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落ちこぼれ黒魔法師の私、絶望の中で最強の【無間魔法】に目覚めたらパーティーを追放されたので、勇者パーティーと共に魔王を滅ぼして愛する人と幸せになります

作者: サンボン

ご覧いただき、ありがとうございます!

優しい追放モノを書きたくなりましたwww

 ――私は、絶望したあの日、この力(・・・)を手に入れた。

 

 冒険者に憧れた私は十五歳の誕生日を迎えると、すぐに冒険者登録を行った。

 一応、攻撃魔法が得意な黒魔法師としての適性があった私は、幸運なことに一つのパーティーに加入することができた。

 

 そのパーティーの名前は、『片翼の風』。

 

 タンク、剣士、そして槍使いという、完全に物理攻撃主体のパーティーだけど、その実力は折り紙つき。

 この冒険者ギルドでも一、二を争う、B級冒険者パーティーなのだ。

 

「あ、あの……どうして新人の私を、パーティーに加えてくださったんですか?」

 

 そう尋ねると、リーダーである剣士の“バルザック”さんは、笑顔でこう答えた。

 

「はは……それは、俺達がもっと強くなるために、後方支援の黒魔法師が欲しかったからだ。それに、俺には分かる。お前は絶対にすごい黒魔法師になるってな!」

 

 嬉しかった。

 

 もちろん、バルザックさんのお世辞だろうけど、それでも、私の可能性を信じてくれたんだって、そう思った。

 だから私は、そんな期待に応えようと、一生懸命訓練を続けた。

 クエストの時も、みんなの足手まといにならないように工夫して、できうる限りの攻撃魔法で戦ったりもした。

 

 だけど……現実は残酷だった。

 

 私より後に冒険者になった黒魔法師の子はあっさりと中級攻撃魔法を取得したのに、二年も冒険者を続けている私は、未だに初級攻撃魔法しか使えない。

 

 それでも、バルザックさんをはじめ、『片翼の風』のみんなは優しくしてくれた。

 

『いつかすごい黒魔法師になるんだから、心配するな!』

『はは! お前が強くなった暁には、タンクだけど俺を守ってくれよ?』

『ふふ……期待してるわよ?』

 

 そんなみんなの優しい言葉が、役立たずの私はつらかった。

 

 だからあの日、その優しさに耐え切れなくなった私は、みんなの制止を振り切って魔物が多く生息する『災厄の森』に飛び込んだ。

 

 弱い私から、抜け出すために。

 

 だけど、現実はそんなに甘いものじゃない。

 所詮は初級攻撃魔法しか使えない、弱い黒魔法師。

 

 みんなといる時は簡単に倒していた、目の前に現れたコボルトですら、この私には手に余った。

 何とかコボルトの攻撃を退け、一目散に逃げた私は、突然複数のゴブリンに襲われた。

 

「キャアアアアアアアアアアッッッ!?」

 

 私の手足を抑えつけ、服をはぎ取っていくゴブリン達。

 コイツ等は、この私を苗床にするつもりなんだろう。

 

 こんな絶望に襲われる時に限って、あの人(・・・)の笑顔が頭をよぎった。

 それが、ますます私の心を苦しめる。

 

「ああ……イヤ……イヤア……ッ!」

 

 こんなゴブリンに奪われる(・・・・)くらいなら……あの人(・・・)に捧げることができないなら、いっそ死んでしまおう。

 そう思って、舌を噛み切ろうとした、その時。

 

 ――ゴブリン達が、全て漆黒の空間に食われてしまった(・・・・・・・・)

 

「こ、これは……?」

 

 全裸の私は、思わず呆然となる。

 

 今のは一体何なの?

 誰かが……私を助けてくれたの?

