住人Aは奇跡を起こしたい
この物語はキャピュレット家とモンタギュー家の美しく、切ない恋の話では無く、普通の高校生の青春を書いた物語だ。
けれども、その無謀な恋の行方は少し面白かったりするかもしれない…
僕の名前は…って思ったけど、特に目立つような特技とかがあるわけでないので「住人A」とでもしておこう。
住人Aとは言えども恋くらい普通にするものだ。
けれどもそれは一つの「憧れ」といってもいいものだった。
どの学校にも一人いるだろうい誰しもが振り返るような絶対的美少女の存在が。
無論、この学校も例外ではない。
『ジュリエット』と崇められている「高城 三咲」という高根の花に僕、住人Aは恋をしてしまった。
この物語はそんな無謀学生の純粋無垢?な恋愛物語である・・・・・
「っていう妄想を見ている住人Aであった」
「人の記憶を勝手に改ざんすんなよ」
この男、住人B(中条 千尋と一応紹介しておこう)は一言でいえばモテる。
これでもかというほどにモテる。
「いい加減に告ったら?」
さすがモテ男さま。
住人Aには到底できないことをサラッとやれと言ってしまうんだから。
「遠くから見てるだけの青春でいいわけ?たとえ相手がジュリエットだとしてもさ」
廊下を指さす住人B。その先を見ると人だかりができていて、その中心には噂のジュリエットとどこかのモブキャラAが真剣な表情で向かい合っている。
周りの野次馬たちがざわついていた。
円の外から無理やり中心によっていった。
やっとの思いで顔を出せたが話は終結にまで行っていた。
「愛しの高城さん!僕とお付き合いしてください!!!」
静まり返っていた野次馬たちが小さく歓声を上げた。
「ありがたきお言葉です」
その言葉に周りがさらに歓声を上げた。
「ですが、、、私には心に決めた愛しきロミオ様がいますのでっ!」
これこそが「ジュリエット」と呼ばれる所以だ。
正体不明の「ロミオ」。この男のことを一途に思っていることは全校生徒が知っている。
その「ロミオ」が自分である可能性を信じてチャレンジする猛者は大勢いる。
当然だが当たりくじを引いたものは誰一人としていない。
今回もまた犠牲者が一人出てしまっただけだった。
次々と人が去っていく中、僕も教室に戻ろうとした時、
「ちょっと待ちなさい!」
ジュリエットが僕の腕をつかんで引っ張った。
思わずその場に尻もちをついてしまうとジュリエットが見下ろすような体制になった。
そして一枚の紙に何かを書いて僕に差し出してきた。
「あなた、何か面白そうだからここに必ず連絡を入れなさい!」
消えいたはずの野次馬たちが戻ってきたざわめいている。
ジュリエットはスカートを翻して戻っていった。
茫然と立っている僕を見ながら野次馬たちも教室へと戻っていった。
いきなりの事件に驚いていた僕も我に返って逃げるようにして教室に戻った。
住人Bがニヤニヤしてこっちを見ている。
「なんだよ住人B」
「住人B?なんだそれ?」
思っていたことが思わず口に出ていた。
「なんだか知らんがすごいなお前、あのジュリエットを落して見せるなんて」
クラスを見渡すと僕の話題で持ち越しのようだった。
「これから大変なことになるな、ロミオ様っ」
肩をポンっと叩くと住人Bは自分の席に戻っていった。
授業が終わりHRも終わって玄関に向かうと下駄箱前には大勢の男子がいた。
「あれが噂のロミオ様だぜ」
「あれが?全然冴えてないな」
「ただ遊ばれてるだけだろ?」
っと笑いに来た男子であった。
荒波を立てないように静かに靴をとり、帰宅した。
家に着くなり自室に閉じこもり、鍵を閉めすぐにもらった紙を広げた。
そこにはメールアドレスと携帯の番号があった。
淡い期待を込めてメールを送ろうとしたが、落ち着いて考えた。
これが罠であるのは目に見えている。
だが、俺も男だ。ここはわざと引っかかってあげるのも住人Aの使命だ。
それによって物語が進んでいくってもんだ。
とりあえず簡単な自己紹介文を送ってみた。
スマホを机に置き、ベッドにうつぶせになった。
ドキドキとワクワクがありつつも少しの恐怖感もあった。
もしかして「よろしくね」という返信でもう終わってしまうのではないかと、もう少し近づきたいと思ってしまう。
「ってなんでだーー!」
叫びながら枕をタコ殴りにした。
「なんでこんなトラップに心躍らせなきゃいけないんだよ!」
と、心の叫びを言葉にしていたら着信が来た。
さっき送ってからまだ2~3分しか経っていない。
恐る恐るメールを開くと驚くほどの長文が書かれていた。
大半が絵文字で埋まっていたが、省略すると
「私とロミオ様がくっつく為に全力を尽くしなさい!」
というものだった。
「結局俺は住人Aのままなのかよ」
スマホが手から滑り落とした時、新たにメールが届いた。
「P.S.明日の放課後、早速だけど一緒に出掛けてもらうわよ」
これが住人Aがこの物語の脇役、鳴上 護に格上げされた瞬間だった。