転生王子 【中】
転生王子の【中】になります。
そこまで動きの多い話では無いのですが、何となく駆け引きなどを表現出来ていいればと意識しながら書いています。
「にぃ様、今日もありがとうございましたですわ」
「僕はリリムの為ならなんだってするよ」
「嬉しいですわ、にぃ様」
僕たちは稽古を終えると、リリムの部屋でお茶をしていた。
僕も自分の部屋はあるけど、とてもじゃないがリリムに来させる訳にはいかない。
同じ王族だが、僕とリリムでは待遇が全く違い、リリム、第二王子、第一王子、僕の順で待遇に多きな差が生まれている。
第一王子と第二王子の成長限界レベルは同じだが、第二王子の方が頭脳明晰で知略にも長け、その分待遇が良くなっている。
順番と言ったが、第一王子と僕との間には、物凄く大きな差があった。
部屋にしても、僕の部屋はリリムの部屋の1/10程度の大きさしか無く、しかも使用人も僕の部屋だけは何もしないので、掃除も自分でしている始末だ。
「リリムの部屋は本当に綺麗で大きいね」
「私はにぃ様に対しての待遇は間違ってると思ってますわ。なんなら、私がお父様に文句を言いますわ」
「そんなことしなくて良いよ。僕はこれでも今の生活に満足しているからね。王族としてのふるまいも必要ないし、可愛い妹もいるからね。むしろ、王族として振る舞う方が無理があると思うんだ」
「可愛いだなんて、嬉しいですわにぃ様。私もこうやってにぃ様と一緒にいられる時間が幸せな時ですわ。長兄のリーベルト兄様と次兄のソーヤン兄様は、私が話しかけても無視するから嫌いですわ」
「それはリリムが美人過ぎるからじゃないかな?」
「もお、にぃ様ったら、照れるではありませんか」
「はは。まあ、可愛いのはホントだけど、真面目な話をすれば、リリムの事が怖いんだよ」
「私の事が怖いのですか?」
「リリムは成長限界レベルが100じゃない。リリムは勇者と言われるだけの資質があるんだよ。だからリーベルト兄さんもソーヤン兄さんも、リリムがガーネット神聖国の次期国王になるんじゃないかって思ってるんだよ」
「私は国王になるつもり何て全くありませんわ。国王になったらお父様みたいに忙しくて、好きな事も出来なくなってしまいますわ。そうなると、こうやってにぃ様と一緒にお茶をする時間も短くなってしまいますわ」
「そうだね、リリムには国王になろうって意思はないもんね。でも周りの目は違うんだ。リリムこそが次期国王にふさわしいって思っている貴族は沢山いるんだよ。民衆の予想でも次期国王の可能性が一番高いのはリリムだと思われているんだよ。この世界は成長限界レベルによって差別されてるのは知ってるよね?」
「そのせいでにぃ様が不当に扱われているのは許せませんわ」
「僕は自由にさせてもらえて良いんだけどね。でもそれこそがリリムが時期国王にふさわしいとされる理由なんだよ。成長限界レベル100って言うのは、たとえ王族でも数百年に一人と言われているからね。リリムは民衆が望む勇者であり、そして過去の文献では成長限界レベル100の勇者が国王となった時はその前後に比べても国の繁栄成長が著しいからね。だからみんな、リリムに期待してるんだよ」
「私としてはにぃ様が次期国王にふさわしく思いますわ。カッコいいですし優しいですし、全ての人に平等に接していますわ」
「僕が次期国王になんて、リリム以外は誰も言わないからね。僕は成長限界レベル1の貧困外の住人と同じレベルだからね。まあ、そんな理由もあって、自分達が次期国王になるハズだったのが、最後に生まれたリリムにその座を奪われる可能性が高いから、リリムにはきつく当たっているんだよ」
「にぃ様は自分の事が分かっていなさすぎですわ。実際には私よりもはるかに強いのにその力を隠していますし、悪用することもありませんわ。リーベルト兄様もソーヤン兄様も色々と汚い事に手を染めすぎですわ。先日なんて私に向けて暗殺者を差し向けていましたし、最近は特にあからさまですわ」
「え?大丈夫?」
「にぃ様のおかげでレベルも上がったので、暗殺者如きは返り討ちですわ。でもリーベルト兄様もソーヤン兄様も、なんでそこまでして国王になりたいのか疑問ですわ」
「リーベルト兄さんもソーヤン兄さんも、人の下に就くのが嫌いだからね。今でも父さんの言葉にすら不満を露わにしているぐらいだからね。でも最近はリーベルト兄さんとソーヤン兄さんで手を組んで何かを企んでるみたい何だよね」
「私の暗殺以外にもですか?」
「その話は知らなかったけど、おそらくはリリムに対抗する為の何かを考えているんじゃないかな」
「それは面倒ですわ。それでしたら先にリーベルト兄様とソーヤン兄様を潰しておいた方が良いですわね」
「良くないからねリリム。表立って王族同士で揉めるのは対外的に良くないからリーベルト兄さんもソーヤン兄さんも暗殺者なんて使ってるんだよ。リリムが直接潰したとなれば、リリムの事を恐れる人も出てきちゃうからね」
