教祖から修道僧へ
教祖様は怯えていた。
真面目学生だった彼は学校をサボるなんてしたことがあるはずもなく。酷く怖がっていた。
ジュリエットの差し伸べた手は神の手なのか、悪魔の手なのか、彼には見分けがつかなかった。
「デート!?これから授業あるのに?」
ジュリエット様はDQNを見る政治家のような目をしてから大笑いした。
「授業なんでどうでもいいでしょ?この私とデートが出来る奇跡体験が出来るんだから。それとも私とデートが嫌だとでも言うのかしら?」
ジュリエット様がフ〇ーザ様になられてますよ?
「そうじゃないけど、授業を無断で休むなんてさ」
「1日くらい問題ないわよ」
さっぱりとした結論を出すと僕の有無を聞かずに学校の敷地を出てしまった。
途中で何度も教師とすれ違ったが誰一人として止めようとするものはいなかった。
それどころかなんであんな冴えない男と一緒に居るんだ?と教師達の反感を買ってしまった。
本当に学校どころじゃなくなった。
黙々と手を引っ張られながら歩いていき、やがて駅の前で止まった。
「あなた、今いくら持ってるのかしら?」
僕は慌てて財布の中身を確認した。
「2000円くらいはあるみたいね」
肩にジュリエットの顔があり思わず逃げてしまった。
「なぜ逃げるのかしら?」
問い詰めるように近づいてきて、ついには壁ドンされてしまった。
「嫌なら…ハッキリと言えばいいじゃない」
雰囲気が暗くなってきた。
「どーせワガママでめんどくさいとか言うのでしょ?あなたも」
彼女はどこかへ走ってしまった。
その後には無数の涙の跡が残っていた。
「追いかけなきゃ」
確かに彼女はワガママだった。
あの小さな紙を貰う前までは気品溢れる高嶺の花だった。
けれども近づいてみたら突然突拍子のないことを言い、それをすぐに実行しようとする。
正直めちゃくちゃ疲れるだろう。
それから解放されて、今まで通りの生活が送れることに感謝してる。
なのに大きな罪悪感が僕を襲う。
巻き込まれたはずの僕がこのままではいけないと言っている。
そして僕はあてもなく彼女を追いかけた。
彼女とは昨日少しだけ知り合いになれただけの存在の僕が何をできるかは限られている。
それでも今は追いかけなきゃいけない。
だって断るタイミングはあったはずだ。
でも、断らずに着いてきたのは僕で、流されてしまったのも僕だ。
さっき言われた言葉にどんな思いが込められてるかなんて微塵も知らない。
だからただただ走って彼女を探した。
学校を横切り、角を曲がった先に彼女の後ろ姿があった。
今度は逃がさないように、僕が逃げないように、
「捕まえた!」
彼女は振り向き、手を払おうとしたがこの手を離す訳にはいかない。
「なによ今更!無理してもらうほど私は惨めでないわよ!」
「違う!!」
腹の底から叫んだ言葉に彼女は目を見開いた。
「僕があなたについて行きたいからここに居るんだ!誰も君を惨めなんて思ってないよ。だからさ、」
息を整え、満面の笑みで
「最後まで君とロミオの恋を手伝わせてよ」
僕はジュリエットが好き。
その心は変わらない。
だったらジュリエットのためになることをしてあげたい。
たとえロレンス役だとしても。