―45― 悪いな。心配かけて
ダンジョンには必ずボスという存在がいる。
ボスはダンジョン最奥に潜み、倒すことで報酬を手に入れることができ、さらには、ダンジョンの外へ帰還することができる。
一際大きな扉を押すと、大きさの割りには軽い力で開けることができる。
扉が開けて、部屋の中へ数歩進むと、ガチャリと音がしたので、振り向くと扉がしまったことがわかる。
閉じ込められた。
『ご主人、なにかいるぜ』
「あぁ、わかっている」
傀儡回の言葉に反応する。
部屋の奥に気配を感じる。
「クゴォオオオオオオオオオオオオオッッッ!!」
咆哮が聞こえる。
あまりにも大きな声に体中に振動が伝わった。
「なんだ、あれは……?」
それは、あまりにも大きな魔物だった。全長5メートルは優に超える。
大量の脚を持っており体は細長くくねらせている。気色悪い見た目だ。
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〈大百足〉
難易度S級の巨大なムカデ型の魔物。
体内から毒を噴射する。その毒に触れると、金属をも溶かしてしまう。
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〈鑑定〉を使って、魔物の特性をはかる。
なるほど、〈鑑定〉は見ただけではわからないことまで教えてくれるのか。毒には十分気をつける必要がありそうだ。
「〈脈動する大剣〉」
ひとまず、傀儡回を大剣の形態にする。
この剣には、固有能力〈自律機能〉があるはずだから、決して勝てない相手ではないはず。
「キシャァアアアアアアアアッッッ!!」
大百足が突撃してくる。
その攻撃を回避しつつ、隙をついて攻撃。
「傀儡式剣技、大車輪斬」
高く跳躍しての縦方向の回転斬り。
「硬っ!」
ガキン! と、音と共に刃が弾かれる。
想像以上に皮膚が硬い……!!
それから何度も攻撃しようと刃物をふるうが、攻撃が全く効かない。
「くそっ、くそっ」
そう言葉を吐き捨てながら、何度も斬ろうとする。
けど、それをあざ笑うように、大百足は「ケタケタ」と金切り声をあげる。
ボスに挑戦するのは、まだ早かったか……。
いつの間にか、俺はそう結論づけていた。
今回はダメだった。
だから、ここは大人しく死んで、次に活かせばいい。
どうせ死んでも、時間は巻き戻るのだ。だったら、次の攻略で全力をだせばいい。
ボスの強さを知っただけでも、大きな収穫だったと思う他ない。
『ご主人、なに諦めているんだよっ!』
ふと、傀儡回の叱咤激励が耳に入る。
どうやら諦めていることに気がつかれたらしい。
『約束しただろ! 俺様を人間にしてくるって』
そうだったな。
傀儡回と約束したから、今、俺はここに立てているんだ。
確かに、死んでもまたやり直せるのかもしれない。
けれど、やり直した先にいる傀儡回と今の傀儡回は違うのもまた事実。今の傀儡回との約束は、この時間軸でしか果たすことができない。
「悪いな。心配かけて」
諦めていいはずがない。
最後まで足掻かなきゃ、俺はこのダンジョンをいつまで経ったって攻略することは不可能だ。
「ちょいとばかし本気をだす」
『ご主人っ!!』
確かに、大百足の皮膚は硬く、今の俺では叩ききることができない。
けど、どこかに貫通できるほど柔らかい場所はあるはずだ。
例えば、体の内側とか。
「おい、雑魚。俺の命はここにあるぞ。ちゃんと狙え」
大百足に対し、〈挑発〉を使う。
「キシャァアアアアアアアアッッッ!!」
大百足は金切り声をあげながら、俺へと突っ込んでくる。
あまりにも単調な攻撃。
狙い通りだ。
「傀儡式剣技、疾駆龍突」
前方へ突撃。
食われてもかまわない。いや、むしろ俺を食え!
体内から刃で斬ってやる……ッ!
大百足の口の中へと突っ込んだ俺は、その勢いのまま刃を突き刺しては、強く切り裂いた。
切り裂く度に、青い血がドバドバと体へと降りかかる。
そして、気がつけば、俺は大百足の体外にいた。
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魔物の討伐を確認しました。
スキルポイントを獲得しました。
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そのメッセージウィンドウと共に、縦に真っ二つになった大百足の死骸が地面へと落ちる。
『やったぜ! ご主人!』
傀儡回の歓声を聞いてやっと自覚する。
ダンジョンのボスを倒したことを。
「やったのか、俺は……」
少し信じられない。
今まで、俺はどんな魔物を倒すときも、最初の一回目で倒せた試しがなかった。
何度も何度も何度も死んではやり直して、その先に勝利を掴んできたのだ。
だというのに、ダンジョンのボスを一回目で倒せてしまうとは。
正直、この部屋に入る前は何回も挑戦する羽目になると思っていただけに拍子抜けだ。
『おい、ご主人。もっと喜ぼうぜ。念願のボスを倒したんだんだから』
「……そうだな」
色んなことがフラッシュバックする。
冤罪として、ダンジョン奥地に追放されたとき。
その後、鎧ノ大熊たちと何度も死闘を繰り返した。
それから、アゲハや吸血鬼ユーディート、そして、傀儡回と出会った。
そして、今、俺は念願のダンジョン攻略を果たしたのだ。
「よっしゃぁあああああああああああッッッ!!!」
そう叫ばずにはいられなかった。





