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ダンジョンに潜むヤンデレな彼女に俺は何度も殺される  作者: 北川ニキタ
第五章 ○○編

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―177― 俺はまだ……やれるから

 ニャウをたとえ守ることができたとしてもシエロティナが殺されたとなれば、俺の今までの努力はなんだったんだ……?


「こ、このことが起きたのは、昨日だ。儀式の最中に何者かが聖堂を襲った。聖杯はまだ見つからせないし……皆、パニックでどうにかなりそうだ……」


 村人の男はそれだけ言うと、疲労困憊の顔でその場にしゃがみこんでしまう。おそらく、なすすべもなく混乱に巻き込まれたのだろう。

 嫌な予感が頭の中でぐるぐると渦巻く。これでは記念祭どころではない。ほとんど村全体が取り乱し、守るべき結界も崩壊しているのだから——。


「予定ではとっくにくるはずの第二王子もまだ来ないしな。まぁ、たとえ、こんな状況でやってきたとしても俺たちに歓迎する余裕なんてないけどな……」


「……え?」


 第二王子の一行が出発したのは、俺たちよりも圧倒的に早かったはずだ。護衛隊を引き連れてカタロフ村へ先に向かったという話だったのに。

 それなのに、まだ村に到着していないだと?


 頭の中がぐるぐると回りそうになる。

 じゃあ、エルシーはいったいどこにいるんだ? 第二王子を追うって言ってたのに……。

 悪魔ベールフェゴルはどうなっている? この悪魔がなにを考えて行動しているのかわからない。思い出すのは、リューネの苦しげな表情と、最後に呟いた「ごめんね……」という声。

 ナミア──実際にはレヴァナントだが──も聖杯を奪ったらしいし、そのせいで結界の要となるシエロティナが殺された……?

 エルシーはニャウから魔力を奪って何をしようとしているのか、その主である第二王子ディルエッカもなにを考えているのかわからない。

 次々に脳裏をかすめる疑問が止まらなくて、思考がオーバーヒートしそうだ。

 何から優先して考えればいいんだ……。


「……キスカさん……?」


 柔らかな声が耳に触れる。気づけば、ニャウが俺の腕をそっと掴んでいた。

 まだ痛みは残っているはずなのに、その瞳は弱々しくも必死に俺を気遣ってくれている。


「……ごめん、ニャウ。ちょっと……頭がぐちゃぐちゃで……」


 心の奥から、わけのわからない絶叫が込み上げてくる。


「大丈夫です。キスカさんなら大丈夫」


 ニャウの優しい声色が頭に響く。


「ニャウはキスカさんが誰よりも強いことを知っているです。だから、こんな状況でもキスカさんならきっとなんとかしてくれるってニャウは信じているですから」


 そうだ。俺はこの子を救いたくて頑張ったんだ。

 ニャウのためを思えば、俺はまだがんばれる気がする。


「……悪い。大丈夫……もう少しだけ頑張る……」


 自分に言い聞かせるように深呼吸を繰り返す。頭のどこかで「大丈夫なんかじゃない」と叫んでいる自分がいるけれど、今は立ち止まっていられない。どうにか、俺は蹲りそうになる体を起こした。


 すると突然、村の奥で「……なんだ、あれ!?」という声が上がった。続いてざわめきが広がっていく。

 村人の何人かが空を見上げ、指を差して叫んでいる。

 俺も反射的に視線を上げた――そこには、夜明け前の空を横切るいくつもの白い光点。流星? いや、あまりに数が多すぎる。それも、凄まじい速さで村のほうへと向かってきているのがはっきりわかる。


「……まずい……!」


 直感的に嫌な予感が走った次の瞬間、村人たちが一斉に悲鳴を上げた。

 その正体は、いくつもの隕石のような火の塊。明るい閃光を撒き散らしながら、ぐんぐん落下してくる。


「キスカさん……! あれ、魔法陣……!」


 言われて見上げてみると、黒紫の空にくっきりと映えるように、いくつもの巨大な魔法陣が回転しているのが見えた。まるで多層円環のような重なりで、キラキラした魔力のラインが複数走り、その中心から凄まじい熱量の隕石が次々に生み出されていく。

