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―168― 宝箱の中身

「これから宝箱をあけるですが、二人とも警戒するんです。あのエルシーがなにも仕掛けないわけがないですから」


 宝箱の前にてニャウが俺たちに忠告する。


「えっ、でもエルシーなら、さっきリューネとキスカっちで倒したよ」


 そうリューネがいうと、「あぁ、なるほど」とニャウはなにかを納得した様子で頷いた。


「そういうことなら、さきに言っておくです。エルシーはまだ生きているです」


 え?

 エルシーがまだ生きているだと?


「あなたがたとエルシーの間になにがあったのかニャウは把握してはいないですが、エルシーが生きていることだけは確実です。なので、この宝箱を開けたらエルシーがでてくるなんてことも十分ありえるです。だから、二人とも気を抜かないように」


「で、でも……っ」


 リューネが反論しようと口を開く。

 けれど、それよりも先にニャウが宝箱を開けた。 


「がおーっ!!」


 宝箱からでてきたのは鎧ノ大熊(バグベア)の着ぐるみだった。この着ぐるみは見覚えがある。以前、この着ぐるみの中に入っていたのは――、


「あら? みなさんもっと驚くと思ったんですが、なんだか反応が薄いですね」


 そういって、彼女は鎧ノ大熊(バグベア)の着ぐるみの中から出てきた。

 そう、中からでてきたのは俺とリューネが倒したはずの第二王子の使用人エルシーだった。

 彼女は五体満足かつ新品のメイド服をきた上で俺たちの前に姿を現した。


「実は私、この通り生きていましたー! うーん、予想ではもっと驚いてくれると思ったんですが」


「だって、師匠が先に教えてくれたから……」


 リューネが困惑した様子でそう告げる。確かに、ニャウに事前に教えてくれなかったら、腰を抜かすぐらいには驚いていたかもしれない。


「あら、賢者ニャウ様には全部お見通しでしたか」


 エルシーは肩をすくめると、がっかりしたような大げさな溜め息をついた。それでも表情はどこか楽しげなのが相変わらず不気味だ。


「エルシー、余裕でいられるのも今のうちです。ニャウにはあなたの目的も、手段もすべてお見通しなんですから」


 ニャウは堂々とした態度でそう告げた。

 思わずその背中を頼もしいと感じてしまう。ここまで言い切るってことはニャウにはよほどの自信があるんだろう。だったら、このままニャウに任せてしまえば、万事が解決するはずだ。


「あら、そうなんですね。じゃあ、答え合わせでもしましょうか、賢者ニャウ様」


 エルシーも負けじと挑発するような視線でニャウのことを見ていた。しかし、ニャウもまた臆する様子はない。


「ニャウも最初、あなたがこの異空間を作った上で自由自在に操れるんだと勘違いをしていたです。その考えが、そもそもの間違いだったです」


 え? と、思わず口にしそうになる。

 エルシーはこれまで神のように力を振るっていた。だけど、それが間違いだって?


「あなたは異空間を作ったのではなく、ニャウのたちを『夢の中』に閉じ込めていたんですよね?」


 夢の中? それって、どういうことだ?

 エルシーはというとニャウの答えに否定するわけでなく、ただ感心した様子で口元を歪ませていた。


「ここが夢の中であれば、あなたが好き勝手できるのは当たり前でした。しかし、もうなんにも怖がる必要はないです。なんせ、ここが夢の中だということはニャウたちの心にはいくらでも干渉できたとして、肉体そのものには干渉できないということですので」


 どういうことだ? 俺はニャウのいった意味が理解できなかった。肉体に干渉できない? じゃあ、今までの俺たちの戦いはなんだったんだ?


「あなたは一度、ニャウたちの前に現れて、自分は不死身だと告げたです。剣をわざわざ自分の胸に突き刺して。しかし、よく考えてみればあなたが死なないのは当然のことでした。だって、ここは夢の中なんですから。夢の中で人を殺せるはずがないです。それはあなた、エルシーも例外ではないです。ここが夢の中である以上、あなたでさえ、ニャウを殺すことはできない。もちろん、リューネもキスカさんも同様です」


 エルシーは神だと自称して、俺たちのことを散々苦しめた。だけど、それらも全部夢の中の出来事だとしたら――戦うことそのものが無駄だったということか?


