6話 コカトリスの洞窟
「洞窟には、どんな魔物がいるんですか?」
気になったので、ホレスに聞いてみた。
「うるせぇ!てめぇは黙ってついてくりゃいいんだ!」
答えたのはペロだった。
「そういうなよ、ペロ。後輩に色々教えてやんのが先輩の役目ってもんさ。コカトリスの洞窟は情報が少ねぇから、行ってみないと分からないが、ケーブケーブスパイダーやダークバットなんかだろうな。」
スパイダーとバット。蜘蛛と蝙蝠ということだろうか。
「ケーブスパイダーは臆病な生き物だ。自分の罠にかかった獲物以外には見向きもしない。だが、一度巣に引っかかったら最後、もう逃げられねぇ。」
「ひぃっ。」
ホレスの説明を聞いてソフィアが悲鳴を上げる。俺も背筋が凍るような思いがした。蜘蛛に襲われて死ぬ。そんな最後だけは絶対にごめんだ。
「ダークバットもそうなんだが、洞窟にいるような生き物は基本的には自分からは襲ってこねぇ。それはコカトリスだって例外じゃないはずだ。しっかり気を付けていれば戦闘にはならねぇ。」
「でも、卵を取ろうとしたらさすがに襲ってくるんじゃ……。」
ソフィアが非常に怯えた声色で聞いた。
「まぁ、そこは俺に良い考えがあるから心配すんな。」
一体「良い考え」って何だろう。俺たちには教えてくれないのだろうか。
そうこうしている内に、コカトリスのいる洞窟へとたどり着いた。
「いいか、こっからは静かにしろよ。俺も集中するからな。」
ホレスが急に真剣な面持ちになった。それを見て、俺もキュッと気を引き締める。ホレス、ペロ、俺、ソフィアの順番で洞窟の中へと入っていく。入り口は直径5メートルくらいで、中は暗くてよく見えない。
ホレスはたいまつを取り出して火をつけた。と言っても、足元がかすかに見える程度だが。それでもホレスは迷うことなく、どんどん進んでいく。俺たちは置いていかれないように、必死で着いて行った。
洞窟の中は静かで、コツコツと俺たちの足音だけが木霊している。本当に魔物なんかいるのだろうか?すると、突然ホレスが立ち止まった。
「おい、気をつけろよ。こっからはケーブスパイダーの巣だ。」
足元をよく見ると確かに蜘蛛の巣のようなものが見える。だが、蜘蛛そのものは見えない。どこかに隠れているのだろう。
「ああなりたくなかったら、俺の後を一歩も離れるなよ。」
そういってホレスが指を指した先には、なんと人間の頭蓋骨があった。
「ひいいいっ。」
ソフィアが悲鳴を上げる。まあ、今回ばかりはその気持ちもわかる。ここでは人が死ぬ可能性があるのだ。そして、疑問に思った。俺のような初心者がこんなところへ来てよかったのか、と。だが、後悔してももう遅い。ホレスはどんどん前へと進んでいく。もう後戻りはできない。
「もう無理です……。引き返しませんか?」
洞窟に入って10分くらいたったころソフィアがとうとう音をあげた。彼女はもう半泣きの状態で、足がふるえ、いかにも限界という感じだった。臆病な性格なのはなんとなくわかっていたが、これほどとは。
ただ俺もそこまでではないにしろ、かなり緊張していた。ホレスは襲われることはないと言っていたが、本当だろうか?果たして俺は魔物相手に勝てるのか?一度考えだすと不安が止まらなかった。
「うるせぇ。お前は黙ってついてくりゃいいんだ!ワン!」
ペロが吠える。
「馬鹿ッ!そんな大きな声出したら……。」
ホレスがあわててペロを注意したが、すでにおそかったようだ。洞窟の奥からバサバサという羽音、キャーキャーという無数の鳴き声がこちらにやってくるのを感じる。
「ダークバットだ!奴らは目が見えない分、音に敏感なんだ!」
ホレスが叫ぶ。すでにダークバットは目の前まで来ており、俺達に襲い掛かった。
ペロは背負っていた斧を手に持ち、振り回した。しかし、その大振りな一撃はダークバットたちには当たらず、苦戦している。
しかし、それよりももっとピンチなのがホレスだった。ホレスは武器を持っておらず、手に持った松明で応戦するも、ダークバットたちは全くひるむことなく、鋭い爪でホレスの身体をひっかいている。
ソフィアは完全に泣き出してしまった。だが、最後尾にいたためか彼女だけは襲われていない。しかし、戦力にはならなそうだ。
つまりこの場で動けるのは俺しかいない。俺はホレスからもらった短剣を鞘から取り出した。やるしかない。
「うおおおおおおっ!」
俺は闇雲に剣を振り回した。攻撃はあたることはなかったが、俺の周りにいるダークバットたちは散り散りになった。
そして、俺はホレスを方へ近づき、彼の周りに群がっているダークバットのうち一匹に思いっきり剣を振り下ろした。
「ピギャアアアア!」
ダークバットは断末魔をあげて真っ二つになった。仲間がやられたのを察知してか、他のダークバットたちも攻撃を辞め、どこかへ飛んで行ってしまった。
「やった……。」
俺はそれを見て勝利を確信した。はじめて魔物を倒したのだ。
「助かったぜ、レオン。意外とやるじゃねえか。」
ホレスは体のあちこちにひっかき傷を作っているものの、軽症なようだった。
「ダークバットくらいで褒めちゃいけねぇぜ、兄貴。」
ペロは腕組みをしながら言った。
「そんなことないさ。しかし、思ったより複雑な洞窟だな。ソフィアの言う通りここらで――。」
「おい、そりゃないぜ。言い出しっぺは兄貴じゃねえか。だいたい金がいるのは兄貴だろ。」
ホレスが喋っていたのにペロが遮った。
「ああ、そうだったな。」
ホレスはうつむいて暗い顔になりながら返事をした。なにか彼らにも事情があるようだ。
ソフィアはもちろん、俺も撤退に賛成だったのに。ペロの怖い顔に負けて結局俺たちは再び、洞窟の奥へと歩き出した。