―39― 手に入れる必要がないよな
「……あ?」
目が覚める。
どうやって死んだんだっけ?
あぁ、そうだ、傀儡回に食べられてしまったんだ。そのことを思い出して、なんともやるせない虚脱感が全身を襲う。
俺はどうすればよかったんだ……?
このダンジョンを脱するために、そして、復讐を果たすために、俺は今よりもずっと強くならなくてはいけない。
「別に傀儡回を手に入れる必要がないよな」
傀儡回は俺が強くなるための手段の1つに過ぎない。
なのに、その果てが傀儡回に食べられるんじゃ意味がない。
だったら、傀儡回を使わないで強くなる方法を探すべきなんだろう。
そう決意した俺は動き出す。
まず、〈知恵の結晶〉が置いてある隠し部屋まで行く。
途中、数多いる魔物たちに見つかってはいけない。もし、見つかったら、今の俺ではあっけなく殺されるだろう。
とはいえ、何度もこの動きを繰り返しているおかげで、スムーズに事を運ぶことができた。
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以下のスキルから、獲得したいスキルを『1つ』選択してください。
Sランク
〈アイテムボックス〉〈回復力強化〉〈魔力回復力強化〉〈威圧〉〈見切り〉〈予知〉
Aランク
〈治癒魔術〉〈火系統魔術〉〈水系統魔術〉〈風系統魔術〉〈土系統魔術〉〈雷系統魔術〉〈錬金術〉〈呪術〉〈念話〉〈強化魔術〉
Bランク
〈剣術〉〈弓術〉〈斧術〉〈槍術〉〈体術〉〈棒術〉
Cランク
〈身体強化〉〈気配察知〉〈魔力生成〉〈火耐性〉〈水耐性〉〈風耐性〉〈土耐性〉〈切れ味強化〉〈命中率強化〉〈回避率強化〉〈暗視〉
Dランク
〈鑑定〉〈筋力強化〉〈耐久力強化〉〈敏捷強化〉〈体力強化〉
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〈知恵の結晶〉を使用すると、出現するスキルの一覧を見る。
いつもながら〈剣術〉を選ぼうとして、
「ん、待てよ。本当に〈剣術〉を選ぶべきなのか?」
指をとめていた。
毎回〈剣術〉を選んでいたのは、寄生剣傀儡回の存在があったからだ。
傀儡回を使って戦う以上、それと相性のいい〈剣術〉を選ぶのは必然だった。
だが、今回俺は傀儡回を手に入れるつもりがない。
ってなると、剣を用いないで戦うことになる。そうなると、獲物を持っていない状態と相性がいい〈体術〉を選ぶべきだよな。
だって、傀儡回以外に武器を手に入れる当てはない――
「いや、よく思い返せば、武器を手に入るチャンスなんて、たくさんあるじゃないか」
というわけで俺は〈剣術〉を選んだ。
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スキル〈剣術〉を獲得しました。
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いつもなら、この後は、傀儡回を回収し、魔物を何体か倒して〈剣術〉をレベル2にあげる。
けど、今回は傀儡回を回収しない。そして、傀儡回を持っていない状態で魔物を倒すのは厳しいため、〈剣術〉をレベル2にあげることも諦める。
だから、〈剣術〉がレベル1の状態で、金色の無人鎧のいる隠し部屋へと向かった。
「おい、雑魚共かかってこい!」
金色の無人鎧たちに〈挑発〉を使う。
そして、うまく攻撃をかわすことで同士討ちを発生させる。
ガシャンッ、一体の金色の無人鎧が別の金色の無人鎧に剣を強く叩きつけていた。
叩きつけられた金色の無人鎧のその場で転倒して、起き上がるのに苦戦した。
その隙に、その金色の無人鎧から剣を奪う。
「よく考えれば、こいつらから剣をいくらでも調達できるんだよな」
剣の調達方法。それは、金色の無人鎧から奪うことだった。
剣さえ、装備することができれば、スキル〈剣術〉が発動することで、断然戦いやすくなる。
と、このときの俺は考えていた。
「やっぱ、戦いづらいッ!!」
ある程度、こうなることは予想できたとはいえ、ここまで苦戦させられるか。
傀儡回と金色の無人鎧の剣では、圧倒的に傀儡回のほうが強力だ。
とはいえ、弱音を吐いても仕方がない。
傀儡回を使えないとわかった今、この剣で戦うしかないのだから。
そう力んだ次の瞬間――
「あっ」
後ろから背中を切り裂かれていた。
痛みを感じると同時、意識を失っていた。
◆
試行回数およそ560回目。
俺は何度も傀儡回を使わないで、金色の無人鎧たちのいる部屋を突破しようと挑戦した。
「……無理だろ」
そして、何度目かとなる死を迎えて、とうとう俺は音を上げていた。
金色の無人鎧を5体までなら、なんとか倒すことができた。
けど、このやり方では、20体いる金色の無人鎧と駆動騎士を全て倒せる見通しが正直つかない。
「やっぱり、傀儡回を使うしかないのか……」
けど、使った結果食べられるんじゃ、意味がない……。
いや、待てよ。
傀儡回に食べられたのは、レベル3まであげて派生スキル〈残忍な捕食者〉を獲得したことによって、巨大な顎の化物へと変貌したからだ。
「だったら、あえてレベル2で打ち止めにしたら?」
スキルポイントを割り振るのは、俺の意思によって行われる。
ならば、レベル3にあげないという選択を選べばいい。
そもそも、レベル2の傀儡回の派生スキル〈脈動する大剣〉は非常に有用だ。レベル2の状態でも十分すぎるほどの戦力に違いない。
だから、わざわざ危険なレベル3にあげる必要がない。
「試してみるか……」
そう決意した俺は、寄生剣傀儡回が置いてある場所へと向かうのだった。