「まぁ、後ろの二人はそんなことに気がつかなかったみたいですが。ニャウがあなたがたを心配しなかったのはこういうわけです」


 ニャウは俺たちの方をみてそう説明する。確かに、ニャウは俺たちと再開しても喜ぶ様子はなく、淡々としていた。それって、つまり俺たちが死なないことをあらかじめ知っていたからなのか。


「なので、この異空間から脱することも難しいことではないです。夢だとわかった以上、いつものように目を覚ますだけでいいんですから」


 ニャウは勝ち誇った様子でそう告げた。

 確かに、ニャウの言ったことが全部本当なら、これまで脅威とか感じなかったエルシーがなにも怖くなくなる。


「お見逸れしました。流石賢者ニャウ様ですね。はい、確かに、この異空間はただの夢です。それがバレてしまった以上、もう私には打つ手はありませんね」


「あっさりと認めるんだ……」


 隣でリューネが驚きの言葉をあげていた。

 俺にはエルシーが敗北を認めたように見える。じゃあ、ひとまず危害を避けられたってことでいいのか?


「ですが、賢者ニャウ様。まだ答え合わせは終わりではありませんよね。重要なことをお忘れではありませんか?」


「あなたに言われずともわかっているです。今までのは、この異空間の説明しただけに過ぎないです。より、重要なはあなたの目的です。ですが、それはずっと前からわかっていたです。あなたの目的は、ニャウの魔力を奪うことですよね」


 そういえば、この異空間に飛ばされた当初ニャウは言っていたはずだ。魔力を吸い上げられる感覚がある、と。


「ニャウは魔術師の中でも最高位の者だけが名乗ることができる賢者です。そんなニャウから魔力を簡単に奪えるはずがないです。その証拠に、ずっと魔力を吸い上げられる感覚があるのですが、少し意識するだけだけで簡単に妨害することができるです。しかし、ある条件下であれば、賢者であるニャウからでも魔力を奪うことができるです。その条件は、ニャウを動揺させることです」


 ニャウを動揺させることが魔力を奪う条件だと?

 俺はそのことを念頭に、エルシーの今までの行動を思い返してみる。


「あなたの行動は一見どこかハチャメチャで行き当たりばったり、なにを考えているのかさっぱりわからなかったです。ですが、あの手この手でニャウを動揺させることが目的だとすれば、あなたの行動に一貫性を見つけることができるです」


 最初、ニャウと対談していた村長を脈絡なく殺した。そのあと、俺たちを犯人だと仕立て上げようとした。それから突然、夢の中につれてこられた。確かに、どれもニャウを動揺させるためということなら、理解できなくもないのか……?

 じゃあ、ぬいぐるみが鎧ノ大熊(バグベア)に変身したと思えば、中からエルシーがでてきたのは、どういうことだ? これもニャウを驚かせた上で動揺させようとしたってことか。

 その後のメイド服を着せたのはなんだ? 羞恥心を利用してニャウを動揺させようとしたってことか?

 俺とリューネをニャウに別行動にさせたのはどういうことだ? いや、これは流石に説明がつかなくないか? 俺とリューネは苦労して宝箱の場所までたどり着いたが、どんな結果を招こうがニャウが動揺すると思えない。


「はい、大正解です。魔力は精神と強く密接しています。精神的に追い詰められた魔術師は魔力を制御できなくなるというじゃないですか。だから、賢者ニャウ様に様々なストレスを与えて、精神的に追い詰めたかったんです。ですが、どのような方法が最適なのかわからなかったので、いろんな方法を試させていただきました」


 相変わらずエルシーはあっさりと認めた。

 だけど、俺にはいまいち納得できない。ニャウを動揺させるために、なんで俺たちを引き剥がす必要があったんだ?


「それで、賢者ニャウ様。ご調子はいかがですか? 私としてはあなたが精神的に動揺してくれていると嬉しいんですが……」


「見てわからないのですか? いったいこれのどこにニャウが動揺する理由があるというのです。なんせ、あなたの目的も手段もすべてニャウにはお見通しなんですよ。もうニャウに、怖いものはありません」


 ニャウは堂々とした様子でそう告げた。

 俺にはニャウが勝利宣言をしたかのように見えた。

 あぁ、そうだ。ニャウがここまで言い切るってことは本当に大丈夫なんだろ。それに、ニャウが動揺するようななにかに俺は心当たりがなかった。

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