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宝物の贈り物

作者: 川﨑早苗

6歳、おばあちゃんから、サーファーが主人公の絵本をもらった。大事に優しく渡してくれた。それまでよく分からなかった、カセットテープが宝物だったけど、この絵本が、生涯、私の宝物になる。

15歳、鏡の前にいる時間がとても長く、ダイエットをしているのに、朝食は全部食べなさいと、親に言われ、反抗して、味噌汁が朝ご飯、それが毎朝の出来事だった。

22歳、あの時貰った宝物の絵本が、大好きで、サーフィン関連の仕事に就いた。7歳の時に、好きすぎる海で溺れかけて、サーファーにならなったのは、正しかったと思う。

24歳、歴史的なハットトリックを決めた、W杯の日、いつしかお守りになっていた、大事な絵本を無くした。ひと月ほど、絵本を無くしたショックで、泣いたし、探すところも無く、オーパーツが並ぶ様なお店にも、絵本を探し回った。

26歳、宝物の絵本を無くして、落ち込んでいた私を、取引先の海洋生物研究所の、教授の助手である彼が、お菓子をくれたり、映画館に連れて行ってくれて、励ましてくれて、大きな交差点の真ん中で、私への愛を叫んでくれた、彼が新しい私の宝物になった。

32歳、雪だるまが、街中に作られた日、私と彼の間に、新しい宝物が誕生した。

77歳、私にも小学生になる孫がいる。私がそうしてもらった様に、孫にも絵本をプレゼントしてあげたいと思った。色々な古本屋さんがあったが、サイコロの形をした時計が、目印のお店に立ち寄った。看板に密室の古本屋と書かれていたのに、中は、それとは裏腹に、広い店内だった。絵本のコーナーで、たまたま手に取った絵本に見覚えがあった。表紙をめくって、確信した。あの時無くした絵本だった。間違いない。表紙をめくったところに、おばあちゃんと私の名前、それからメッセージが、あの時のまんま残っていた。絵本との51年ぶりの再会だった。涙が溢れた。私の宝物の絵本を、私の宝物の孫に、贈った。ずっと大切にしてくれると、言ってくれた。おばあちゃんから貰った贈り物を、おばあちゃんになった私が、孫へ贈り繋ぐことが出来た。

孫に贈り物をして、大切なことを思い出した。私の宝物の絵本は長い年月、手元に無かったけど、忘れてしまったことはなかった。

もし手元に無くとも、触れる事が出来なくとも、一番大切なことは、こころからなくさないことだよと、おばあちゃんからもらった言葉を、これからも大切すると、空に誓った。

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