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カロンの日常  作者: やみあ るい
3/3

ギルドマスター

「さて、と。彼の全財産は後で回収するとして、僕が賭けた虹貴石の光玉を返してくれる?」

決闘後、少年は虹貴石の光玉を回収するべく、見届け人のギルド職員に話しかける。

「え。あ、ああ。そうだったね。どうぞ」

見届け人のギルド職員はまだ少し呆けているようだったが、懐から虹貴石の光玉を取り出すと少年に渡した。

「ありがと――て、言うと思ったの?」

少年は自身の手に戻った虹貴石の光玉を軽く眺めると、見届け人のギルド職員へ冷たい視線を向けて言う。

「な、なんのことだい?」

「はあ。ねえ、これで本当に僕を騙せると思っているの? だとしたら、随分と舐められてるみたいだね」

人差し指の天辺で丸い虹貴石の光玉を回しながら、少年は見届け人のギルド職員にそう告げる。ゆっくりと、愉悦を隠し、静かなる怒りを込めて。

「何を言っているんだ? 確かにそれは君の持っていた虹貴石の光玉だろう? よく見てみたまえ。それとも何かい。ギルド職員である私が、決闘の賭けの対象を奪ったとでもいうのかい?」

「残念ながら、そうみたいだね。魔力による複製かな? 構成が雑だね。こんなんじゃ、子供にだってバレちゃうよ」

言いながら少年が手に持った虹貴石の光玉へ魔力を通すと、虹貴石の光玉に罅が入り、さらさらと砂のように崩れていった。

「クッ。それがたとえ偽物だとしても、私がそれを作ったとは限らないだろうっ! 君の持っていた虹貴石の光玉が、最初から偽物だったって可能性もあるはずだ」

「苦しい言い訳だって分かってるでしょ? 自分で鑑定したんじゃん? それともこうなることを見越して、鑑定した時に結果を濁して言ったのかな?」

「…………っ」

突然逃げ出そうとした見届け人のギルド職員だったが、少年がそれを見逃すはずもなく、あっさり捕まると一撃で昏倒させられた。そして少年は、見届け人のギルド職員の懐から、本物の虹貴石の光玉を取り出す。

少年には最初から、本物が何処にあるのか分かっていたのだ。

「思った以上に腐敗してるなあ。これだと、やっぱりギルドマスターも……」

少年は虹貴石の光玉を何処かへ仕舞うとそう呟きながら考え込むが、そんな少年の思考はすぐに止められることとなった。

奇しくも少年が呟いた役職につく人物の言葉によって。


「一体何事だ。何が起こっているっ!」


そう叫びながら訓練場に入ってきたのは、先ほどの大男よりもさらに筋骨隆々とした壮年の男。薄く白髪の入った髪をオールバックにしたその男こそ、少年がここにやってきた目的の人物。辺境の街コードルのギルドマスター、デスタルその人である。


「誰か説明しろ! 何が起こっている。あれはCランク冒険者のガスタスか? なんであんなところで寝ていやがる。……おい、そこに倒れているのは、ギルド職員のダレスか? なんでダレスが倒れているんだ。ガキ、お前ダレスに何をした?」

矢継ぎ早に告げられる質問に応えるものは無く、ヒートアップしていったギルドマスターデスタルは、やがて見届け人のギルド職員を目にすると、その傍に立つ少年に目を付けた。

「ああ、貴方がデスタル? こんにちは。僕はカロン。あっちのガスタスって大男は、僕との決闘に負けて倒れていて、こっちのダレスってギルド職員はその決闘の見届け人になったんだけど、僕が預けた賭けの対象をこっそり偽物とすり替えて渡そうとして、バレたら逃げようとしたから僕が倒したんだよ」

挨拶と共に自己紹介をした少年カロンは、そのまま続けて軽く現状をギルドマスターデスタルへと説明する。

「何を馬鹿なことを言っている。あのガスタスは正真正銘のCランク冒険者だ。お前のようなガキが勝てる相手では無い。それにこのダレスも正規のギルド職員である。お前のようなガキが賭ける程度の物を盗む程貧しくは無い! この私を誰だと思っている! 下らん嘘をつくな」

「うーん。本当のことなんだけどなぁ。あ、これが僕の賭けていたものね」

そう言ってもう一度、何処からともなく虹貴石の光玉を取り出す少年カロン。

「なんだそのピカピカ眩しい石っころは」

全く同じものだというのに、このギルドマスターデスタルには、高価な品だとは映らなかったらしい。その声には明らかに、少年を馬鹿にした響きが混じっている。

素人が見ても明らかに、価値あるものだと言える一品。その言葉は訂正されるべきだろう。愚か者の下限というものを舐めていたよ。

「虹貴石の光玉だよ。ちなみに、このダレスって人が鑑定済み」

「なっ、虹貴石の光玉だと!?」

さすがに虹貴石の光玉という言葉は知っていたらしい。ギルドマスターという職業柄か、さすがにそのくらいの知識はあったようだ。

「なぜ、貴様がそんな高価な物を……。おい、クソガ、いや少年よ。その虹貴石の光玉を私に渡しなさい。それは君のような少年が持っていて良い物では無いのだよ。コードルのギルドマスターであるこの私が大切に管理しておいてあげよう」

