転生王子 【下】
転生王子の【下】になります。
短いお話ですが、これで完結となります。
もし良ければ【上】【中】も読んで頂ければと思います。
そこまで長くはないので、すぐに読めるかとは思います。
「こちらになります、ウィリアム坊ちゃん」
「ありがとうセバスチャン」
僕はリリムの別宅にある地下へと続く扉を開き、その先にある階段を降りていった。
階段の先は薄暗く、火を焚き僅かな光が灯されていた。
そして通路の1番奥まで行くと、そこには牢屋に囚われた三人の男がいた。
「彼らがリリム暗殺の実行犯?」
「左様でございます、ウィリアム坊ちゃん」
「おい、お前は確か、能無し第三王子だな!能無し第三王子が何の用だ?」
「ねえ、誰が喋って良いなんて言ったかな?少し静かにしてくれないかな?」
「なんで能無し第三王子の命令なんて聞かないとダメなんだ?それより死神セバスチャン。さっさと俺たちの事を殺せよ。俺たちは暗殺に失敗し、部下たちも全て失った。このまま帰っても制裁で殺されるだけだ。だったら、伝説の暗殺者と呼ばれた死神セバスチャンに殺された方がマシだからな」
「だから、少し黙ってくれないかな?それとも無理やり黙らせた方が良いかな?」
僕は彼らが囚われている牢屋の鉄格子に手をかけ、少し力を入れるとその鉄格子は簡単にひん曲がり、僕はすんなりと牢屋の中へと入って言った。
牢屋の鉄格子に使われている金属は非常に固く、素手で曲げるなど、レベル100の者でも不可能だ。
それを簡単にやってのけてしまった僕の姿を見た暗殺者達は、一瞬にして血の気が引いて行った。
「どうする?静かにしてくれるかな?」
僕の問に対して暗殺者達は、少しの間をおくと無言で首を縦に振っていた。
「では、あらためまして。僕はウィリアム。君達の言うところの能無し第三王子だよ。それで君達にはいくつか聞きたいことがあるんだけど、素直に答えてくれるかな?」
僕は入ってくる時にひん曲げた鉄格子の一本を力づくで引き抜き、その鉄の棒を曲げながら暗殺者達に問いかけている。
そして暗殺者達は先程と同様に無言で首を縦に振って答えた。
「ありがとうね。じゃあまずは、君達にリリム暗殺を依頼したのは第一?第二?どっちかな?」
セバスチャンが生かしておいた三人の中でも1番の実力者であろう、中央にいた暗殺者の一人が僕の問に対して指を二本立てる形で回答をした。
「そう。ソーヤン兄さんからの依頼なんだね。それを証明出来るものとかあるかな?」
次の僕の問に関しては、今度は三人とも無言で首を横に振っている。
その光景を見ていたセバスチャンが後ろから声をかけてきた。
「お話の途中で失礼いたします。サイレントでは書面など依頼者が特定出来るものは何一つ残す事はございません。暗殺者は信用あっての依頼になります故、依頼者が危険になる可能性の物は抹消されているかと」
「ありがとうセバスチャン。当然残ってるわけなんてないよね。じゃあ別の聞き方をするね。リリム暗殺に成功した場合は成功報酬の支払いがあるよね?そうなった場合はソーヤン兄さんが直接受け渡しに来るのかな?」
今度は中央にいる暗殺者が小さな声で言葉を発した。
「依頼は第二王子から直接請け負った。失敗した際の報告はしないが、成功した場合は当然報告をして報酬を貰う。依頼も本人が来ている事から、おそらくは受け渡しも本人が来るはずだ」
「ありがとうね。じゃあ、これから君達を解放するから、五日後にリリム暗殺が成功したとソーヤン兄さんに報告をしてくれないかな?」
「ウィリアム坊ちゃん、リリム様は生きておられますので、流石にそれでソーヤン王子をおびき出す事は難しいかと」
「そうだね、だからリリムには四日後に死んでもらう事にするよ」
「本気ですか?ウィリアム坊ちゃん?」
「リリムが死ねばソーヤン兄さんも疑わないだろうからね」
こうして四日後の昼頃、リリムが暗殺者に襲われ命を落としたと国王へと報告が入った。
国王は憔悴した顔でリーベルト、ソーヤン、僕を招集し、リリム死亡を伝えた。
混乱を避ける為、すぐには国民に公表しない事となり、翌日には暗殺者からソーヤン兄さんに報酬受け渡しの連絡があった。
「ご苦労。まだ子供とは言え、よくあのリリムを暗殺してくれました。あんな子供でもレベルは50を声、私ではどうする事も出来ませんからね。父上にも気に入られ、随分と苦い思いが続いていましたが、これでやっとリリムの呪いから解放されると言うものです。それで、成功報酬ですが担当暗殺者死亡と言う事でお願いしますね。あなた方は私の護衛が捕らえ殺害させて頂きます。そしてあなた方の首を持って父上の所に行き、リリム暗殺実行犯を私が捕らえ殺害したとの報告をさせて頂きます。それでは依頼分を働いてもらいますよ」
