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―03― もう、俺を殺してくれ

「ウガァアアアアアア!!!」


 目の前には、雄叫びをあげる鎧ノ大熊(バグベア)の姿が。


「あれ? 俺死んだよな?」


 鎧ノ大熊(バグベア)に殴られて俺は死んだはず。

 なのに、なんで生きているんだ?


「ガウッ!」


 鎧ノ大熊(バグベア)が拳を振るっていた。俺の体は押し潰されて、死んでいた。





「あっ」


 まただ。

 死んだはずなのに、こうしてまた生きている。


「ガウッ!」


 けれど、生き返ったところではなにもできない。

 鎧ノ大熊(バグベア)は腕を振るい、俺の体は潰される。

 俺は死んだ。


「あっ」


 また、生き返った。

 いや、違う。

 生き返ったんじゃなくて、死ぬたびに時間が巻き戻っているんだ。

 影からもらったスキル〈セーブ&リセット〉が恐らく、そういう能力なんだろう。


「ガウッ!」


 時間が巻き戻るのはわかった。

 けれど、鎧ノ大熊(バグベア)が腕を振るって俺が死ぬ運命は変わらない。


「……はっ」


 まただ。

 また、死ぬ直前に時間が巻き戻った。


「ガウッ」 


 目の前には、今にも鎧ノ大熊(バグベア)が俺めがけて拳を振るおうとしている。

 それを見て、俺はあることに気がついてしまった。

 このままだと、俺は永遠にこの魔物に殺され続ける目にあうんじゃないのか?


「おい、どうすれば――」


 どうすればいい? と俺にスキルを与えた影に対して、尋ねようとして、最後まで言い終えることができなかった。

 鎧ノ大熊(バグベア)によって、俺は死んでいた。


「……はぁ」


 いやだ。

 永遠に殺され続けるなんて、そんなの生き地獄とそう変わらない。


「おい、俺はどうしたらいいんだ!?」


 今度こそ、最後まで言い終えることができた。

 俺にとんでもない力を与えた影なら、なにかしらこの状況を打破する方法を知っているはずだ。


「………………」


 返ってきたのは静寂だった。


「ガウッ!」


 次の瞬間には、殺されていた。


「くそっ」


 俺は鎧ノ大熊(バグベア)に背中を向けて、真後ろへ逃げる。

 もう、死ぬのはどうしても避けたかった。

 鎧ノ大熊(バグベア)に殴られるたびに、言葉で表現しようがない激痛と疲労感が襲ってくるのだ。

 そして、意識が落ちたと思った瞬間、時間が巻き戻されることで強制的にたたき起こされる。

 こんなの続けていたら、間違いなく精神が壊れる。

 だから、少しでも生き延びる可能性をかけて、真後ろへと逃げた。


「クガゥッ!!」

「……あっ」


 俺が真後ろに逃げたところで、鎧ノ大熊(バグベア)なら腕を伸ばせば、簡単に俺に触れることができる。

 俺の体は壁に叩きつけられて、全身潰れるように変形した。

 当然、俺は死んでいた。


「……はぁっ」


 激痛が全身を襲った次の瞬間、また鎧ノ大熊(バグベア)に襲われる直前まで時間が巻き戻っている。


「くそっ」


 真後ろに逃げるのが駄目なら、今度は右方向に体を動かせばいい。


「ガウッ!」


 右に逃げたところで、鎧ノ大熊(バグベア)の拳は俺の体を叩き潰すことに変わりはなかった。


「……はっ」


 さっき右が駄目だった。

 なら、今度は左――。


「ガウッ!」


 ドスンッ、と音と共に俺の体が壁に叩きつけられる。


「……あ」


 また、時間が巻き戻った。

 後ろも右も左も駄目。後がなにが残っている?


「ガウッ」


 考えている間に、俺は殺された。


「……ふざけんなっ!」


 そう叫びながら、俺は高く跳んだ。

 考えがあったわけではない。ただ、単純に後ろ、右、左が駄目なら上しかないと思っただけだ。


「ガウッ!」

「あ……」


 上に跳んだところで、鎧ノ大熊(バグベア)の拳は俺の体をしっかりと捉えていた。


「……はぁ」


 時間が巻き戻った俺は息を吐いて、地面にへたり込む。

 もう、なにをすればいいのか、全く見当がつかなかった。


「ガウッ!」


 当然、そんな俺を見逃すはずがなく、鎧ノ大熊(バグベア)は俺の体を撲殺した。

 それから、10回ほど、俺はなすがままに殺され続けた。

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も――殴られては殺されて、激痛と疲労が全身を襲い、時間が巻き戻るたびに、強制的に覚醒させられる。

 痛みで苦しみつづけるよりもずっと辛い。


「もう、俺を殺してくれ……っ」


 とうとう、俺はそう悲鳴をあげた。

 死んでしまえば、やってくるのは永遠の眠りだ。

 それはどんなに幸せなことだろうか。


「スキルを消すことってできないのか……?」


〈セーブ&リセット〉を消せば、この地獄の時間から解放されるはずだ。

 そう思い、ステータス画面を開く。


 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


〈キスカ〉


 スキル1:セーブ&リセット

 スキル2:なし

 スキル3:なし

 スキル4:なし

 スキル5:なし


 △△△△△△△△△△△△△△△


〈セーブ&リセット〉以外は空白のステータス欄。

 どこかを弄れば、スキルを消すことができるんじゃないだろうか。

 そう思って、ステータス画面を指でタッチした瞬間だった。


 頭の中に数々の記憶がフラッシュバックした。

 ナミアのこと。

 ナミアを犯した男たちのこと。

 ナミアを殺したダルガ。

 そして、冤罪の俺を罰した村人たち。

 なにもかもが憎い。

 可能ならば、村人たちをこの手で殺してやりたいとさえ思う。

 もし、このダンジョンを生きて脱することができれば、それも可能だろう。


 俺の憎しみは、こんなことで消え失せるほど、大したことがなかったのか。

 否、断じて違う!


「くそがぁあああああああ!!」


 叫んだ俺がとった選択は、前に突っ込むことだった。

 考えなしに突っ込んだおかげで、足はもつれ、転んでしまう。

 結果的に鎧ノ大熊(バグベア)の懐に潜り込む形になった。


 ヒュンッ! と風を切る音が聞こえた。

 初めて鎧ノ大熊(バグベア)の拳をかわすことができた。


「ぐはッ」


 けれど、一撃目をかわした先に待っているのは、二撃目だ。

 それによって俺は絶命する。

 それでも俺は十分満足感を得ていた。



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― 新着の感想 ―
この憎しみの感情は蠢く影の意図かな・・・? だとしたら、あいつ、何がしたいんだ? 彼は神?のような上位存在のおもちゃにされ、 憎悪を強制的に思い起こさせてられては・・・ ・・・死んだほうがマシじゃ…
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