1 プロローグ
「さて、咎人共をなんと呼ぼうかな。」
すべての用意を終えた女主人は最後に考える。
「我が眷属…我が使徒……う~ん…」
そもそも己の消耗品の尖兵、どうとでも呼べばいいのだが、統一感はほしい。
肘掛けに頬杖をつき、頭の中で単語を思い浮かべてはつぶやく。それを繰り返してみる。
一向に妙案が出てこない。考えることは苦痛ではないがさすがに飽きた。
それに、たぶん答えは出ない。自分が考えたところで、ここでは評価してくれる者もいないのだから。
ふと思う。命名する権利があるのは私よりも、むしろ彼らじゃないか。
「これは押し付けではないぞ。彼らもこの筋書きの立派な構成要因だしな。」
早速、未だに下界に取り残された彼らの呻きに耳を澄ます。
「…【王】…ね。」
皆。己を縛り付けている者らを王と呼んでいる。全員例外なく。
己が付き従うのは己より強者ということだろうか。あながち間違いではないが。
「自分より強いから即ち王ってことかな。どいつもこいつも魂だけになって、生きてた頃より我が強くなってるでしょ。」
とても微笑ましい、刻み込まれた闘争者の本能というのは。
「そこまで言うならわかった。奴らはを君らの王だ。」
意気揚々と女主人は一瞬で玉座の間を創り出す。人間の歴史上、最も絢爛な城の玉座を完全に再現した。
そこに、一つだけ異物を混ぜる。自身オリジナルのキングチェアだ。
「けど、私も誰がいつ椅子に座ってくれるかはわからないんだ。そいつかもしれないし、次の奴かもしれない。そこは気長に待っててよ。」
女主人は言い聞かせるように伝えておく。
あとは待つのみだ。この玉座にやってくる王を。
彼らは闘争の運命からは逃れられない。死後さえも。
女主人は思ってもないことを一応正当らしき理由として用意しておく。
「本来人一人には何物にも換えられぬほどの価値があるのだ。それを奪った殺人者には償いが必要である。」
自分が言ったことに一人苦笑した。