 

 周囲を見回すけど、誰もいない。

 当然だ。いるなら、もっと早く私を助けてくれているはずだから。

 

「じゃあ……これは、私が作ったの(・・・・・・)……?」

 

 ゴブリン達を食らった、その漆黒に手を伸ばすと、漆黒はそのまま私の手の中に吸収されてしまった。

 

 そして、私の中に一つの魔法が生まれた。

 

【無間魔法】

 

 それが、この漆黒の正体だった。

 

 その後、私は次々と現れる森の魔物達を、全て漆黒の(にえ)にした。

 それに伴い、私の魔力もますます上がっていくのを感じた。

 

 その時。

 

「っ! 無事かっ!」

「! バルザックさん!」

 

 必死の形相で、バルザックさんが現れた。

 見ると、所々に怪我を負っていた。おそらく、必死で私を探してくれたのだろう。

 

「全く……心配させやがって……!」

 

 バルザックさんは安堵の表情を浮かべた後、マントを私の身体に掛けてくれた。

 

 ……バルザックさんの匂いがする。

 

 無事に救出された私は、街に帰るなりバルザックさん達にものすごく怒られた。

 だけど、私ったら怒られてるのに、嬉しくて、嬉しくて……。

 

 それから無理やり休息を取らされ、久しぶりの『片翼の風』全員でのクエスト。

 ターゲットであるコカトリスに対し、私はあの森で身につけた【無間魔法】で漆黒を出現させると、コカトリスも簡単に漆黒に吸い込まれてしまった。

 

「す、すげえ……!」

 

 それを見たバルザックさん達は、驚きのあまり声を漏らした。

 私はといえば、そんな三人を見て思わず拳を握った。

 

 これで、私もみんなの役に立てる。

 私は、嬉しくて仕方がなかった。

 

 だけど。

 

 それからというもの、私とバルザックさん達との関係は悪くなっていった。

 今まで気さくに話してくれたバルザックさん達は急によそよそしくなり、一日で一度も会話をしないなんて日もあった。

 

 それでも、私はみんなの役に立とうと、一生懸命にクエストをこなす。

 

 そして……迎えた今日。

 

「悪いが、お前をこの『片翼の風』から追放する」

「…………………………え?」

 

 突然のバルザックさんの言葉に、私は声を失う。

 

 え? え? なんで? どうして?

 私、強くなったよ……? あの日までの、役立たずな私じゃない、よ……?

 

「なあに、簡単な話だ。お前も知ってる通り、俺達は物理攻撃主体のパーティーだ。だが、さらに上を目指すために遠距離攻撃もできるようにとお前を加えてみたものの、どうにも上手くいかねえ……つまり俺達のパーティーに、お前の居場所はないんだよ」

「っ!?」

 

 バルザックさんの無情の言葉に、私の頭の中が真っ白になる。

 

「それに、だ。近接戦闘が一切できないお前を守るために、タンクである“グレイ”はお前につきっきりになっちまう。そうすると、“カルラ”の槍による中距離攻撃にリスクを伴うことになる」

「…………………………」

 

 バルザックさんはもっともらしくそんなことを説明するけど、結局は私なんていらないんだ……。

 

 だけど。

 

 だったら……だったら、どうしてあの時、私なんかに声をかけたんですか! どうして、私なんかに優しくしたんですかあ……!

 

 声に出せないまま、私はただ、ぽろぽろと涙を(こぼ)し続ける。

 悔しくて、切なくて……離れたくなくて。

 

「まあそういうことだから。とりあえず、これは今までのお前の働き分に対する、せめてもの餞別(せんべつ)だ」

 

 そう言うと、バルザックさんは私にお金の入った袋を手渡した。

 あはは……何ですかこれ……私に対する、嫌がらせですか……。

 

「それと……コッチは、俺達からお前へのクエストだ。餞別まで渡したんだから、これくらいはこなせ」

「…………………………」

 

 バルザックさんから紙切れを受け取り、私は中身に目を通す。

 ……本当に、この人は……っ!

 

 こんなの……もう、絶対に『片翼の風』から追い出すってことじゃない……!