 つまり、これは誰かによる魔術ってことか。

 そんな、いくつもの燃え盛る隕石が、地上に衝突する――。


「ニャウ! 伏せろっ!」


 思わず隣にいるニャウを抱き寄せる。彼女は小さく頷くと、這いつくばるようにして震える声を上げた。


「……け、結界を張ってみるです……!」


 ニャウは苦しそうに胸を押さえながら、両手を合わせて魔術の詠唱に入る。その様子は、いつもの彼女の落ち着いた魔術行使とはまるで違う。呼吸が荒く、声が上擦っている。何よりも――魔力が足りていない。


「……ニャウ! 無理をするな、魔力がないのに結界なんて……!」


「でも、やるしか……!」


 悲痛なまでに必死なニャウの声。

 それでも彼女の体からほとんど魔力の気配を感じない。奪われた魔力は膨大で、まだほとんど回復していないのだろう。最後の望みにすがる思いで詠唱を続けるニャウだが、詠唱が終わった瞬間、彼女の周囲に浮かんだ淡い光がかき消されるように消えてしまう。


「……あ……」


 ニャウの表情が絶望に染まる。そのまま力が抜けたように膝から崩れ落ちそうになるのを、俺は反射的に腕を伸ばして支えた。


「まずい……!」


 村人たちが絶叫する声が耳を突き刺す。

 次々と火の塊が村に落ち、突風と凄まじい爆音が続けざまに襲ってくる。地面が震え、家屋がひしゃげた悲鳴をあげるかのように崩れ落ちていくのがわかる。


「ぎゃあああああッ!」


「た、助けてくれえええッ!」


 もう手の届かないほど、あちこちから悲惨な声がこだまする。まるでこの世の終わりみたいだ。苦しそうなうめき、絶望に塗れた叫び――耳をふさいでもきっと一生忘れられない。


「神官長シエロティナが生きていて、ちゃんと結界が張られていれば……!」


 ニャウが苦しげに叫んだ。

 そうだ、結界は本来は村全体を覆うはずだった。それさえ機能していれば、こんな隕石のような攻撃も防ぎたのか?


「結界があれば、本当に村を救えたのか?」


「はい……、結界はどんな強力な外敵からも守ることができるので、それさえあれば、こんなことには……」


 くそっ、そういうことか。

 もっと俺が早く、正しい道へ導けていれば違ったのか?

 と、そんな後悔を浮かべている場合じゃない。すでに最初の一撃からして村のあちこちが火の海だ。その上、次の一撃が襲おうと隕石が落下し続けている。


「ニャウ、しっかりつかまれ!」


 俺は彼女の腕をぐっと抱え込み、頭を庇うようにして自分の体で包む。熱風が背中を焼き付けるように吹きつけ、皮膚がじりじりと焦げる感覚すらする。こんな強烈な火力がいくつも降り注いでくるなんて……まさに地獄絵図だ。


 どれほど続いたのか。火の塊が町を蹂躙し、人々の悲鳴と爆発音が入り混じる。瓦礫が宙を舞い、建物が次から次へと崩れ去ってゆく。


「……っ……うぅ……!」


 突然、激しい衝撃が背中を貫いた。

 次の瞬間、地面のほうへ吹き飛ばされる。抱えているニャウを守ろうと必死に体を丸め込み、地面を転がる。ごつごつとした石畳が体を叩き、あちこちが鋭い痛みを訴えているのがわかる。それでもニャウを離してなるものかと、全身の筋肉を硬直させて彼女をかき抱く。


「うあっ……がは……!」


 口の中に熱い鉄の味が広がる。こんなに焼け焦げた匂いが充満しているのに、自分の血の匂いもはっきりわかる。誰の血がどれだけ流れているのか、想像しただけで吐き気がする。


「キ、キスカ……さん……!」


 ニャウの泣きそうな声が耳元に届く。

 それを聞いて、どうにか意識を失わないように踏ん張った。頼む、まだ倒れるわけにはいかない。彼女を放り出すわけにもいかない。

 それからしばらく――長かったのか、ほんの一瞬だったのかわからない。降り注いでいた隕石の嵐が、いつの間にか止んでいた。だが、まるで遅れてやってきたかのように、ふわりと灰が漂い、瓦礫の山が悲しげに焼け焦げた煙を立ち上らせている。