ソーヤンが指を鳴らすと、ソーヤンの後ろに一人の人物が現れた。
黒いフードに全身黒のゆったりとしたローブ。
見た目からは年齢も性別も全くわからない装いだ。
「さて、それではあなたにはあの三人の始末をお願いしますよ。法外な依頼料ですが暗殺者ギルド≪デステラ≫最強の依頼者で、死神が引退した今は最強の暗殺者なんですから、失敗の心配など不要と思いますがね」
「私は任務をこなすだけ。それ以外は何もない。生も死もさほど変わらない。どうせいつかは死ぬんだから、それが今か先かの違いだけ」
「頼もしい限りですね。それではお願いします。私は外に出ていますので、終わったら声を掛けて下さいね」
ソーヤン達が現在話しているのは、郊外に構えるソーヤンの別宅だ。
ソーヤンは別宅を使い、今までも邪魔になるであろう要人の殺害を暗殺者ギルトに依頼して行ってきた。
王都とは離れており、近くに人が近寄ることも無い為、隠れて事を起こすには非常に便利な環境だ。
「ずいぶんと遅いですね。サイレントの暗殺者など所詮は中堅レベルの暗殺者。最上位クラスのデステラの暗殺者であればすぐに終わると思ったのですが、所詮は暗殺者と言ったところですかね」
ソーヤンがそうつぶやくと、次の瞬間入り口の扉が開いた。
しかし、そこから出てきたのはデステラ最強の暗殺者では無く、能無しと呼ばれている第三王子だ。
「何故、君がそこから出てくるのですかウィリアム?」
「それは、リリムが殺害されたと嘘の報告をさせ、ソーヤン兄さんをおびき出す為に手を引いたのが僕だからね。でも、暗殺者ギルド現最強にリリム暗殺を依頼した暗殺者を殺害させ、それを父さんに報告して自分の信頼度を上げようなんて、本当にずる賢いよねソーヤン兄さんは」
「君が仕組んだですって?能無しの君に何が出来ると言うのですか?それにリリム殺害が嘘の報告ですって?」
「その通りですわ、ソーヤン兄様」
「リリム、貴女は暗殺者によって殺害されたのでは?」
「僕がリリムに、リリムから父さんに暗殺者に狙われているから、死を偽造して黒幕をあぶりだしたいとお願いさせたんだ。父さんは僕の話は聞いてくれないけど、リリムには溺愛してるからね」
「それで、私を捕らえて父上の所に突き出すとでも?」
「それも良いんだけどさ、それだと状況証拠で調査も面倒になるからさ、今日は父さんにも来てもらっているんだ」
僕がそう言葉を発すると、ソーヤンの背後から一人の男が現れた。
年齢は50歳で白金の鎧を纏った大柄の男。
ガーネット神聖国の国王、ガブリエルだ。
「父上…」
「残念だぞソーヤン。まさかお前がここまで馬鹿な事をしているなど。リリムにお願いされたので死の偽装を手伝ったが、まさか息子の一人が暗殺者ギルドに妹の殺害を依頼するなど、頭が痛くなる」
「ふふ、ふははははは。そうですか父上にもバレてしまいましたか。それでは仕方ありませんね。ここで父上、ウィリアム、リリムには死んでいただきましょう。そして私がその空いた席、国王にならせていただきます。都合よく暗殺者の首を持っていく予定でしたので、その暗殺者たちに父上の殺害の罪も被ってもらうとしましょうか。こちらにはレベル85の最強の暗殺者がいますからね。たとえ父上と言えど、デステラ最強の暗殺者には勝てないでしょう」
「ソーヤン兄さん、その暗殺者って言うのはこの人の事だよね?」
ソーヤンは全く気付いていなかったのだが、僕の右手には一人の女性が抱えられていた。
見た目は20代で髪は短く切りそろえられ、余分な肉など全て落とした非常にスレンダーな体形だ。
そして、僕の左手には黒いローブが握られていた。
そのローブは確かにデステラ最強の暗殺者が身に纏っていたローブで、その事実からその女性がデステラ最強の暗殺者だと言う可能性が高くなっていた。
「それがデステラ最強の暗殺者だと言う証拠は?どうせ君のはったりでしょ?」
「そうでもないよ。何なら本人の口から伝えてもらおうかな。マルチナ、依頼者への報告をしてくれないか」
「申し訳ない。今回の暗殺は失敗した」
その声は、確かに先ほど聞いたデステラの暗殺者の声だった。
マルチナと呼ばれる女性は、小刻みに震えながらもソーヤンに向け依頼失敗を告げる。
「あなたは最強の暗殺者だと聞いていましたが?それは嘘だったというのですか?」
「私は暗殺者ギルド現最強のレベル85の暗殺者。でも、このウィリアム様には手も足も出なかった。今後は私はウィリアム様に仕える。暗殺者は今引退する」
「何を言ってるのですか?ウィリアムなどレベル1の雑魚ではありませんか?全く意味が分からない事ばかり言って」
「もうよいソーヤン。お前はこれから儂が連れて行き処分を決める。良いなウィリアム?」
