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第5話:国宝級武器って普通じゃないんですか?

「まったく……コージは面倒なことを……」


 試験開始前の待ち時間。

 シロナは俺の判断に不満を募らせていた。

 試験を受けるのは俺だけじゃない。ルビア・マリン・シロナの三人も受けることになるのだ。


「そう言うなよ。力不足で冒険者になっても危ないだけだぞ?」


「たまに正論吐くのも嫌いじゃ」


 うぐ……。

 確かに俺が勝手に決めたのは悪かったがここまで機嫌が悪くなるとはな。

 女神の主張は試験に落ちたらどうするのかということだ。三人も薄々気づいていたようだ。

 女神はまったく強くない。このままでも試験に落ちてしまう可能性がある。

 それはこの先面倒くさそうだ。


「よし、わかった! じゃあ俺がどうにかしてやるよ」


 ◇


 試験までは後五十分ほどしかない。

 この短時間で根本的に強化することは不可能だし、そもそもそんなノウハウを俺は持っていない。

 なら、実力以外の何かで強化するしかないのだ。


 手っ取り早いのは武器だ。

 俺は女神を連れてギルド近くの武器屋に入った。

 小さな店舗ではあるが、商品の数は十分だ。店の中に他に客はいなかった。

 武器は全て透明のケースの中に入っているが、実際の見た目・重さと同じレプリカが横に置いてあるので、振り心地などは確かめることができるようだ。


 ……なるほど、これはなかなか良い店だ。


「なるほど武器とはのう……十五の子どもにしてはナイスなアイディアじゃのう」


「それはありがとうよシロナ。でも、俺は十六歳な」


「し、知っとるわい! っていうか今十六って言ったのじゃ」


 シロナは頬をぷーっと膨らませて赤くなる。恥ずかしかったのだろうか。


「それは悪かったな。まあ、どんな見た目の武器が良いのか選んでくれ」


「見た目とな?」


「武器ってのは外見も大事だからな。好きになれない武器を使ってても愛着がわかないし楽しくないだろ?」


「ふむ……鈍いと思っておったが案外コージは乙女心がわかっているのかもしれぬな」


 楽しそうに唇を綻ばせるシロナ。しかし女神が乙女心とはな。


「そういえばシロナは何歳なんだ?」


「な、な、なっ……レディに向かって歳を聞くとかアホ! やっぱり乙女心がわかっとらん!」


 シロナはプンスカ怒りながら、武器を物色しに行った。

 何がダメだったんだろうな?