「……あ……」


 俺はすぐにニャウが生きているか確かめようと頭を上げた。

 すると、ニャウの青ざめた顔が目の前にあった。

 無事……なのか? ゆっくりと彼女の姿を確かめると、かろうじて息をしているのがわかって、ほっと胸を撫で下ろす。


「ニャウ……」


「き、キスカさん……ニャウは……」


 ニャウの声が震えている。頬はすすに汚れ、わずかに焦げた布が肌に貼りついて痛々しい。けれど、酷い外傷はないようだ。何より意識はある。


「よかった……無事で……」


 そう言おうとして、全身を刺すような痛みが走り、息が詰まる。

 なんだ、これ、動くたびに鋭い痛みが襲ってきて……。右腕に力が入らないし、背中から腕まで血でべっとりと濡れている。視界がぐらぐらと揺れて、息をするのがやけに苦しい。


「キスカさん……! ニャウを庇ったせいで……」


 ニャウの瞳が涙で潤んでいる。

 俺を支えようと、必死に身体を引き寄せようとしてくれるが、今の彼女の細腕じゃ支えられるわけもない。むしろフラついてしまいそうで、俺は慌てて自分の体重を預けないように力を込める。


「に、ニャウを守るためなら……当たり前だろ……」


 言葉を発するたびに肺が悲鳴を上げる。

 少なくとも肋骨は何本か折れていそうだ。だけど、今は生きていること、それだけが救いだ。ニャウもここにこうして意識があるのだから。


 ふと周囲を見回すと、すでに村と呼べるようなものは残されていなかった。燃えた残骸、血の匂い、ぼろぼろになって倒れている村人たち……。目に入れたくない光景が広がっていて、言葉にならない。


 これだけの規模の隕石攻撃――どう考えても普通の魔術ではない。相当な魔力を持つ者がわざわざ狙って放ったに違いない。いったい誰が、何のために……。答えを探ろうと頭を動かすと、また鋭い痛みが走る。


「ごめんなさい……キスカさん。ニャウ……ニャウがもっとちゃんとしていれば……。キスカさんがこんな怪我を……」


 ニャウは自分の無力を責めるように涙をこぼしている。その小さな肩を、俺はどうにかして抱き寄せた。傷口から血が流れ出るのがわかるけど、こんなときに遠慮なんかしてられない。


「泣くなよ、ニャウ。お前は悪くない。……悪いのは、こんな仕打ちをした奴だ」


 小さく息を吸う。まだ意識を保っているだけマシだ。しっかりしろ、俺。


「……こんな状況でも、生きてる人はいるかもしれない。動かなきゃ、誰も助けられないんだ」


 無茶を言っているのはわかる。こっちは大怪我、ニャウも満身創痍。けれど、ここで倒れこんでしまったら、村人だってどんどん息絶えてしまう。まだ息のある人がいるなら、せめて救助の手だけでも。

 そう思いながら体を起こそうと試みると、再び痛みが襲い、思わず声が漏れた。正直、一歩歩くのもやっとの状態だ。だけど、ニャウが俺の背に手を回し、涙混じりに応援してくれる。


「……ごめんなさい、こんな時に、こんな事態になってしまって……!」


「気にするなって。大丈夫だ……俺はまだ……やれるから……」


 実際のところ、大丈夫かなんてわからない。けれど、気丈に振る舞うしかない。ニャウの潤んだ瞳を見れば、それだけで「俺が強くありたい」と思わせてくれる。彼女を守りたかったから、ここまで必死に戦ってきたんだ。

 シエロティナもリューネも救えず、たくさんの村人が犠牲になり、俺たちもボロボロ。悪魔ベールフェゴルがリューネの体を奪い、エルシーたちはどこかで暗躍している。

 いったいどこで、何が狂ったんだ……。

更新いたしました。

皆さんの応援があるからこそ書けています。改めてありがとうございます。


また、それに伴い新作も投稿しました。


『わたしだけ、魔物じゃなくて【人間】を殺害しないと経験値をもらえないんですが?~『癒やし系大天使』とバズった幼女、実は配信の裏で『虐殺』しています~』


というタイトルの新作です。

超絶おもしろい本格ダークファンタジーです!


ご興味がありましたら、こちらも読んでいただけますと嬉しいです。


下記のURLからコピペするか、下の方にスクロールするとリンクがありますので、そこから飛んでいただければ幸いです。


【https://ncode.syosetu.com/n1857lt/】

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― 新着の感想 ―
想像以上にシエロティナの生存が必須でニャウとの別れが近づいているのを感じる
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