「え、嫌だけど」

「私はコードルのギルドマスターだぞ! この街の冒険者は、いや住民であろうともこの私に逆らうことは許さん。クソガキ、これは命令だ。さっさとそいつを私に渡せっ」

少年の端的な拒絶に対して、ギルドマスターデスタルは一気に沸点を越えて怒鳴りだした。

「残念だけど、僕はこの街の住人では無いし、冒険者でも無い。だから貴方の命令とやらに従う必要も無いね」

「グガァ――――、このクソガキがぁ――! そ、そうだ。さては、貴様。我がギルドから虹貴石の光玉を盗み出したな! 確か我がギルドの金庫に虹貴石の光玉があったような気がする。いいやあったはずだ。それを盗み出したのだな! 許せんっ!」

あまりにも出鱈目な言い分に、少年はギルドマスターデスタルを白い目で見ていると、ギルドマスターデスタルは周りに集まった冒険者たちへ声を大にして叫ぶ。

「冒険者たちよ! このガキはギルドの金庫から虹貴石の光玉を盗み出した大罪人だ! 捕まえろ。いや、殺してしまえ! このガキを殺して、虹貴石の光玉をギルドに返した者には、賞金と共に、私の権限でギルドランクをBランクにまで上げてやる!」

ギルドマスターデスタルの言葉に、冒険者たちが気色立つ。少年カロンの実力を間近で見ていたはずだというのに、全員で掛かれば何とかなると考えたのだろう。何よりも、ギルドマスターデスタルの言うBランクに上げるという言葉が、彼らに命を懸けさせる理由となった。


辺境では強さが全て。故に、辺境においては強さが伴わないランクにあまり意味は無い。

だが、それは辺境での話だ。基本的にギルドがつけるランクには信頼がある。そして中央に居座る貴族たちにはその信頼が効くのだ。

中央であれば、街の守りには国軍も動く。そうなると貴族たちの中には、冒険者のランクを貴金属や宝石のように考える者たちも出てくる。そう言った者たちに雇われれば、危険な戦いなど行わずとも、着飾って貴族たちの背後に控え、ちょっとした冒険譚を語るだけで生きるに余る報酬が貰えるのだ。

そう言った冒険者は一応、もしもの時の為に雇われているのだが、魔王が倒された今、実際にもしもが起こる確率は低く、さらにもしもが起きたなら騎士団がまず動く。安全さと、報酬は折り紙付きだ。

Bランク冒険者ともなれば、そうやって生きていくことも可能となる。

それにそう言った事情に疎い者たちでも、Bランク冒険者の証を酒場でチラつかせれば色々と良い思いが出来るというのは常識だ。持っておいて損は無い。

そんなわけで冒険者たちは、手に手に武器を持ち、少年カロンをあっという間に囲んだ。

「さあ、さっさとやってしまえ」

ギルドマスターデスタルが、そんな冒険者たちの背後から発破をかける。

そして、少年カロンへ向けて、冒険者たちが殺到した。



「で、それからどうなったんだ?」

「別に。普通に皆ぶっ倒した後に、襲ってきたギルドマスターもぶっ飛ばしてから捕まえてお終い」

「あそこのギルドマスターって、一応実力派の元Aランク冒険者なんだけどな」

「そうなの? あんまり歯ごたえ無かったけどねー、いつも通りだったよ」

「確かにいつも通りだな」

ここはエルカルド王国王都エルカドール。その冒険者ギルドのギルドマスター室だ。

エルカドールにある冒険者ギルドは、この国の全ての冒険者ギルドの総本山として知られている。さらに、そこのギルドマスターはグランドギルドマスターと呼ばれ、この国のギルドマスターの全てを統括する最上位の存在として知られていた。

グランドギルドマスター、ガルダーク。

既に半ば伝説となっている勇者のパーティーに所属していた超一流の戦士であり、Aランク冒険者の頂点。そして現在、少年カロンから辺境の街コードルでの内部監査依頼の報告を受けている人物でもあった。

「適当に縛って持ってきたから、後は好きにしてよ」

「適当にって、おめえはまったく……まあなんにせよ、楽しんだようで何よりだ」

「あはは。そんなこと言ってくれるのは、ガルダークだけだよ」

「まあ、お前のやり方は荒っぽいからな。あちこちぶっ壊れるのはしょっちゅうだし、人死にが出る場合もままある。何より本人がそれを楽しんじまってるってのがな」

「それガルダークもあんまり変わらなくない?」

「お前の場合は悪意がにじみ出てるんだよ。それが、気に入らねえんだろうさ。特に聖女辺りは――」

「あーあー、聞こえません。聞こえません。やめようよ、楽しい話に水を差すのはさあ」

「分かった分かった。ほんとに相性悪いんだな、あいつらと」

「別に。僕はそう思ってないけどね」

「どーだか。同じ勇者のパーティーだってのにな」

「あはは。ほら、僕は異世界人だから。きっとそのせいだよ」

「賢者の奴から聞いた過去の文献に出てくる異世界人は、割とまともだったぞ」

「それは文献が間違ってるんだよ、きっと。ほら、未来に残す文章に、汚点なんて記さないでしょ? それにさ、別にいいじゃん。それで世界が救われるなら」

「まあ、そうなんだけどな。俺もこうして、お前を利用させてもらってるわけだし」

「うんうん。それよりもさ、他にイイ感じの仕事無い? やっぱり、冒険者ギルド絡みは派手で楽しいんだよね。思い切り暴れられるし。ざまあも出来る」

「ざまあ? なら、いい加減、冒険者ギルドに入ってくれ。そうすりゃ俺も助かる」

「それは嫌。組織に縛られたくないもん」

「ったく。じゃあ、これなんかどうだ? 今度は南の辺境なんだが……」


こうして、英雄二人の話し合いは続く。

次は何処が、騒乱に巻き込まれるのか。

それは、この二人のみが知ることだろう。


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