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閑話:【勇者】ヒイロと(1)

この話は『代償』の話で世界の真実を知ったテラスがヒイロと出会った時にした会話内容です。

メインストーリーでへ説明されていない内容も少し出てきますが、本編でも説明があります。

多少今後の展開に関わってきたりもするので、読んでいただければ幸いです。


短めに読みやすくしたつもりです。

「さて、どうしたものかなぁ」


思わず、誰にともなく言葉を吐き捨てる。


(いや、まさか自分の考えた世界を、異世界の神がそのまま流用するなんて思わないでしょ)


鎖の少女いわく、細かく設定された世界を見つけたこの世界の神が、この世界を創造するときにそのまま流用したという。

この世界に来て最初に感じていた『似ている』という印象は正しかったのだ。


(あの少女の言葉を信じられるか、という点にかぎっては問題ないだろう)


というのも、彼女が縛り付けられている【代償の書】は対価に応じて相応の答えを返さなければならないという制約が課せられている。


それも、この世界の神が課した制約だ。


(それに、彼女はもともとこの世界の管理者側の存在だ。間違った知識って可能性も低い)


ならば自分はどうするべきか。


(それがわかれば悩みなんてないんだが……)


この世界を設定が作りこまれているから、という理由で流用したのなら、物語で起こるはずだった『破滅』もまた起こるということ。


その中には、偶々防がれたものも多く、もしこの世界ではその偶々が起こっていなかったなら──


「とりあえずは、俺自身の身の振り方か……ん?」


思考の海に沈みながら、静かな方へと車椅子を進めてしばらく。

裏庭に入ったところで、ふと人影に気が付く。


「ヒイロ、か」


『近道 ヒイロ』。

この世界に召喚された際に【勇者】に枠づけされたクラスメイトだ。

そして【勇者】の枠は、主人公の立ち位置であった。


(さて、いつも誰かといる彼が、こんなところで独りか。もし悩みがあるのならシナリオを進めるためにも聞いておくべきか)

「やあヒイロ。今夜はいい夜かい?」

「……テラス?」


驚いた様子で肩を震わせたヒイロはどこか慌てたように立ち上がる。


「おかしいな、最近は『気配察知』もできるようになったんだけど。君一人か?」

「ああ、ひとりで抜け出して来ちゃった☆」


口に指を立てて、わざとらしくあざとさを演出する。


「ふふっ、いや、ひとりは危ないんじゃない?」

「はは、良いんだよ。ずっと誰かといるとさ、息苦しくなるんだよ。君は違うのか?」

「そっか、テラスもか」


力なく笑うヒイロにやっぱりか、と納得する。

ヒイロは言わば、期待される人間だ。

彼に伸し掛る期待という重圧は、それを背負う者にしかわからないのだろう。


「理解も共感もしてやれないけど、推量ることはできる」


そう、『テラス』と『ヒイロ』は真逆なのだ。


方やチカラを持ち、期待される【勇者】。

方や何も持たず、役に立たない死に損ない。


向けられる感情の種類は逆なれど、『そう』なのだろうと予想はつく。


「……そうか。テラスも大変なんだな」

「俺は応えなくていいからな。ヒイロよりはマシだよ」

「どうだろうね。テラスみたいに転ぶだけじゃ死なないし、心労はマシかもよ?」

「確かに」


今まで吐き出す相手が居なかったせいか、どことなく嬉しそうなヒイロ。


「でも、どうしてテラスは平気そうなんだ?」

「実は平気って訳じゃないんだ。だけど、それが気にならないくらいに目指してる目標があるんだ」

「目標、か。どんなものか聞いてもいい?」

「大したものじゃないんだ。少し元の世界ではできなかったことでさ。何としてもやり遂げたくてね」


それは誰にも真実を言えないもので。

だから、言葉をぼかして伝える。


「そっか。それはどのくらい大事なの?」

「──必要ならば、俺の命を全て賭してでも」


鬼気迫る、と言う言葉が相応しかった。

普段は見せない友の表情に思わず顔が強ばり、息を呑む。


「それで、ヒイロは?」

「えっ?」

「なんでも良いんだぜ? 強くなりたいでも、楽しく生きたいでも。それこそモテたいってのもありだ。したいことは無いのか?」


ヒイロは元々スポーツもできたし、勉強もそこそこできる方だ。

顔も性格も良く、それなりにモテていた。


だからこそ、この世界に来て『何がしたい』という欲望が無かった。


「僕は……」

「まあ、仕方ないか。ヒイロは元々『持っている』側の人間だ。満たされている奴に欲しいものは無いかって聞いたところで無いに決まってる」


そう言いながら、車椅子から立ち上がる。


「テラス!?」

「ああ、大丈夫だ。『身体強化』を使えば何とか転ばずに歩ける」


この世界に来て、生命力の最大量が急激に下がった為に満足に歩くこともママならなかった。

それでも、様々な手段を講じて立ち上がったのだ。


「目標のために色んな『スキル』を得て、俺は今立てるようになった。歩けるようになった」

「目標を持てってこと?」

「言ってしまえばそうだ。だけど、無理に作る必要は無い。それこそ今は『目標を見つけること』が目標だっていい」


これは願望だ。

あの物語の主人公とヒイロが別人であることは理解している。


だけど、願わくば。


「泣いてもいい、迷ってもいい。けど、進み続けてくれ、歩みを止めないでくれ【勇者】」

「わかった。もう少し頑張ってみるよ」


立ち上がる【勇者】。


「だから、もし困ったら支えて欲しいんだテラス。もちろん、君の目標の妨げにならない程度でいい」

「ああ」


固く手を握り合う。

ヒイロは憑き物が落ちたような笑みで。


(俺は上手く取り繕えているだろうか)


上手く笑えているだろうか。

内心はバレていないだろうか。


どうにも気になって、表情に出ていないか不安になる。


もしも自分が原作者では無く、彼らと同じ立場であったなら。

自分は彼らと共に物語を綴ることができたのではないだろうか。



そんな意味の無いことを考えながら、笑顔を作るのであった。

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