―02― 〈セーブ&リセット〉を獲得しました
カタロフ村には、Sランクダンジョン【カタロフダンジョン】が存在する。
それゆえに、この村には多くの冒険者がやってくる。
通常、冒険者たちは、ダンジョン正面にある入り口から中に入って攻略する。
けれど、村にはもう一つのダンジョンへの入り口、転移陣が存在する。
転移陣を使うと、【カタロフダンジョン】の奥地のどこかに強制的に飛ばされるのだ。
そして、この転移陣を使って、生きて帰ってきた者は誰1人として存在しない。
なにせ、このダンジョンはまだ誰の手によっても攻略されていない未踏破ダンジョンの一つだから。
そんなダンジョンに、冒険者でない者が奥地に捨てられたら帰ってこられるはずが無い。
そのダンジョンに武器の一つも持たされず飛ばされるわけだ。
ゆえに、この転移陣を使うということは実質、死刑宣告に等しかった。
「おら、とっとと中に入れ!」
衛兵が俺の背を押して、転移陣に入るよう促す。
「くそっ」
俺は心の中で恨み言を口にする。
なにもかもが憎かった。
ナミアを殺したダルガはもちろん、俺の証言を一切聞かず、俺に罪を押し付けた村人たち。
誰もかもが殺してやりたいほど、憎い。
けれど、どうすることをできないのがとにかく悔しい。
「おら、早くしろ」
そう言って、衛兵が俺の背中を蹴飛ばした。
俺の体が前方へとよろめき、気がつけば転移陣を踏んでいた。
そして、全身をまばゆい光が包んだ。
◆
目を開けて、周囲の様子を確認して、来てしまったことを実感する。
ここが、Sランクダンジョン、【カタロフダンジョン】の奥地なんだろう。
ここに送られた者で帰ってこれた者は一人としていない。
冒険者として活動したことがない俺がここを生きて脱出することは不可能に違いなかった。
「グガァアアアアアアアア!!」
うめき声が聞こえた。
あぁ、早速お出ましか。
巨大な熊型の魔物。全長は5メートルを優に越し、鋼のように堅い皮膚に覆われている。
村に来た冒険者から名前を聞いたことがある。出会ったら生きて帰れない魔物の一体として。
ランクはA。
名は――鎧ノ大熊。
「ウガァアアアアアア!!」
鎧ノ大熊は俺のことを確認すると、闇雲に突進してきた。
「うわぁっ!」
とっさに俺は後ろへと跳ぶ。
すると、さっきまでいた場所に鎧ノ大熊が拳を振り下ろした。
それだけで地面は抉られ、土埃は舞う。直接当たっていないのに、衝撃だけで俺の体はよろめく。
死ぬ。
このままだと、俺は確実に死ぬ。
そのことを初めて本能で理解した。
「助けて……くれ」
意味がないとわかってるとはいえ、俺はそう叫ぶしかなかった。
「誰か! 誰か助けてくれ!!」
気がつけば、俺はそう叫びながら魔物に背を向けて走っていた。
昨日まで畑を耕していた俺が魔物相手になにかできるはずがない。
だから、例えどんなに無様でも逃げることだけを考えた。
「ウガァアアアアアア!!」
「は?」
後ろを振り向くと、遠くにいたはずの鎧ノ大熊が一瞬で接敵してきた。
これほどまでに移動が速いのか!?
そして、俺を捉えた鎧ノ大熊は拳を振り下ろす。
あ、死んだ。
そのことを理解する。
そう、俺はこれから死ぬのだ。そのことがわかると、現実逃避なのか、走馬灯ってやつなのか、今までの思い出が頭の中を駆け巡る。
嫌な思い出ばかりだ。
この髪のせいで迫害されて、最愛のナミアは殺された。
「ちくしょぉおおおおおおお!!」
悔しかった。
村のやつらになにもできずに殺されることがなにより悔しかった。
こんなところで俺は野垂れ死ぬんだ。
『助けてあげようか?』
「え?」
そこには、うごめく影があった。
人の形をした影だ。
「誰だ、お前は?」
『私が誰かなんて気にする余裕はないと思うけど』
それもそうだ。
今にも俺は魔物の手によって殺されようとしている。
「頼むっ、助けてくれ」
目の前の影が何者なのか見当もつかない。
それでも、藁にもすがる思いでそう告げた。
『そう、だったらあなたにひとつのスキルを与えてあげる。スキル名は〈セーブ&リセット〉』
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スキル〈セーブ&リセット〉を獲得しました。
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「えっ?」
突然、現れたメッセージウィンドウに驚愕する
「おいっ」
もっと詳しく聞かせろ、と思い、影に話しかけるが、すでに影は消え失せたようで、どこを見回しても存在しなかった。
体に変化はないが、本当にスキルというものは手に入ったんだろうか?
〈セーブ&リセット〉だったか。どういうスキルなのか、全く想像つかないが。
「ガウッ!」
見ると、鎧ノ大熊の振るった拳によって、俺の体は無残にもひしゃげていた。
次の瞬間には、俺は絶命していた。