―152― リューネ
さて、正直なんて説明しようか困る。
実は、現代で過ごしていたところ色々あって過去にとんでいたなんて突然言って信じてもらえるのか? けど、誤魔化そうにもそれ以外に説明しようがないよな……。
「実はだな、俺はあのとき過去の時間に飛んでいたんだ。それで、色々終わった後、現代に戻ることができたんだ」
そう言いつつ俺は緊張で息を飲んだ。
こんな馬鹿げたことを言って信じてもらえると思えなかったからだ。
「その……、やっぱり信じてもらえないよな」
「いえ、ニャウは信じますよ。というより、ニャウの予想と一致していたのです」
「えっ?」
「すべてが終わった後、ニャウがどれだけあなたのことを探したか。暗殺者ノクは見つけましたが、あなたに関しては痕跡すら見つけることができなかったです」
「そうなのか……」
「えぇ、あの一連の戦いにおいて、わからなかったことのほうが多かった。わからないことが多いとどうしても調べたくなるのがニャウの性分ですので」
「ノクはなんて言っていたんだ?」
「彼は多くのことを語ってくれなかったです。というより、そもそもあまり知らない様子でした。彼が語ったのは勇者エリギオンは本物の勇者でないってことと、彼は本物の勇者の指示に忠実に従ったということ」
「えっ?」
そう口にしたのは、今まで黙っていたニャウの弟子リューネのほうだった。
まぁ、エリギオン殿下が偽物の勇者だなんて突然言われたら驚くのは無理ないか。
「へへっ、ごめんなさーい。リューネのことは無視して話し続けてどうぞー」
リューネが気まずそうにそう口にすると、再びニャウが口を開く。
「ニャウにはノクの話をどこまで信じればいいのか、見当がつかなかったです。だから、もう一人詳しいことを知っていそうなあなたを探しましたが、さきほど言ったとおり見つけることができませんでした。それも徹底的に調べたんですよ。何十年もかけて。あらゆる町に行きましたし、国外にだって行ったのです」
「そうだったのか……」
「なぜ、あのときニャウたちを裏切ったのですか?」
そのときニャウの視線が突き刺さりそうなほど鋭かった。どう見ても俺のことを敵対視している。
「エリギオン殿下からどうしても〈聖剣ハーゲンティア〉を奪う必要があった。あの聖剣には本物の……」
そこで言葉がつまる。
やはり俺の中から彼女の記憶が欠けている。確かに、俺はエリギオン殿下が偽物の勇者で他に本物の勇者がいることを知っている。そして、本物の勇者と会ったことがあるはずなのに、それがどういう存在だったか思い出せない。
「どうしたかのですか?」
言葉につまっているとニャウがそう口にした。
「悪い。えっとだな、本物の勇者を封印から解くのに、聖剣をどうしても奪う必要があったんだよ」
「わからないですね。仮に、キスカさんの話が本当だったとしましょう。ですがそれだと疑問が残るんです。あのとき、すでに魔王は討伐されていました。なのに、あの場で急いで本物の勇者を復活させる必要なんてあったのですが」
「あのとき、俺たちが戦っていた敵は魔王ではなかったからな。魔王より厄介な存在がいたんだよ」
そう、あのときは混沌主義のボス、悪逆王と対峙していた。
「そうですか。その、本物の勇者はどういう方なのですか?」
「自分でもわからないんだが、そのことに関しては思い出せないんだよな」
自分で言ってといてなんだこの怪しい答えは。
「そうなんですね」
けれど、ニャウはそう頷くだけで深堀りしてこようとはしなかった。
「もとよりキスカさんがすべてを教えてくれるとは思っていませんので……」
本当に思い出せないだけなんだが、と思いつつも俺は黙っていた。今、否定したところで仕方がないと思ったのだ。
「なぁ、そもそも俺が今日ここを訪ねたのはあることを伝えるためなんだが」
「なんでしょうか?」
そう、俺は昔話に花を咲かせるためにここに来たわけではなかった。
「これからの未来を教えるために来た。このままだと、中継地であるリオット村で第二王子ディルエッカを含む護衛隊は全滅することになる。それによって、ニャウも死ぬことになる」
突然こんなことを言えば、驚くのは当たり前でニャウとリューネは口を開けて目を見合わせていた。
「その、全滅する原因をうかがってもいいですか?」
「悪魔ベールフェゴル」
俺がそう告げると、ニャウは唇に指を当てて考える仕草をした。
「悪魔ということは何者かが召喚したってことですか?」
「そうなのか……?」
「はい、ニャウが知る限り誰かが召喚しないことには悪魔が現世で暴れることはないです」
確かに、悪魔といえば召喚されるイメージがある。そんなこと言われるまで思いもしなかったが。
「なぁ、俺も第二王子の護衛隊に参加したいんだが無理かな?」
「なぜ、あなたが参加する必要があるのですか?」
そんなこと聞かれると思っていなかったから思わず目を見張る。そんなのニャウを守りたいからに決まっている。
「まぁ、いいですよ。ニャウが言えば護衛を一人増やすぐらい問題ないですし」
そう言って、ニャウはペンと紙をもってなにかを書き始めた。
「これを護衛隊長に渡してください」
渡されたのはニャウのサインと、俺が護衛隊に加わることを承諾する旨が書かれた書類だった。
「ありがとう。その、俺の話信じてくれるのか?」
「別に全面的に信じているわけではないです。ただ、あなたの話を無視するわけにいかないと思っているだけです」
「そうか、ありがとうな、ニャウ」
そう言うと、ニャウは目をそらした。
「あなたにお礼を言われる筋合いなんてないです」
◆
キスカが部屋を出ていったあと、賢者ニャウは弟子のリューネに話しかけた。
「んー、リューネ的にはありだと思いますよー。かっこいいだけでなく、影がある感じ気を引くっていうかー」
「お前はなにを言っているんですか……」
「えー、師匠にお似合いかどうかって話ですよねー」
「だからお前はなんの話をしているんですか!!」
ニャウはいらついた表情でテーブルを両手でバンバン叩いた。
「ニャウが聞きたいのはキスカの話をどう思うかですよ。言わなくてもこのぐらい察しろです」
「んー、確かに信じられない話ですが、もしあれが嘘をついているならキスカさんは今すぐ劇団員にでも所属すべきなんじゃないかなー」
「確かに、ニャウたちを騙そうとしているようには思えないんですよね」
だからといって全面的に信じられるわけではないが。キスカに騙すつもりなくても、キスカが悪意のあるものに操られいる可能性はある。
「リューネ的にはキスカさんに全面的に協力してあげるべきと思うんですけどねー」
「そう思う根拠はなんですか?」
「えー、なんでだろ?」
リューネは首を傾げていた。
どうやらあまり深いことを考えているわけではなかったらしい。
「じゃあ、リューネがキスカさんと一緒に行動して協力してあげてください」
「え? なんでですか?」
「協力してあげるべきっていったのはリューネじゃないですか。それと監視役って意味もあります。もし、キスカが怪しいことをしたらニャウに即座に伝えることです」
「えー、めんどくさいなー」
「おまえは、なんで師匠のいうことを素直にきかないんですか!! もっとニャウのことをうやまえですよ!!」
そう言って、ニャウは地団駄を踏んだ。