「マリンとルビアの二人も性能より見た目を重視して武器を選んでくれ。理由は後で話す」


 さて、俺も探し始めるとしようか。


 ――三十分が経った。

 俺は武器を『剣』に決めたところだった。刀身が黒光りする【オブシディアンソード】。黒曜石を削りだした剣だ。

 武器の性能は無視だ。見た目で選んだ。


 他の三人も決まったころだろう。時間が無いのでこれ以上は待てない。


「よし、決まったか?」


「私はこれね!」


 ルビアが選んだのは見た目が赤い剣。【フレイムホーリーソード】。女神らしく聖なる剣ということか。


「よし、じゃあ次はマリンな」


「私はこれにしたのですが……かなり高いのです」


「値段はこの際関係ないよ。おお、これか」


 マリンが選んだのは蒼く輝く魔法杖。【サファイアホーリーワンド】。

 そして最後にシロナだ。


「シロナは……えーとこれでいいのか?」


「これが気に入った。これで良い」


「そ、そうか……」


 シロナが選んだのは武器というより防具の一種だと思うのだが、盾だった。【ライトニングホーリーシールド】


 ともかく、これで全員の希望は決まった。


「でもコージ……マリンの言うことももっともよ? 今の経済事情じゃ武器は一本が限界。……もしかしてみんなで一本を共有するってこと?」


「全然違うよ。俺は『できること』と『できない』とできないことがだんだんとわかってきたんだ。まあ、黙って見ててくれ」


 俺は四本の武器のレプリカを持ってレジに向かった。


「このレプリカを譲ってほしいのだが、いくらになる?」


 店主っぽい壮年の店員は俺を二度見した。


「いや、えーと……これレプリカだが理解してるんだよな?」


「もちろんだ。武器の見た目が欲しい」


「こりゃ珍しい客だな……レプリカは予備があるから買うってんなら全部で金貨一枚ももらえば十分だが……」


「そりゃ助かる」


 俺は金貨一枚を渡して、レプリカを受け取る。


「あと一つ頼みたいんだが」


「ん、どうした?」


「どこか作業できる場所を貸してくれないだろうか。五分で終わることなんだが……」


「ふむ……それならそこの試し斬り用の場所を使うといい」


「ありがとう、助かる」


 店の端にある試し斬りコーナー。ここの床に武器を並べる。

 まずは俺の【オブシディアンソード(レプリカ)】からだ。


 この剣の素材を変えたい……本物の黒曜石に。


 ――【錬金術スキル】が使用可能になりました。


 これだ。俺が何かしようとしたとき、必要なスキルが使えるようになる。俺は多分、無意識下で全てのスキルを把握している。

 だからできるという自信があった。

 多分だが、意識下に置くことでアンロックできるようになるのだ。

 

 剣が白い光に包まれて、物体が再構築されていく。

 【錬金術】を使うことで、【オブシディアンソード】は本物になった。

 でも、まだ足りない。


 この剣を改良したい。魔剣や聖剣などがこの世界にあるのならば、それより強く――。


 ――【鍛冶スキル】が使用可能になりました。


 やっぱり使えた!

 俺の理想を――妄想を形にしていく。

 ただ単によく斬れるだけの剣じゃダメだ。考えろ、考えろ。

 よりよくするにはどうすればいい?

 意識を高速で回転させ、一分後に完成した。


 同様に、三人の分の武器も【鍛冶スキル】で改良していく。

 一人一人長所も短所も違う。長所を伸ばせるように、短所を補えるように。

 こうして、四つのレプリカ武器は本物になった。

 いや、本物よりも強いはずだ。


「お、終わったの? 大丈夫?」


 ルビアが恐る恐るといった感じで尋ねた。心配されていたらしい。

 どうやらこの五分間、俺は集中しすぎていたらしい。


「大丈夫だ。この武器があれば試験も簡単に突破できるはずだ」


 俺は三人にそれぞれ武器を渡していく。……シロナは武器と言って良いのか分からないが。


「せっかくだから試し斬りしていこうか」


 俺は【オブシディアンソード】を右手で持ち、丸太に向かって軽く振る。

 すると、剣の刃が通ってから数秒の時間差で形を崩した。

 かなり切れ味が良いらしいな。我ながら良い出来だ。そして、この剣はただ切れるだけじゃない。試験官は驚くだろうな。


「こ、これは驚いた……レ、レプリカを本物の武器にしちまうたぁ……」


 店主が俺の剣の性能を見て唖然としていた。


「一分くらいでできたけど……これって凄いことなのか?」


「い、いや凄いもなにも……こんなのどう見ても国宝級だ! いや、国宝級を遥かに超えている。……アンタ、若いが一流の鍛冶職人だったのか!?」


「いや、俺はただの旅人……もうちょっとで冒険者になる予定だが」


「ここまでの鍛冶職人が旅人だと……!?」


 なんか俺驚かれてばっかりな気がするな。

 俺としては普通にできることでいちいち驚かれても反応に困るのだがな。


「これからギルドの入会試験があるんだ。そのための武器が欲しかったというだけさ」


 ◇


 武器が完成した時点で、試験まであと五分だ。

 俺たちは急いで武器屋を出ると冒険者ギルドに戻った。

 冒険者ギルドの裏庭に設置された試験場で行われる。


 試験場にはすでに入会試験の受験生が集まっていた。

 みんな少し緊張しているようだな。ここは俺が一つ、みんなの見本となって高成績を出すことで、『こんなやつでもできるのか』と自信をつけさせて緊張を解いてやれるといいのだが。

最新話まで読んでいただきありがとうございます!


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