 

「はは、これから俺達は、一気にS級冒険者まで駆け上がってやるさ。まあ……お前も、達者で暮らせ」

「お世話に……なり、まし……た……っ!」

 

 必死に振り絞ってその言葉だけを告げると、私は冒険者ギルドを飛び出した。

 

「ハア……ハア……ッ!」

 

 そしてそのまま街を出た私は。

 

「う、うう……うわああああああああああああんッッッ!」

 

 その場で崩れ落ち、慟哭(どうこく)した。

 

 ◇

 

「ふふ……まあ、今から思えば懐かしい話ですね……」

 

『片翼の風』から追放されて半年後、私は今、勇者である“ランスロット”が率いるパーティーに加わり、魔王討伐の旅を続けている。

 

 私の【無間魔法】はやはり破格らしく、それを見たランスロットが目を見開いていましたね。

 

「はは……やっぱり君は、勇者である僕のパーティーに相応しい女性(ひと)だったよ」

「……そうですか」

 

 正直に言えば、ランスロットのこの軽薄なところはどうしても好きになれません。

 これが……あの人の仕業でなかったら、今すぐにでもこのパーティーを抜けてやるのですが。

 

「もう! 相変わらずあなたは固いわね! ランスロットがせっかくそう言ってくれてるのに!」

「そうだニャ! アンタもアタシ達の仲間に加わるニャよ!」

 

 同じ勇者パーティーの仲間である、騎士のアイラと獣人で拳闘家のキサラが、ランスロットにしなだれかかりながらそんな悪態を吐く。

 はあ……この私に、ランスロットのハーレムの一人になれとでも言うのですか……。

 

「……とにかく、一刻も早く、魔王を打ち倒しましょう」

「はは……別に、そんなに急がなくても……「いいえ、最優先事項です」」

 

 苦笑しながらたしなめるランスロットに、私はピシャリ、と言い放つ。

 そうですとも。私はグズグズしてる暇はないんです。

 

 だって、私は……。

 

 ◇

 

「これで……終わりだアアアアアアア!」

『ギャウッ!?』

 

 バルザックさんの放った渾身の一撃がブラックドラゴンの首を断ち切り、その巨大な頭部が地面に転がった。

 

「はは! やったな!」

「これでクエストクリアね!」

 

 グレイさんとカルラさんが顔を綻ばせながら、バルザックさんの元に駆け寄る。

 

「ああ! さあ……今回の報酬はいくらになるかな。なにせ、ブラックドラゴンといえば、超レアな魔物だからな」

「まあな。あの時(・・・)に作った、バルザックの借金もあるしな」

「言うな……」

 

 グレイさんに皮肉を言われ、バルザックさんはガックリとうなだれる。

 

「ふふ……全く、見栄を張るからよ。勇者パーティーに合流するための路銀に、今まで貯め込んでいたお金に、さらに借金まで重ねて渡すんだもの。あれじゃ重すぎて、かえって彼女の迷惑になったんじゃない?」

「だからもう言うなよ!?」

 

 今度はカルラさんにからかわれ、バルザックさんは泣きそうになっていた。

 

「だけど……彼女の【無間魔法】には驚いたわ。あんな魔法、私達のパーティーじゃ宝の持ち腐れ過ぎるもの」

「そうだな……だからこそ、それに相応しいパーティーに移籍させたんだろ?」

 

 グレイさんとカルラさんは寄り添いながら、バルザックさんに問い掛ける。

 そう……この二人、去年結婚したのだ。

 

 その時のバルザックの悔しさときたら、相当なものだったとのこと。

 なにせこの人、一度たりとも女性と付き合ったことがないのだから。

 

「……ああ、その通りだ。アイツは、こんなところにいていい奴じゃなかった。もっと、光の当たる場所にいるべき奴なんだ」

 

 バルザックさんも、本音を言えば一緒にいたかった。ずっと、同じパーティーで冒険者としてやっていきたかった。

 だが……バルザックさんとは違うのだ(・・・・)

 そう……言い聞かせて。

 

 それが分かっているからこそ、バルザックさんは心を鬼にして突き放した。

 

 勇者パーティーのいけすかないハーレム大好きクズ勇者、ランスロットに何度も頭を下げ、オリハルコンの剣を買うために貯めていたお金にギルドで作った借金を加え、路銀として手渡したり……。

 

「何より、彼女が心配するといけないからって、本気でS級冒険者を目指すなんて思わなかったわよ……」

「いいじゃねーか。結局、S級になったんだから」

 

