後ろまでたどり着き、卵へと手を伸ばした。その瞬間、

「ゴケェー―――!!」

 コカトリスが奇妙な鳴き声を発した。全身に鳥肌が立つのを感じる。

「よっしゃあ、逃げるぞ!ペロ!」

 卵を抱えたホレスは来た道の方へ走り出した。それに続けてペロも走って逃げ行く。

「待ってください!俺も!」

 二人についていこうと俺も走り出そうとした。ところが、

「グケェッ!!」

 コカトリスがその巨体に似つかわしくない速度で移動し、俺の前に立ちはだかる。待てよ。卵をもってるのは、ホレスの方だぞ。なんで俺の方に来るんだ?二人はもう見えないところまで行ってしまったようだ。ソフィアはというと、全く動けずにいる。


 俺は一度冷静になって考えた。ここに来るまでのことを。そして、ようやく理解した。


自分が「囮」として使われたのだと。


「アハハハハッ!!」

 俺は笑うしかなかった。なんて愚かだったのだろう。自分が囮にされているのに全く気付かないなんて。



「ソフィアは逃げなくて良いの?」

 ソフィアはその場で、うずくまってしまっている。

「あ、足が……動かなくて。」

 その様子を見るに、こいつも何も聞かされていなかったのだろう。可哀そうに。だが、今の俺に人の心配をしている余裕はない。


「グギィー-ッ!」

 コカトリスがまっすぐこちらに向かって突進してくる。俺は足が動かなかった。思いっきりコカトリスの突進を食らい、壁にたたきつけられた。


「ぐはっ。」

 全身が痛い。なんとか致命傷は避けたようだが、もう一発くらったら命が持たないだろう。コカトリスは次の突進を繰り出そうと俺の方に向きなおした。


 こんなところで死ぬのか、俺は。せっかく異世界にやってきてやり直すチャンスだと思ったのに。なにもできずに死ぬのか。


 そんなのは嫌だ。嫌にきまってる。


俺は短刀に手を伸ばし、鞘から抜いた。こんな物で何ができるかは分からないが、無いよりましだ。






コカトリスは俺に向かって真っすぐ突進を繰り出して来る。俺はそれを横に回避した。奴はターンして、再び俺の方に突進してきた。今度もそれを横に躱した。確かに速いが、躱せないほどではない。もはや恐怖はなかった。むしろ、体がいつもより軽い気がする。剣を構えていると、不思議と勇気がわいてきた。




「やってやる!」




意気込んでみたはいいものの、反撃の糸口は全く見つけられなかった。攻撃を躱すのが精いっぱいで、こちらが仕掛けるチャンスがあるようには思えなかった。そのまま俺はしばらく、相手の攻撃を回避することに専念した。


 




俺とコカトリスが対峙してから20分近くが経過した。相手は明らかに動きが鈍り始めていた。あの巨体があのスピードで動き続けて、長く持つはずがないという俺の考えは当たったようだ。


 相も変わらず、コカトリスは俺に向かって突進してくる。だが、今度は俺は上に回避した。つまりジャンプしたのだ。そのジャンプ力は俺の予想をはるかに超えるもので、もう少しで洞窟の天井に頭をぶつけるところだった。


 コカトリスは俺のことを見失い、あたりをきょろきょろしている。その頭上に俺は丁度着地した。そして俺はコカトリスの目の片方に思いっきり短刀を振り下ろした。




「ゴケェェェ!!」


 コカトリスは耳をつんざくような悲鳴をあげた。目からは血しぶきをあげ、頭を振り回したため、俺は地面へと落ちてしまった。




「痛ッ!」


 また体のあちこちに痛みが走る。だがこの隙を逃す暇はない。


 コカトリスは我を忘れ、そこら中を走り回っており、俺には目もくれない。




「おい、逃げるぞ。ソフィア」


「でも、足が……動かなくて。ひゃっ。」






俺はうずくまったままのソフィアを無理やりおぶって、出口まで駆けだした。




しばらく夢中で走り続けて、ケーブスパイダーの巣がある場所までやってきた。ここからは足元に気を付けながら、ゆっくり歩いて進むしかないだろう。後ろを振り向いたが、コカトリスが追ってきている様子はない。どうやら逃げ切ったようだ。


「ふぅ~。」


 俺は大きくため息をついた。ひとまず命の危機は去った。一時はどうなることかと思ったが……。






「あの、もう大丈夫です。自分の…足で歩けます。」


 俺は抱えていたソフィアを下ろした。


「ごめんなさい……。私、怖くて何もできなかった。なんで……私のこと助けてくれたんですか?」


「昔の自分に似てるからかな。俺も臆病で色んなことからずっと逃げてた。でも、そんな自分が嫌で変わりたかった。人々から尊敬される勇者のようになりたいって思った。目の前に困っている人がいたら助けるってそう決めたんだ。」


「私も……強くなりたいです。どうやったらあなたみたいになれますか?」


「分からないよ。俺もまだ本当に強くなったわけじゃない。」


 ソフィアは肩を落として、しょんぼりと下を向いてしまった。本当に分からないのだから仕方がない。


「だから、これから二人で強くなっていこう。」


「はい!」


 ソフィアは、顔を挙げて返事をした。




 改めて、俺とソフィアは仲間になった。





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