表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

競馬おとぎばなし 迷子のおやじいさん

作者: 運田 兵鉄

ごみ溜めの様な地方の競馬場で展開する、不思議な話、ゴミ溜め競馬場を白黒フィルムの世界とすると

そこに現れた、カラーフィルムの世界の初老の男と小学校二年生の女の子が、繰り広げるファンタジーの世界。白黒の世界で、二人だけがカラーで展開する映画をイメージして読んでいただくと良いと思います。

ここは、小さな地方の競馬場です。

おやじいさんは、お金を儲けようとして、

毎日、毎日、競馬場に来ては負けて帰ります。

この日もぜんぜん当たりません。

紙ふぶきが空一面に舞いました。おやじいさんが

大量のハズレ馬券をちぎって空に投げ

上げたのです。

「ぜんぜん当たらねえ、こんちくしょう」

おやじいさんは、空に向かって憂さ晴らしに

ありったけの罵詈雑言を吐きました。

その紙ふぶきに、手を空に広げてよろこんで

いる小学一年生位の女の子がいました。競馬

場のキッズランドで遊んでいた、ノリちゃん

です。ジャンプ、ジャンプ。大喜びです。

「そうか、そうか、おもしろいか、ハズレ馬

券も役に立つか」と、おやじいさんは、苦笑い

をうかべました。

おやじいさんは、女の子に話しかけました。

「何年生」

女の子は「ノリちゃん小学校二年生です」

と元気よく答えました。

「そうか、これ、おもしろいか」

おやじいさんは、ポケットからハズレ馬券を

取り出しちぎって、空にまきました。ノリち

ゃんは、おおよろこびです。

「おじさんの名前は、おやじいさん。おやじ

さんとじいさんの間でみんな、おやじいさん

て、呼ぶんだよ。よろしくね」

と言うと、おやじいさんは、、くるっと後ろ

を向いて馬券を買いに行きました。競馬場に

ファンファーレが鳴りレースがはじまり、歓

声と、ため息の音がすると、おやじいさんは

帰ってきます。そして、ノリちゃんのあたま

の上の青空にちぎったハズレ馬券を投げ上げ

ます。ノリちゃんは、大喜びです。レースが

終わるごとに、おやじいさんは、何回も、何

回も繰り返しました。

ソフトクリームを両手に持って、おやじいさ

んがやってきました。ノリちゃんが

「当たったの」と訊くと黙ってノリちゃんの

両手にソフトクリームを持たせて、おやじい

さんは、空にちぎったハズレ馬券をまきあげ

ました。

「残念でーしーたー。また、大外れー」

ソフトクリームを二人で舐めながら、

「おやじいさんの人生負けてばっかり、あは

ははー」とあきれたように、笑いました。つら

れて、ノリちゃんも、

「あ、は、は、は、はー」と笑いました。

競馬新聞を見ながら、おやじいさんは言いまし

た。

「今日はこのレースで終わりだ。金がない」

と、おやじいさんは、競馬新聞を見入ります。

ノリちゃんも競馬新聞をのぞき込んで

「本当に、やめるの、当たっても」

「約束するよ、これが最終レースで、もう無

いから、できないんだよ」と笑いました。

ノリちゃんが、おやじいさんの赤ペンをとっ

て、馬の名前の上に、ノリ、ノリ、ノリ、と

名前を書きました。

「ノリちゃんは、これがいいの」

「うん」

「じゃあ、順番を決めよう」

「これ、つぎがこれ、そしてこれ」

いずれも無印の馬です。しばし、おやじいさ

んは考え込みました。今日は何をやってもダ

メ、どうせダメなら、無印もいいか。

「じゃあ、ノリちゃんにのるか」

おやじいさんは、馬券を買いに行きました。

最終レースのファンファーレーがなり、そのあ

と、いつもと違う、大きなため息が聞こえて

きました。そして、青ざめた顔をした、おや

じいさんが、ふらふらと歩いてきました。

「ノリちゃん、ノリちゃん、当たっちまった

よ」

3連単で百万の配当があり、百円の馬券が三

枚、合計で三百万円になりました。しかしノ

リちゃんは、探しても、探してもいませんで

した。きっと、親と帰ってしまったのでしょ

う。おやじいさんは、あきらめて馬券を両替

しました。帯封をした百万の束三つをポケッ

トに押し込んで、歩いて帰りました。

家に着いても、夢が覚めそうで、おやじいさ

んは誰にも今日の大儲けの事は話しませんで

した。その夜枕の下にお金の束を三つ並べて

うきうきして、寝ました。

つぎの日も、おやじいさんは競馬場に行きま

した。真っ先にキッズランドに行きノリちゃ

んを探しました。しかし見つかりません。競

馬場内を探し回りましたが、いません。仕方

なく、おやじいさんは、自分で考え馬券を買

い始めました。今日はお金があります。いつ

もは、百円単位の馬券を一万円単位で買い始

めました。レースが始まりました。毎レース、

毎レース、負け続けます。お金はどんどん無

くなります。

買っても買っても当たりません、お昼の時間

になりました。弁当を食べながら、おやじい

さんは、いい事を思いつきました。場内放送

で、迷子のノリちゃんを呼び出すのです。

「小学校二年生のノリちゃん、おやじいさん

が、キッズランドで待っています、どうぞ

おいでください」と放送しました。

キッズランドで待ちながら、おやじいさんは

空に向かって、ちぎったハズレ馬券をまきあげ

ました。すると、両手を挙げてジャンプ、ジ

ャンプ、小躍りして、ノリちゃんが現れまし

た。

これは、神様の仕業だと思いました。

「ノリちゃん待ってたよ、当たり馬券を教

えておくれ」

おやじいさんは、神様に祈るように話をし

ました。

「新聞見せて、これと、これ」

「わかつた、ありがとう」

おやじいさんは、馬券売り場に走りました。

レースが始まりました。また当たりました。

そして、つぎも、つぎも、当たりました。

おやじいさんのポケットは、札束でいっぱい

です。入りきれません。

「つぎは、どれだい」

ノリちゃんに訊きました。

「ノリちゃんつまんない、空にキラキラま

いてくんないから、つまんない」

「わかった、わかった、今日はこれで最後

お願い」

じつは、馬券を買いながら、おやじいさんも

、つまんないと思っていました。また当たりま

した。おやじいさんは、つまんなさそうな、

ノリちゃんの手を引いて、競馬場の一番上の

スタンドまで、連れ出しました。

「もう、今日は終わり。」

そう言うと、おやじいさんは、ポケットいっ

ぱいの一万円札を青い空にまきあげました。

ノリちゃんは、おおよろこびです。ポケット

から、

「そーれ、そーれ」

次々お札をまきあげました。お札は風に乗っ

て、キラキラ舞いながら空を漂います。

それを見つけた観客の人々は争うように、

落ちたお札を拾い集めます。

ふと、気づくとノリちゃんはいません。

帰っていったのだと、おやじいさんには、

わかりました。

その日から二度とノリちゃんは、現れません

でした。しかし、おやじいさんは、毎日、毎

日競馬場に行き、

「小学校二年生のノリちゃん、おやじいさ

んが、キッズランドで、待っていますおいで

ください」 

と場内放送を頼みます。競馬場の人たちは、

誰でもその話を知っています。

いつの間にか迷子のおやじいさんと、みん

なが呼ぶようになりましたとさ。       

               おわり。

特に教訓的な意図はありません。最後のシーンは、白黒フィルムから是非全員がカラーフィルムの世界になって、善人になった。イメージでつくりました。短くてごめんなさい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキングを小説ページ等に貼り付け。編集[確認]をクリック
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