―11― 討伐を確認しました
「「グォオオオオオオオオオオオオオッッッ!!」」
「うるさいな」
鎧ノ大熊たちの雄叫びに対し、そう独りごちる。
毎回この雄叫びを聞かされるせいで、正直聞き飽きてしまった。
〈筋力強化〉を選んだ初めての戦闘。
試行回数は345回目とかかな?
正直、なんとなくでしか数えてないので、実際の回数とはズレているに違いない。
まずはしゃがんで、攻撃を回避する。
それから俺は鎧ノ大熊たち猛攻を避け続ける。
スキルによる敏捷の強化がないせいで、いつもより体は重たく感じる。
それでも全く戦えないかっていうと、そうでもない。
動きを読んで、それに合わせてからだを動かす。
それがギリギリな回避だとしても、当たらなければ同じだ。
そして、鎧ノ大熊の大ぶりの攻撃を寸前でかわした俺は、拳を鎧ノ大熊のお腹に叩き込む。
ドンッ、と大きな音がなる。
「うん、いつもより手応えがある」
〈体術〉や〈身体強化〉で強化された筋力を10だと仮定すると、〈筋力強化〉で得た筋力は12ぐらいだろうか。
たかが1.2倍だと思われるかもしれないが、十分大きな差だ。
選ぶべきスキルが決まったな。
俺は〈筋力強化〉で、この部屋を脱出する。
◆
試行回数、およそ360回目。
俺は迷いなく〈筋力強化〉を選ぶ。
「「グォオオオオオオオオオオオオオッッッ!!」」
いつもの雄叫び。
何度も見た光景。
この部屋で俺は何度も死んでいる。
それでも、俺は復讐のために、何度も挑み続ける。
10体の鎧ノ大熊に囲われている。
何度も見ているせいか、個体ごとにわずかに顔の形が違うことに気がつく。今なら、鎧ノ大熊ごと識別することも可能だ。
だから、A、B、C……と単純なものだが、名前もつけてやった。
具体的な名前はあえてつけない。
だって、殺す対象にペットのような名前をつけるのはおかしいだろ。
最初は、鎧ノ大熊Aと鎧ノ大熊Bが、俺に左右から挟むように突撃してくる。
ギリギリまで引きつけて、直前に横にステップする。
すると、目の前に鎧ノ大熊Aの顔がやってくる。
それを全力で殴る。
「ガウッ!」
鎧ノ大熊Aが呻き声をあげながら、後ろによろめく。
とはいえ、気にしている余裕はない。
0.5秒後、鎧ノ大熊Bが後ろから切り裂こうと攻撃してくるから、前へステップ。
そのステップの勢い利用して、鎧ノ大熊Aにさらに追い打ちをかけるように攻撃。
0.2秒後、鎧ノ大熊Cが横から攻撃してくる。
これはしゃがめば回避できる。
そして、しゃがんだと同時に、体を捻るように跳び、そのまま鎧ノ大熊Aに対して、跳び蹴りを与える。
そして、跳び蹴りをした瞬間、真後ろから鎧ノ大熊Dが攻撃してくるから、ちょうどいいタイミングで体を真後ろにひねれば、鎧ノ大熊Dが伸ばした腕の上に、逆さ立ちができる。
間髪入れずに、その状態から、鎧ノ大熊Dの頭に着地して、その頭を強く蹴り上げて、前方に突撃からの――かかと落とし!
「ガゥッ!!」
狙ったのは、鎧ノ大熊A。
頭を強く強打された鎧ノ大熊Aはその場でよろめく。
あと、もう一押しで倒せる。
確か、鎧ノ大熊Bと鎧ノ大熊Dが攻撃してくるから、しゃがんでからの、鎧ノ大熊Aの鳩尾を狙って強打。
血――。
拳から赤い鮮血が宙を舞っていた。
それが視界にはいる同時、鎧ノ大熊Aの体は浮き上がって壁に激突する。
まだだ。
さらに、もう一度、跳んで、顔面に拳を叩きつける。
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魔物の討伐を確認しました。
スキルポイントを獲得しました。
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「よっしゃぁあああああああああ!!」
聞いたことがあった。
モンスターを倒すと、スキルポイントというものを獲得できるということに。
そう、俺は初めて鎧ノ大熊の討伐に成功したのだ。思わず、歓喜を声を震わせるは当然だった。
てか、スキルポイントってなにに使うんだ。
名前は知っていたが、なにに使うかまでは知らない。
それを調べようと、慌ててステータス画面を開く。
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所持スキルポイント:12
〈筋力強化Lv1〉
レベルアップに必要な残りスキルポイント:10
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「そうか、レベルアップできるのか」
迷う余地なんてない。
間髪入れずに、〈筋力強化〉へレベルアップに必要なスキルポイントを割り振る。
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スキルポイントが使用されました。
レベルアップに必要な条件を達成しました。
スキル〈筋力強化〉はレベルアップしました。
筋力強化Lv1 ▶ 筋力強化Lv2
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瞬間、体に力が漲ってくる。
どうやら、無事〈筋力強化〉はLv2へと進化を遂げたらしい。
「くははっ、なるほど、一体だけでも倒せれば、レベルアップできるのか」
そのことに気がついた俺は、思わず笑みをこぼしていた。
魔物を一体倒せたというからだろうか。
さっきから、俺の心は高揚感で満たされいた。
悪くない気分だ。
「いいか、ここからが反撃の時間だ。何回死んででも、お前ら全員殺す……っ!」
言葉のわからない鎧ノ大熊に対して、俺はそう宣戦布告していた。