 そう……『片翼の風』の三人は、一年前にこの国でも片手しかいないS級冒険者となったのだ。

 そこに至るまでの三人の鬼気迫る様子は、今でもギルドの語り草になっているとのこと。

 

「……まあしかし、アイツも魔王を倒して、今頃どうしてるんだろうなあ……」

 

 つい一か月前、勇者パーティーによって魔王が討伐されたことが、この国にも触れ渡った。

 皆が狂喜乱舞し、ついこの間まで盛大な祭りが連日のように行われていたのだ。

 

「ふふ……そんなの、今頃は英雄の一人として、優雅な生活でも送ってるでしょ?」

「はは、違いない」

 

 そう言って三人が嬉しそうに笑い合った。

 

「さあて……んじゃ、このブラックドラゴンを売った金で、アイツの英雄としての未来に乾杯しようじゃ……「……そんな英雄、もうこの世界にいませんよ」……っ!?」

 

 私がそう告げると、三人は一斉に振り返って驚いた表情を見せた。

 ふふ……これまでの魔王軍との戦いで身につけた、【無間魔法】による【認識阻害】と【気配遮断】が役に立ちましたね。

 

「お、お前……どうしてここに……?」

「ギルドで『片翼の風』がブラックドラゴン討伐に向かったって聞きましたから、ここに来たんです」

 

 私は表情も変えずにそう告げると、三人は今度は困惑の表情を浮かべた。

 

「え、ええと……それで、いつからいた……?」

「もちろん、バルザックさんがブラックドラゴンをカッコよく倒したところからです」

 

 ええ、そうですとも。

 そんなタイミングに間に合った、私を褒めてあげたいくらいです。

 

「だ、だけど、勇者パーティーとして今も王都にいるんじゃないのか?」

「ああ……私、勇者パーティーを辞めましたから」

「「「辞めたあああああ!?」」」

 

 ふふ、三人が驚くのは、今日二度目ですね。

 

「な、なんで辞めちまったんだよ!? そのまま居座れば、一生楽して暮らせるだろ……って!?」

 

 そう言って詰め寄るバルザックさんに、私は勢いよく抱きついた。

 本当に……この人は分かってない。

 

「……私がそれを、いつ望んだっていうんですか」

「……え?」

「私は! ずっとあなたの傍にいたかった! 勇者なんか望んでない! 裕福な暮らしなんていらない! 私は……私はただ、優しいあなたの傍にいたかった……!」

 

 二年前に追放されてから今まで……ううん、初めて出逢った時から今までの想いが、一気に爆発する。

 私は……ずっと、あなただけが好きだった。

 

「……だから、もう絶対に逃がしませんから。私を追放しようたって、そうはいきませんから。だから……諦めて、私をあなたの傍にいさせてください」

「お前……」

 

 すると。

 

「……俺なんかでいいのか? 言っちゃなんだが、俺は女にはモテないんだぞ? 多分、他の奴に自慢したりできねえぞ?」

「ふふ……モテてしまったら困りますよ。あなたは、私だけの人なんですから……それに、あなたのことを自慢するだけで、夜が明けてしまいそうなんですけど」

 

 ふふ……バルザックさん、照れてる。可愛い。

 

「この私の告白に対して、そろそろバルザックさんから返事を聞きたいんですけど?」

 

 私は悪戯っぽくバルザックさんにお願いすると。

 

「はは……ああ、俺も……“アイナ”が好きだ」

お読みいただき、ありがとうございました!


異世界恋愛かハイファンか悩むところですが……たまにはこんな話も書いてみましたwww


また、TOブックス様から1/8発売予定の「ガイスト×レブナント」もどうぞよろしくお願いします!

下記から飛べますので、ぜひぜひお読みくださいませ!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想、レビューをよろしくお願いします!

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[良い点] アイナァァァ! バルザックさんだと緑色の機体に乗って、最後は青い機体でソードと心中する形になった彼を思い浮かべますね。 これは優しい。 そして、優しい追放の鉄板とも言える形。 ハーレム…
[良い点] え~と、全部? [気になる点] 糖分過剰摂取注意のタグをつけるべきでは?(真顔
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