すきだった人を、すきじゃなくなってゆく過程について
ぼくはあの子を解体しました。
ずっと好きで好きでたまらなかった。なぜならあの子はとてもミステリアスだったから。
神秘を纏い、その実態を覆い隠すのではなく、その神秘のベールこそが我々の欲求の対象となることがある。
対象への隔たり……つまり物理的心理的距離は、ときにそのベールの正体となる。
ひとはベールが欲しいのか、ベールを剥ぎたいだけなのか。
いずれにせよ、ベールを纏うものは往々にして魅力を剥ぎ取られ、川底に沈められたようになるのである。
分かりたかった。ぼくの言葉に答えるとき、表面だけじゃない意味を持たせて、あの子の崇高な頭蓋の中にある辞書を引用させなきゃと悟らせるんだ。
見たい!あの子の頭蓋の中!
と思ったら、僕は昼ドラにしか出てこないような大きな花瓶であの子の頭をぶん殴り、愛してやまないその灰色の物質を白日のもとに晒し上げた!
中身 これが中身だ
皮を剥いで、筋肉を綺麗に分割した。白い骨に赤く、暗い色の筋肉がもったりとくっついている。これは腕。
それをシートの上に並べて、ちゃんと人の形になるように並べて…肉と骨。
ある種の神秘はある。まだぼくが暴いていない小さな小さな機序が、このバラバラの肉体の細部には宿っているのだろう。
でも、ぼくが好きだった 神秘 はすでに失われている。
そんな気はしていた
でもぼくはあの子をもっと知りたかったのだ
ぼくにはこれしかできなかった できる頭と感性が
別の方面からアプローチして理解しなおすか?いや
もう僕はこれに興味を持てない。
心臓を食べる気も無くなってしまった
失敗したということだった。
近づきすぎてしまったんだ
それでもぼくは、この死体を細部まで裂き、観察し、理解し、頭に叩き込むように覚えるだろう。
それがぼくの、いやぼくたちの、罰。なのだから。