「それでは、リーベルト兄様とソーヤン兄様は自由にさせるしかないのですか?」
「そうだね、リリムに危害を加えるなら僕も加勢するんだけど、そもそも最初から何もされないのが理想だからね」
「ですが、そんな方法はございませんわ」
「そうなんだよね。兄さんたちが何かをして来れば捕らえるだけなんだけど、何もしてこなければ事前になんて無理だしね。リリム、その暗殺者たちは返り討ちにした後どうしてるの?」
「暗殺者は執事のセバスチャンに頼んで始末させていますわ」
「セバスチャンが始末しているとなると、何も残っていないだろうね」
「セバスチャンは綺麗好きですわ。汚れ一つ残す事などあり得ませんわ」
「じゃあ、暗殺者から情報を抜き取るのも難しそうだね」
「そんな事はありませんよ、ウィリアム坊ちゃま」
「急に背後に立たないでくれるかなセバスチャン。心臓に悪いよ」
「それは申し訳ございませんウィリアム坊ちゃま。それで先ほどの件になりますが、リリム様に差し向けられた暗殺者になりますが、暗殺者ギルド≪サイレント≫の新人ばかりでした。サイレントのレベルも低くなってしまい、嘆かわしいばかりです」
「そう言えばセバスチャンはサイレント所属の伝説の暗殺者だったもんね。だからこそ、怖いから急に僕の背後には立たないでね」
「ウィリアム坊ちゃまは私が今までに唯一傷すら負わせることが出来なかったお方です。ウィリアム坊ちゃまに危害を加えられるなどあり得ませんのでご安心を」
セバスチャンは元暗殺者で、その世界では伝説と呼ばれていた。
出自は貧困街だが、少し特殊な経歴の持ち主だ。
貧困街にいる住人は、大きく分けて二種類。
一つは成長限界レベルが1だと分かった後に親に捨てられたり、自ら貧困街に落ちていく後天的な者。
もう一つは貧困街で生まれ育った先天的な者。
セバスチャンは後者で成長限界レベル1の両親の元に生まれた。
貧困街で生まれた者は成長限界レベルを調べることも無かった為、ある程度成長するまでは本人も自身のレベルを知らない。
セバスチャンは貧困街で生まれ育ち、10歳の頃に暗殺者ギルドに駒として買われて行った。
駒として買われたセバスチャンはその後盗みに殺しに様々な事をさせられ、その間も全ての任務を無傷でこなした事に、暗殺者ギルドのギルドマスターが疑問を持ち、セバスチャンの成長限界レベルを調べた所、セバスチャンの成長限界レベルが90だと言う事が判明した。
そして、暗殺者ギルドの仕事をこなして行く内に、成人になる頃にはセバスチャンのレベルは限界の90になり、伝説の暗殺者と呼ばれるようになったのだ。
その後も半世紀ほど暗殺者として仕事を続け、数々の命を刈り取ったことで、別名死神の名まで付けられる程だ。
そして70歳になり請け負った仕事を最後に暗殺者家業を引退し、現在はリリムの執事として働いている。
その最後の仕事こそがリリムの暗殺で、その暗殺を防いだのが僕だ。
そして、その一件からリリムは僕に懐き、またセバスチャンはリリムの執事となる事が決定したのだ。
「それでセバスチャン、そんな事無いって言うのはどういう事かな?」
「捕らえた暗殺者になりますが、一部の者は生かしてありますよ。素人に毛が生えた程度の者は綺麗にしておきましたが、中堅クラスの暗殺者も数名おりましたので、その数名は情報の抜き出しの為に生かしておきましたよ」
「流石に仕事が出来るね、セバスチャンは」
「お褒め頂き光栄に存じますぞ、ウィリアム坊ちゃん」
「それで、その暗殺者達は何処に捕らえてあるのかな?」
「郊外にあるリリム様の別宅の地下へ捕らえております。基本的には誰も出入りすることも無く、使われる事もない別宅になります故、何かを隠すには非常に便利な場所となっております」
「そうか。じゃあ、今からそこに行ってみようか。案内してくれるかなセバスチャン?」
「かしこまりましたウィリアム坊ちゃん」
「私もついて行きますわ、にぃ様」
「リリムはお留守番だよ。拷問とかも必要になるだろうから、リリムには見せられないからね」
「そんなですわ、にぃ様。私それぐらい平気ですわ」
「可愛いリリムに、僕が拷問をしている姿なんて見せたくないんだよね。だから、ごめんねリリム」
「可愛いだなんて嬉しいですわ、にぃ様。私留守番していますわ」
「ありがとうねリリム。じゃあセバスチャン、案内をお願いね」
「かしこまりましたウィリアム坊ちゃん。ではご案内致します」
こうして、僕はセバスチャンに連れられて、郊外にあるリリムの別宅へと向かったのだ。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
この話が【中】で次話の【下】で完結となります。
短いながらもキャラをしっかりと書ければと色々と試しています。
少しでも面白いなとか思っていただければ、評価をしてもらえると嬉しいです。
今後のモチベーションにもなりますので、宜しくお願いします。