―04― 150回目
前へと突っ込めば、鎧ノ大熊の一撃目をかわすことができる。
それが十数回と死に戻りを繰り返して得た知識だった。
とはいえ、一撃目をかわすことに成功したとはいえ、次は二撃目、三撃目が待っている。
何回も試行回数を重ねれば、それらもかわすことができるかもしれない。
けど、その先は……?
結局のところ、俺が状況から生き延びるには、鎧ノ大熊を倒すか逃げ切るしかない。
ブンッ、と風を切る音が聞こえる。
もう、三十回は死んでいるか? おかげで、一撃目をかわすのは容易になった。
その後、無理矢理体を反転させて、鎧ノ大熊に背中を向けてダッシュする。
冒険者の経験がない俺に鎧ノ大熊を倒すなんて不可能だ。
だから、逃げるという選択を選ぶ。
グサッ、と背中から抉られるような音がした。
鎧ノ大熊が背中を向けた俺に容赦なく攻撃をしたのだ。
結局、俺は死んだ。
◆
何度目か、わからない。
恐らく、100回は超えているはずだ。
「グアッ!!」
まず、鎧ノ大熊は左腕を横に薙ぐようにふるう。
それを前方にしゃがむことでかわすことができる。
その次に、鎧ノ大熊は右腕を真上から真下へたたき落とすようにふるう。
その攻撃は、左側に転がるようにステップすれば、かわすことできる。
そうすると、鎧ノ大熊は一瞬だけ硬直する。
恐らく、俺が攻撃をよけたことに驚いているのかもしれない。
その隙に、壁際を通ることで、鎧ノ大熊の真後ろへと躍り出ることができる。
「グガッ!」
真後ろへと通り過ぎた俺に対し、鎧ノ大熊は驚きつつも、体を反転させようとする。
その隙に、俺はダッシュで鎧ノ大熊から離れられるだけ離れる。
この動きが試行回数、百回以上を繰り返した俺が編み出した最適解だった。
しかし、この先は未知の領域だ。
「ガゥウウウウッッッ!!」
なぜなら、5秒後には、鎧ノ大熊が地面を蹴り上げて、一瞬で俺に追いつくからだ。
とはいえ、追いつかれることはすでに何度も経験済み。
右に強くステップ。
攻撃をかわすことに成功した。
そして、同時に鎧ノ大熊はひどく体勢を崩している。
この一瞬だ。
この一瞬なら、攻撃を当てられるかもしれない。
そう思って、パンチを鎧ノ大熊の顔面へと繰り出す。
「ガウッッ!!」
鎧ノ大熊は呻き声をあげながら、その場で倒れる。
成功した。
とはいえ、俺のパンチなんて貧弱だ。
Aランクの魔物に対して殴ったところで、致命傷にはほど遠い。
けど、鎧ノ大熊が立ち上がるまでの時間を稼げる。
その隙に、俺は全力で走って、その場を離れた。
◆
ダンジョン内は通路が迷路のように入り組んでいる。
そして、通路上には魔物やトラップなんかがあるわけだが、稀に宝箱が置いてあることがある。
「なにか、ないか!?」
俺は宝箱を探していた。
今の俺はまとも武器一つも持っていない。
この状況では、このダンジョンを生き延びるなんて不可能に等しい。
だから俺はダンジョン内を走り回っては、宝箱の一つでもないか探していた。
「グガゥッ!!」
振り向くと、鎧ノ大熊が目の前にいた。
鎧ノ大熊の顔面を殴って転倒させてから、再び俺の元までやってくるまでの時間、およそ25秒。
その25秒の間に、俺はこの状況を打破できるなにかを見つけなくてはならない。
今回もなにも見つけることができなかった。
グシャッ、と内臓が潰れる音がする。
俺の命は潰えた。
◆
試行回数およそ150回目。
「死ねッ!」
攻撃をかわした俺は拳を鎧ノ大熊の顔面に叩きつける。
これで転倒させれば、25秒時間を稼ぐことできる。
ビュッ! と、今までと違う感触を覚えた。
偶然、俺の拳が鎧ノ大熊の目に入ったらしい。
「グガァアアアアアアアアアアッッ!!」
鎧ノ大熊が苦しそうな雄叫びをあげる。
そりゃ、目を思いっきし殴れば、誰だって痛いはずだ。
そうか、目を殴ればもう少し時間を稼ぐことができるのか。
これからは目を狙うよう心がけよう。
それから、再び鎧ノ大熊に追いつかれるまで、宝箱を探すべくダンジョン内を全力で走る。
25秒、すでに経ったが、鎧ノ大熊は襲ってこない。
目を攻撃したおかげで、今までよりも立ち直るのに時間がかかっているのだろう。
確か、こっちの通路はまだ行ったことがないはず。
25秒の制限下では、行くことができなかった場所へと踏み出すことができた。
「あっ」
そう声を発したのには、わけがあった。
真下にトラップがあったからだ。
トラップの種類は落とし穴。
自然の法則に従い、俺は真下へと落下する。
地面にはいくつものトゲがあった。
グサリッ、とトゲが俺の体を串刺しにした。
今回も失敗には違いない。
けれど、俺の心は高揚感が満たしていた。
というのも、落とし穴の先に、隠し通路があるのを死の直前に見つけたからだ。