「父さんにお任せ致します。僕はリリムに害が無ければそれで良いので」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!!離せ!!僕は次期国王になる男なんだ!!!止めろ!!!離せって言ってるだろ!!!」
「黙るんだソーヤン。お前に国王になる素質は無かったんだ。他者を陥れて地位を得たものなど、すぐにその地位から没落してしまう」
ソーヤンは既にガブリエルに囚われた状況で、どんなにあがいても抜け出せない状況に諦めかけていた。
ソーヤンの成長限界レベルは80だが、現時点ではまだレベル45だ。
リリムにすら及ばないその力ではレベル78のガブリエルから逃げ出すなど不可能だ。
「してウィリアム。その者はレベル85と聞いておるが、お前がどうやってレベル85の者を捕らえる事が出来ておるのだ?」
「ウィリアム様は圧倒的。私にはこのお方の力を図る事など叶わない」
「少し静かにしていてくれないかなマルチナ。父さん、僕はレベル1の能無しです。実はここだけの話なのですが、リリムの執事のセバスチャンはレベル90の元暗殺者で、死神と言われていた最強の暗殺者だったんですよ。そのセバスチャンに協力してもらい、このマルチナを捕獲したのです」
「あくまで自分の力は隠したいようだな。まあ良い。儂としてはリリムが次期国王になってくれればそれで良いからな。しかし、お前の力をいつまでも放置しておくことも、知ってしまった今となっては出来んの。そうだな、今度一度儂と全力で手合わせをしてもらおう。その結果をもって、今後のお前の立場を考えるとしよう」
「……かしこまりました、父さん」
「では、皆で王城に帰るとしよう。向こうに馬車を待たせている。お前たちも乗っていけ」
「わかりました父さん」
「私は国王などなりたくないですわお父様」
こうして僕たちは王城へと帰って行った。
その後、ソーヤンはリリム暗殺未遂の罪で、生涯を牢獄で過ごす事が決定した。
リーベルトの関与もその後すぐに判明したのだが、リーベルトに関しては直接的に何かをしたわけでは無く、ソーヤンへの資金援助のみだった為、今回は処分見送りとなった。
リリムはその後も僕と稽古を続け、15歳になった頃にはレベルが87まで上がり、セバスチャンを除けばガーネット神聖国最強になっていた。
セバスチャンはその後も献身的にリリムに仕え、リリムにふりかかる火の粉を全て消し去っていた。
マルチナはあの騒動の後、僕付のメイドとなり、朝から晩まで僕について来る始末だ。
そして、リリム暗殺未遂後に一番変わったのは僕の待遇だ。
あの後ガブリエルと手合わせをしたのだが、ほんの一分ほど手合わせをするとガブリエルは手合わせを止めて僕に問うて来たのだ。
「ウィリアムよ、お前は国王になる気はあるか?」
「無いよ。僕は自由気ままな今が好きなんだよ」
「うむ、では予定通り次期国王はリリムにするとして、今後もリリムの成長を見守るとしよう」
「僕もリリムが国王になるのが一番だと思うよ。可愛いし人気もあるし優しくて素直だしね。きっと良い国王になるよ」
「それは儂も同意見だが、お前も何もしないなど許されないからな。それだけの力を持っているのだ。どうしてそうなったかはわからんが、お前のレベルは100をはるかに超えておる。お前にも重要な任務を与えよう」
「それって、断っても宜しいですか父さん?」
「ならんぞ。儂の命令は絶対だ。国王である儂の命令に従えないとなれば、お前はこのガーネット神聖国に居場所が無いと思え」
「リリムと離れるのは嫌だから、やりたくはないですが従う以外はないのですね。それで、その任務とは何でしょうか?」
「ウィリアムよ。お前にはリリムの補佐をしてもらう。リリムは確かに勇者の資質を持っておる。しかしあの子は随分と天真爛漫で純粋だ。レベル100まで上がれば暗殺の心配も減るだろうが、何をやらかすかわからん不安もある。なのでお前には生涯にわたってリリムの補佐をしてもらう。リリムの頭となり剣となり盾となる。頼まれてくれるなウィリアムよ」
「そう言う事ですか。それでしたら今までとそこまで変わる事も無く、リリムの補佐という事で僕の地位を少しは上げようって事ですね。わかりましたよ父さん、その任務謹んでお受けさせていただきます」
その後、リリムは25歳になった頃にはガブリエルから国王の座を引き継ぎ、その生涯に渡り平和な国を築き上げて行ったのだ。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
これで転生王子の【下】が終わり完結になります。
少しでも面白いなとか思っていただければ、評価をしてもらえると嬉しいです。
今後のモチベーションにもなりますので、宜しくお願いします。